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3章
第33話 ダボ服とスウェットパンツ
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◇◇◇
姉に借りた服は少し大きかったが、海茅の私服よりはずっと見栄えが良い。
いつもは地味なヘアゴムでぴっちり束ねている髪も、姉が花の形をしたヘアクリップでふんわりハーフアップにしてくれたので、いつもと印象が違って見えた。
姉に化粧もしてあげようかと言われたが、海茅は断った。あんまり気合いを入れると笑われるのではないかと不安になったからだ。
家を出る前、姉がリビングでテレビを見ている両親に声をかける。
「海茅とお出かけしてくるー」
すると父がゆっくりと姉と海茅に目を向けた。
「どこに行くんだ?」
「侭白東のショッピングモール」
「五時には帰ってくるんだぞ」
「はあい。海茅、行こ!」
初めて親に嘘を吐いてしまった。海茅の胸は罪悪感でむずむずしたが、同時に、父親に閉じ込められていた檻から一時的にでも抜け出せて、少しばかり高揚した。
侭白東駅で姉と別れ改札を出た海茅は、スカートの裾をいじりながらあたりを見回した。待ち合わせ時間よりニ十分早く到着したのでまだ誰もいない。
五分ほど待っていると、息を切らせた匡史が走って来た。
「みっちゃん! 早いね!?」
「おはよう匡史君。ちょっと早く着きすぎちゃった」
「待たせてごめん。俺ももう少し早く家出とけばよかった」
匡史はグレーのTシャツにスウェットパンツというラフな格好をしていた。
張り切って化粧をしなくて良かったと、こっそり胸を撫でおろす海茅に、匡史はチラチラと視線を送る。
「みっちゃん……。今日ちょっと雰囲気違うね」
「あっ、う、うん。お姉ちゃんに髪セットしてもらったの。へ、変かな……」
「ううん。変じゃない」
いつもはさりげなく話題を振ってくれる匡史が、なぜかたどたどしい。
学校の外だからか、私服だからか、それとも匡史の気持ちが伝播してか、海茅はいつも以上に緊張した。
待ち合わせ時間五分前、ようやく現れた優紀と茜に、海茅は眩しさで目が潰れるかと思った。
いつもよりバッチリ化粧をしている二人は、とても中学一年生には見えないほど大人びていた。
姉の服を借りてなんとかそれなりの恰好ができている海茅とは違い、優紀と茜はスタイルにぴったり合い、彼女たちに似合う服を身につけている。
先ほどは化粧をしてこなくて良かったと安心した海茅だったが、今ではスッピンでダボついた服を着ている自分の姿が恥ずかしくなった。
待ち合わせ時間を五分すぎた頃、創が悪びれもせずノロノロと歩いて海茅たちと合流した。
創は匡史を見るなり噴き出し、指をさす。
「おまっ! 何だよその恰好! パジャマじゃん!」
「い、いいだろ別に! 俺の家で勉強するだけなんだから! お前らがキメすぎなんだよ!」
そう言って先頭を歩き出した匡史の後ろ姿を、海茅はぼんやりと眺めた。
そして隣を歩く茜にコソッと囁く。
「匡史君って、黒間君にだけちょっと口が悪いね」
「そうそう! いつもは猫被ってるんだけどね、創にだけは素で喋ってる感じ!」
「あはは! 仲良いんだね!」
「匡史と創は小学校の時からの仲だからねえ~。ちなみに私もだけど」
サラッと明かされた三人の関係性に、海茅は思わず大声を出した。
「えっ! 宮越さん、匡史君と幼馴染なの!?」
「そうだよー! 匡史の恥ずかしい話、いっぱい知ってるよ~! ミッチー、聞きたい?」
「うぅ……聞きたい……っ!」
「いいよー! じゃあ、匡史が小学三年生の時に、給食で苦手なナスが出てきたときの話を――」
それまで創と肩を並べて歩いていた匡史が、突然踵を返してこちらに詰め寄った。
「茜~! みっちゃんにいらないこと言うんじゃないよ? 分かった?」
「わーお。私たちの内緒話に聞き耳立ててたんだね、匡史!」
茜が小学生時代の話を海茅に暴露しようとするところを阻止していると、今度は創が吹聴しようとする。茜と創の間を行き来することが非効率的だと考えた匡史は、途中から海茅の隣を陣取り、彼女に近づこうとする幼馴染を威嚇した。
マンションに到着した頃には、匡史の頬がげっそりとこけていた。
姉に借りた服は少し大きかったが、海茅の私服よりはずっと見栄えが良い。
いつもは地味なヘアゴムでぴっちり束ねている髪も、姉が花の形をしたヘアクリップでふんわりハーフアップにしてくれたので、いつもと印象が違って見えた。
姉に化粧もしてあげようかと言われたが、海茅は断った。あんまり気合いを入れると笑われるのではないかと不安になったからだ。
家を出る前、姉がリビングでテレビを見ている両親に声をかける。
「海茅とお出かけしてくるー」
すると父がゆっくりと姉と海茅に目を向けた。
「どこに行くんだ?」
「侭白東のショッピングモール」
「五時には帰ってくるんだぞ」
「はあい。海茅、行こ!」
初めて親に嘘を吐いてしまった。海茅の胸は罪悪感でむずむずしたが、同時に、父親に閉じ込められていた檻から一時的にでも抜け出せて、少しばかり高揚した。
侭白東駅で姉と別れ改札を出た海茅は、スカートの裾をいじりながらあたりを見回した。待ち合わせ時間よりニ十分早く到着したのでまだ誰もいない。
五分ほど待っていると、息を切らせた匡史が走って来た。
「みっちゃん! 早いね!?」
「おはよう匡史君。ちょっと早く着きすぎちゃった」
「待たせてごめん。俺ももう少し早く家出とけばよかった」
匡史はグレーのTシャツにスウェットパンツというラフな格好をしていた。
張り切って化粧をしなくて良かったと、こっそり胸を撫でおろす海茅に、匡史はチラチラと視線を送る。
「みっちゃん……。今日ちょっと雰囲気違うね」
「あっ、う、うん。お姉ちゃんに髪セットしてもらったの。へ、変かな……」
「ううん。変じゃない」
いつもはさりげなく話題を振ってくれる匡史が、なぜかたどたどしい。
学校の外だからか、私服だからか、それとも匡史の気持ちが伝播してか、海茅はいつも以上に緊張した。
待ち合わせ時間五分前、ようやく現れた優紀と茜に、海茅は眩しさで目が潰れるかと思った。
いつもよりバッチリ化粧をしている二人は、とても中学一年生には見えないほど大人びていた。
姉の服を借りてなんとかそれなりの恰好ができている海茅とは違い、優紀と茜はスタイルにぴったり合い、彼女たちに似合う服を身につけている。
先ほどは化粧をしてこなくて良かったと安心した海茅だったが、今ではスッピンでダボついた服を着ている自分の姿が恥ずかしくなった。
待ち合わせ時間を五分すぎた頃、創が悪びれもせずノロノロと歩いて海茅たちと合流した。
創は匡史を見るなり噴き出し、指をさす。
「おまっ! 何だよその恰好! パジャマじゃん!」
「い、いいだろ別に! 俺の家で勉強するだけなんだから! お前らがキメすぎなんだよ!」
そう言って先頭を歩き出した匡史の後ろ姿を、海茅はぼんやりと眺めた。
そして隣を歩く茜にコソッと囁く。
「匡史君って、黒間君にだけちょっと口が悪いね」
「そうそう! いつもは猫被ってるんだけどね、創にだけは素で喋ってる感じ!」
「あはは! 仲良いんだね!」
「匡史と創は小学校の時からの仲だからねえ~。ちなみに私もだけど」
サラッと明かされた三人の関係性に、海茅は思わず大声を出した。
「えっ! 宮越さん、匡史君と幼馴染なの!?」
「そうだよー! 匡史の恥ずかしい話、いっぱい知ってるよ~! ミッチー、聞きたい?」
「うぅ……聞きたい……っ!」
「いいよー! じゃあ、匡史が小学三年生の時に、給食で苦手なナスが出てきたときの話を――」
それまで創と肩を並べて歩いていた匡史が、突然踵を返してこちらに詰め寄った。
「茜~! みっちゃんにいらないこと言うんじゃないよ? 分かった?」
「わーお。私たちの内緒話に聞き耳立ててたんだね、匡史!」
茜が小学生時代の話を海茅に暴露しようとするところを阻止していると、今度は創が吹聴しようとする。茜と創の間を行き来することが非効率的だと考えた匡史は、途中から海茅の隣を陣取り、彼女に近づこうとする幼馴染を威嚇した。
マンションに到着した頃には、匡史の頬がげっそりとこけていた。
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