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北部編:決断

叔従父

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「……反、乱……」

「カミーユたちが……?」

「そうだ。俺らも、クルドたちも、ベニートたちもだ。俺とクルドは残りのS級にも声をかけるつもりだ」

「もちろん、その他大勢の冒険者にもな」

「……」

アーサーとモニカは周りを見回した。彼らだけではない、他のメンバーも、やる気満々といった様子だ。

「ずっとぶっ飛ばしたいと思ってたんだ!! 気に食わねえことばっかしやがって!!」

と、リアーナ。

「アーサーとモニカにひどいことをした国王と王妃が許せないとずっと思ってた。やっとカミーユがゴーサインを出してくれて嬉しい」

と、ジル。

「俺たちが動けば、国を変えたいと思ってる庶民も動くと思うぜ。まずは俺たちが動かねえとな」

と、ブルギー。

「俺たちで力になれるか分からないけど、乗るよ。力になりたい」

と、ベニート。

置いてけぼりなのは、アーサーとモニカだけだ。
二人の目には、決意に燃える彼らの瞳が恐ろしく感じた。

「……」

「……」

S級冒険者たちが盛り上がっている中、双子との温度差に気付いたカミーユが眉をハの字に下げる。

「アーサー、モニカ。乗り気じゃないのか」

「……」

「……そうだよな。お前らにとっちゃ、家族を殺されるっつーことなんだからな。俺らはお前の身内に刃を向けるやつらだ。そんな目で見られたって、文句は言えねえ」

「……ごめん、そんなつもりじゃなかったんだ……。僕たち、そんな目をしてた?」

「……まあな」

シン、と場が静まり返る。S級冒険者たちは、気まずそうに視線を送り合っている。
カミーユは双子の前にしゃがみ、二人の顔をじっと見た。

「お前らは、どうしたい?」

「……」

「言ってくれねえと分かんねえんだ。頼む」

すると、モニカがボソボソと小さな声で話し始めた。

「……わたしはね、正直に言うよ」

「おう」

「民を苦しめる王族は許せない。国王と王妃よりも、庶民が大切。お父さまとお母さまだけが相手だったら、わたしは反乱に乗り気だったわ」

「そうか」

「でも……ごめんなさい。弟妹よりも庶民の方が大切だって、言えない……。ごめんなさい……」

そう言って項垂れるモニカの頭を、カミーユは優しく撫でた。

「そうか。ありがとな、モニカ。……アーサーは?」

「僕、は……。僕も、モニカと同じ。確かにヴィクスは取り返しのつかないことをしてると思う。ジュリアも、ウィルクも……。でも、僕は知ってるんだ。ヴィクスは分からないけど……ジュリアとウィルクは、大人になったらきっと良い政治をしてくれると思うんだ。特にジュリアは、この国に必要な人だと思う。……処刑したくない。それに……」

「それに?」

「……僕は統治者になりたくない」

「……」

「ポントワーブで、モニカと二人で、自由気ままに暮らしたい……」

「それがお前の正直な気持ちなんだな」

「うん……」

カミーユは立ち上がり、双子の肩をがっしり掴んだ。

「正直に気持ちを伝えてくれて、ありがとな」

「「……」」

「つまりお前らは、反乱を起こすこと自体に反対はしてねえってことだ。心配しているのは、ヴィクス王子、ジュリア王女、ウィルク王子の行く末。そうだな?」

「「うん……」」

「そんでアーサーは、統治者になりたくねえ。そうだな?」

「うん……」

「悪いが、全部の言うことは聞けねえ。どれかは折れてもらわねえと、前に進めねえ」

「……」

「アーサー」

名前を呼ばれ、おそるそる顔を上げたアーサーとカミーユの目がぴったり合わさった。

「弟妹が処刑されることと、お前が統治者になること。どっちが嫌だ?」

「え……」

「悪いが、俺らも決心した以上、これ以上ボロボロの国を放っておこうとは思えねえ。俺たちは反乱を起こす。お前が統治者になりたくねえっつーなら、ヴィクス王子にとっては半分以上望まねえ未来になっちまうが、王制を潰したあとは、サンプソンにでも統治者になってもらう」

「ちょっと待ってよカミーユ。それは聞いてないんだけど?」

思わずサンプソンが口を挟んだので、カミーユはめんどくさそうに相手をした。

「ああ? お前が適任に決まってるだろ。お前にはほどよく王族の血が流れてんだから」

「「え!?」」

驚く双子にサンプソンはサッと顔を背けたが、構わずカミーユが訳を話す。

「アーサー、モニカ。サンプソンは前国王の弟の子ども、つまりお前らの叔従父だ」

「「ええーーーーー!?」」

「こいつもカトリナ同様、元は貴族……それも国王の次に偉い〝大公〟の末っ子だ」

「「……」」

アーサーとモニカは口をあんぐり開けてサンプソンを見た。
サンプソンは、突然身元を明かされて動揺しているようで、頭を掻きながらカミーユを睨む。

「~~……。だからって、僕が統治者になるなんて……」

「いいや、一番相応だろうが」

「そんなわけないじゃないか。僕はもう王族と縁を切っているんだよ。父となんて、もう何十年も会っていない」

「だからこそいいんじゃねえか」

「はあ……」

沈んだ表情のサンプソンとアーサーを交互に見て、カミーユは年寄りの文句のように、ぐちぐちと二人を責める。

「全く。なんなんだ今時の若い王族は。普通、統治者になれるっつったら手を叩いて喜ぶんじゃねえのか? 今の国王なんて、王位にしがみつきたい一心でアーサーとモニカを殺そうとしてんだからよ。歴代の国王だって、兄弟間での殺し合いなんてザラだって……」

「だから王族と縁を切ったんだよ。くだらないことで身内で殺し合い、罪のない子どもたちの体を痛めつけて笑うような、自分の欲望に最も従順な人間の集まりの中にいたくなくてね。彼らとソリが合わないからこうして冒険者になって、彼らのやっていることに逆らった行動をしているんじゃないか」

「僕は弟たちの命の方がよっぽど大切。殺し合いなんて考えられないよ、カミーユ」

「……そうだったな。悪い。腐った王族とお前らを一緒にした俺が悪かった」

謝りはしたものの、カミーユは相当参っているようだった。
二人がこの調子では、一向に話が進まない。

「助けてくれー……」

カミーユのか細い救援に応えたのは、カトリナだった。
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