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2章
第14話 森で暮らす女の子と王子さまの物語
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部屋にこもった海茅は、シンバルを手に持ち目を瞑る。シンバルの音だけに集中して、何度か軽く合わせた。
(主役は彦星と織姫じゃない。どんな天の川を作るかが大事)
今日、OBにもう一度「ここではどんな音色を奏でたい?」と聞かれた海茅は、うんうん考えながら言葉で説明しようとしたが、うまくできなかった。
OBはそれでもいいと言ってくれた。言葉にできなくても、頭の中で理想の音をイメージできているのなら充分だと。
海茅の中で、この曲は物語として流れていた。
木の実が転がる豊かな森の奥深く、一人の女の子が暮らしていた。女の子は動物と仲良しで、切り株を囲んで動物と一緒にごはんを食べ、夜眠るときはふわふわの動物に抱きつき暖かさを分けてもらう。
元気な森でも夜は静かだ。流れ星が落ちても誰も気付かない。
女の子と動物たちがぐっすり眠っている間に、徐々に太陽が顔を出す。
明るい日差しに目を覚まし、女の子があくびをする。彼女が住処から飛び出すと、他の動物たちも起き出し、森で食べ物を探した。
女の子は動物と出会ったら挨拶をして、木の実を分け合った。
愉快な動物たちは女の子が大好きで、彼女を囲んで歌を歌い、踊る。
毎日がいつも一番楽しい日だった。
そんな森に狂暴な動物がやってきて、か弱い動物を襲った。
森の上を灰色の雲が覆い、大雨と雷を落とす。
楽しかった日々が一変して、住処に隠れて震える毎日を過ごすことになった。
とうとう狂暴な動物が女の子を見つけた。
腰が抜けて動けない女の子に、狂暴な動物が大口を開けて牙を剥きだす。
女の子が死を恐れ、目を瞑った瞬間、狂暴な動物の断末魔が聞こえた。
おそるおそる目を開けると、横たわる動物の背後に、立派な服を着た男の人が立っていた。話を聞くと、この国の第三王子様だという。
王子様はそれから、森を襲う狂暴な動物を全て追い払い、森を守ってくれた。
怯えながらも、か弱い動物たちが住処から顔を出す。
王子様は大きな岩の上に立ち、剣先を空に向けた。
すると雨が上がり、みるみるうちに分厚い雲が風で押し流されていく。
女の子とか弱い動物たちの上に、満天の星が広がる夜空が一面に広がった――
このワンシーンの星空こそが、クラッシュシンバルの一音に託された役割だと、海茅は考えていた。
この星空は、ただ単に美しいだけではいけない。
絶望からの解放、待っている明るい明日の示唆――女の子がこの星空を見て感じたことを、シンバルの音に乗せたい。
海茅はその夜、手の皮がむけるまで何度も何度もクラッシュシンバルを叩いた。
シンバルの音に集中していると、手とシンバルの境界線が溶けてしまった感覚に襲われた。
今の海茅はシンバルを叩いているのではない。シンバルの響きを自分の体から生み出している。
海茅から広がる星空が、だんだんとイメージに近づいているのが分かる。
(よし……。いち、に、さん、よん……)
海茅は大きくシンバルを振り下ろした。彦星と織姫が手を離すと、まばゆい星空が海茅の家を覆い隠した。
自身で織りなした星の下で、海茅は茫然と立ち尽くす。
あまりの美しさに目が潤んだ。
それに、匡史をこっそり見ているときみたいに胸がトクトクする。
不思議な感覚に気持ち悪さを感じながらも、海茅はシンバルを持ったままベッドに倒れこみ、努力がたぐり寄せた結果の余韻を噛み締めた。
(主役は彦星と織姫じゃない。どんな天の川を作るかが大事)
今日、OBにもう一度「ここではどんな音色を奏でたい?」と聞かれた海茅は、うんうん考えながら言葉で説明しようとしたが、うまくできなかった。
OBはそれでもいいと言ってくれた。言葉にできなくても、頭の中で理想の音をイメージできているのなら充分だと。
海茅の中で、この曲は物語として流れていた。
木の実が転がる豊かな森の奥深く、一人の女の子が暮らしていた。女の子は動物と仲良しで、切り株を囲んで動物と一緒にごはんを食べ、夜眠るときはふわふわの動物に抱きつき暖かさを分けてもらう。
元気な森でも夜は静かだ。流れ星が落ちても誰も気付かない。
女の子と動物たちがぐっすり眠っている間に、徐々に太陽が顔を出す。
明るい日差しに目を覚まし、女の子があくびをする。彼女が住処から飛び出すと、他の動物たちも起き出し、森で食べ物を探した。
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毎日がいつも一番楽しい日だった。
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森の上を灰色の雲が覆い、大雨と雷を落とす。
楽しかった日々が一変して、住処に隠れて震える毎日を過ごすことになった。
とうとう狂暴な動物が女の子を見つけた。
腰が抜けて動けない女の子に、狂暴な動物が大口を開けて牙を剥きだす。
女の子が死を恐れ、目を瞑った瞬間、狂暴な動物の断末魔が聞こえた。
おそるおそる目を開けると、横たわる動物の背後に、立派な服を着た男の人が立っていた。話を聞くと、この国の第三王子様だという。
王子様はそれから、森を襲う狂暴な動物を全て追い払い、森を守ってくれた。
怯えながらも、か弱い動物たちが住処から顔を出す。
王子様は大きな岩の上に立ち、剣先を空に向けた。
すると雨が上がり、みるみるうちに分厚い雲が風で押し流されていく。
女の子とか弱い動物たちの上に、満天の星が広がる夜空が一面に広がった――
このワンシーンの星空こそが、クラッシュシンバルの一音に託された役割だと、海茅は考えていた。
この星空は、ただ単に美しいだけではいけない。
絶望からの解放、待っている明るい明日の示唆――女の子がこの星空を見て感じたことを、シンバルの音に乗せたい。
海茅はその夜、手の皮がむけるまで何度も何度もクラッシュシンバルを叩いた。
シンバルの音に集中していると、手とシンバルの境界線が溶けてしまった感覚に襲われた。
今の海茅はシンバルを叩いているのではない。シンバルの響きを自分の体から生み出している。
海茅から広がる星空が、だんだんとイメージに近づいているのが分かる。
(よし……。いち、に、さん、よん……)
海茅は大きくシンバルを振り下ろした。彦星と織姫が手を離すと、まばゆい星空が海茅の家を覆い隠した。
自身で織りなした星の下で、海茅は茫然と立ち尽くす。
あまりの美しさに目が潤んだ。
それに、匡史をこっそり見ているときみたいに胸がトクトクする。
不思議な感覚に気持ち悪さを感じながらも、海茅はシンバルを持ったままベッドに倒れこみ、努力がたぐり寄せた結果の余韻を噛み締めた。
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