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3章
第32話 おみくじ結果は蜘蛛の死骸
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◇◇◇
しなければならないことがあるときに限って、普段は気乗りしないことをしたくなる。
金曜の夜、海茅は無性に掃除がしたくなって、四十五リットルのゴミ袋を傍に置き、ベッドと壁の間に手を突っ込んでいた。
埃でざらつくお菓子の空袋が手に触れたときはげんなりしたが、ずっと前に失くしたと思っていた、靴下の片割れや漫画などが見つかりテンションが上がった。
次は何が出てくるかな、とおみくじ感覚でベッドの隙間をまさぐり楽しんでいた海茅は、大きなクモの死骸を引き当ててしまい絶叫した。
それからは姉を呼び、うしろで見守ってもらいながら掃除機をかける。
「えぐっ、えぐぅっ。私はクモの死骸の傍でずっと寝てたのねえ……。考えただけで怖いよぉ……」
姉はジトッとした目を海茅に向ける。
「定期的に掃除してないからそんなことになるんだよ?」
「目に見えるところは適度に掃除してるもん……」
「そうかなあ……。海茅の部屋から掃除機の音が聞こえたこと、ここ最近ないような気がするけど」
手持無沙汰の姉は、海茅がベッドと壁の間に掃除機をかけている間に、机の上に散らかっているケシカスを片付ける。
机に、マーカーが引かれた教科書や筆圧の濃い字がびっしり書き込まれたノートが広げられていたので、姉は二度見した。
「……え? 海茅が勉強してる」
「一教科でも赤点取ったらコンクール出させてもらえないんだぁ……」
「まじか。厳しいねー」
その時、海茅のスマホが光った。画面にはLINEメッセージの通知が表示されている。
《あかね: 明日、十時に侭白東駅に集合だよー!》
《創: りょー。遅刻したらごめん》
《優紀: ジュースとお菓子買っていくね!》
《多田匡史: 差し入れなんて気にしないで》
姉は口をあんぐり開けてスマホと海茅を交互に見た。おしりをこちらに向けてベッドの隙間に掃除機を突っ込んでいる海茅に、姉は興奮気味に大声を出す。
「え!? あんた明日友だちと遊ぶの!?」
「あ、遊ぶんじゃないよ! 勉強するの!!」
「男の子の家でぇ!?」
動揺した海茅が壁に頭をぶつけた。
「なっ、なんで知ってるのぉ!?」
「LINEの通知見ちゃった……!」
海茅はヒィィッと悲鳴を上げ、掃除を放りだして姉にしがみついた。
「お願い! お父さんには言わないでぇぇぇっ……!」
「言うわけないじゃん……」
海茅の父親は厳格……というより、娘が大好きすぎて箱どころか檻に閉じ込めてしまいそうな勢いの人だ。
門限は海茅も姉も夕方の五時。部活で門限を過ぎることは許されるが、それ以外で過ぎると叱られる。
異性と遊ぶなんてもっての他だ。海茅は、姉に彼氏ができたときに父親が癇癪を起したことをよく覚えている。あの時の父親は、怖いを通り過ぎて駄々をこねている赤ちゃんに見えた。
海茅まで男の子と仲良くしていると知ったら、父親は正気を保っていられないだろう。明日のことがバレたら、運よく家を出られても、強制送還させられるに違いない。
姉はニッと笑って海茅を抱き寄せる。
「海茅、お姉ちゃんに任せて! 海茅は明日、私とお出かけするってことにしてあげる。それだと海茅が少し遠出したって、お父さんは何も言わないし疑わないはず」
「お姉ちゃぁぁん……!」
「だからさ、明日のメンバーのこと教えてよ。男の子は二人? ねえ、どんな子? かっこいい?」
海茅はモジモジしながらも、姉に匡史と創のことを話した。
クラスで一番キラキラしているグループの人たちだと聞いて、興奮した姉は鼻息を荒らげる。
「あんた! いつからそんな子と仲良くなったの!? やるじゃん!」
「優紀ちゃんのおかげなの。私一人じゃ絶対に仲良くなれなかったよ……」
海茅は他にも、匡史がクラスで一番かっこいいことや、創がスマートウォッチをつけていること、おしゃれで可愛い茜のこと、面倒見がよくて優しい優紀のことなど、姉に友だちの話をたくさんした。
「匡史君は絵も上手なの。絵画教室に通ってて、それに画家のことにも詳しいし! しかもね、成績も学年二位なんだよ! すごくない!?」
海茅の止まらない話に相槌を打っていた姉は、顔がニヤけるのを止められない。
それに気付いた海茅が照れ隠しに頬を膨らませる。
「な、なに? 気持ち悪い顔して」
「んー? さっきからマサシ君の話ばっかりだなーって思って」
姉の言葉に海茅が顔を真っ赤にした。海茅は、質問攻めにしようと口を開いた姉を部屋から引きずり出し、速やかに部屋に鍵をかけた。
ドアの外で姉が何か言っている。
「おーい。恥ずかしくない私服持ってるのー? お姉ちゃん貸してあげようかー?」
海茅は慌ててドアを開け、服を貸してくださいと頭を下げた。
しなければならないことがあるときに限って、普段は気乗りしないことをしたくなる。
金曜の夜、海茅は無性に掃除がしたくなって、四十五リットルのゴミ袋を傍に置き、ベッドと壁の間に手を突っ込んでいた。
埃でざらつくお菓子の空袋が手に触れたときはげんなりしたが、ずっと前に失くしたと思っていた、靴下の片割れや漫画などが見つかりテンションが上がった。
次は何が出てくるかな、とおみくじ感覚でベッドの隙間をまさぐり楽しんでいた海茅は、大きなクモの死骸を引き当ててしまい絶叫した。
それからは姉を呼び、うしろで見守ってもらいながら掃除機をかける。
「えぐっ、えぐぅっ。私はクモの死骸の傍でずっと寝てたのねえ……。考えただけで怖いよぉ……」
姉はジトッとした目を海茅に向ける。
「定期的に掃除してないからそんなことになるんだよ?」
「目に見えるところは適度に掃除してるもん……」
「そうかなあ……。海茅の部屋から掃除機の音が聞こえたこと、ここ最近ないような気がするけど」
手持無沙汰の姉は、海茅がベッドと壁の間に掃除機をかけている間に、机の上に散らかっているケシカスを片付ける。
机に、マーカーが引かれた教科書や筆圧の濃い字がびっしり書き込まれたノートが広げられていたので、姉は二度見した。
「……え? 海茅が勉強してる」
「一教科でも赤点取ったらコンクール出させてもらえないんだぁ……」
「まじか。厳しいねー」
その時、海茅のスマホが光った。画面にはLINEメッセージの通知が表示されている。
《あかね: 明日、十時に侭白東駅に集合だよー!》
《創: りょー。遅刻したらごめん》
《優紀: ジュースとお菓子買っていくね!》
《多田匡史: 差し入れなんて気にしないで》
姉は口をあんぐり開けてスマホと海茅を交互に見た。おしりをこちらに向けてベッドの隙間に掃除機を突っ込んでいる海茅に、姉は興奮気味に大声を出す。
「え!? あんた明日友だちと遊ぶの!?」
「あ、遊ぶんじゃないよ! 勉強するの!!」
「男の子の家でぇ!?」
動揺した海茅が壁に頭をぶつけた。
「なっ、なんで知ってるのぉ!?」
「LINEの通知見ちゃった……!」
海茅はヒィィッと悲鳴を上げ、掃除を放りだして姉にしがみついた。
「お願い! お父さんには言わないでぇぇぇっ……!」
「言うわけないじゃん……」
海茅の父親は厳格……というより、娘が大好きすぎて箱どころか檻に閉じ込めてしまいそうな勢いの人だ。
門限は海茅も姉も夕方の五時。部活で門限を過ぎることは許されるが、それ以外で過ぎると叱られる。
異性と遊ぶなんてもっての他だ。海茅は、姉に彼氏ができたときに父親が癇癪を起したことをよく覚えている。あの時の父親は、怖いを通り過ぎて駄々をこねている赤ちゃんに見えた。
海茅まで男の子と仲良くしていると知ったら、父親は正気を保っていられないだろう。明日のことがバレたら、運よく家を出られても、強制送還させられるに違いない。
姉はニッと笑って海茅を抱き寄せる。
「海茅、お姉ちゃんに任せて! 海茅は明日、私とお出かけするってことにしてあげる。それだと海茅が少し遠出したって、お父さんは何も言わないし疑わないはず」
「お姉ちゃぁぁん……!」
「だからさ、明日のメンバーのこと教えてよ。男の子は二人? ねえ、どんな子? かっこいい?」
海茅はモジモジしながらも、姉に匡史と創のことを話した。
クラスで一番キラキラしているグループの人たちだと聞いて、興奮した姉は鼻息を荒らげる。
「あんた! いつからそんな子と仲良くなったの!? やるじゃん!」
「優紀ちゃんのおかげなの。私一人じゃ絶対に仲良くなれなかったよ……」
海茅は他にも、匡史がクラスで一番かっこいいことや、創がスマートウォッチをつけていること、おしゃれで可愛い茜のこと、面倒見がよくて優しい優紀のことなど、姉に友だちの話をたくさんした。
「匡史君は絵も上手なの。絵画教室に通ってて、それに画家のことにも詳しいし! しかもね、成績も学年二位なんだよ! すごくない!?」
海茅の止まらない話に相槌を打っていた姉は、顔がニヤけるのを止められない。
それに気付いた海茅が照れ隠しに頬を膨らませる。
「な、なに? 気持ち悪い顔して」
「んー? さっきからマサシ君の話ばっかりだなーって思って」
姉の言葉に海茅が顔を真っ赤にした。海茅は、質問攻めにしようと口を開いた姉を部屋から引きずり出し、速やかに部屋に鍵をかけた。
ドアの外で姉が何か言っている。
「おーい。恥ずかしくない私服持ってるのー? お姉ちゃん貸してあげようかー?」
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