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1章
第6話 おサルさんのおもちゃ
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同じパートに優紀がいてくれるので、やりたくない楽器を担当しなければならなくても、海茅は部活を続けられていた。
しかし、海茅はパーカッション部員の中で浮いていた。優紀でさえ、部活をしているときは壁を感じる。
その壁を海茅自身が作っていることを、彼女は気付いていない。
海茅は、コンクールが終わればフルートを担当する。そのためパーカッション部員と熱心に関わろうとしていなかった。
この居心地の悪さも五ヶ月の辛抱だ、と毎日自分に言い聞かせ、なんとか音楽室に足を運んでいた。
パーカッションになった海茅は、先輩からスネア(小太鼓)を叩くためのスネアスティックを渡された。だが、スネア自体はまだまだ叩かせてもらえない。机に載せた練習パッドの上で、ひたすら基礎練習させられる。
(入部から一週間が経ったのに、まだ楽器を触らせてももらえない。うぅぅ。机を叩くだけの時間を過ごすなんて、意味ないってぇ)
海茅は同学年の中でもスティックさばきが上手ではなかった。元々パーカッション希望だった優紀は、初心者にもかかわらず楽譜通りに叩けている。他の子たちは優紀ほどではなかったが、それなりにスティックに慣れつつあるようだった。
一方海茅は、小学校のときにピアノを習ったことがあったので楽譜は読めるが、思うように手が動かない。楽譜通りに叩けたとしても、音が重いとか、手首じゃなくて腕で叩いているとか、よく分からない指摘を先輩からされた。
優紀の隣で練習していた海茅は手を止め、楽譜をぼんやり眺める。
(全然楽しくない……)
しょんぼりしている海茅に気付き優紀が声をかけようとしたところに、別室で練習していた先輩が勢いよく入ってきた。
「みんなぁー! 集合ー!」
「はい!」
大きな声で返事をして、パーカッションの新入部員が先輩の元に集まった。
「みんな、一週間基礎練習お疲れさま! 飽きたよね? 飽きるよねえ!?」
元気な声でまくしたてるように話す先輩は、二年生の樋暮先輩。いつもテンションが高く、彼女の話でよく部員は笑っている。得意なパーカッションは、スネアと、木琴や鉄琴などの鍵盤系だ。
「今から君たちに一通りのパーカッションを触ってもらうよ。それを見て、コンクール曲の担当楽器をどうするか決めるから」
落ち着いた口調で話すのは段原先輩。樋暮先輩と同じく二年生で、吹奏楽部員で唯一の男子生徒だ。無口で表情も乏しいが、パーカッションのことは丁寧に教えてくれる。得意なパーカッションは、ドラムとティンパニ。
パーカッションには三年生がいないので、樋暮先輩と段原先輩の二人で五人の新入部員を教えている。自分の練習もしなければいけないのに大変だろうに、先輩たちはそんなことをおくびにも出さない。
コンクール曲の担当楽器を決めると聞き海茅の気分が沈んだ。海茅は成長が一番遅いので、きっと派手な打楽器はさせてもらえないだろう。
樋暮先輩は、海茅に楽器の叩き方を教えてくれた。
スネアは思っていた以上に難しい。樋暮先輩が手本を見せてくれたが、スティックをスネアに押し付けるようにしか叩けない海茅には、彼女のような軽い音が出せなかった。
それからも海茅は次々とパーカッションに触れていくが、手ごたえを感じた楽器はなかった。
最後に手渡されたのはシンバルだった。
「クラッシュシンバル! 合わせシンバルとも言うかな?」
海茅は思ったことをそのまま口に出てしまった。
「おサルさんのおもちゃがパチパチやってるやつだ」
「あはは、そうそう。それそれ」
樋暮先輩は笑ってそう言ったが、ピリッとした空気が流れた気がした。
「さ、叩いてみ!」
海茅は分からないまま、クラッシュシンバルを叩いてみた。しかしパフ、と情けない空気の音しか出ない。
「あ、あれ……?」
「意外と難しいんだよねー、クラッシュシンバルって」
海茅だけでなく、スネアや鍵盤系をそれなりに叩けていた優紀たちもクラッシュシンバルに苦戦していた。海茅のように空気の音しか出ないときもあれば、大きな壺を落として割った時のような騒々しい音をたてるときもあった。
段原先輩と樋暮先輩はバツが悪そうに笑う。
「実は、俺たちもクラッシュシンバルが苦手。音は出せるけど、良い音はなかなか」
「OBの先輩は上手かったんだけどねー」
シンバルの良い音ってなんだろう、と海茅は首を傾げた。
しかし、海茅はパーカッション部員の中で浮いていた。優紀でさえ、部活をしているときは壁を感じる。
その壁を海茅自身が作っていることを、彼女は気付いていない。
海茅は、コンクールが終わればフルートを担当する。そのためパーカッション部員と熱心に関わろうとしていなかった。
この居心地の悪さも五ヶ月の辛抱だ、と毎日自分に言い聞かせ、なんとか音楽室に足を運んでいた。
パーカッションになった海茅は、先輩からスネア(小太鼓)を叩くためのスネアスティックを渡された。だが、スネア自体はまだまだ叩かせてもらえない。机に載せた練習パッドの上で、ひたすら基礎練習させられる。
(入部から一週間が経ったのに、まだ楽器を触らせてももらえない。うぅぅ。机を叩くだけの時間を過ごすなんて、意味ないってぇ)
海茅は同学年の中でもスティックさばきが上手ではなかった。元々パーカッション希望だった優紀は、初心者にもかかわらず楽譜通りに叩けている。他の子たちは優紀ほどではなかったが、それなりにスティックに慣れつつあるようだった。
一方海茅は、小学校のときにピアノを習ったことがあったので楽譜は読めるが、思うように手が動かない。楽譜通りに叩けたとしても、音が重いとか、手首じゃなくて腕で叩いているとか、よく分からない指摘を先輩からされた。
優紀の隣で練習していた海茅は手を止め、楽譜をぼんやり眺める。
(全然楽しくない……)
しょんぼりしている海茅に気付き優紀が声をかけようとしたところに、別室で練習していた先輩が勢いよく入ってきた。
「みんなぁー! 集合ー!」
「はい!」
大きな声で返事をして、パーカッションの新入部員が先輩の元に集まった。
「みんな、一週間基礎練習お疲れさま! 飽きたよね? 飽きるよねえ!?」
元気な声でまくしたてるように話す先輩は、二年生の樋暮先輩。いつもテンションが高く、彼女の話でよく部員は笑っている。得意なパーカッションは、スネアと、木琴や鉄琴などの鍵盤系だ。
「今から君たちに一通りのパーカッションを触ってもらうよ。それを見て、コンクール曲の担当楽器をどうするか決めるから」
落ち着いた口調で話すのは段原先輩。樋暮先輩と同じく二年生で、吹奏楽部員で唯一の男子生徒だ。無口で表情も乏しいが、パーカッションのことは丁寧に教えてくれる。得意なパーカッションは、ドラムとティンパニ。
パーカッションには三年生がいないので、樋暮先輩と段原先輩の二人で五人の新入部員を教えている。自分の練習もしなければいけないのに大変だろうに、先輩たちはそんなことをおくびにも出さない。
コンクール曲の担当楽器を決めると聞き海茅の気分が沈んだ。海茅は成長が一番遅いので、きっと派手な打楽器はさせてもらえないだろう。
樋暮先輩は、海茅に楽器の叩き方を教えてくれた。
スネアは思っていた以上に難しい。樋暮先輩が手本を見せてくれたが、スティックをスネアに押し付けるようにしか叩けない海茅には、彼女のような軽い音が出せなかった。
それからも海茅は次々とパーカッションに触れていくが、手ごたえを感じた楽器はなかった。
最後に手渡されたのはシンバルだった。
「クラッシュシンバル! 合わせシンバルとも言うかな?」
海茅は思ったことをそのまま口に出てしまった。
「おサルさんのおもちゃがパチパチやってるやつだ」
「あはは、そうそう。それそれ」
樋暮先輩は笑ってそう言ったが、ピリッとした空気が流れた気がした。
「さ、叩いてみ!」
海茅は分からないまま、クラッシュシンバルを叩いてみた。しかしパフ、と情けない空気の音しか出ない。
「あ、あれ……?」
「意外と難しいんだよねー、クラッシュシンバルって」
海茅だけでなく、スネアや鍵盤系をそれなりに叩けていた優紀たちもクラッシュシンバルに苦戦していた。海茅のように空気の音しか出ないときもあれば、大きな壺を落として割った時のような騒々しい音をたてるときもあった。
段原先輩と樋暮先輩はバツが悪そうに笑う。
「実は、俺たちもクラッシュシンバルが苦手。音は出せるけど、良い音はなかなか」
「OBの先輩は上手かったんだけどねー」
シンバルの良い音ってなんだろう、と海茅は首を傾げた。
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