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北部編:近衛兵と過ごす時間
ヴィクスとシリル
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夜、シリルはヴィクスに寝室に呼ばれ、寝るまでの暇つぶしに話を聞かせてほしいと命じられた。
王子と二人っきりになったのは初めての事で、シリルはカタカタ震えながら、ベッドで寝転ぶヴィクスの隣に立つ。
「シリル。君は学院で、どのようなことをして過ごしていたんだい?」
「は、はい。主に剣術の訓練に励んでいました」
「訓練以外には?」
「そうですね……。図書室で、よく読書をしていました」
「読書。いいね。僕も読書は好きだよ。本を読んでいると、現実を忘れ、自分だけの世界に浸れる」
「はい……」
シリルは同意しつつも、何かを思い出して苦笑いを浮かべた。
「おや? そんなこともなかったのかな」
「いえ。基本的にそうでした。ですが……よく、図書室で友人に話しかけられていたことを思い出して」
「そうなんだ。読書をしているのに、少し迷惑だね」
「そんなこともなかったです。楽しかったですよ」
その時のことに思いを馳せ、ふんわりと微笑を浮かべるシリル。
ヴィクスもつられて微笑んでいた。
「よければ、その友人の話を聞かせてくれるかい?」
「は、はい」
シリルは、ヴィクスが学院での友人についての話を楽しそうに聞いていたということを、ライラとクラリッサから前もって聞いていた。
(わざわざ呼び出して聞くなんて、よっぽど興味があるんだ。そうだよね、今まで同年代の友人なんて、できたことないだろうし。ふふ、そう考えると殿下も少し可愛く思えるなあ)
「僕は放課後に図書室でいることが多かったんです。兵法を読むこともあれば、物語を読むこともありました。でも決まっていつも続きが気になるところで、あの子はやって来るんです」
「名前は?」
「モニカという女の子です」
〝モニカ〟の名前を出すと、ヴィクスの微笑が顔全体に広がり、続きを催促した。
「彼女はいつも〝何読んでるの?〟と言って、隣の席に腰かけます。それで、しばらくは読んでいる本の話の内容を僕が説明して、彼女が聞いてくれていました。でもいつの間にかモニカの世間話になっていて、僕はいつも楽しく聞いていました」
「そうなんだ。彼女はどんな世間話をするんだい?」
「いろいろです。でもほとんどは、お兄さんの話が多かったような気がします」
「モニカはお兄さんのことが大好きなんだね」
「はい。それは学院中の周知の事実でした。あの二人はいつもぴったりくっついていましたし。それに、モニカはヤキモチやきだったので、アーサーのことを好きになった女の子にずっと威嚇をしていました」
「あはは。それはお兄さんも大変だ」
「いいえ。アーサーも同じくらい、モニカのことが好きなので、同じようなものでしたよ」
「そっか。……ということは、モニカもモテていたのかな?」
「はい。彼女は容姿もよかったですし、明るくて優しい子だったので。彼女のことを好きな男の子はたくさんいました」
「……もしかして君も、そのひとり?」
「……」
シリルがぽっと頬を赤らめたと同時に、寝室の温度がガクンと下がった。
「!?」
ゾッとしてヴィクスを見ると、彼の目は臣下を処刑するときに見せるときと同じくらい冷たかった。
(えーーーーー!? 僕何か気に障ること言っちゃった!? これ殺されるやつだ!! どうしてーーーーー!!)
ヴィクスが起き上がったので、シリルはビクリと体を硬直させた。
「告白なんてしていないよね?」
「……は、はい」
「本当は?」
「……しました……」
チェストの上に飾っていた生け花が凍り、パンッと音を立てて砕け散った。
「ヒッ」
「それで?」
「……断られました」
「今も好きなのかい?」
「い、いいえ……」
「本当は?」
「……好きです」
「ふむ」
ヴィクスはベッドから出て、杖を取り出した。
パンッ、パンッ、と手のひらに杖を打ち付けながら、シリルににじり寄る。
(え、えーーーーー! 何が起こってるのどうしてこんなに怒ってるのぉーーーー!? ダフ! ダフーーーーー!!)
「シリル。君は顔立ちも良く、性格も良いね」
「い、いえ」
「爵位は少し低いけれど、僕の近衛騎士になったことで地位は高くなったしね」
「あ、あの、殿下。一体何をおっしゃって……」
「僕の話の腰を折らないでくれるかな?」
「っ……」
ヴィクスは杖をシリルの顎に添え、顔を上げさせまじまじと見る。
「聡明だし、文句はないのだが……」
「……」
「気に食わないね」
(何がぁーーーーーー!? 殿下はモニカを知っている!? もしかして婚約者だったりするの!? もしそうならやばい!! 普通に殺される!!)
「で、殿下……。も、もしかして、モニカとあなたは、婚約者でしたか……?」
「え?」
「もしそうなら……このような話をして申し訳ありませんでしたっ……。私はモニカと結婚しようとなんて思っていません……っ。付き合いたいとも、もう思っていませんので……っ。ど、どうか……」
「……」
ヴィクスは目を見開いたまま固まった。
そして、顔を真っ赤にして杖を下ろし、ベッドの中に潜り込む。
「? で、殿下……? どうされましたか……」
「今のことは忘れてくれるかな」
「……は、はい」
「すまないね。少し冷静さに欠いていたみたいだ」
「い、いえ」
「今日はありがとう。もう出ていいよ。おやすみ」
「お、おやすみなさい、殿下……」
よく分からないまま寝室を出たシリルは、扉の外で見張りをしていたダフに、しがみついて脱力した。
「お、おかえりシリル! どうだった?」
「……死ぬかと思った」
「なに! 何があったんだ!?」
「……それが……」
シリルが口を開こうとしたその時、寝室の扉が開き、ヴィクスが顔をのぞかせた。
「ヒッ」
「もし先ほどのことを誰かに言ったら、分かっているね?」
「は、はい!」
「分かっているならいいんだ。おやすみ」
「おやすみなさい……」
そして、静かに扉が閉じた。
シリルはダフを見て、ブルッと震える。
ダフはぽかんとした顔で、首を傾げた。
「で、何があったんだ?」
「言えるわけないよね……? 聞いてたでしょ、今のやりとり……」
王子と二人っきりになったのは初めての事で、シリルはカタカタ震えながら、ベッドで寝転ぶヴィクスの隣に立つ。
「シリル。君は学院で、どのようなことをして過ごしていたんだい?」
「は、はい。主に剣術の訓練に励んでいました」
「訓練以外には?」
「そうですね……。図書室で、よく読書をしていました」
「読書。いいね。僕も読書は好きだよ。本を読んでいると、現実を忘れ、自分だけの世界に浸れる」
「はい……」
シリルは同意しつつも、何かを思い出して苦笑いを浮かべた。
「おや? そんなこともなかったのかな」
「いえ。基本的にそうでした。ですが……よく、図書室で友人に話しかけられていたことを思い出して」
「そうなんだ。読書をしているのに、少し迷惑だね」
「そんなこともなかったです。楽しかったですよ」
その時のことに思いを馳せ、ふんわりと微笑を浮かべるシリル。
ヴィクスもつられて微笑んでいた。
「よければ、その友人の話を聞かせてくれるかい?」
「は、はい」
シリルは、ヴィクスが学院での友人についての話を楽しそうに聞いていたということを、ライラとクラリッサから前もって聞いていた。
(わざわざ呼び出して聞くなんて、よっぽど興味があるんだ。そうだよね、今まで同年代の友人なんて、できたことないだろうし。ふふ、そう考えると殿下も少し可愛く思えるなあ)
「僕は放課後に図書室でいることが多かったんです。兵法を読むこともあれば、物語を読むこともありました。でも決まっていつも続きが気になるところで、あの子はやって来るんです」
「名前は?」
「モニカという女の子です」
〝モニカ〟の名前を出すと、ヴィクスの微笑が顔全体に広がり、続きを催促した。
「彼女はいつも〝何読んでるの?〟と言って、隣の席に腰かけます。それで、しばらくは読んでいる本の話の内容を僕が説明して、彼女が聞いてくれていました。でもいつの間にかモニカの世間話になっていて、僕はいつも楽しく聞いていました」
「そうなんだ。彼女はどんな世間話をするんだい?」
「いろいろです。でもほとんどは、お兄さんの話が多かったような気がします」
「モニカはお兄さんのことが大好きなんだね」
「はい。それは学院中の周知の事実でした。あの二人はいつもぴったりくっついていましたし。それに、モニカはヤキモチやきだったので、アーサーのことを好きになった女の子にずっと威嚇をしていました」
「あはは。それはお兄さんも大変だ」
「いいえ。アーサーも同じくらい、モニカのことが好きなので、同じようなものでしたよ」
「そっか。……ということは、モニカもモテていたのかな?」
「はい。彼女は容姿もよかったですし、明るくて優しい子だったので。彼女のことを好きな男の子はたくさんいました」
「……もしかして君も、そのひとり?」
「……」
シリルがぽっと頬を赤らめたと同時に、寝室の温度がガクンと下がった。
「!?」
ゾッとしてヴィクスを見ると、彼の目は臣下を処刑するときに見せるときと同じくらい冷たかった。
(えーーーーー!? 僕何か気に障ること言っちゃった!? これ殺されるやつだ!! どうしてーーーーー!!)
ヴィクスが起き上がったので、シリルはビクリと体を硬直させた。
「告白なんてしていないよね?」
「……は、はい」
「本当は?」
「……しました……」
チェストの上に飾っていた生け花が凍り、パンッと音を立てて砕け散った。
「ヒッ」
「それで?」
「……断られました」
「今も好きなのかい?」
「い、いいえ……」
「本当は?」
「……好きです」
「ふむ」
ヴィクスはベッドから出て、杖を取り出した。
パンッ、パンッ、と手のひらに杖を打ち付けながら、シリルににじり寄る。
(え、えーーーーー! 何が起こってるのどうしてこんなに怒ってるのぉーーーー!? ダフ! ダフーーーーー!!)
「シリル。君は顔立ちも良く、性格も良いね」
「い、いえ」
「爵位は少し低いけれど、僕の近衛騎士になったことで地位は高くなったしね」
「あ、あの、殿下。一体何をおっしゃって……」
「僕の話の腰を折らないでくれるかな?」
「っ……」
ヴィクスは杖をシリルの顎に添え、顔を上げさせまじまじと見る。
「聡明だし、文句はないのだが……」
「……」
「気に食わないね」
(何がぁーーーーーー!? 殿下はモニカを知っている!? もしかして婚約者だったりするの!? もしそうならやばい!! 普通に殺される!!)
「で、殿下……。も、もしかして、モニカとあなたは、婚約者でしたか……?」
「え?」
「もしそうなら……このような話をして申し訳ありませんでしたっ……。私はモニカと結婚しようとなんて思っていません……っ。付き合いたいとも、もう思っていませんので……っ。ど、どうか……」
「……」
ヴィクスは目を見開いたまま固まった。
そして、顔を真っ赤にして杖を下ろし、ベッドの中に潜り込む。
「? で、殿下……? どうされましたか……」
「今のことは忘れてくれるかな」
「……は、はい」
「すまないね。少し冷静さに欠いていたみたいだ」
「い、いえ」
「今日はありがとう。もう出ていいよ。おやすみ」
「お、おやすみなさい、殿下……」
よく分からないまま寝室を出たシリルは、扉の外で見張りをしていたダフに、しがみついて脱力した。
「お、おかえりシリル! どうだった?」
「……死ぬかと思った」
「なに! 何があったんだ!?」
「……それが……」
シリルが口を開こうとしたその時、寝室の扉が開き、ヴィクスが顔をのぞかせた。
「ヒッ」
「もし先ほどのことを誰かに言ったら、分かっているね?」
「は、はい!」
「分かっているならいいんだ。おやすみ」
「おやすみなさい……」
そして、静かに扉が閉じた。
シリルはダフを見て、ブルッと震える。
ダフはぽかんとした顔で、首を傾げた。
「で、何があったんだ?」
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