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決戦編:裏S級との戦い

必要な存在

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 焚火の前で干し肉を齧っていたカトリナの隣に、さりげなくサンプソンが腰かけた。

「カトリナ。矢、余ってるかい?」
「余ってるわよォ。どうして?」
「いやあ、僕の矢の本数が心もとなくなってきて」
「だからこまめに矢の回収をしなさいって言ったのにィ」
「回収はしてるんだよ。でも、どれも矢じりが悪くなってて」
「ああ、あなたは射るのが速い分、消費量も凄まじいものね」
「君はパワー型だから、僕ほど消費しないもんね」
「ええ。それなら少しだけ、分けてあげるわァ」
「助かるよ」

 カトリナに矢を分けてもらってからも、サンプソンは彼女の隣に居座り続けた。
 アジトで腹を割って話してからは、二人とも以前ほどギスギスしていない。カトリナも、サンプソンと話している時に時々笑顔を見せるようになった。サンプソンにとってそれがどれほど嬉しかったことか。

「だいぶ疲れてるね。顔色が悪いよ」
「それはあなたもよ。ただでさえ色が白い肌が、今では真っ青」
「薄暗いところで見ているからそう見えるだけさ。陽の光に当たれば、いつも通りの色男」
「ふふ、そうかしらァ」

 ふぅ、とため息を吐きながら、サンプソンがそっとカトリナの手を握った。

「ここまで全員で来られたことは奇跡だね」
「ええ。みんなギリギリだけど、生きているだけで奇跡だわァ」
「このまま奇跡が続けばいいね」
「そうね。みんなで家に帰りたいわァ」

 疲れ切っているS級冒険者は、淡いコスモス色の雰囲気を漂わせているカトリナとサンプソンに目をやって、ニヤニヤと表情を緩めた。

「なんか癒されるなー」

 リアーナが呟くと、カミーユはヘッと笑う。

「いつもなら鬱陶しいが、こんな時だと心が休まるなあ」
「もっとイチャイチャしろー」
「おいやめろリアーナ。そっとしておいてやれよ。せっかく元サヤにおさまって良い感じになってんだから」
「遅すぎるんだよ。互いに好き合ってたくせに」
「それは俺も思うぜ。ったく、サンプソンには見ててずいぶんイライラさせられたぜ。俺だったら、カトリナがなんて言おうと諦めずに結婚してくれるまでアタックしてる」
「シャナがどんだけ迷惑だったか考えたことあるかあ?」
「ああ? やんのか?」
「やるかあ? いいぜ!……帰ってからな~……」
「だな……」

 メンバーが微笑ましく見守っている中、ジルだけは仏頂面で二人の間に割り込みに行った。

「ねえ」
「……来たね~。ジル、君もお喋りしようよ」
「サンプソン、君、ちゃんとカトリナにプロポーズしたの?」
「んー。秘密」
「ちょっと。カトリナの手を握るならちゃんとケジメつけてよ」
「カトリナ……。君からちゃんと言ってあげてよ……」

 サンプソンにお願いされたカトリナは、にっこり笑ってジルに手招きした。

「ジル、隣に座ってェ」
「……」

 ムスッとしたまま、ジルはカトリナの隣に腰かけた。

「サンプソンとは、全てが終わってからちゃんと話し合うつもりよォ」

 ジルは無表情のままだったが、瞳が微かにゆらゆら揺れた。

「……そう。良かった。良かった……」
「ありがとう、ジル」
「お礼を言われることはなにもしてないよ」
「いいえ。あなたのおかげ。全部、あなたのおかげよ」

 むずむずと居心地悪そうに体を揺らすジルを見て、サンプソンとカトリナが笑った。
 ジルはむすっとしたまま、小さな声でサンプソンに言った。

「僕は君が嫌いだ。でも、君が良い奴なのは知ってる。カトリナが選んだ人なんだから、疑いようがない」
「うーん、少し買い被ってると思うけどね」

 でも……と、サンプソンは言葉を繋ぐ。

「君がそう言うなら、そうなのかもしれない」

 ジルは顔をしわくちゃにして呟いた。

「そう言われたら腹が立つな」
「あはは、どうしてだい。ジルはあまのじゃくだなあ」

 サンプソンとジルのやりとりとカトリナの笑い声をBGMに、他のメンバーはうたた寝をする。久しぶりに心が和んだ。げっそりしていた体も、彼らのやりとりを聞いていたらほんの少しだけ軽くなった気がする。
 やはりS級冒険者は、ふざけ合い、小競り合い、笑い合っている方が性に合う。疲れてるからって黙々とクエストをこなすなんてらしくないな、メンバー全員がこっそり思った。

 S級冒険者が緊張の糸を解いたその一瞬。

「っ……」
「ここはカフェじゃないよ」

 サンプソンの耳元で感情の乗っていない声が聞こえた。
 それと同時に、背中に滲む、鋭い痛み。

「っ……! サンプソン!!」

 口から血を流すサンプソンに駆け寄るカトリナ。
 ジルは瞳孔を開かせ、サンプソンの背後に立っている男性を見た。

「……マルム」
「久しぶりジル。君たちのことずっと見てたのに全然気づかず楽しそうな話をしてたね。それは君たちが疲れていたから? それとも君たちが弱いだけ?」
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