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プロローグ
第3話 オーディション
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オーディション当日、海茅はマイフルートを手に音楽室で立っていた。緊張で足がぷるぷる震えているが、我流ではあるが今まで練習してきたので自信もあった。
強面の顧問が品定めしている中、海茅は一通りの楽器を吹いたが、どの楽器もカス、カス、と妙な音しか鳴らなかった。
恥ずかしくて顔を真っ赤にしていた海茅も、顧問が「次、フルート吹いてみて」と低い声で言ったときだけは元気よく頷いた。
フルートを口に当てる。息をめいっぱい吸い込んで、ドレミファソラシド、と音階を鳴らした。
全ての音が出せたので手応えを感じ、海茅は自信満々に顧問を見る。
しかし、顧問は苦笑いに近い表情で頷くだけだった。
「オッケー、ありがとう。もう良いよ」
海茅は音楽室の隅でオーディションを終えた生徒と一緒に見学した。彼女の次にオーディションを受けていた女の子も、楽器の音がほとんど鳴っていなかったので少しホッとする。
しかし女の子がフルートを吹いた瞬間、海茅の自信はみるみるうちに沈んでいった。
海茅の息漏れの方が目立つガサガサのフルートの音と違い、人の声のように滑らかな音色が奏でられた。女の子はドレミファソラシドと音階を吹き、最後の音を波打つように揺らした。姉もよくしている、ビブラートというテクニックだ。
(すごく上手……。まだ中学一年生なのに、お姉ちゃんと同じくらい上手だ……)
顧問も驚いたようで、女の子に尋ねた。
「如月明日香さんか。フルートの経験が?」
「はい。八歳のときからフルート教室に通っています」
二人の会話を聞き、海茅は、ソロはもらえなさそうだなぁとぼんやり考えた。
オーディションが終わり、海茅は音楽室の教師控室に呼ばれた。顧問と向き合って座る海茅の胸は、緊張と期待に膨らんで今にも破裂しそうだ。
顧問は無表情で淡々と話す。
「彼方、マイフルートを持ってるんだって?」
「は、はい。姉のおさがりですが」
「そうか……。それなのに悪いんだが、今年のコンクールだけはパーカッションで出てくれないか」
「えっ」
予想だにしていなかった顧問の言葉に海茅の体がこわばった。
パーカッションとは小太鼓や木琴などの打楽器全般を指すパートのことだ。楽器を吹かずに叩く、唯一のパート。
(どうして? 私のフルートだめだったの? それどころか……管楽器すら担当させてもらえないなんて……)
落ち込んで目に涙を浮かべる海茅に、顧問が柔らかい声色で声をかける。
「今年の夏までだ。コンクールが終われば、彼方にもフルートをしてもらうから」
「はい……」
控室を出た途端、海茅の目から我慢していた涙がぼろぼろとこぼれた。
(せっかくお姉ちゃんが教えてくれてたのに。マイフルートまで持ってるのに、どうして私がパーカッションなんてしなきゃいけないの? ひどいよ……)
海茅は泣き腫らした目で音楽室に戻った。彼女の他にも、コンクールまでパーカッションを担当することになった部員が二人いた。それとパーカッション希望をしていた二人の部員の合計四人が海茅のパート仲間になった。
パート内で自己紹介をしているとき、海茅はちらりとフルート担当になった部員に目をやった。明日香の他にもう一人いるようだ。
海茅のマイフルートを持っている手が、悲しさと悔しさで小刻みに震えた。
強面の顧問が品定めしている中、海茅は一通りの楽器を吹いたが、どの楽器もカス、カス、と妙な音しか鳴らなかった。
恥ずかしくて顔を真っ赤にしていた海茅も、顧問が「次、フルート吹いてみて」と低い声で言ったときだけは元気よく頷いた。
フルートを口に当てる。息をめいっぱい吸い込んで、ドレミファソラシド、と音階を鳴らした。
全ての音が出せたので手応えを感じ、海茅は自信満々に顧問を見る。
しかし、顧問は苦笑いに近い表情で頷くだけだった。
「オッケー、ありがとう。もう良いよ」
海茅は音楽室の隅でオーディションを終えた生徒と一緒に見学した。彼女の次にオーディションを受けていた女の子も、楽器の音がほとんど鳴っていなかったので少しホッとする。
しかし女の子がフルートを吹いた瞬間、海茅の自信はみるみるうちに沈んでいった。
海茅の息漏れの方が目立つガサガサのフルートの音と違い、人の声のように滑らかな音色が奏でられた。女の子はドレミファソラシドと音階を吹き、最後の音を波打つように揺らした。姉もよくしている、ビブラートというテクニックだ。
(すごく上手……。まだ中学一年生なのに、お姉ちゃんと同じくらい上手だ……)
顧問も驚いたようで、女の子に尋ねた。
「如月明日香さんか。フルートの経験が?」
「はい。八歳のときからフルート教室に通っています」
二人の会話を聞き、海茅は、ソロはもらえなさそうだなぁとぼんやり考えた。
オーディションが終わり、海茅は音楽室の教師控室に呼ばれた。顧問と向き合って座る海茅の胸は、緊張と期待に膨らんで今にも破裂しそうだ。
顧問は無表情で淡々と話す。
「彼方、マイフルートを持ってるんだって?」
「は、はい。姉のおさがりですが」
「そうか……。それなのに悪いんだが、今年のコンクールだけはパーカッションで出てくれないか」
「えっ」
予想だにしていなかった顧問の言葉に海茅の体がこわばった。
パーカッションとは小太鼓や木琴などの打楽器全般を指すパートのことだ。楽器を吹かずに叩く、唯一のパート。
(どうして? 私のフルートだめだったの? それどころか……管楽器すら担当させてもらえないなんて……)
落ち込んで目に涙を浮かべる海茅に、顧問が柔らかい声色で声をかける。
「今年の夏までだ。コンクールが終われば、彼方にもフルートをしてもらうから」
「はい……」
控室を出た途端、海茅の目から我慢していた涙がぼろぼろとこぼれた。
(せっかくお姉ちゃんが教えてくれてたのに。マイフルートまで持ってるのに、どうして私がパーカッションなんてしなきゃいけないの? ひどいよ……)
海茅は泣き腫らした目で音楽室に戻った。彼女の他にも、コンクールまでパーカッションを担当することになった部員が二人いた。それとパーカッション希望をしていた二人の部員の合計四人が海茅のパート仲間になった。
パート内で自己紹介をしているとき、海茅はちらりとフルート担当になった部員に目をやった。明日香の他にもう一人いるようだ。
海茅のマイフルートを持っている手が、悲しさと悔しさで小刻みに震えた。
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