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最終編:反乱編:北部アウス軍
夫婦喧嘩
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アーベル家の援軍により戦況は一変し、連合軍が放った魔物が次々と倒されていく。その間に弱ったアーサー、カミーユ、リアーナ、カトリナは手当され、しばらく休んでから再び戦いに加わった。
「アウス様……! あなたはこちらでお休みください! その身に何かあったらどうするんです!」
アウス軍の兵は、また戦いに出ようとするアーサーを引き留めた。しかしアーサーは彼らの手を振り払い、にっこり笑う。
「みんなありがと! でも、行ってくるよ! だってカミーユたちが戦うんだもん! みんなが頑張ってるのに、僕だけ寝てるなんておかしいでしょ?」
「いえ、しかしあなたは……」
「僕が総大将だからって、僕の命が他の誰かより重いなんてことないよ」
「あるんだっつーの。このバカ」
「いてっ」
騒ぎを聞きつけたカミーユが戻って来たようだ。カミーユはアーサーの頭にげんこつを食らわせ、ぺちぺちと頭を叩いた。
「総大将が死ねば戦は終わるんだよ。つまりお前が死んだらアウス軍の負け。お前はここの誰よりも重い命背負ってんだ。自覚しねえと軍を滅ぼすぞ」
「うぅ……はい……」
「しかし魔物を倒すのにお前の力が必要だ。死なねえ程度に助けてくれよ、アウスサマ」
「ちょっ、カミーユまでそんな風に呼ばないでよぉ!」
「へいへい。ほら、さっさと行くぞ」
「うん!」
取り残された兵たちは、ぼうっと戦うアーサーを眺めた。
「あんな小さいのに、誰よりも一生懸命戦ってくれて……」
「……アウス様が王様になったら、バンスティンはきっと良い国になるなぁ」
◇◇◇
魔物との戦いが終わったのはそれから三日後のことだった。連合軍が所持していた魂魄はもうなにひとつ残っていない。そして魔物がいなくなった連合軍は、アウス軍の敵ではなかった。故郷を魔物まみれにされたことに憤った敵兵は次々とアウス軍に寝がえり、今では憎しみの目で連合軍に剣を向けていた。
オーヴェルニュ侯爵は、泣いて逃げ回る東部の連合軍に哀れみのこもった目を向ける。
「たとえどれほど恐ろしい魔物を所持していようと、最後に戦況を決めるのは人間だ。人間の兵に牙を剥く行為をしたあの日から、お前たちの命運は決まっていた」
アウス軍は次々と連合軍の大将を捉え、首をはねた。
アウス軍と東部連合軍との戦いに決着がついたのは、魔物を殲滅してからわずか半日後のことだった。
◇◇◇
「な……なにぃ!? 東部の連合軍が負けただと……!? そんなはずはない! なぜだ! なぜなんだぁ!」
敗戦の知らせを聞き、国王はテーブルに載せられていた料理を床にぶちまけた。
「そ……それが……! アーベル家が寝がえり、アウス軍に加わったと……!」
「なんだと!? アーベル家の娘はヴィクスに仕えていたのではなかったのか!?」
ヴィクスに国王と王妃の視線が注がれる。ヴィクスは子どものようにしょんぼりした顔をして、目に涙を浮かべた。
「お父様……ごめんなさい……。数日前から近衛兵がみんないなくなってしまっていて……」
「な……なんだとぉ!?」
「逃げられてしまったなんて、恥ずかしくて誰にも言えなくて……。ごめんなさい……」
「ヴィクス! そんな大切なことはちゃんと報告しないか!」
「ご……ごめんなさい……」
しくしくと泣き出したヴィクスを王妃が抱きしめ、国王を睨みつけた。
「あなた!! 私の可愛いヴィクスに八つ当たりをするのはやめてくださるかしら!? 悪いのは逃げ出した近衛兵たちでしょう!? ヴィクスは何も悪いことをしていないのに、どうして怒鳴るなんて野蛮な行為をするの!?」
「す……すまん……」
「ほら、泣かないでヴィクス。あなたは悪くないわ」
「お母様……でも、僕のせいで……ごめんなさい……」
「謝らなくていいのよ。あなたのせいじゃない。大丈夫よ」
王妃は国王に殺意のこもった視線を向けてから、ヴィクスと共に私室に閉じこもった。きっと時間をかけて、傷心した最愛の息子を慰めるつもりなのだろう。
たった一人国王は深いため息を吐き、頭を抱えた。
「ああぁ……。王妃に嫌われたかもしれん……。うう、ヴィクスにも悪いことをした……。あとでしっかり謝らねば……」
そんな彼に、衛兵が呆れ気味に声をかける。
「あの……国王。連合軍が敗戦したため、アウス軍とモリア軍がこちらに進軍しておりますが……」
「ええい! うるさい! わしは今それどころではないのだ! それに東部が負けてもまだバンスティン大公軍が残っておるだろう! そいつにどうにかさせろ!」
「いえ……バンスティン大公軍も敗戦しております」
「なにぃ!? くそっ……使えん犬め……! わしは一刻も早く王妃とヴィクスのご機嫌とりをせねばならんのに……。おい! 兵を集めて適当に配置しろ! 負けたら打ち首だ! 死んでもこの城を守れ!」
職務完了、と国王は満足げにうなずき、そそくさと王妃の私室に走り去った。
「アウス様……! あなたはこちらでお休みください! その身に何かあったらどうするんです!」
アウス軍の兵は、また戦いに出ようとするアーサーを引き留めた。しかしアーサーは彼らの手を振り払い、にっこり笑う。
「みんなありがと! でも、行ってくるよ! だってカミーユたちが戦うんだもん! みんなが頑張ってるのに、僕だけ寝てるなんておかしいでしょ?」
「いえ、しかしあなたは……」
「僕が総大将だからって、僕の命が他の誰かより重いなんてことないよ」
「あるんだっつーの。このバカ」
「いてっ」
騒ぎを聞きつけたカミーユが戻って来たようだ。カミーユはアーサーの頭にげんこつを食らわせ、ぺちぺちと頭を叩いた。
「総大将が死ねば戦は終わるんだよ。つまりお前が死んだらアウス軍の負け。お前はここの誰よりも重い命背負ってんだ。自覚しねえと軍を滅ぼすぞ」
「うぅ……はい……」
「しかし魔物を倒すのにお前の力が必要だ。死なねえ程度に助けてくれよ、アウスサマ」
「ちょっ、カミーユまでそんな風に呼ばないでよぉ!」
「へいへい。ほら、さっさと行くぞ」
「うん!」
取り残された兵たちは、ぼうっと戦うアーサーを眺めた。
「あんな小さいのに、誰よりも一生懸命戦ってくれて……」
「……アウス様が王様になったら、バンスティンはきっと良い国になるなぁ」
◇◇◇
魔物との戦いが終わったのはそれから三日後のことだった。連合軍が所持していた魂魄はもうなにひとつ残っていない。そして魔物がいなくなった連合軍は、アウス軍の敵ではなかった。故郷を魔物まみれにされたことに憤った敵兵は次々とアウス軍に寝がえり、今では憎しみの目で連合軍に剣を向けていた。
オーヴェルニュ侯爵は、泣いて逃げ回る東部の連合軍に哀れみのこもった目を向ける。
「たとえどれほど恐ろしい魔物を所持していようと、最後に戦況を決めるのは人間だ。人間の兵に牙を剥く行為をしたあの日から、お前たちの命運は決まっていた」
アウス軍は次々と連合軍の大将を捉え、首をはねた。
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◇◇◇
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敗戦の知らせを聞き、国王はテーブルに載せられていた料理を床にぶちまけた。
「そ……それが……! アーベル家が寝がえり、アウス軍に加わったと……!」
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ヴィクスに国王と王妃の視線が注がれる。ヴィクスは子どものようにしょんぼりした顔をして、目に涙を浮かべた。
「お父様……ごめんなさい……。数日前から近衛兵がみんないなくなってしまっていて……」
「な……なんだとぉ!?」
「逃げられてしまったなんて、恥ずかしくて誰にも言えなくて……。ごめんなさい……」
「ヴィクス! そんな大切なことはちゃんと報告しないか!」
「ご……ごめんなさい……」
しくしくと泣き出したヴィクスを王妃が抱きしめ、国王を睨みつけた。
「あなた!! 私の可愛いヴィクスに八つ当たりをするのはやめてくださるかしら!? 悪いのは逃げ出した近衛兵たちでしょう!? ヴィクスは何も悪いことをしていないのに、どうして怒鳴るなんて野蛮な行為をするの!?」
「す……すまん……」
「ほら、泣かないでヴィクス。あなたは悪くないわ」
「お母様……でも、僕のせいで……ごめんなさい……」
「謝らなくていいのよ。あなたのせいじゃない。大丈夫よ」
王妃は国王に殺意のこもった視線を向けてから、ヴィクスと共に私室に閉じこもった。きっと時間をかけて、傷心した最愛の息子を慰めるつもりなのだろう。
たった一人国王は深いため息を吐き、頭を抱えた。
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そんな彼に、衛兵が呆れ気味に声をかける。
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