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エピローグ

終戦のあと:ジュリア、ウィルク

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 終戦の合図を聞き、ジュリアは私室を出た。すると今にもノックしようとしていたモニカと鉢合わせる。

「モ、モニカお姉様」
「あっ! ジュリアちょうどよかったー!」
「終戦しましたね」
「うん!」
「では、参りましょうか」
「えっ、どこに?」
「処刑場に。私は抵抗なんてしませんよ」
「いや、処刑なんてしないよ?」
「……正気ですか? 私は国王と王妃の子どもですよ。処刑されるべき存在です」
「そんなこと言ったら私も国王と王妃の子どもだよー! ヴィクスもウィルクも、処刑なんてしないから!」

 ジュリアは口を両手で押さえ、震える声を出した。

「ヴィクスお兄様も……?」
「もちろん! でも、みんなには田舎でこっそり暮らしてもらうことになるけど……」

 ジュリアが膝から崩れ落ちた。必死で抑えているが、嗚咽は止まらない。
 モニカはおろおろしながらジュリアの背中をさすった。

「え、そ、そんなに田舎暮らしがいやだった……? ごめんねえ……」

 ジュリアは大きく首を横に振り、モニカに抱きついた。

「ヴィクスお兄様が……助かるなんて……!! あぁぁぁっ、うわぁぁぁっ!!」

 ジュリアがこのように大声で泣くところを、モニカは初めて見た。

(自分の命が助かったことより、ヴィクスが助かったことを喜ぶなんて……。えへへ。ジュリアはヴィクスのことが大好きなのね)

 その後ジュリアはトロワでの生活を始めた。彼女はカトリナとジルに代わり、町の経営に尽力した。ジュリアは経営者としての素質があったようで、彼女のおかげでトロワの貧困層がより豊かになったという。

◇◇◇

 私室に閉じこもっているウィルクの耳にも終戦の歓声が聞こえてきた。ウィルクはベッドに腰かけ、小さくため息を吐く。

「終わったか……。今日で僕の命も終わり、か」

 その時、ドアをノックする音が聞こえた。落とした城に閉じこもっている王族にご丁寧にノックをするなんて、とウィルクは苦笑した。無視していると、アーサーの声が聞こえた。

「おーい、ウィルクー」
「……お兄さま」
「入っていいー?」
「……はい。今開けます」

 ドアを開けるなり、アーサーはウィルクを力いっぱい抱きしめた。

「ちょっと早いけど、迎えに来たよウィルク!」
「……約束、覚えてくださっていたのですか?」
「もちろんだよー! どうしようかと思ってたけど、間に合ってよかった!」
「でも僕……処刑されるんですよね」
「え? ううん、しないけど?」
「え」
「しないに決まってるじゃないか! え、僕が君を殺すと思ってたの!?」
「そ、そりゃ、処刑するでしょう……。敵対しているのですから」
「敵対してたのは国王と王妃だけ! ……あ、ごめん……。僕たち、君の両親を……」

 ウィルクはアーサーから顔を背け、涙を一粒零した。

「お兄さま……。どうしてでしょうか。僕は、両親が処刑されたと聞いても……何も感じなかった」
「ほとんど話したことがなかったもんね」
「はい……。それよりヴィクスお兄さまが心配です。あの、ヴィクスお兄さまは……」
「無事だよ。会いに行く?」
「……いいのですか?」
「うん。君はヴィクスのことが好きでしょ?」
「はい……」

 アーサーはウィルクと手を繋ぎ、ヴィクスの私室に入った。ヴィクスと目が合ったウィルクは、気まずそうに目を逸らす。

 ヴィクスは目尻を下げ、ウィルクを手招きした。

「ウィルク。ジュリアから聞いたよ。君、実は僕たちの陰謀をジュリアに聞いていたんだって?」
「は、はい」
「それなのに国王と王妃に告げなかった。どうして?」
「……お兄さまのしようとしていることの方が、正しいと思ったからです」
「自分が処刑されると分かっても?」
「……はい」
「そう」

 ヴィクスはウィルクを抱きしめ、囁いた。

「いつの間にかこんなに大人になっていたんだね。立派だ」
「お……お兄さま……」
「出来の悪い兄でごめんね。君をたくさん傷付けた。それなのに僕を信じてくれてありがとう」
「……はいっ……」

 ウィルクはその後、ウィルク王子という名と肩書を捨て、ウィリーと言う名でジュリア同様トロワで暮らすことにした。彼はトロワに学校を建て、貧しい子どもたちに知識と武術を教えた。
 ある日、アーサーとモニカがトロワを訪れると、庶民の服を着たウィルクが子どもと泥だらけになって遊んでいるところを目にした。子どもたちに髪を引っ張られても、軽口を叩かれても、ウィルクは口を大きく開けて笑っていたという。
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