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決戦編:バンスティンダンジョン

花の模様探し

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百合、薔薇、ダリア、ビオラの模様が浮かび上がる黒い石。ダンジョンに入るには、左の扉と右の扉それぞれにある、縦に並ぶ五つの黒石に正しい順序で模様を並べる必要がある。

「ひとまず、爵位順に並べてみようか」

ジルの提案にマデリアは頷き、黒石に杖を向ける。

「……百合は何魔法かしら」

「白色で連想するのは回復魔法か聖魔法。聖魔法なんて使える人が限られてるから、回復魔法だと思う」

回復魔法が黒石を包み込むと、百合の模様が浮かび上がった。

「ジル、さすが」

「ありがとう。じゃあ、一番上から……ユリ、バラ、ダリア、ビオラ」

「一番下は?」

「何もしない」

「分かったわ」

ジルに言われた通りに黒い石を光らせるが、扉はうんともすんとも言わない。

「安直すぎたね。ま、順番に試していけばいつかは当たるさ」

「そうね。ほんの百四万八千五百七十六通りを試せば当たるんだから、簡単ね」

「模様なしっていう選択肢もあるから、正しくは九百七十六万五千六百二十五通りだよ」

「あら、どうもありがとう」

マデリアは嫌味たっぷりに会釈して、ジルが考えている間にひとつひとつ地道に試した。
そして、小さくため息を吐く。

「いつもSランクダンジョンの入り口で魔力を消耗させられるのよね」

「意地悪だと思うよ、本当に」

そう返し、ジルがキョロキョロとあたりを見渡したので、アーサーは彼の服の裾を引っ張った。

「ジル、何探してるの?」

「手がかり。こういうのはちゃんとヒントが用意されてるはずだから。どこかにあるはずなんだよね。アーサー、この花の模様がどこかに刻まれてないか、一緒に探してくれない?」

「あっ、それさっき見たよー」

「……え?」

ジルがゆっくり横を向くと、目が合ったアーサーがニパッと笑う。

「このお城に来るまでに、広い庭があったでしょー? 庭の門にユリのマークがあったよ! それと、橋の欄干にビオラのマークが掘られてた! あとはバラのマークがそこの街灯にあったよー」

「……」

「僕が見たのは、それくらいかなあ」

ジルは天を仰ぎ、息を吐いた。
なぜそれを今まで言わなかったのアーサー。この模様がキーになることはとっくの前から分かってたでしょ。早く言ってよ。マデリアの魔力を無駄に使ってしまったじゃないか。ていうか目いくつ付いてるの。よく見てたねそんなとこ。

言いたいことを全て呑みこみ、ジルは声を絞り出した。

「アーサー、助かったよ。ありがとう」

「えへへ~やったー」

「マデリア。答えまでもうすぐだから、もう試行しなくていいよ」

「あら、助かるわ」

そしてジルは、アーサーがビクつくほどの大声でS級冒険者に呼び掛ける。

「魔法使い以外に命令!」

「お。なんだなんだ?」

「庭の門からこの扉までのどこかに、ユリ、バラ、ビオラ、ダリアの模様が刻まれてる。例えば庭の門、橋の欄干、街灯とかにね。おそらく右側と左側でそれぞれ五つずつ刻まれてるはずだから、それを探して!」

ジルの考えはこうだ。
一番上の模様は、庭の門に刻まれた百合から始まっているはずだ。
そこから城の扉までにちりばめられた模様を、敷地を左右の半分に割って、それぞれ庭門から近い順に並べていくのが答えだろう。

「なんだそれ! たっのしそー! あたしもやりてえ!」

「リアーナは魔法使いでしょ。あとで仕事してもらうから、今は休んどいて」

「ちぇーっ」

それからS級冒険者の模様探しが始まった。休んでいいと言われたのに、アーサーも敷地中を走り回って探している。その間、魔法使いたちは優雅にティータイムを楽しんだ。

「おお~、門の両端にユリの模様があるな」

「おい! このタイルにだけダリアの模様が刻まれてんぞ!」

「あらァ。街灯の電球に、ビオラのマークがあるわァ」

「ジルー! 池の底の石が、バラの模様に並んでるよー!」

分かりやすい場所に刻まれていることもあれば、見つけさせる気がないだろうというところに模様が刻まれていることもあった。アーサーはもちろん、S級冒険者も楽しんでいたのか、時に「こんなとこ、分かるわけねえだろ!」と怒鳴り、時に見つけられたことが嬉しくてはしゃいでいた。

小一時間経った時、最後のひとつをアーサーが伝えに行く。

「マデリア! 右側の下から二番目は、ダリアだよ!」

「おつかれさま。じゃ、埋めてみましょうか」

ジルが「頼む、合っててよね」と呟く中、マデリアは最後の石に杖をかざす。

左の一番上から、百合、ダリア、薔薇、ビオラ、百合。
右の一番上から、百合、ビオラ、ダリア、百合、薔薇。

それぞれの花の模様が黒石に浮かび上がり……消えた。

「え」

「模様が消えちゃった……。もしかして間違ってたのかなあ……?」

アーサーががっかりして肩を落としたが、次の瞬間、パッと黒石がまばゆい光を放った。

「!」

光がおさまると、黒石は、花の模様が焼き刻まれた白い石になっていた。

「合ってたみたいだね。これでこの謎はクリア」

「やったー!!」

「じゃあ、あとはこの水晶に魔法をぶち込むだけの作業に入ろう。アーサー、ここに魔法使いを集めて」
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