【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

決戦編：裏Ｓ級との戦い

守りたい人

「サンプソン……？　何が……何が起こってるの……？」

　うずくまっていたカトリナが震えた声で呼びかけた。
　サンプソンは必死に嗚咽をこらえながら振り返り、最愛の女性を見た。
　彼女の目は白濁しており、目が合わない。

「カトリナ……まさか目が……」
「ええ……毒を直接かぶっちゃったから……失明したみたいね……。それより、何があったの……。ごめんなさい、意識が朦朧としていて……よく分からなかった……」

　サンプソンはガタガタ震えながら、カトリナをそっと抱きしめた。

「ジルが……死んだ」
「え……？」
「僕を守って……死んだ……っ！」
「そんな……」

　ボロボロと涙を流し、首を横に振るカトリナ。

「嘘……嘘よ……。ジルが死ぬはずないわ……」
「すまない……っ。すまないカトリナ……!!　僕のせいで……ジルが……っ！」
「いやだ、いやだ信じない……っ。ジルは死んでないわ……。ジルッ……ジル……！　こっちに来て、ジル……！」

　カトリナは何もない方向に必死に手を伸ばす。しかし、誰もその手を掴まない。
　いつもならどんなときでも名前を呼べば、音もたてずに傍に立つジルですら、その手を握らない。

　それが、全てを語っていた。

「う……あ……っ……。うわぁぁぁぁああっ!!　あぁっ……あぁぁぁぁぁっ……!!」

　カトリナはサンプソンにしがみつき、今まであげたことのない大声で泣き叫んだ。

「ジル……ッ！　ジル……!!　いやだあああぁぁぁ!!　私を置いていかないでっ……！　ずっと私の傍でいるって言ったのに!!　あぁぁぁぁっ!!　嘘だっ……!!　嘘だぁぁぁ!!」

　サンプソンは何も言えず、共に泣くことしかできなかった。

「返して……返してぇぇぇっ!!　私のジルを返してよぉぉぉぉっ……!! 　お願い……お願い……っ！　なんでも渡すから……っ！　私が代わりに死んでもいいから……っ！　ジルを……ジルを返してぇぇぇっ……うぁあ……っ！　あぁぁぁっ……！」

◇◇◇

《そうか。……カトリナは、ジルには気がないの？》

サンプソンの質問に、カトリナはジトッとした目をして彼を睨んだ。

《まあ。そんなことを聞くの？》
《ごめんごめん》
《……ジルは、私の一番守りたい人よ》
《大切なんだね》
《ええ。ある意味あなたよりも大切よ。私、あなたには守られたいもの》
《母性というやつかな。なら、僕はジルには敵わないね》
《ええ。あなたは逆立ちしたってジルには勝てないわ》

◇◇◇

「私は……っ！　目の前で……ジルを見殺しにした……っ！」
「違う……違うよカトリナ……っ」
「守りたかったのに……！　誰よりも守りたい人だったのに……!!　私は……私は……っ!!」

　錯乱し、自らを傷つけようとするカトリナを、ジルの遺体の傍へ連れて行く。
　ジルの手は、まだあたたかかった。

「彼は、君を命を懸けて守ったんだ……。その命を君が傷つけてはいけない……」
「……っ」

　ジルの遺体を抱きしめ泣き崩れるカトリナ。
　誰も彼女に戦えとは言わなかった。
　せめてまだ彼があたたかいうちは、ずっと傍にいさせてやりたい。みながそう思った。