【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco

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2巻

2-3

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「アーサー、モニカ。他に食べたいものはない?」
「量が少ないなら、お腹がいっぱいになるまで注文したらいいのよォ」

 二人のお言葉に甘えて、双子は食べたいものを食べたいだけ注文した。しかし、小さな肉料理のおかわりを十五回した時、アーサーはそれが一皿大銀貨八枚もすることに気付いた。
 今まで自分たちが食べた総額を考えると、心臓がヒュンと縮こまる。

「わ、わぁぁぁ……! ご、ごめんなさい! こんな高いなんて知らずにパクパク食べちゃって!」
「気にすんな。値段なんて気にせず、好きなだけ食え」
「そんなわけにはいかないよ! 僕もお金払う!」
「いいっつってんのに……」

 カミーユがため息をつく中、アーサーはアイテムボックスに手を突っ込んで、財布代わりの麻袋を探した。だが、中に入っている大量のエリクサーが邪魔をして、なかなか麻袋が見つからない。少しでも本数を減らそうと、手にれたエリクサーをかたぱしからテーブルの上に置いていくが、一向にそれ以外の物が見つかる気配がなかった。
 次々とテーブルに載せられていくエリクサーに、カミーユたちの目が釘付けになる。

「お、おい。まだあんのか? お前ら、エリクサー何本持ってんだよ!」
「えーっと、十万本を超えたあたりから、数えるのやめたから分かんない……」
「十万本!?」
「ボルーノのじいさんに売ってなかったのかー!?」

 予想以上の数に、カミーユは声がひっくり返り、リアーナはのけぞった。
 アーサーとモニカは、一日に三百本のエリクサーを作ることができる。その内の半分はボルーノの薬屋に卸し、残りは双子が所持していた。しかし、二人がエリクサーを使うことはほとんどないので、溜まりに溜まって、いつの間にか十万八千本というとんでもない数になっていた。
 双子はそのエリクサーの山をどうしてよいか分からず、ひたすらアイテムボックスに突っ込んで、現実から目を逸らしていたのだ。

「残りもボルーノのじいさんに卸せばいいんじゃねえのか?」

 呆れているカミーユに、モニカが首を横に振る。

「ううん。先生はね、一日百本限定でしか置きたくないんだって。だから予備の分も含めても、百五十本で充分じゃよって言われるの」
「ほー? なんでだ? エリクサーなんて、置けば置くほど売れるだろ」
「それがいやなんだってー。先生は昔からのお客さんを大切にしたいから、隣町の冒険者がエリクサーを求めて押し寄せることがないように、一日百本しか置かないの」
「なるほどな。利益よりも地域密着か」

 ボルーノらしいこだわりだと、カミーユは頬を緩め、クイッとビールを一口飲んだ。

「だからね、僕たちのエリクサーがこんな数になっちゃって……。どうしよう~……」

 延々とアイテムボックスからエリクサーを取り出し続けているアーサーが、途方とほうに暮れて泣きそうになっている。今やテーブルが一面エリクサーまみれだが、まだ麻袋が見当たらないようだ。
 そんな彼らを見て、カトリナが妙案をひらめいた。

「近隣の町に売りに行くはどうかしらァ? それならエリクサーも捌けるし、隣町の冒険者がボルーノの薬屋に殺到することもなくなるわァ」
「なにそれ、楽しそう!!」
「行ってみたい!! どこの町がいいかなあ!?」

 アーサーとモニカはポントワーブ以外の町に興味津々きょうみしんしんで、目をキラキラ輝かせる。

「そうねェ。近いのはやっぱりアヴルかしら」

 アヴルと聞いて、双子が顔をしかめた。二人は以前、アヴルの教会で酷い目にっているからだ。
 そんな二人に、カミーユが「安心しろ」と優しく微笑む。

「アヴルにはもう、お前らを襲うようなやつはいねえよ。教会の連中も総入れ替えしたしな」
「そっち方面に行くなら、近隣のルアンとかトロワとか行けばいいぞ!」

 リアーナの提案を聞いたカミーユとカトリナは、ルアンの町並みを思い浮かべてうっとりする。

「ルアン。いいな。俺はあそこ結構好きだぜ。なんたってメシがうまい」
「そうねェ。ルアンは花の都と呼ばれているほど、華やかで美しい町よ。庶民にも貴族にも憧れられている町だから、ルアンで人気が出たものは国中で流行するのよォ。芸術が盛んだから私も好きだわァ」

 乗り気な面々の中でただ一人、ジルだけは眉を寄せている。

「ルアンはともかく、トロワは治安が悪いからやめといた方がいいと思う」
「確かにそうだけどさ! 行って損はないと思うぞー? こいつらは、ああいう町を見たことないだろうからな!」
「でもやっぱりやめた方が……」

 ボソボソと反論するジルをよそに、双子はバンスティン国南部の地図を広げ、アヴル、ルアン、トロワに印を付けた。すでに二人はその三つの町に行く気満々だ。
 その後もカミーユたちは食事を続けながら、行商にまわるために必要な情報を双子に教えた。
 たとえば、商人ギルドで商人登録をしなければいけないことや、おつりのための硬貨を用意しておくと便利なこと、安い宿では商品を盗まれる可能性が高いので、値は張っても治安の良い宿を選ぶことなどだ。
 モニカは彼らのアドバイスをしっかりとメモに書き込んだ。すっかり行商の計画に夢中になった双子は、結局代金の支払いのことは忘れて店を後にしたのだった。


 ◇◇◇


 狭い脇道にたたずむ冒険者ギルドとは違い、商人ギルドは町の一番広い道沿いに堂々と拠点を構えていた。室内も対照的な雰囲気で、たとえるなら冒険者ギルドは小汚い居酒屋、商人ギルドは高級レストランのようだった。
 白い壁に大理石の床、天井には豪華なシャンデリアが吊るされている室内に入ったアーサーとモニカは、居心地の悪さに体を縮こまらせる。いかにも高級そうなインテリアばかりだったので、何かの拍子ひょうしに当たって壊してしまわないよう、二人は慎重に奥まで進んだ。

「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか」

 双子に気付いた受付のお姉さんが、作り物のような声を出した。感情がこもっていない形だけの笑顔を向ける彼女に、アーサーはガチガチに緊張しながら用件を話す。

「あ、あの、商人登録をしたいのですが」
「かしこまりました。では、こちらの用紙にお名前や取り扱う商品をご記入ください。身分証明書はお持ちでしょうか?」
「はい!」
「ありがとうございます。では、登録費として、お一人様金貨五枚をお願いいたします」
「金貨五枚っ……」

 冒険者登録の十倍の額を提示され、双子は思わずのけぞった。
 そんな二人の様子を気にも留めず、お姉さんは無表情で支払いを待っている。

「どうする?」

 アーサーが声に出さずに口の動きで尋ねると、モニカは「仕方ないから払おう」と頷く。
 二人が渋々金貨十枚を支払うと、商品の審査が始まった。エリクサーが本物であると確認したお姉さんは、双子に商品証明書と商人カードを渡す。

「こちらは商品証明書。あなたたちが取り扱うエリクサーが、本物であるという証拠になりますので、大切に保管してください」

 お姉さんいわく、本来はもっと厳しい審査が必要になるのだが、アーサーとモニカはエリクサーの生みの親であり、二人とも善良であることは有名なので、すんなり通ったらしい。

「そしてこちらが、あなたたちの商人カードです。これで、バンスティン国内でしたらどこでも商売が可能になります。年に一回、お一人様当たり白金貨一枚を会費としてお支払い頂いておりますので、お忘れなく。未納の際は、商人としての資格を失います」
「白金貨一枚っ……」
「ちなみに、資格を失った商人が再登録する際は、未納分プラス白金貨三枚を請求させていただきます。それと、商品証明書も半年に一度更新が必要でして、その更新料が――」
「……」

 この時双子は、商人ギルドよりも冒険者ギルドの方が好きだな、と思った。


 何はともあれ、無事商人となったアーサーとモニカは、宿に戻って行商旅に出る準備をした。

「アヴル、ルアン、トロワ……。どんな町かなあ~! ドキドキする~!」

 モニカは新しい服をアイテムボックスに詰め込みながら、まだ見ぬ町を想像して一人で盛り上がっている。妹の隣で黙々もくもくと準備をしていたアーサーは、何故か得意げにこう言った。

「ポントワーブより良い町なんてあるのかなあ~? ないと思うな~」
「行ってみないと分かんないもーん!」

 そんなことを言いながらも楽しみで仕方がないのか、アーサーは空が明るむまで行商の準備をしていた。新しく買ったアイテムボックスにエリクサーを移し替え、商品を手渡す時用の紙袋も忘れないようにその中に入れる。
 朝になっても、アーサーはおつりのために用意した小銀貨を熱心に数えていたが、残りわずかという時に、モニカが目を覚ました。彼女が勢いよく兄に抱きつくと、その衝撃で、彼が几帳面きちょうめんに積み上げていた硬貨の山が崩れてしまう。
 それにアーサーが怒ったことで、取っ組み合いのケンカが始まった。
 朝食を持ってきた宿屋のおばあさんがドアを開けると、引っかき傷だらけのモニカと、全身黒焦くろこげになっているアーサーが、床を転げ回っていた。

「……あんたたち、加減ってもんを覚えた方がいいよ」
「アーサーのばかぁぁあっ!」
「モニカが悪いんでしょぉぉぉっ!」

 しばらく苦い顔で眺めていたおばあさんだったが、モニカが兄に雷魔法で攻撃したところを目撃してしまい、慌てて大声を上げる。

「ごはんだよ! ケンカなんてやめて、冷めないうちにさっさと食べな!!」

 その瞬間、モニカとアーサーの動きがピタリと止まった。

「えっ!? ごはん!?」
「やったー! モニカ、早く食べよう!」
「うん! おなかぺこぺこ!」
「僕もー!」

 涎を垂らして椅子に飛び込んだ双子は、先ほどの壮絶そうぜつなケンカなんてすっかり忘れてしまい、おいしいねえと漏らしながら食事をしたのだった。



 画家との出会い



「モニカ! 見えたよ、ルアンだ!」
「わぁぁ! きれいー!」

 ポントワーブから東北に向かって走り始めて約三時間が経った頃。馬車の窓から身を乗り出していたアーサーが、防壁に囲まれた町を見つけた。
 遠目で見ただけでも、防壁がポントワーブと全く違う造りになっていることが分かる。ただ町を守るために作られたポントワーブの防壁に比べ、ルアンのそれは芸術的な建築物と言っていいほど造形がっていた。
 門をくぐった先は広場になっていて、美しい彫刻で装飾された噴水が小さな虹を架けて、二人を歓迎していた。噴水は人気スポットのようで、本を読んでいる女性や、小鳥にえさをやっている男性など、多くの人が縁に腰かけている。

「ゲイジュツテキだねえ」

 管楽器を演奏している若者の前を通り過ぎた時、アーサーが呟いた。
 モニカはルアンの町並みが気に入ったのか、夢中になってあちらこちらを見回している。

「とってもきれいな町! それに、町を歩いてる人たちもオシャレだね!」
「うんうん! みんなドレスみたいなの着てる!」
「うわぁー! ワクワクしてきたー!」
「お仕事を済ませたら、たっぷり観光しようね!」
「うん! がんばるわよぉ~!」

 やる気満々になったアーサーとモニカは、早速冒険者ギルドを探した。
 ルアンの住民は皆親切で、双子が道を尋ねたらにこやかに教えてくれる。中にはキャンディをプレゼントしてくれた女性もいた。
 無事に冒険者ギルドに辿たどいた双子は、チラチラと周囲を見回しながら歩く。
 ギルドの室内はポントワーブとさして変わらない造りだったが、家具はどれもシンプルながらに手の込んだデザインだった。
 知らない町に来たばかりで緊張していた二人は、冒険者ギルドお馴染みのムワッとした汗臭さにどこか安心する。
 室内に響き渡る笑い声やざわめきも、ポントワーブと変わらなかった。違うところがあるとすれば、話し込んでいる冒険者たちが手に持っている飲み物が、ビールではなくワインだということくらいだ。
 アーサーとモニカは、必要な情報を教えてもらおうと、買い取りカウンターのお姉さんに声をかける。

「あの、ここから一番近い宿はどこですか?」
「そういうことは情報屋に聞いてください」

 お姉さんはそっけなくそう答え、バーカウンターを指さした。

「え……? 簡単なことなら受付のお姉さんがいつも教えてくれてたのに……」

 衝撃を受けて固まっているアーサーの手を引いて、モニカがバーまで連れて行く。

「きっとポントワーブのお姉さんが優しすぎるだけよ。せっかく情報屋に聞くんだから、この際色々情報を買いましょ」

 背の高いバーの椅子にひょこっと飛び乗ったアーサーとモニカに気付き、不愛想ぶあいそうなバーテンダー兼情報屋が首を傾げる。

「ん? なんだ、迷子か?」
「商人です!」
「情報を買いたいです!」
「迷子じゃねえのか。で、何を聞きたい?」
「ここから一番近い宿と、この町にある薬屋さんを全部教えてください!」
「あと、おいしいお菓子屋さんも!」

 アーサーが質問すると、モニカがちゃっかり付け加えた。
 情報屋は地図を広げ、宿と薬屋、そしておいしい菓子屋に印を付けていく。

「一番近い宿はここだが、お前ら、商人なんだよな? 結構治安悪いぜ、この宿は」
「あ! それはだめ! 治安が良くて、近い宿がいいー!」
「ぼうずの希望に沿う宿って言ったら、ここだな。で、薬屋はここ。菓子屋はどんな菓子でも良いのか?」
「えっとね! 焼き菓子がいいなあ~!」
「じゃあここだ。人気で朝のうちに売り切れるから、気を付けろよ」
「わー! ありがとう! 情報屋さんも、ここの焼き菓子好きなのー?」

 モニカの純粋な質問に、情報屋はムスッとした表情のまま頬を赤らめ、短く答えた。

「……毎朝並んでる」
「そうなんだー! じゃあ、わたしたちが買いに行った時には、情報屋さんの分も買っとくね!」
「まじか。おい、まじか?」
「うん!」
「まじかー。……嬢ちゃん、特別に良いこと教えてやるよ」

 余程嬉しかったのか、情報屋はモニカの耳元に顔を寄せて囁く。

「そこの菓子屋に〝アブサンください〟って言ってみな」
「アブサン? なあに、それ」
「酒の名前なんだがな。この菓子屋でそれを言うと、特別ウマい焼き菓子を出してくれるんだ。通称〝まぼろしの焼き菓子〟と呼ばれている。ただし、一人二つまでしか売ってくれねえ。だから今度行った時、合言葉を言って四つ買ってきてくれ。そんで、そのうちの二つを俺にくれ」
「分かったあ!」
「頼んだぜ、相棒」

 情報屋はモニカの肩を力強く叩き、印を付けた地図を手渡した。情報費用は地図代込みで大銀貨五枚だったが、彼は双子のことが気に入ったらしく、サービスでジュースとチーズを出してくれた。

「さて、情報も手に入れたことだし、エリクサーを売りに行こっか」

 ひとしきり雑談をしてから、アーサーが椅子を下りた。
 すっかり仲良くなった情報屋に手を振って別れ、双子はギルドで酒を飲んでいる冒険者に声をかける。

「あの、すみません」
「ああ? なんだテメ」

 目つきの悪い冒険者が、しゃっくりをしながら二人を睨みつけた。しかしアーサーはそんなのどこ吹く風で、ニッコリ笑って話を続ける。

「僕たち、商人としてこの町に来たんです! エリクサーって知ってますか?」
「なに!? エリクサーだぁ!?」

 その冒険者の大声をきっかけに、場がシンと静まり返り、他の人たちが仲間同士で囁き合う。

「え? エリクサー? エリクサーがどうかしたの?」
「今エリクサーって聞こえた?」

 周りの注目が集まったので、ちょうど良いと思い、アーサーが声を張り上げる。

「こんにちはー! 僕たち、ポントワーブからエリクサーを売りに来ましたー! 一本大銀貨二枚ですが、いかがですかー!?」

 しかし、冒険者たちの反応はあまり良くなかった。

「お前らナメてんのかぁ? どうせ偽物だろ。買うわけねーべ」
「そうよねえ、希少品をあんな子たちが持っているわけないわ」
「ポントワーブって言えばだませると思ったのか? まったく」

 偽物を掴まされると思った彼らは、早々に双子から興味を失くしてまた雑談に戻ろうとした。
 モニカはしょんぼりとして兄のすそを引っ張る。

「アーサー……どうしよう、信じてもらえないよう……」
「大丈夫! 見せたら分かってくれるから!」

 そう言うやいなや、アーサーは短剣を取り出して、自分の手首に刃を滑らせた。
 勢いよく鮮血が噴き出し、近くにいたガラの悪い冒険者の顔面に直撃する。
 彼の「うぎゃーっ!」というみっともない叫び声に振り返った人たちは、手首から大量に出血している少年を見て顔を真っ青にした。
 ザワザワとギルドが騒がしくなる中、アーサーはエリクサーを一本飲み干す。すると、たちまち手首の血が止まり、傷がえた。
 薬の効果を目の当たりにした冒険者たちは、ハッと息を呑む。
 空気が変わったことを感じ取り、アーサーは完治した手首を掲げて得意げな顔をする。

「このくらいの傷であれば、跡も残らなければ貧血も起こりません!」
「あーあ、みんな引いちゃってるよ?」

 服に血がかかって不機嫌なモニカが、ジトッとした目で小突こづくが、アーサーは気にせず続ける。

「商人ギルドの証明書もあります! 正真正銘しょうしんしょうめいのエリクサーです! 僕の血をかぶっちゃった人たちには、お詫びに一本ずつプレゼントしますね。ごめんなさい」

 たちまち冒険者たちが双子に押し寄せて、エリクサーを買い求めた。
 アーサーの目論見通もくろみどおり、ポーションであれば完治するのに数分はかかる傷を、あっという間に治したことが、何よりの証明になった。

「何本まで売ってくれるんだ!?」

 ガラの悪い冒険者が、顔にかかった血もかずにアーサーに詰め寄った。

「何本でも大丈夫です! 在庫はたっぷり用意してるので!」
「じゃあ、百本くれ!」
「ありがとうございます! 金貨二十枚です!」

 私も、俺も、と冒険者が押し合いへし合いした挙句あげくに、なぐいのケンカまで始めたので、列に並んでもらって順番にエリクサーを販売した。
 その日ギルドにいた冒険者は約三十人で、ほとんどが百本以上購入した。計二千八百五十本が売れ、金貨五百七十枚の収入だ。所持金が増えたのはもちろんのこと、エリクサーの在庫が減ったことが、双子にとっては何より嬉しかった。
 冒険者の列が捌けた時、誰かがモニカの肩を叩いた。振り返ると、小太りのおじさんが立っていて、ニコニコしている。

「どうもどうも。先ほどの大騒ぎ、見ておりました」
「こんにちは! おじさんもエリクサーをお求めですかー?」
「ええ。……申し遅れました。私、ルアン冒険者ギルドマスターの、クサカヴと申します」

 ギルドマスターと聞き、双子の姿勢がピッと真っすぐになった。
 確かにこの男性、よく見てみると皺ひとつないジャケットとピカピカの靴を身につけている。ギルド職員にしては身なりが良すぎる。
 ギルドマスターのことを〝おじさん〟と呼んでしまったモニカは、冷や汗をダラダラ垂らして自己紹介した。

「は、はじめまして! 私はモニカ! こっちはお兄ちゃんのアーサー」
「モニカさん、アーサーさん、はじめまして。もし良ければ、冒険者ギルドにもエリクサーを卸していただけませんか? 今ここにいなかった冒険者たちにも、エリクサーを持たせてあげたくて」
「もちろん大丈夫です! ただ、お願いがあります。わたしたちは小銀貨十五枚で卸すので、冒険者さんたちには大銀貨二枚で販売してもらえませんか?」
「もちろん構わないですよ。しかし不思議なお願いだ。そうすると、冒険者たちに直接売るよりもあなた方の取り分が少なくなってしまうのに」

 首を傾げるクサカヴに、双子は何も言わずにニコッと笑うだけだった。

「それで、何本にしましょうか?」
「そうですねぇ。……一万本は、あつかましすぎますか?」
「「一万本!?」」
「はい。先ほどの騒ぎを見ていたら、きっとこのくらいは必要だろうと思いまして……」

 クサカヴは苦笑いを浮かべ、頬を掻いた。さすがにこの本数は断られるのではないかと心配している様子だ。しかし、彼の予想とは正反対に、アーサーとモニカは手を叩いて喜んだ。

「モニカ、聞いたー!? 一万本だって!」
「すごーい!! クサカヴさん! ありがとうございます!!」
「ああ、良かった。こちらこそありがとうございます。よければ、また仕入れさせてくださいね」
「はい! また来ます!」

 クサカヴは早速、購入したエリクサーを依頼受付のカウンターに並べ始める。アーサーも作業を手伝い、モニカはアイテムボックスに入っていた花や薬草でカウンターを飾り付ける。
 受付職員が即席で店内広告を作ってくれたので、商品の前に展示した。冒険者ギルドの中でここだけが不自然なほどカラフルでにぎやかになったが、これなら目立つだろう。
 双子もギルドマスターも満足げに額の汗をぬぐった。


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