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魔女編:合同クエスト
ホームパーティー
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翌日、家具が新居に運び込まれた。からっぽだった家の中が徐々に華やいでいく。
全ての家具の設置が終わることには昼時になっていた。
軽食を取ってから、アーサーとモニカは冒険者ギルドに向かった。そこには真剣な顔で話し合っているカミーユたちがいた。双子は彼らに声をかける。
「みんな!こんにちは」
「おー、お前らか。まあ座れよ」
「うん!あのね、実は家が完成して、みんなでパーティしたいんだ!」
おおー!とカミーユたちが歓声を上げた。特にリアーナは「行きたい行きたい!」とノリノリだ。
アーサーは彼らの空いてる日をメモした後、クエスト受付嬢に伝書インコを3匹借り、アデーレ、イェルド、ベニートに飛ばした。内容は【ギルド キテ アーサー モニカ】だ。
インコを受け取った3人がギルドに駆けつけてくれたので、パーティのお誘いをした。
「お前たち、その歳で家買ったのか…?」
「さすが稼いでるわね」
「いいなー!俺なんてまだ宿暮らしだぜ?!」
3人とも今週は予定を入れていないとのことだったので、それをメモしてからボルーノと宿屋のおばあさんのところへ行き、予定を聞いた。全員の予定を組み合わせて、パーティは二日後の夜に開催することに決めた。
最後に双子はレストランへ向かった。店主と奥さんがにこやかに挨拶をする。
「あの、お願いがあるんです!」
「お?どうした?」
「明後日の夜、パーティをしたいのですが、僕たちの家で料理を作ってくれませんか?!」
突拍子もないお願いに、店主と奥さんはポカンとした。しかしすぐに笑い声が店内に響く。
「おお!俺らをその日雇うってことか!そりゃ面白いねえ!何人でパーティするんだ?」
「僕たち入れて、13人です!」
「おお!分かった!13人分の食材用意しておくよ!」
「ありがとうございます!」
それから店主と打ち合わせをし、どんな料理を出すか、どんな飲み物を用意するか、そして雇い賃などを決めた。雇い賃は食材費含めて金貨20枚となった。アーサーはその場で代金を渡し、では明後日はよろしくお願いしますと店を出た。
双子は次の日必要な物(フォークやナプキン、食器など)を買い足し、パーティに備えた。
そしてパーティ当日…
「おおおおおお!!!」
双子の新居を見てリアーナが大声を上げた。すぐにカミーユに「近所迷惑だろが!」と頭をはたかれる。
「だって!見て!あの!あのボロボロの服着てやっすい宿暮らししてたあいつらが…!あいつらが!こんな立派な家建ててさぁ!!」
感動して目を潤ませながら力説しているリアーナに、ジルとカトリナが力強く頷く。
「感慨深いよ。立派になって…」
「本当に素敵なおうちねぇ。お庭も広くて良いわァ」
カミーユのパーティと同じくらい興奮しているシャナは、息子ユーリを抱きしめながら飛び跳ねている。
「ああ…言葉が出ないわ…」
「母さん、アーサーとモニカってすごいんだね。僕と少ししか違わないのに、こんな大きな家建てちゃうなんて」
「ええ、ほんとうにすごいわ。立派な子だわ」
カミーユのパーティに圧倒されて、ベニート、アデーレ、イェルドが端で縮こまっている。
「なんだよあいつら、カミーユさんのパーティとそんなに仲が良いのか?!」
「カミーユさんたちと食卓囲むとか、緊張しすぎて喉通らないよ…」
「やべえ、カミーユさんのパーティかっこよすぎる…!いつもギルドでチラ見することしかできなかったのに、俺のすぐそばにいて世間話してるマジかよ!!」
宿屋のおばあさんとボルーノは、静かに新居を眺めている。
「あの子たちがねえ…」
「おや、イザベラ、泣いておるのかい?」
「泣いてないさ!…でも、ちょっと寂しいかもしれないねえ」
「ホッホッホ、そうじゃのお。約2年半。お前さんの宿で過ごしておったんじゃ。寂しくて当然じゃ」
しばらくして、家の扉が開いた。アーサーがひょこっと顔を出す。
「みんな!お待たせ!さ、入って入って!!」
ゲストがぞろぞろと新居に足を踏み入れる。家に入った途端、肉を焼いた良い香りが鼻を刺激した。
「ん?レストランのおっさん?!」
カミーユがキッチンで料理している店主を指さした。店主は「おお!カミーユさんどうも!」と挨拶をする。
「なんでこいつらの家でフライパン振ってんだ?」
「いやぁ、今晩この小さい主催者に雇われましてねえ。ささ、もうしばらくお待ちくださいな。今日は特別美味しい料理を作ってますんで!」
「ぎゃははは!!レストランの店主雇うとか!!やることがちげーな!!」
リアーナがアーサーの背中をバシバシ叩きながら笑った。
人数が多いので、今晩は立食パーティーだ。(宿屋のおばあさんとボルーノには椅子を用意した)
しばらくしてすぐ、作り立ての料理がテーブルに並べられる。ベビーリーフとチキンのマリネ、ポテトフライ、鶏のトマト煮込み、牛肉ステーキ、プリン、バナナケーキなど、見ているだけでよだれが垂れそうな料理ばかりだ。
全ての料理が並んだのち、ゲストがじっと双子に注目する。
「えっと、このあとどうしたらいいの…?」
「おい主催者しっかりしろー」
「挨拶しろー」
挨拶…?アーサーが困ったようにモニカを見たが、モニカはわざとアーサーと目を合わせない。「うらぎりもの~」と内心毒づきながら、アーサーはゲストに向かって口を開いた。
「えっと、今日はみなさん来てくださってありがとうございました。僕たちの家が建ったパーティとして、お世話になったみなさんに来ていただきました。たくさん食べて、飲んで、楽しんでください」
アーサーの挨拶が終わると、リアーナが「相変わらずの上流発音!」と小声で吹き出す。カミーユも肩を揺らして声に出さず笑っている。
「で、ではみなさん、グラスを持ってください。かんぱい!」
「かんぱーーーい!!!」
グラスを高く掲げた後、大人たちは酒を一斉に飲み始めた。一気飲みしたカミーユとリアーナは、もうすでに2杯目に口を付けていた。
アーサーとモニカは一人一人に今日来てくれたお礼を言って回った。部屋の隅で縮こまっているFクラスパーティ組を見つけたモニカが、アデーラの手を引っ張ってカミーユの元へ連れて行った。
「ん?どうした?」
「カミーユ!あのね、この人たち、紹介するね!」
モニカは3人をカミーユのパーティに紹介する。アデーラたちはカチコチに緊張している。
「お、お目にかかれて光栄です…」
「そんなビビらなくたっていいじゃーん!よろしくな!」
リアーナがにこやかに握手を交わす、カミーユ、ジル、カトリナも「よろしく」と手を握った。イェルドはよほど嬉しかったのか「もうこの手洗わないっす!!」と気持ち悪いことを口走っている。
「お前ら、このチビと一緒にクエストでもまわったのか?」
「はい。合同クエストで知り合いまして。ダンジョン魔物掃討です」
「そうか!合同クエストか、懐かしいな」
まだ低クラスだった頃の自分を思い出したのか、カミーユが目じりを下げて微笑んだ。
「で、アーサーとモニカの戦いぶりはどうだった?」
ジルが尋ねると、三人とも「すごく強かったです」と即答した。
「まだまだ訓練は必要だと思いますが、ポテンシャルが恐ろしいほどでした」
「だろうな」
合同クエスト組がダンジョン掃討の思い出話をカミーユたちに聞かせた。ご機嫌斜めになったモニカが数百体のゴブリンを一瞬で消し炭にしたこと、アーサーがチムシーに寄生されたこと、モニカがアーサーの血を飲んで吸血欲の感染を起こしたことを話すと、カミーユとリアーナは大喜びして笑っていた。
「モニカ、何に怒ってたんだ?ん?」
カミーユがニヤニヤしながらモニカを小突いた。モニカは真っ赤になり、ごにょごにょとカミーユの耳元で訳を話した。あまりの可愛らしい理由に「カーー!!」と奇声を発した後、カミーユがモニカを抱き寄せる。
「ほんと!おまえは兄ちゃんが大好きだなあ!!」
「ちょっとカミーユ!!」
モニカが焦ってカミーユの口に手を当てた。そしてアーサーを振り返りキッと睨んだ。訳が分からなくてオロオロするアーサーを見て、大人7人が大笑いした。
「それにしても!なんでモニカはアーサーの血を飲んだんだ?そういう性癖か?」
リアーナが尋ねると、「ちがうもん!アーサーが飲めって言ったんだもん!!」と顔を真っ赤にして弁解した。それに対してアーサーが反論する。
「飲めなんていってないもん!血がおいしいのか聞かれたから、じゃあ飲んでみる?って言っただけだもん!」
二人のどうでもいい口論をBGMにしながら、カミーユたちがベニートたちに話しかけた。
「あいつらのこと、だいぶ助けてくれたんだな」
「いえ、そんなことないです。むしろ俺たちが二人に助けてもらったくらいで」
リアーナとカトリナ、ジルが頷く。
「ぶっ倒れる直前まで血を飲ませてやったんだろ?しかも初対面のヤツに!それってすげーことだと思う!」
「ええ、仲間を見捨てずメンバーで支えていく。それってとっても大事なことなのよォ」
「Fクラスの時点でそれができるのはなかなか見どころがあるな。君たちはきっと良いパーティになるよ」
激励を受けた三人は、喜びでフルフルと震えた。カミーユたちに「ありがとうございます!」と礼を言った後、うるうると涙をためながらダイニングの端に戻った。
「俺は一度アーサーとモニカを見捨てた。カミーユさんたちに褒められるような人間じゃない」
ベニートがぼそりと呟く。それにアデーレも頷いた。
「私もそうだわ」
「あの時俺たちを怒ってくれたイェルド、おまえのおかげだ。お前のおかげで、俺たちは目を覚ませた。ありがとう」
「なに言ってんだよ!恥ずかしいだろ!」
イェルドがバンとベニートの背中を叩いた。
「いて!おま!加減しろよ!」
「お前らは体張ってアーサーとモニカを助けたんだ。それでいいじゃねえか!な!」
こいつの方がよっぽどリーダーだな、とベニートは小さく笑いビールに口を付けた。
双子はカミーユと一緒にシャナとユーリのところへ行った。カミーユが近づいてくるのに気づいて、ユーリが駆け寄り父に抱きついた。カミーユは愛おしそうにユーリを抱え上げた。
「父さん!料理おいしいね!」
「ああ、うまいな。いっぱい食ってるか?」
「うん!鶏のトマト煮がおいしかったよ」
「それは俺も食わなきゃなぁ」
ユーリは双子に向き直り、にっこり笑う。
「アーサー、モニカ、私たちも誘ってくれて、ありがとうね」
「そんなの絶対誘うにきまってるじゃない!」
モニカはシャナに抱きついた。
「本当に、素敵なおうちね。二人がご近所さんなんて、これから楽しくなりそうだわ」
「うん!いっぱい遊びに来てね!僕たちも遊びに行っていい?」
「ああ、毎日来い」
「うれしい!」
その後、ボルーノと宿屋のおばあさんの元へ行く。ボルーノはワインとステーキを、おばあさんはビールとポテトフライを手に持っていた。
「先生、おばあさん、おいしいですか?」
「ああ、おいしいのぉ」
「こんなおいしいご飯は久しぶりだよ」
よかった、と双子は嬉しそうにニコニコした。そして宿屋のおばあさんにお礼を言った。
「おばあさん。長い間お世話になりました。毎日おばあさんがサービスしてくれる朝食、ほんとにおいしかった!また宿屋に遊びに行ってもいい?」
「ああ、もちろんだよ。いつでもあそびにおいで」
おばあさんがしわしわの手を伸ばしたので、アーサーとモニカは少しかがんで頭を下げた。その頭を優しく撫で、おばあさんはにっこりと笑った。
双子は次にボルーノの方を向く。
「先生のおかげで薬のこといっぱい勉強できたし、エリクサーが完成したのも、先生のおかげ。本当にありがとう!」
「礼を言うのはわしの方じゃよ」
ボルーノはうるんだ目で二人を見つめた。
「こんな小さい子が、どんどん大きくなっていくんだねえ。ボルーノ」
「そうじゃのぉ。嬉しいやら、寂しいやら」
「この子が立派な大人になるまで、がんばって生きないとね」
「うむ。わしゃあこやつらより長生きするつもりじゃ」
ホッホッホ、と笑いこくりとワインを飲む。双子は「ずっとずーっと、僕たちを見守っててね」と二人にぎゅぅっと抱きついた。
パーティーは日付が変わっても続いた。レストランの店主はフライパンを振り、奥さんは空いたグラスや皿をテキパキと片づける。ゲストのおなかが膨れた頃、双子が店主と奥さんのエプロンを脱がせ、「二人もいっぱい食べて、いっぱい飲もう!」とパーティーに参加してもらった。
奥さんがアコーディオンを弾き、冒険者組がそれに合わせてダンスをした。双子も混ぜてもらい、見様見真似で踊ってみる。とてもぎこちなかったが、涙が出そうなほど幸せで楽しい時間だった。
全ての家具の設置が終わることには昼時になっていた。
軽食を取ってから、アーサーとモニカは冒険者ギルドに向かった。そこには真剣な顔で話し合っているカミーユたちがいた。双子は彼らに声をかける。
「みんな!こんにちは」
「おー、お前らか。まあ座れよ」
「うん!あのね、実は家が完成して、みんなでパーティしたいんだ!」
おおー!とカミーユたちが歓声を上げた。特にリアーナは「行きたい行きたい!」とノリノリだ。
アーサーは彼らの空いてる日をメモした後、クエスト受付嬢に伝書インコを3匹借り、アデーレ、イェルド、ベニートに飛ばした。内容は【ギルド キテ アーサー モニカ】だ。
インコを受け取った3人がギルドに駆けつけてくれたので、パーティのお誘いをした。
「お前たち、その歳で家買ったのか…?」
「さすが稼いでるわね」
「いいなー!俺なんてまだ宿暮らしだぜ?!」
3人とも今週は予定を入れていないとのことだったので、それをメモしてからボルーノと宿屋のおばあさんのところへ行き、予定を聞いた。全員の予定を組み合わせて、パーティは二日後の夜に開催することに決めた。
最後に双子はレストランへ向かった。店主と奥さんがにこやかに挨拶をする。
「あの、お願いがあるんです!」
「お?どうした?」
「明後日の夜、パーティをしたいのですが、僕たちの家で料理を作ってくれませんか?!」
突拍子もないお願いに、店主と奥さんはポカンとした。しかしすぐに笑い声が店内に響く。
「おお!俺らをその日雇うってことか!そりゃ面白いねえ!何人でパーティするんだ?」
「僕たち入れて、13人です!」
「おお!分かった!13人分の食材用意しておくよ!」
「ありがとうございます!」
それから店主と打ち合わせをし、どんな料理を出すか、どんな飲み物を用意するか、そして雇い賃などを決めた。雇い賃は食材費含めて金貨20枚となった。アーサーはその場で代金を渡し、では明後日はよろしくお願いしますと店を出た。
双子は次の日必要な物(フォークやナプキン、食器など)を買い足し、パーティに備えた。
そしてパーティ当日…
「おおおおおお!!!」
双子の新居を見てリアーナが大声を上げた。すぐにカミーユに「近所迷惑だろが!」と頭をはたかれる。
「だって!見て!あの!あのボロボロの服着てやっすい宿暮らししてたあいつらが…!あいつらが!こんな立派な家建ててさぁ!!」
感動して目を潤ませながら力説しているリアーナに、ジルとカトリナが力強く頷く。
「感慨深いよ。立派になって…」
「本当に素敵なおうちねぇ。お庭も広くて良いわァ」
カミーユのパーティと同じくらい興奮しているシャナは、息子ユーリを抱きしめながら飛び跳ねている。
「ああ…言葉が出ないわ…」
「母さん、アーサーとモニカってすごいんだね。僕と少ししか違わないのに、こんな大きな家建てちゃうなんて」
「ええ、ほんとうにすごいわ。立派な子だわ」
カミーユのパーティに圧倒されて、ベニート、アデーレ、イェルドが端で縮こまっている。
「なんだよあいつら、カミーユさんのパーティとそんなに仲が良いのか?!」
「カミーユさんたちと食卓囲むとか、緊張しすぎて喉通らないよ…」
「やべえ、カミーユさんのパーティかっこよすぎる…!いつもギルドでチラ見することしかできなかったのに、俺のすぐそばにいて世間話してるマジかよ!!」
宿屋のおばあさんとボルーノは、静かに新居を眺めている。
「あの子たちがねえ…」
「おや、イザベラ、泣いておるのかい?」
「泣いてないさ!…でも、ちょっと寂しいかもしれないねえ」
「ホッホッホ、そうじゃのお。約2年半。お前さんの宿で過ごしておったんじゃ。寂しくて当然じゃ」
しばらくして、家の扉が開いた。アーサーがひょこっと顔を出す。
「みんな!お待たせ!さ、入って入って!!」
ゲストがぞろぞろと新居に足を踏み入れる。家に入った途端、肉を焼いた良い香りが鼻を刺激した。
「ん?レストランのおっさん?!」
カミーユがキッチンで料理している店主を指さした。店主は「おお!カミーユさんどうも!」と挨拶をする。
「なんでこいつらの家でフライパン振ってんだ?」
「いやぁ、今晩この小さい主催者に雇われましてねえ。ささ、もうしばらくお待ちくださいな。今日は特別美味しい料理を作ってますんで!」
「ぎゃははは!!レストランの店主雇うとか!!やることがちげーな!!」
リアーナがアーサーの背中をバシバシ叩きながら笑った。
人数が多いので、今晩は立食パーティーだ。(宿屋のおばあさんとボルーノには椅子を用意した)
しばらくしてすぐ、作り立ての料理がテーブルに並べられる。ベビーリーフとチキンのマリネ、ポテトフライ、鶏のトマト煮込み、牛肉ステーキ、プリン、バナナケーキなど、見ているだけでよだれが垂れそうな料理ばかりだ。
全ての料理が並んだのち、ゲストがじっと双子に注目する。
「えっと、このあとどうしたらいいの…?」
「おい主催者しっかりしろー」
「挨拶しろー」
挨拶…?アーサーが困ったようにモニカを見たが、モニカはわざとアーサーと目を合わせない。「うらぎりもの~」と内心毒づきながら、アーサーはゲストに向かって口を開いた。
「えっと、今日はみなさん来てくださってありがとうございました。僕たちの家が建ったパーティとして、お世話になったみなさんに来ていただきました。たくさん食べて、飲んで、楽しんでください」
アーサーの挨拶が終わると、リアーナが「相変わらずの上流発音!」と小声で吹き出す。カミーユも肩を揺らして声に出さず笑っている。
「で、ではみなさん、グラスを持ってください。かんぱい!」
「かんぱーーーい!!!」
グラスを高く掲げた後、大人たちは酒を一斉に飲み始めた。一気飲みしたカミーユとリアーナは、もうすでに2杯目に口を付けていた。
アーサーとモニカは一人一人に今日来てくれたお礼を言って回った。部屋の隅で縮こまっているFクラスパーティ組を見つけたモニカが、アデーラの手を引っ張ってカミーユの元へ連れて行った。
「ん?どうした?」
「カミーユ!あのね、この人たち、紹介するね!」
モニカは3人をカミーユのパーティに紹介する。アデーラたちはカチコチに緊張している。
「お、お目にかかれて光栄です…」
「そんなビビらなくたっていいじゃーん!よろしくな!」
リアーナがにこやかに握手を交わす、カミーユ、ジル、カトリナも「よろしく」と手を握った。イェルドはよほど嬉しかったのか「もうこの手洗わないっす!!」と気持ち悪いことを口走っている。
「お前ら、このチビと一緒にクエストでもまわったのか?」
「はい。合同クエストで知り合いまして。ダンジョン魔物掃討です」
「そうか!合同クエストか、懐かしいな」
まだ低クラスだった頃の自分を思い出したのか、カミーユが目じりを下げて微笑んだ。
「で、アーサーとモニカの戦いぶりはどうだった?」
ジルが尋ねると、三人とも「すごく強かったです」と即答した。
「まだまだ訓練は必要だと思いますが、ポテンシャルが恐ろしいほどでした」
「だろうな」
合同クエスト組がダンジョン掃討の思い出話をカミーユたちに聞かせた。ご機嫌斜めになったモニカが数百体のゴブリンを一瞬で消し炭にしたこと、アーサーがチムシーに寄生されたこと、モニカがアーサーの血を飲んで吸血欲の感染を起こしたことを話すと、カミーユとリアーナは大喜びして笑っていた。
「モニカ、何に怒ってたんだ?ん?」
カミーユがニヤニヤしながらモニカを小突いた。モニカは真っ赤になり、ごにょごにょとカミーユの耳元で訳を話した。あまりの可愛らしい理由に「カーー!!」と奇声を発した後、カミーユがモニカを抱き寄せる。
「ほんと!おまえは兄ちゃんが大好きだなあ!!」
「ちょっとカミーユ!!」
モニカが焦ってカミーユの口に手を当てた。そしてアーサーを振り返りキッと睨んだ。訳が分からなくてオロオロするアーサーを見て、大人7人が大笑いした。
「それにしても!なんでモニカはアーサーの血を飲んだんだ?そういう性癖か?」
リアーナが尋ねると、「ちがうもん!アーサーが飲めって言ったんだもん!!」と顔を真っ赤にして弁解した。それに対してアーサーが反論する。
「飲めなんていってないもん!血がおいしいのか聞かれたから、じゃあ飲んでみる?って言っただけだもん!」
二人のどうでもいい口論をBGMにしながら、カミーユたちがベニートたちに話しかけた。
「あいつらのこと、だいぶ助けてくれたんだな」
「いえ、そんなことないです。むしろ俺たちが二人に助けてもらったくらいで」
リアーナとカトリナ、ジルが頷く。
「ぶっ倒れる直前まで血を飲ませてやったんだろ?しかも初対面のヤツに!それってすげーことだと思う!」
「ええ、仲間を見捨てずメンバーで支えていく。それってとっても大事なことなのよォ」
「Fクラスの時点でそれができるのはなかなか見どころがあるな。君たちはきっと良いパーティになるよ」
激励を受けた三人は、喜びでフルフルと震えた。カミーユたちに「ありがとうございます!」と礼を言った後、うるうると涙をためながらダイニングの端に戻った。
「俺は一度アーサーとモニカを見捨てた。カミーユさんたちに褒められるような人間じゃない」
ベニートがぼそりと呟く。それにアデーレも頷いた。
「私もそうだわ」
「あの時俺たちを怒ってくれたイェルド、おまえのおかげだ。お前のおかげで、俺たちは目を覚ませた。ありがとう」
「なに言ってんだよ!恥ずかしいだろ!」
イェルドがバンとベニートの背中を叩いた。
「いて!おま!加減しろよ!」
「お前らは体張ってアーサーとモニカを助けたんだ。それでいいじゃねえか!な!」
こいつの方がよっぽどリーダーだな、とベニートは小さく笑いビールに口を付けた。
双子はカミーユと一緒にシャナとユーリのところへ行った。カミーユが近づいてくるのに気づいて、ユーリが駆け寄り父に抱きついた。カミーユは愛おしそうにユーリを抱え上げた。
「父さん!料理おいしいね!」
「ああ、うまいな。いっぱい食ってるか?」
「うん!鶏のトマト煮がおいしかったよ」
「それは俺も食わなきゃなぁ」
ユーリは双子に向き直り、にっこり笑う。
「アーサー、モニカ、私たちも誘ってくれて、ありがとうね」
「そんなの絶対誘うにきまってるじゃない!」
モニカはシャナに抱きついた。
「本当に、素敵なおうちね。二人がご近所さんなんて、これから楽しくなりそうだわ」
「うん!いっぱい遊びに来てね!僕たちも遊びに行っていい?」
「ああ、毎日来い」
「うれしい!」
その後、ボルーノと宿屋のおばあさんの元へ行く。ボルーノはワインとステーキを、おばあさんはビールとポテトフライを手に持っていた。
「先生、おばあさん、おいしいですか?」
「ああ、おいしいのぉ」
「こんなおいしいご飯は久しぶりだよ」
よかった、と双子は嬉しそうにニコニコした。そして宿屋のおばあさんにお礼を言った。
「おばあさん。長い間お世話になりました。毎日おばあさんがサービスしてくれる朝食、ほんとにおいしかった!また宿屋に遊びに行ってもいい?」
「ああ、もちろんだよ。いつでもあそびにおいで」
おばあさんがしわしわの手を伸ばしたので、アーサーとモニカは少しかがんで頭を下げた。その頭を優しく撫で、おばあさんはにっこりと笑った。
双子は次にボルーノの方を向く。
「先生のおかげで薬のこといっぱい勉強できたし、エリクサーが完成したのも、先生のおかげ。本当にありがとう!」
「礼を言うのはわしの方じゃよ」
ボルーノはうるんだ目で二人を見つめた。
「こんな小さい子が、どんどん大きくなっていくんだねえ。ボルーノ」
「そうじゃのぉ。嬉しいやら、寂しいやら」
「この子が立派な大人になるまで、がんばって生きないとね」
「うむ。わしゃあこやつらより長生きするつもりじゃ」
ホッホッホ、と笑いこくりとワインを飲む。双子は「ずっとずーっと、僕たちを見守っててね」と二人にぎゅぅっと抱きついた。
パーティーは日付が変わっても続いた。レストランの店主はフライパンを振り、奥さんは空いたグラスや皿をテキパキと片づける。ゲストのおなかが膨れた頃、双子が店主と奥さんのエプロンを脱がせ、「二人もいっぱい食べて、いっぱい飲もう!」とパーティーに参加してもらった。
奥さんがアコーディオンを弾き、冒険者組がそれに合わせてダンスをした。双子も混ぜてもらい、見様見真似で踊ってみる。とてもぎこちなかったが、涙が出そうなほど幸せで楽しい時間だった。
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