629 / 718
決戦編:カトリナ
殺したがりのジルくん
しおりを挟む
「そういえば、昨晩あのあと、ジルが僕を暗殺しに来たよ」
「えっ!?」
「大丈夫。あの子はまだ僕より弱いから、縄で縛ってカミーユに返したよ」
「まあ……ごめんなさい……」
「ふふ。彼、本当に君のことが大切なんだね」
「私のことを親鳥だと思っているだけよ」
「それはどうかな」
「それ以上は言わないであげて。あの子は必死に隠そうとしているんだから」
「そうか。……カトリナは、ジルには気がないの?」
サンプソンの質問に、カトリナはジトッとした目をして彼を睨んだ。
「まあ。そんなことを聞くの?」
「ごめんごめん」
「……ジルは、私の一番守りたい人よ」
「大切なんだね」
「ええ。ある意味あなたよりも大切よ。私、あなたには守られたいもの」
「母性というやつかな。なら、僕はジルには敵わないね」
「ええ。あなたは逆立ちしたってジルには勝てないわ」
クスクスと笑い合ったあと、サンプソンがカトリナの鼻を突く。
「ごめん。少し嘘をついた」
「え?」
「昨晩あのあと、ジルが僕のところに来たのは、暗殺のためじゃないんだ」
「まあ。なんてひどい嘘なの」
「まあ最後まで聞いて。それでね、ジルはなんて言ったと思う?」
「想像がつかないわねェ……」
「『明日にでもカトリナと結婚しろ』って言われた」
「はぁ……ジルったら……」
「僕は断ったんだ。だって、僕は君に結婚を申し込めるような立場じゃないしね」
「……」
「だから僕はジルに『カトリナのことを頼んだよ』って言ったんだ」
「そしたら?」
「殺されそうになった」
「なるほどね」
「ずいぶんと罵られたよ。意気地なしとか、罪を償えとか、なんとかかんとか。彼、あんな大声出せるんだね」
「……ごめんなさいねェ……」
「ううん。彼のおかげで決心がついたんだ。だから今こうして君と話している。だから彼に感謝してるよ」
「そう……」
「フラれちゃったけどね」
はは、とサンプソンは笑い、立ち上がった。
「さて、帰ろうかカトリナ」
「ええ」
「明日から僕たちは、ただのS級冒険者仲間だよ」
「……ええ」
「でも、ピンチになったらいつでも呼んでね。僕が君を守るよ」
「ありがとう」
「そして君は、ジルを守ってあげて」
「もちろんよ」
サンプソンは歩き出したカトリナの腕を引き、立ち止まらせる。そして彼女の唇にちゅ、とキスをした。
顔を真っ赤にしているカトリナの頭を撫で、サンプソンが目尻を下げる。
「君を忘れる努力はしないよ。君に僕を忘れさせる努力もしない。むしろ忘れさせない努力をする」
「まあ。なんて意地悪な人なの」
「君を忘れるためにしていた女遊びはやめないよ。でもこれからは君を忘れるためじゃなくて、君にヤキモチを妬かせるためにするからね」
「ひどい人ねェ……」
「いやなら僕と結婚するんだね」
「子どもみたいな人だわァ」
宣言通り、サンプソンは、北部で〝彼に口説かれて惚れなかった女性はいない〟という噂が広まるほど、持ち前の色気を使ってたくさんの女性と遊び倒した。
その上カトリナの前でもこれ見よがしに他の女性を口説くようになり、カトリナは青筋を立てつつ必死に冷静を保っていたそうだ。その度にジルはこっそり夜中にサンプソンの寝ている部屋に忍び込み、暗殺を試みていた。
実は、双子の特訓合宿の時や、今回のアジトの生活でサンプソンがシャナと一緒に寝たいと言った時も、双子がぐっすり眠っている夜中に、サンプソンとジルは壮絶な戦いを繰り広げていた。
「他の女性にうつつを抜かしてないで、さっさとカトリナと結婚すれば」
「バカだなあジル。僕は誰のものにもならないよ。だってこんなに色男なんだから」
「じゃあさっさと死んで」
「うーん、君は僕のことが大嫌いなんだねえ」
「大嫌いとかそんなレベルじゃない。一番殺したい人ランキング一位だよおめでとう」
「ありがとう。でもジル、君の抱いている感情はね、憎悪じゃなくて嫉妬だよ」
「自分の感情に興味がないからどうでもいい。カトリナを苦しめないでよ」
「……僕だって、彼女と幸せになりたいよ」
「なに。声が小さすぎて聞こえない」
「なんでもないよ。仕方ないなあ。そんなにやり合いたいなら早くするよ」
いつしかサンプソンは、ジルのことを弟のように可愛く思っていた。大好きな姉を取られそうになりヤキモチをやいているように見えて、思わずニヤニヤしてしまう。
「カトリナと結ばれないのは残念だけど、今のこの関係性も楽しいから悪くないかもね」
「なに。声が小さいんだよ君」
「君のことが可愛くて仕方ないって言ったんだよ」
「は? なにそれ。うざい。きもい。殺す」
「はいはい。かかっておいで」
「いつまで子ども扱いするの。むかつく」
そしてしばらくしたら、半殺しにされたどちらかを、カトリナとマデリアが回収しにくるのだった。
「えっ!?」
「大丈夫。あの子はまだ僕より弱いから、縄で縛ってカミーユに返したよ」
「まあ……ごめんなさい……」
「ふふ。彼、本当に君のことが大切なんだね」
「私のことを親鳥だと思っているだけよ」
「それはどうかな」
「それ以上は言わないであげて。あの子は必死に隠そうとしているんだから」
「そうか。……カトリナは、ジルには気がないの?」
サンプソンの質問に、カトリナはジトッとした目をして彼を睨んだ。
「まあ。そんなことを聞くの?」
「ごめんごめん」
「……ジルは、私の一番守りたい人よ」
「大切なんだね」
「ええ。ある意味あなたよりも大切よ。私、あなたには守られたいもの」
「母性というやつかな。なら、僕はジルには敵わないね」
「ええ。あなたは逆立ちしたってジルには勝てないわ」
クスクスと笑い合ったあと、サンプソンがカトリナの鼻を突く。
「ごめん。少し嘘をついた」
「え?」
「昨晩あのあと、ジルが僕のところに来たのは、暗殺のためじゃないんだ」
「まあ。なんてひどい嘘なの」
「まあ最後まで聞いて。それでね、ジルはなんて言ったと思う?」
「想像がつかないわねェ……」
「『明日にでもカトリナと結婚しろ』って言われた」
「はぁ……ジルったら……」
「僕は断ったんだ。だって、僕は君に結婚を申し込めるような立場じゃないしね」
「……」
「だから僕はジルに『カトリナのことを頼んだよ』って言ったんだ」
「そしたら?」
「殺されそうになった」
「なるほどね」
「ずいぶんと罵られたよ。意気地なしとか、罪を償えとか、なんとかかんとか。彼、あんな大声出せるんだね」
「……ごめんなさいねェ……」
「ううん。彼のおかげで決心がついたんだ。だから今こうして君と話している。だから彼に感謝してるよ」
「そう……」
「フラれちゃったけどね」
はは、とサンプソンは笑い、立ち上がった。
「さて、帰ろうかカトリナ」
「ええ」
「明日から僕たちは、ただのS級冒険者仲間だよ」
「……ええ」
「でも、ピンチになったらいつでも呼んでね。僕が君を守るよ」
「ありがとう」
「そして君は、ジルを守ってあげて」
「もちろんよ」
サンプソンは歩き出したカトリナの腕を引き、立ち止まらせる。そして彼女の唇にちゅ、とキスをした。
顔を真っ赤にしているカトリナの頭を撫で、サンプソンが目尻を下げる。
「君を忘れる努力はしないよ。君に僕を忘れさせる努力もしない。むしろ忘れさせない努力をする」
「まあ。なんて意地悪な人なの」
「君を忘れるためにしていた女遊びはやめないよ。でもこれからは君を忘れるためじゃなくて、君にヤキモチを妬かせるためにするからね」
「ひどい人ねェ……」
「いやなら僕と結婚するんだね」
「子どもみたいな人だわァ」
宣言通り、サンプソンは、北部で〝彼に口説かれて惚れなかった女性はいない〟という噂が広まるほど、持ち前の色気を使ってたくさんの女性と遊び倒した。
その上カトリナの前でもこれ見よがしに他の女性を口説くようになり、カトリナは青筋を立てつつ必死に冷静を保っていたそうだ。その度にジルはこっそり夜中にサンプソンの寝ている部屋に忍び込み、暗殺を試みていた。
実は、双子の特訓合宿の時や、今回のアジトの生活でサンプソンがシャナと一緒に寝たいと言った時も、双子がぐっすり眠っている夜中に、サンプソンとジルは壮絶な戦いを繰り広げていた。
「他の女性にうつつを抜かしてないで、さっさとカトリナと結婚すれば」
「バカだなあジル。僕は誰のものにもならないよ。だってこんなに色男なんだから」
「じゃあさっさと死んで」
「うーん、君は僕のことが大嫌いなんだねえ」
「大嫌いとかそんなレベルじゃない。一番殺したい人ランキング一位だよおめでとう」
「ありがとう。でもジル、君の抱いている感情はね、憎悪じゃなくて嫉妬だよ」
「自分の感情に興味がないからどうでもいい。カトリナを苦しめないでよ」
「……僕だって、彼女と幸せになりたいよ」
「なに。声が小さすぎて聞こえない」
「なんでもないよ。仕方ないなあ。そんなにやり合いたいなら早くするよ」
いつしかサンプソンは、ジルのことを弟のように可愛く思っていた。大好きな姉を取られそうになりヤキモチをやいているように見えて、思わずニヤニヤしてしまう。
「カトリナと結ばれないのは残念だけど、今のこの関係性も楽しいから悪くないかもね」
「なに。声が小さいんだよ君」
「君のことが可愛くて仕方ないって言ったんだよ」
「は? なにそれ。うざい。きもい。殺す」
「はいはい。かかっておいで」
「いつまで子ども扱いするの。むかつく」
そしてしばらくしたら、半殺しにされたどちらかを、カトリナとマデリアが回収しにくるのだった。
14
お気に入りに追加
4,340
あなたにおすすめの小説
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?
mio
ファンタジー
特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。
神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。
そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。
日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。
神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?
他サイトでも投稿しております。
伯爵家の次男に転生しましたが、10歳で当主になってしまいました
竹桜
ファンタジー
自動運転の試験車両に轢かれて、死んでしまった主人公は異世界のランガン伯爵家の次男に転生した。
転生後の生活は順調そのものだった。
だが、プライドだけ高い兄が愚かな行為をしてしまった。
その結果、主人公の両親は当主の座を追われ、主人公が10歳で当主になってしまった。
これは10歳で当主になってしまった者の物語だ。
いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!
町島航太
ファンタジー
ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。
ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
前世ポイントッ! ~転生して楽しく異世界生活~
霜月雹花
ファンタジー
17歳の夏、俺は強盗を捕まえようとして死んだ――そして、俺は神様と名乗った爺さんと話をしていた。話を聞けばどうやら強盗を捕まえた事で未来を改変し、転生に必要な【善行ポイント】と言う物が人より多く貰えて異世界に転生出来るらしい。多く貰った【善行ポイント】で転生時の能力も選び放題、莫大なポイントを使いチート化した俺は異世界で生きていく。
なろうでも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。