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北部編:近衛兵と過ごす時間
ジュリアからのインコ
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真夜中に、ヴィクスの元にジュリアからのインコが届いた。
手紙を読み終えた頃には、窓の外が晴れた夜空から吹雪に変わっていた。
「ジュリア……。なんて愚かなことをしてくれたんだろう」
そう呟き、ため息をついたヴィクスは口元をわずかに緩める。
「いや、愚かなことをしていたのは僕の方か。彼らを知っている子どもたちがそばにいるからと言って、浮かれてくだらない話を聞いて楽しんでいたのだから」
彼は手紙を握りつぶし、暖炉に投げ捨てる。
「彼らと日々を過ごすうちに、いつしか毎日が楽しいと思えるようになってしまっていた。何をしているんだろう。何を楽しんでいたんだろう。危ない。自分の役割を見失うところだった」
そして、ベッドに寝転ぶ。
「……楽しかったな。この一カ月」
◇◇◇
ーー一カ月後。
朝、起床したヴィクスはベッドの中で紅茶を飲みながら尋ねた。
「クラリッサは、魔法と武術ができるんだよね」
「はい。未熟ですが」
「実は僕も魔法と剣術の両刀だったんだ。今はもう、あまり剣は振るえないけど」
(そうでしょうね。そのやつれからして、剣が振れるとは思えないわ)
「……君はいいね」
「え?」
「媚びへつらわないその態度。怯えてもいないようだし」
クラリッサは冷や汗を垂らした。
(私の態度が気に食わなかったのかしら。苦手なのよ、ヘラヘラヘコヘコするのは……)
クラリッサの体に力が入ったことに気付き、ヴィクスは微笑を浮かべる。
「警戒しなくて大丈夫だよ。そのままの意味で言った。それに、君は与えられた仕事をそつなくこなし、僕に過剰に干渉しようとしない。僕はその方が落ち着くんだ」
「……」
「まだ警戒しているね。……まあ、仕方がないか」
「……」
「君にはもうすでに何人もの罪のない臣下を処刑させているしね」
「……」
クラリッサの指にピクッと力が入った。
一カ月前、彼女はヴィクスに命じられ臣下を処刑した。彼女にとって人を殺したのはそれが初めてだった。その初めての事を、この一カ月で何度も経験した。
今では躊躇いなく人を殺せるようになった。……なってしまった。
心が痛まないわけはない。眠りに落ちると、いつも殺した人たちの夢を見る。
だが、それにももう慣れてしまった。
「僕の近衛兵になったことを、後悔しているかい?」
「……いえ」
「本当は?」
「していません」
「へえ」
ヴィクスは鈴を鳴らした。すぐに従者の女性が寝室にやってくる。跪いた女性を指さし、ヴィクスは言った。
「クラリッサ。彼女を殺して」
「え……」
「え!?」
従者が体をビクつかせ大声を上げたが、ヴィクスは構わず同じことを繰り返す。
「クラリッサ。彼女を殺して」
「……」
クラリッサは小さくため息を吐き、罪のない従者の首を風魔法で切り落とした。
血にまみれた寝室。
死体の前で立つクラリッサを眺めるヴィクス。
「もう一度聞くよ。クラリッサ、僕の近衛兵になったことを、後悔しているかい?」
「いいえ」
「……そう」
ヴィクスは、虚ろな目で応えるクラリッサに微笑みかけた。
彼はここ最近、このようなことをよくさせる。
ダフも、シリルも、ライラも、同じことをさせられている。
(今では、立派な人殺しの集団だわ)
クラリッサは目を閉じた。
一カ月前からヴィクス王子は変わってしまった。
それまでは、同年代の子どもの話に興味津々の男の子という一面も持っていたはずなのに。
今ではそんな可愛い一面なんてひとつも見せない。
見せるのは、悪政を働き、意味もなく人を殺させるところだけ。
(何をしているのかしら。私たちは)
焦燥に駆られる。
(私はこんな、従者の女性を殺すために魔法と武術を磨いてきたんじゃないのに)
手紙を読み終えた頃には、窓の外が晴れた夜空から吹雪に変わっていた。
「ジュリア……。なんて愚かなことをしてくれたんだろう」
そう呟き、ため息をついたヴィクスは口元をわずかに緩める。
「いや、愚かなことをしていたのは僕の方か。彼らを知っている子どもたちがそばにいるからと言って、浮かれてくだらない話を聞いて楽しんでいたのだから」
彼は手紙を握りつぶし、暖炉に投げ捨てる。
「彼らと日々を過ごすうちに、いつしか毎日が楽しいと思えるようになってしまっていた。何をしているんだろう。何を楽しんでいたんだろう。危ない。自分の役割を見失うところだった」
そして、ベッドに寝転ぶ。
「……楽しかったな。この一カ月」
◇◇◇
ーー一カ月後。
朝、起床したヴィクスはベッドの中で紅茶を飲みながら尋ねた。
「クラリッサは、魔法と武術ができるんだよね」
「はい。未熟ですが」
「実は僕も魔法と剣術の両刀だったんだ。今はもう、あまり剣は振るえないけど」
(そうでしょうね。そのやつれからして、剣が振れるとは思えないわ)
「……君はいいね」
「え?」
「媚びへつらわないその態度。怯えてもいないようだし」
クラリッサは冷や汗を垂らした。
(私の態度が気に食わなかったのかしら。苦手なのよ、ヘラヘラヘコヘコするのは……)
クラリッサの体に力が入ったことに気付き、ヴィクスは微笑を浮かべる。
「警戒しなくて大丈夫だよ。そのままの意味で言った。それに、君は与えられた仕事をそつなくこなし、僕に過剰に干渉しようとしない。僕はその方が落ち着くんだ」
「……」
「まだ警戒しているね。……まあ、仕方がないか」
「……」
「君にはもうすでに何人もの罪のない臣下を処刑させているしね」
「……」
クラリッサの指にピクッと力が入った。
一カ月前、彼女はヴィクスに命じられ臣下を処刑した。彼女にとって人を殺したのはそれが初めてだった。その初めての事を、この一カ月で何度も経験した。
今では躊躇いなく人を殺せるようになった。……なってしまった。
心が痛まないわけはない。眠りに落ちると、いつも殺した人たちの夢を見る。
だが、それにももう慣れてしまった。
「僕の近衛兵になったことを、後悔しているかい?」
「……いえ」
「本当は?」
「していません」
「へえ」
ヴィクスは鈴を鳴らした。すぐに従者の女性が寝室にやってくる。跪いた女性を指さし、ヴィクスは言った。
「クラリッサ。彼女を殺して」
「え……」
「え!?」
従者が体をビクつかせ大声を上げたが、ヴィクスは構わず同じことを繰り返す。
「クラリッサ。彼女を殺して」
「……」
クラリッサは小さくため息を吐き、罪のない従者の首を風魔法で切り落とした。
血にまみれた寝室。
死体の前で立つクラリッサを眺めるヴィクス。
「もう一度聞くよ。クラリッサ、僕の近衛兵になったことを、後悔しているかい?」
「いいえ」
「……そう」
ヴィクスは、虚ろな目で応えるクラリッサに微笑みかけた。
彼はここ最近、このようなことをよくさせる。
ダフも、シリルも、ライラも、同じことをさせられている。
(今では、立派な人殺しの集団だわ)
クラリッサは目を閉じた。
一カ月前からヴィクス王子は変わってしまった。
それまでは、同年代の子どもの話に興味津々の男の子という一面も持っていたはずなのに。
今ではそんな可愛い一面なんてひとつも見せない。
見せるのは、悪政を働き、意味もなく人を殺させるところだけ。
(何をしているのかしら。私たちは)
焦燥に駆られる。
(私はこんな、従者の女性を殺すために魔法と武術を磨いてきたんじゃないのに)
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