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決戦編:バンスティンダンジョン
洞窟
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「はぁ!? トイレでシルヴェストルと会っただぁ!?」
双子が廃墟の最上階に辿り着いたときには、すでに魔物は殲滅し終え、最奥の部屋の謎解きをジルとマデリアが解いている最中だった。
部屋の隅でぼけっと葉巻を吸っていたカミーユは、しがみついてわんわん泣くアーサーの頭を撫でながら渋い呻き声を漏らす。
「あー……。俺はシルヴェストルと直接会ったことはねえが……。そんな気持ち悪いやつだったのか……」
「もう……ほんとに、ほんっとに、気持ち悪かったんだよおぉぉ……」
「気に入ったやつにグイグイ行くタイプだな。あいつはモテねえ。間違いねえ」
傍で話を聞いていたリアーナが、アーサーの背中をバシバシ叩く。
「ま! シャナみてえにこじらせた気に入られ方しなくてよかったじゃねーか!」
「充分こじらせてたよ……。シャナよりはマシかもしれないけど……」
「それに生きて帰って来れてよかったなあ! 普通死んでるぞ! ぎゃはは!」
「笑いごとじゃないよぉ~。剣を指で止められたときは絶望したんだから……」
カミーユはちらりとモニカに視線を送り、「だが……」と言いづらそうに口を開いた。
「気を付けろよアーサー。使い魔にしろなんて言い出すくらいだ。よっぽどお前のことが気に入ったんだろう。魔物ってのは総じて執念深い奴が多い。お前が一番大切にしてる、モニカに嫉妬する可能性がある」
ゾッとしているアーサーの隣で、モニカは腕を組み、頬を膨らませる。
「ふん! 私のアーサーに手を出そうなんて、いい度胸じゃない!」
「モ、モニカ……。シルヴェストル、すっごく強かったよ。やり合おうなんて思わないで……」
「アーサー! 私には聖魔法があるのよ! そんなやつ、一発で灰にしてやるわ!」
「いやモニカ……本気でシルヴェストルとかかわらないで……。もう、すっごく気持ち悪いんだから……」
緊張感のない双子の会話に苦笑いを浮かべるサンプソンは、ブルギーに耳打ちした。
「それにしても……こんな序盤から裏S級が僕たちに接触してくるとは思わなかったよ」
「だな。裏S級の根城はおそらく洞窟だろ。なんで廃墟の二十階になんか出現するんだ」
「さあ。散歩でもしていたのかな?」
冗談交じりの言葉に、ブルギーは「散歩ねえ」と肩をすくめた。
「もしくは……ずっと監視されているとか」
「……ま、そうだろうな」
「気味が悪いね」
「気味が悪いのはここに入ってからずっとだ。かの有名なバンスティンダンジョンに、こんな弱っちい魔物しかいねえなんて」
サンプソンは軽く笑い、立ち上がる。
「バカだなあブルギー。きっとここまでがエントランス。洞窟からが、バンスティンダンジョンの始まりだよ」
◇◇◇
ジルとマデリアが仕掛けを解くと、隠し部屋が開き、洞窟へ続く石造りの螺旋階段があらわれた。双子とS級冒険者は、狭い階段を一列になって下りる。
二時間ほど下り続けると、急激に気温が下がった。
「……地下に入ったな」
「そろそろ出口ね」
カミーユとマデリアは言葉を交わしたあと、また黙って階段を下りた。
しばらくすると、階段が終わり、行き止まりの壁に突き当たった。
「マデリア、結界解除頼む」
マデリアがヒョイと軽く杖を振っただけで、壁に扉があらわれた。
カミーユはためらう様子もなく扉を開け――
そっと閉めた。
「あ? どうしたカミーユ」
首を傾げるクルドに、カミーユが唾を巻き散らす。
「ちょっと待て! ふざけるな!」
「お、おお? どうした?」
カミーユが手招きして、クルドに奥が見えるよう再び少しだけ扉を開ける。
クルドは慌てて扉を閉め、ふぅ、とため息を吐いた。
「なるほどな」
「これが地下一階か? 最下層じゃなくて?」
「なるほどな」
「はぁぁ……」
明らかに狼狽えているカミーユと、思考を放棄して〝なるほどな〟しか言わなくなったクルド。
彼らの反応で何かを察したほとんどのメンバーは、渋い表情で目配せしている。一方、何も分かっていないリアーナ、アーサー、モニカは、頭の上にはてなをたくさん浮かべていた。
「カミーユどうしたー? さっさと行こうぜ!」
「あー……。リアーナ、ちょっと待て。心の準備が……」
「何言ってんだよ! 早く行こうぜ!」
「うるせえな! もしかしてお前、分かってねえな!?」
「なにがだよ! 早く行こうぜって!」
「ちょっと待て、せめてアーサーとモニカを避難させて――」
カミーユがそう言った瞬間、階段から立っていられないほどの強風が吹き荒れた。
扉が勢いよく開き、メンバー全員が風に押し出される。体重が軽いアーサーとモニカは、押し出されるどころか吹き飛ばされ上空を舞う。
「どあーーーーー!! アーサー、モニカーーーーー!!」
カミーユの叫び声が洞窟に響き渡る中、アーサーとモニカは上空から洞窟の中を見下ろした。
「わ、本物だ」
一度、ジルに教えてもらったことがある魔物。挿絵でしか見たことがなかったそれが今、すぐそばにいる。
牙が覗く口を開き、今まさにこちらに向けて火を吹こうとしている、SSS級魔物、ドラゴンが。
双子が廃墟の最上階に辿り着いたときには、すでに魔物は殲滅し終え、最奥の部屋の謎解きをジルとマデリアが解いている最中だった。
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「あー……。俺はシルヴェストルと直接会ったことはねえが……。そんな気持ち悪いやつだったのか……」
「もう……ほんとに、ほんっとに、気持ち悪かったんだよおぉぉ……」
「気に入ったやつにグイグイ行くタイプだな。あいつはモテねえ。間違いねえ」
傍で話を聞いていたリアーナが、アーサーの背中をバシバシ叩く。
「ま! シャナみてえにこじらせた気に入られ方しなくてよかったじゃねーか!」
「充分こじらせてたよ……。シャナよりはマシかもしれないけど……」
「それに生きて帰って来れてよかったなあ! 普通死んでるぞ! ぎゃはは!」
「笑いごとじゃないよぉ~。剣を指で止められたときは絶望したんだから……」
カミーユはちらりとモニカに視線を送り、「だが……」と言いづらそうに口を開いた。
「気を付けろよアーサー。使い魔にしろなんて言い出すくらいだ。よっぽどお前のことが気に入ったんだろう。魔物ってのは総じて執念深い奴が多い。お前が一番大切にしてる、モニカに嫉妬する可能性がある」
ゾッとしているアーサーの隣で、モニカは腕を組み、頬を膨らませる。
「ふん! 私のアーサーに手を出そうなんて、いい度胸じゃない!」
「モ、モニカ……。シルヴェストル、すっごく強かったよ。やり合おうなんて思わないで……」
「アーサー! 私には聖魔法があるのよ! そんなやつ、一発で灰にしてやるわ!」
「いやモニカ……本気でシルヴェストルとかかわらないで……。もう、すっごく気持ち悪いんだから……」
緊張感のない双子の会話に苦笑いを浮かべるサンプソンは、ブルギーに耳打ちした。
「それにしても……こんな序盤から裏S級が僕たちに接触してくるとは思わなかったよ」
「だな。裏S級の根城はおそらく洞窟だろ。なんで廃墟の二十階になんか出現するんだ」
「さあ。散歩でもしていたのかな?」
冗談交じりの言葉に、ブルギーは「散歩ねえ」と肩をすくめた。
「もしくは……ずっと監視されているとか」
「……ま、そうだろうな」
「気味が悪いね」
「気味が悪いのはここに入ってからずっとだ。かの有名なバンスティンダンジョンに、こんな弱っちい魔物しかいねえなんて」
サンプソンは軽く笑い、立ち上がる。
「バカだなあブルギー。きっとここまでがエントランス。洞窟からが、バンスティンダンジョンの始まりだよ」
◇◇◇
ジルとマデリアが仕掛けを解くと、隠し部屋が開き、洞窟へ続く石造りの螺旋階段があらわれた。双子とS級冒険者は、狭い階段を一列になって下りる。
二時間ほど下り続けると、急激に気温が下がった。
「……地下に入ったな」
「そろそろ出口ね」
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しばらくすると、階段が終わり、行き止まりの壁に突き当たった。
「マデリア、結界解除頼む」
マデリアがヒョイと軽く杖を振っただけで、壁に扉があらわれた。
カミーユはためらう様子もなく扉を開け――
そっと閉めた。
「あ? どうしたカミーユ」
首を傾げるクルドに、カミーユが唾を巻き散らす。
「ちょっと待て! ふざけるな!」
「お、おお? どうした?」
カミーユが手招きして、クルドに奥が見えるよう再び少しだけ扉を開ける。
クルドは慌てて扉を閉め、ふぅ、とため息を吐いた。
「なるほどな」
「これが地下一階か? 最下層じゃなくて?」
「なるほどな」
「はぁぁ……」
明らかに狼狽えているカミーユと、思考を放棄して〝なるほどな〟しか言わなくなったクルド。
彼らの反応で何かを察したほとんどのメンバーは、渋い表情で目配せしている。一方、何も分かっていないリアーナ、アーサー、モニカは、頭の上にはてなをたくさん浮かべていた。
「カミーユどうしたー? さっさと行こうぜ!」
「あー……。リアーナ、ちょっと待て。心の準備が……」
「何言ってんだよ! 早く行こうぜ!」
「うるせえな! もしかしてお前、分かってねえな!?」
「なにがだよ! 早く行こうぜって!」
「ちょっと待て、せめてアーサーとモニカを避難させて――」
カミーユがそう言った瞬間、階段から立っていられないほどの強風が吹き荒れた。
扉が勢いよく開き、メンバー全員が風に押し出される。体重が軽いアーサーとモニカは、押し出されるどころか吹き飛ばされ上空を舞う。
「どあーーーーー!! アーサー、モニカーーーーー!!」
カミーユの叫び声が洞窟に響き渡る中、アーサーとモニカは上空から洞窟の中を見下ろした。
「わ、本物だ」
一度、ジルに教えてもらったことがある魔物。挿絵でしか見たことがなかったそれが今、すぐそばにいる。
牙が覗く口を開き、今まさにこちらに向けて火を吹こうとしている、SSS級魔物、ドラゴンが。
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