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決戦編:バンスティンダンジョン

水晶

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扉の前に集められた、リアーナ、ミント、モニカ。彼女たちにジルが雑に指示を出す。

「じゃ、この水晶の色に合わせて魔法を打ちこんで。多分充分な魔力を受けたら色が変わる。水晶が透明になるまで、頼んだよ」

「あいよ!」

「マデリアは休憩してもらうから、三人でお願い」

「よっしゃー!」

やっと出番が来て嬉しいのか、リアーナがはりきっている。

「も~最近魔法使うことねえからさー! 魔力パンッパンでしんどかったんだよ!! 嬉しいぜー!」

「リアーナ、私もやりたい、やりたーい!」

「おお! モニカもやりてえか! じゃあ順番こな!」

「やったぁ!」

「じゃあ、いっくぜー!」

リアーナが大げさなポーズで杖を構えたので、アーサーとモニカがケタケタ笑う。気を良くしたのか、リアーナは無駄にくるくる回り、「ほいよ!」と魔法を放った。
ふざけているのに、威力はさすがS級冒険者。業火のように禍々しい炎が水晶を覆い尽くした。

もはや炎が大きすぎて、水晶がどうなっているのか分からない。

「おいジル! いつ色変わるんだ~?」

「分からないよ。もう少し威力抑えて」

リアーナが少し威力を絞ると、水晶の中にあるモヤが未だ赤色なのが見えた。
ジルは眉をひそめる。

「え……。あの威力でもまだ色が変わらない? 嘘でしょ」

水晶の色が薄い水色に変わったのは約五分後のことだった。
交代したモニカがノリノリで氷魔法を放ち、「ん~! 思いっきり魔法使えるの気持ちい~!」と嬉しそうな声をあげた。

リアーナとモニカは上機嫌だが、ジルとマデリアは虚ろに笑っている。

「このダンジョンひどいね」

「ええ。しかもここ、本来一組のパーティで放り込まれるものなんでしょう? 魔法使いは一組に一人が一般的。ダンジョンに入る前からこんなに魔力を消耗させられたら、ダンジョンに入るときには結構疲れてるわよ」

「パーティの生命線である魔法使いを、ダンジョンに潜る前から疲弊させるなんて。王族から本気の殺意を感じる」

「実際、そういう意図でしょうね」

そして二人は、アーサーに声援を送られる中、恐ろしい威力の氷魔法を水晶にぶつけているモニカに視線を向ける。

「モニカがメンバーにいることが、どれほど心強いか」

「ええ、本当に助かるわ」

その後水晶は、雷、水、土、回復と、計六回色が変わり、静かに透明になった。
カコン、と仕掛けが作動する音が扉の内側から聞こえ、扉にはめ込まれていた水晶が外れた。
そしてゆっくりと扉が開く。

「みんな、行くよ」

ジルの呼びかけに、メンバー全員が武器を手に持った。
先ほどまではしゃいでいたり、ティータイムを楽しんでいた人たちが、今ではピリッとした空気を纏わせる。
アーサーとモニカも固唾を呑み込み、おそるおそるダンジョンに足を踏み入れた。

◇◇◇

エントランスホールは不気味なほど静かだ。魔物一匹いないどころか、ネズミも虫もいないように感じる。冒険者の足音だけが響き渡る。

エントランスホールには扉が四枚あった。一階に二枚、ホールの中央にある階段をのぼったところに二枚。
クルドが「どうする?」と目で合図を送ると、カミーユは顎髭を指で弄びながらメンバー全員を見回した。

「自己主張の塊みたいなやつらが十一人。まとまって行動するのは得策じゃねえと思わねえか?」

「同感だ。下手したら味方に怪我させられちまうぜ。三組に分かれるか?」

「そうだな。序盤だし、まあそんくらいの人数がちょうどいいだろう。じゃあ……アーサーとモニカと俺とジル、カトリナとマデリアとブルギーとミント、クルドとリアーナとサンプソン。いいか?」

「おう、いいぞ」

「よし、じゃあ一室終わったらまたここに集合な」

「おう。じゃ、またな」

早速クルド組が一階の扉の中に入っていった。続いてカトリナ組も姿を消す。
カミーユは、アーサーに弓に持ち替えるよう指示を出した。

「アーサー、お前には今回アーチャー役にまわってもらう。頼んだぞ」

「うん! がんばる!」

「モニカ。お前はあんまり暴れまわるなよ。魔力の温存を第一に考えてくれ」

「分かった!」

「じゃ、俺らも行くか」

カミーユが選んだのは、二階の右側の扉だ。この扉も結界魔法で守られていた。モニカはS級魔法使いのような結界解除の魔法を習得していなかったので、思いっきり雷魔法を落として力ずくで結界を破った。

「理不尽なほどの圧倒的な力でねじ伏せるモニカの暴力的な魔法、結構好きなんだ」

うっとり呟いたジルの言葉に、モニカは複雑な気持ちになった。
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