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最終編:反乱編:北部アウス軍

近衛兵への最後の命令

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 魔女まであっさりと倒されてしまった貴族連合軍は、半ばやけくそで持っているありったけの魂魄を戦場に放った。

「もうどうにでもなれ……! あいつらを殺せたらもうなんだっていい!」

 数の暴力には冒険者たちも苦戦した。襲い続ける魔物のせいで寝る暇もない。三日三晩戦い続けても、魔物は増え続けるばかりだ。

「くそっ! あいつらどんだけ魂魄持ってんだよ!! バンスティンダンジョンかここは!!」

 疲れているのか、カミーユは大剣から剣に持ち替えている。アーサー、リアーナ、カトリナも動きが鈍っていた。戦い慣れていないシチュリアは、とうの前に戦線離脱して休息を取っていた。

「これはさすがに……負けてしまうかもしれねえな……」

 一人の兵がボソッと呟いた。それが聞こえた敵兵が、彼の肩を掴む。

「諦めんなよぉ! 諦めるんじゃねえよぉ……! アウス軍が勝ってくれねえと……あの魔物どうなっちまうんだよぉ! 倒してくれねえと困るんだよぉ……」

◇◇◇

「戦況報告です。東部の連合軍によりアウス軍苦戦。おそらくあと一週間ほどで決着がつくかと思います」
「はっはっは!! やはり王族は無敵だ! 当然だ! 当然だ!」

 戦いのさなかだというのに呑気に食事室で豪華な肉料理を頬張っていた国王が、戦況を聞き上機嫌に笑った。

「東部は強い! 東部が味方であれば王族が負けることはないのだ! はっはっは!」
「ええ、その通りですわ。ふふ、バカな貴族たち。戦争が終わったらみんな処刑してしまいましょう」
「当然だ! 活躍しているフォクト家には褒美にヴィラバンデ地区を与えよう!」
「良い案ですわね! そしてオヴェルニー学院を闇オークション会場にしましょう」
「おお、いいなあ! 今から楽しみだ」
「……」

 国王と王妃の会話を聞いていたヴィクスは、静かに肉料理を食べるをしていた。二人が会話を弾ませている最中に彼はナプキンで口を拭き、席を立つ。

「ん? どうしたヴィクス」
「満腹になり眠くなってしまいました。ひと眠りしても?」
「もちろんだ。寝る子は育つからな。ゆっくり眠りなさい」
「ありがとうございます、お父様」

 私室に戻り、ヴィクスはベルを鳴らした。

◇◇◇

 東部軍との戦いが始まり一週間が経った。今もアウス軍は魔物の群れに苦戦している……どころか、今にも負けてしまいそうなほど旗色が悪い。

「うおりゃああああ!」

 ふらふらのカミーユが魔物に向かって剣を振るう。しかしその剣は魔物の硬い皮膚に押し返され、カミーユの手から吹き飛んだ。

「……ちっ」

 カミーユと向き合う魔物がニィッ……と笑った気がした。魔物の爪がカミーユをなぎ倒し、彼の顔に臭い息を吐きかける。

「……こんなクソみてえな魔物に……顔に涎垂らされるなんてなあ……」

 カミーユは虚ろな目であたりを見回した。アーサーもリアーナもカトリナも、立っているものの強風が吹けば簡単に倒れそうだ。
 彼らはまだバンスティンダンジョンでのダメージが治りきっていなかった。普段なら軽々と倒せる魔物の群れを倒すことも、一週間寝ずに戦うことも、今の彼らでは難しい。

「……ここまでなのか……? クソッ……」

 その時。

「ウオオオオオオオオオオオ!」
「ぎゃあああああああ!!」

 連合軍の背後から、雄たけびと悲鳴が聞こえてきた。

「……?」

 カミーユたちが顔を上げる。連合軍から飛び出してきたのは――

「ライラ……?」
「なに……? アーベル家……だと……?」

 ライラと彼女の父親が率いる、アーベル軍だった。

「カミーユさん! 遅くなって申し訳ありません!! ただいまはせ参じました!」
「アーサー! 魔物退治、あとは私たちに任せて!!」
「ど……どうしてアーベル家がここに……!?」
「それはあとでお話いたします! さあ、まずはこの凶悪な魔物たちを倒しましょう!!」

◇◇◇

 時は戻り一週間前、私室に戻ったヴィクスがベルを鳴らすと、暗い顔をした彼らの近衛兵――ライラ、シリル、クラリッサが彼の前で跪いた。

「君たちは、僕の味方かい? それともアウス軍の味方かい?」

 ヴィクスの質問に、近衛兵は唇を噛んで答えた。

「……殿下の味方です」
「そう。だったら話が早いね。君たちに命じる。実家に戻るんだ」
「……え?」
「君たちの家は戦争に参加してないね?」
「……はい」
「親を王族軍につくよう説得してきて。特にライラ、君の家は重要だ」
「……はい」
「今、東部の連合軍はアウス軍を押している。アーベル家がからアウス軍をにすれば、今の戦況を後押しできるだろう」
「……」
「君たちは今日限りで僕の近衛兵ではない。……さ、行って。王族の者に気付かれないよう、こっそりとね」

 頭の整理がつかないまま、ライラ、シリル、クラリッサは黒いマントを被って王城を出た。
 馬車の中でクラリッサが鼻で笑った。

「殿下はバカなのかしら。私たちの家が戦争に参加していなかったのは、私たちが人質にとられていたからよ。家に帰ればアウス軍につくに決まっているでしょうに。親を説得して王族のために動くなんて……そこまでの忠誠心が私たちにあるとでも思って?」

 彼女の言葉に、シリルとライラは考えこんだ。

「……いや、そんなこと、殿下ならお分かりのはずだ。彼は確かに聡明なんだから」
「それに……さっきの私に対する命令も変だったよ。だってアーベル家が出て背後から挟み撃ちにできるのは、アウス軍じゃなくて連合軍だもん……」
「……」

 クラリッサ、ライラ、シリルが顔を見合わせる。

「……このタイミングで僕たちを帰すものおかしい……。放っておけば東部は勝つはずなんだから……」

 シリルがそう言うと、ライラは頷いた。

「逆に私の家が出たら戦況は一変するはず……。アーベル家は魔物との戦いにも長けているし……」
「……殿下は一体何を……?」
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