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決戦編:カトリナ
炎の中の輝き※※
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※注意※
※この話はかなりショッキングな描写があります※
※15歳未満の方、グロが苦手な方は、飛ばしてください※
---------------------------------
「え……」
バーンスタイン家に戻ったサンプソンは、ドアが開け放たれた自室に立ちすくんだ。
真っ暗な部屋に灯りをともす。部屋の中には、誰もいない。
「マデリア……?」
サンプソンはあたりを見回した。押し倒された家具。割れた窓。
「ムル……?」
割れたグラスに、床に落ちた食料。
そして、血痕。
「っ……」
血の気の引いた顔でサンプソンが走り出す。向かう先はもちろん、地下の隠し部屋。
「あぁぁぁぁぁっ!! あぁぁっ、あぁぁぁぁ!!」
「ケヘヘヘヘ!! どうだい魔物の眼球はぁ! よく見えるだろう!? 人間の目じゃあ見えないものもしっかりとぉぉっ! ケヘッ! ケヘヘェ!!」
前にも見た光景が、またサンプソンの目の前に広がっていた。
鎖に繋がれたマデリアに魔術師が覆いかぶさっている。
床には魔物とマデリアの血、そして――
息絶えた、ムルが横たわっていた。
「う……うわぁあぁぁぁぁ!!!!!」
サンプソンは絶叫し、魔術師に襲い掛かった。
「なんだい、まぁたあんたかい! 全く! あんたのせいで最高の素材は奪われるし、次の素材も奪われるしで散々だったよ!! でもまあ、家を空けてくれたおかげでこうして実験ができたけどねえ! ケヘヘヘヘ!!」
「マデリアに何をしたああああ! ムルに……ムルになにをしたんだああああ!!」
「んん? 見たら分かるだろうさ。この床に寝っ転がってるのには、ドラゴンの足にしてやろうと思って足を切り落としたんだよお。そしたら痛みで死んじまった。この素材はハズレだったよぉ」
残念残念、と魔術師はため息を吐いたが、すぐにおぞましい笑顔になった。
「それでこっちには、目玉をほじくりだして魔物の眼球に取り換えてやったのさあ。やっぱりこの素材はいいねえ。目玉をほじくりだしても、顔の皮を剥いでも、元気に可愛い叫び声を聞かせてくれるんだよぉ」
「やめろぉぉぉ!! 今すぐ! 今すぐマデリアとムルを返せぇぇぇ!!」
「んもう全く。これでタイムリミットかい。それなら、こんなダメ素材に時間とってないでこっちの素材をいじくりまわせば良かったよぉ……」
魔術師は手をひらひらと振り、奥の部屋に歩いて行った。
サンプソンは泣き叫びながらマデリアとムルを抱え、自室に戻る。
「ごめん……ごめん……! あああ……どうしよう、どうしたら……!」
「サン……プソン……」
「マデリア……! ごめん……ごめん……!」
「落ち……着いて……。私は……大丈夫……。杖、を……」
マデリアが杖を振ると、ムルの切断された足に徐々に肉が巻いていく。
「マデリア……?」
「回復魔法……もっと練習しておけばよかった……私じゃ……血を止めるので精一杯……。サンプソン……ポーションは持っていない……?」
「……」
「ポーション飲んだら……ムル……元気になるよね……?」
「マデリア……ムルは……」
「わ、私の足を、ムルにあげるから……。そ、そうだ。あの魔術師に頼もう……そしたら、綺麗にくっつけてくれるだろうし……」
「マデリア、聞いて。ムルはね……」
「血が足りない? だったら私の血を……。大丈夫、私って何されても死なないみたいだから、いっぱい血を抜かれたって大丈夫なの……。だから、ムルに血を……」
サンプソンは唇を噛み、マデリアの杖をムルではなく彼女自身に向けさせる。
「サンプソン、ちょっとやめて。今ムルを治してるんだから……」
「マデリア。先に君自身を治そう……。君だって、顔半分が血だらけだし、目なんて……」
「私はいいの。先にムルを……」
「ム、ムルはもう大丈夫だから。僕がポーションを飲ませておくから。そしたら元気になるよ。だから、君は自分で治してくれるかな……」
「……分かった」
自身に回復魔法をかけるマデリアは、体力と魔力の限界を迎え、いつしか気を失っていた。
翌朝目を覚ました彼女は、サンプソンに抱きしめられているムルが息をしていないことに気付き、嘘つきと彼を罵った。
そして二人はムルの亡骸に顔をうずめ、涙が枯れるまで彼の死を悼んだ。
「さっきはごめんなさい」
「……なにがだい?」
「本当は知っていたの。元からムルが死んでいたこと」
「……うん」
「それなのに、嘘つきなんていってごめんなさい」
「嘘をついたことに変わりはないよ」
サンプソンはゆっくりと立ち上がり、暖炉の前でポケットに手を差し込んだ。
取り出したのは、カトリナに渡すはずだった婚約指輪。
彼はそれを両手で包み込み、唇を添える。
「カトリナ……。愛しているよ。ずっと」
でも、さようなら。
炎の中でも、ダイアモンドはキラキラと輝いていた。
「君よりも……守らなきゃいけないものが、できてしまった」
※注意※
※この話はかなりショッキングな描写があります※
※15歳未満の方、グロが苦手な方は、飛ばしてください※
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「え……」
バーンスタイン家に戻ったサンプソンは、ドアが開け放たれた自室に立ちすくんだ。
真っ暗な部屋に灯りをともす。部屋の中には、誰もいない。
「マデリア……?」
サンプソンはあたりを見回した。押し倒された家具。割れた窓。
「ムル……?」
割れたグラスに、床に落ちた食料。
そして、血痕。
「っ……」
血の気の引いた顔でサンプソンが走り出す。向かう先はもちろん、地下の隠し部屋。
「あぁぁぁぁぁっ!! あぁぁっ、あぁぁぁぁ!!」
「ケヘヘヘヘ!! どうだい魔物の眼球はぁ! よく見えるだろう!? 人間の目じゃあ見えないものもしっかりとぉぉっ! ケヘッ! ケヘヘェ!!」
前にも見た光景が、またサンプソンの目の前に広がっていた。
鎖に繋がれたマデリアに魔術師が覆いかぶさっている。
床には魔物とマデリアの血、そして――
息絶えた、ムルが横たわっていた。
「う……うわぁあぁぁぁぁ!!!!!」
サンプソンは絶叫し、魔術師に襲い掛かった。
「なんだい、まぁたあんたかい! 全く! あんたのせいで最高の素材は奪われるし、次の素材も奪われるしで散々だったよ!! でもまあ、家を空けてくれたおかげでこうして実験ができたけどねえ! ケヘヘヘヘ!!」
「マデリアに何をしたああああ! ムルに……ムルになにをしたんだああああ!!」
「んん? 見たら分かるだろうさ。この床に寝っ転がってるのには、ドラゴンの足にしてやろうと思って足を切り落としたんだよお。そしたら痛みで死んじまった。この素材はハズレだったよぉ」
残念残念、と魔術師はため息を吐いたが、すぐにおぞましい笑顔になった。
「それでこっちには、目玉をほじくりだして魔物の眼球に取り換えてやったのさあ。やっぱりこの素材はいいねえ。目玉をほじくりだしても、顔の皮を剥いでも、元気に可愛い叫び声を聞かせてくれるんだよぉ」
「やめろぉぉぉ!! 今すぐ! 今すぐマデリアとムルを返せぇぇぇ!!」
「んもう全く。これでタイムリミットかい。それなら、こんなダメ素材に時間とってないでこっちの素材をいじくりまわせば良かったよぉ……」
魔術師は手をひらひらと振り、奥の部屋に歩いて行った。
サンプソンは泣き叫びながらマデリアとムルを抱え、自室に戻る。
「ごめん……ごめん……! あああ……どうしよう、どうしたら……!」
「サン……プソン……」
「マデリア……! ごめん……ごめん……!」
「落ち……着いて……。私は……大丈夫……。杖、を……」
マデリアが杖を振ると、ムルの切断された足に徐々に肉が巻いていく。
「マデリア……?」
「回復魔法……もっと練習しておけばよかった……私じゃ……血を止めるので精一杯……。サンプソン……ポーションは持っていない……?」
「……」
「ポーション飲んだら……ムル……元気になるよね……?」
「マデリア……ムルは……」
「わ、私の足を、ムルにあげるから……。そ、そうだ。あの魔術師に頼もう……そしたら、綺麗にくっつけてくれるだろうし……」
「マデリア、聞いて。ムルはね……」
「血が足りない? だったら私の血を……。大丈夫、私って何されても死なないみたいだから、いっぱい血を抜かれたって大丈夫なの……。だから、ムルに血を……」
サンプソンは唇を噛み、マデリアの杖をムルではなく彼女自身に向けさせる。
「サンプソン、ちょっとやめて。今ムルを治してるんだから……」
「マデリア。先に君自身を治そう……。君だって、顔半分が血だらけだし、目なんて……」
「私はいいの。先にムルを……」
「ム、ムルはもう大丈夫だから。僕がポーションを飲ませておくから。そしたら元気になるよ。だから、君は自分で治してくれるかな……」
「……分かった」
自身に回復魔法をかけるマデリアは、体力と魔力の限界を迎え、いつしか気を失っていた。
翌朝目を覚ました彼女は、サンプソンに抱きしめられているムルが息をしていないことに気付き、嘘つきと彼を罵った。
そして二人はムルの亡骸に顔をうずめ、涙が枯れるまで彼の死を悼んだ。
「さっきはごめんなさい」
「……なにがだい?」
「本当は知っていたの。元からムルが死んでいたこと」
「……うん」
「それなのに、嘘つきなんていってごめんなさい」
「嘘をついたことに変わりはないよ」
サンプソンはゆっくりと立ち上がり、暖炉の前でポケットに手を差し込んだ。
取り出したのは、カトリナに渡すはずだった婚約指輪。
彼はそれを両手で包み込み、唇を添える。
「カトリナ……。愛しているよ。ずっと」
でも、さようなら。
炎の中でも、ダイアモンドはキラキラと輝いていた。
「君よりも……守らなきゃいけないものが、できてしまった」
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