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2章
第16話 おなやみごと
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◇◇◇
《匡史君聞いて! 今日ね、部活で褒められた!》
《すごいじゃん! みっちゃん頑張ってたもんね》
その日の夜、海茅は興奮気味に匡史にLINEを送った。
海茅と匡史は毎日LINEのやりとりをするようになっていた。二人はいつしか名前で呼び合うようになり、今ではくだらない話から人生相談まで、なんでも話す仲だ。
《今までこんなに一生懸命やったことなかったかも! 楽しい!》
《こんなにイキイキしてるみっちゃん初めてかも。こっちまで楽しくなってくる》
《匡史君は絵画教室どうだった?》
《俺は全然ダメ。今日も教室で一番下手だった》
匡史は最近、絵を描くのが苦しいようだった。絵画教室には匡史より上手な子がたくさんいて、描いた絵を並べる度に自信を失うらしい。
《今日なんてさ、生徒の一人が俺の絵を見て笑ったんだ。へこむ》
《ええ、それはひどい! 想像しただけで私まで辛くなってきた……》
シンバルと真剣に向き合うようになっから、匡史の絵画に対する気持ちが、海茅にも少しだけ分かるような気がした。
海茅はシンバルの一音に、海茅の中の誰にも見せられない一番大切なものを、ひとつまみちぎって込めているような感覚がしている。
命とも魂とも言えるそれは、そのままだと怖くてとても人に見せられない。
海茅はシンバルの力を借りてやっと、自分自身の核を表現できるのだ。
きっと匡史も、絵の中にそんな想いを込めているのだろう。
それを、今日の海茅のように褒められたら、その日が人生で一番幸せな日なんじゃないかと思うほど嬉しい。
逆に、笑われたり否定されたりしたら、心臓をやすりで削られたように苦しいだろう。
匡史の話を聞いて海茅が本気で落ち込んでいる様子だと感じ取ったのか、匡史はこのようなメッセージを送った。
《今、通話いける?》
「どえ!? つ、つつつ、つ、つ、通話ぁ!?」
匡史とLINEでメッセージのやりとりをするだけでもいつもドキドキしてしまうのに、通話なんてしたら死んでしまうのではないかと海茅は思った。
もちろん、匡史と通話してみたいという願望はあった。しかし小心者の海茅から「通話しよう」なんて言えるはずもないので、すっかり諦めていた。
それがまさか、匡史から声をかけてくれるなんて、思いもしなかった。
(通話したい……! したいけど……。スマホ越しに匡史君の声なんて聞いちゃったら、私、私ぃぃぃ……!)
しかし、これを断るという選択肢は万に一つもないだろう。そんなことをしてしまったら、海茅は今日という日の彼方海茅を一生恨むことになる。
海茅は手汗をびっしょりかいた手で返事を打った。
《匡史君聞いて! 今日ね、部活で褒められた!》
《すごいじゃん! みっちゃん頑張ってたもんね》
その日の夜、海茅は興奮気味に匡史にLINEを送った。
海茅と匡史は毎日LINEのやりとりをするようになっていた。二人はいつしか名前で呼び合うようになり、今ではくだらない話から人生相談まで、なんでも話す仲だ。
《今までこんなに一生懸命やったことなかったかも! 楽しい!》
《こんなにイキイキしてるみっちゃん初めてかも。こっちまで楽しくなってくる》
《匡史君は絵画教室どうだった?》
《俺は全然ダメ。今日も教室で一番下手だった》
匡史は最近、絵を描くのが苦しいようだった。絵画教室には匡史より上手な子がたくさんいて、描いた絵を並べる度に自信を失うらしい。
《今日なんてさ、生徒の一人が俺の絵を見て笑ったんだ。へこむ》
《ええ、それはひどい! 想像しただけで私まで辛くなってきた……》
シンバルと真剣に向き合うようになっから、匡史の絵画に対する気持ちが、海茅にも少しだけ分かるような気がした。
海茅はシンバルの一音に、海茅の中の誰にも見せられない一番大切なものを、ひとつまみちぎって込めているような感覚がしている。
命とも魂とも言えるそれは、そのままだと怖くてとても人に見せられない。
海茅はシンバルの力を借りてやっと、自分自身の核を表現できるのだ。
きっと匡史も、絵の中にそんな想いを込めているのだろう。
それを、今日の海茅のように褒められたら、その日が人生で一番幸せな日なんじゃないかと思うほど嬉しい。
逆に、笑われたり否定されたりしたら、心臓をやすりで削られたように苦しいだろう。
匡史の話を聞いて海茅が本気で落ち込んでいる様子だと感じ取ったのか、匡史はこのようなメッセージを送った。
《今、通話いける?》
「どえ!? つ、つつつ、つ、つ、通話ぁ!?」
匡史とLINEでメッセージのやりとりをするだけでもいつもドキドキしてしまうのに、通話なんてしたら死んでしまうのではないかと海茅は思った。
もちろん、匡史と通話してみたいという願望はあった。しかし小心者の海茅から「通話しよう」なんて言えるはずもないので、すっかり諦めていた。
それがまさか、匡史から声をかけてくれるなんて、思いもしなかった。
(通話したい……! したいけど……。スマホ越しに匡史君の声なんて聞いちゃったら、私、私ぃぃぃ……!)
しかし、これを断るという選択肢は万に一つもないだろう。そんなことをしてしまったら、海茅は今日という日の彼方海茅を一生恨むことになる。
海茅は手汗をびっしょりかいた手で返事を打った。
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