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魔女編:合同クエスト

合同ダンジョン完了

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 次の日、ベニート、アデーレ、イェルドはぐったりした様子で洞窟から出てきた。対照的に、アーサーとモニカは初日より肌の様子が良さそうだ。

「あー…鉄舐めたい」

 三人は約二日間にわたりアーサーに血を与えた。さらに途中からモニカが加わり、増血薬では追いつかないほどの血を抜かれ続けた。3時間ほど前にやっとアーサーとモニカの吸血欲がおさまったので良かったが、あと一回でも吸血させていたら誰か一人が倒れていただろう。

「アーサー、モニカ、町へ戻ったら絶対なにか食わせろよな…」

 ベニートが低い声でうめくと、双子は「絶対ご馳走する!ほんとごめんなさい!」と謝り倒した。

「あーあ、僕たち、足引っ張っちゃったね」

 しょぼんと落ち込みながらアーサーがモニカにそう言った。モニカも「うん…」と元気をなくしている。

「なに言ってんだ。確かにお前たちの吸血行為にはものすごく、そりゃもうものすごーく困らされたが、こんなに早く魔物を殲滅できたのもお前たちのおかげなんだぞ」

 ベニートがそう言って双子の背中を叩いた。

「本当にそうよ。私たち三人だけだったらあと二日くらいはかかってた」

 町に帰り、ギルドでクエスト完了の報告をしたのち、5人は飲み物と軽食を頼んでテーブルを囲んだ。
 イェルドがビールを一気に飲み干し、「ぷはぁー!!うんめぇぇぇ!」と鼻の下に泡のひげを作った。

「生き返るわ…」

 アデーレは幸せそうに目をつぶりビールを味わい、ベニートは無口にコクコクビールを飲んでいる。双子はいつも通りオレンジジュースを味わい、「ふぁー」と幸せそうに頬をゆるめた。
 そんな双子に、イェルドが身を乗り出して尋ねた。

「なあ、アーサー、モニカ、お前ら今フリーなんだよな?」
「そうだけど、急にどうしたの?」
「俺とパーティ組まないか?」

 イェルドの勧誘を、ベニートとアデーレが阻止する。

「おい、抜け駆けはよくないぞイェルド」
「そうよ。ベニートも私もずっと声をかけるタイミングうかがってたのに」

 予想外のできごとに、双子は目をしばたいた。

「えっ?パーティに誘ってくれようとしてたの?」
「あんなに迷惑かけたのに?」

 大人たちがポカンとしたあとクスクスと笑った。

「お前たち、ほんとに自分の強さを分かってないんだな」

 ベニートがフォークを双子に向けて軽く揺らした。

「アーサー、お前は油断が多くて背後からの攻撃に弱い。それに魔物に対しての知識がなさすぎる。弱点がどことか考えたことないだろ」
「うん。弱点とかあったんだ…」
「小さいからまだ力が弱いし未熟なところは多いが、体力、防御力、それに戦闘のセンスが抜群だ。欠点を補って余りある」

 次に、アデーレがモニカに話しかける。

「モニカ、あなたは魔力のコントロールができていない。超火力の攻撃は得意だけど、狙ったところだけにダメージを与えるような繊細な攻撃はまだできないわね?」
「うん…」
「そのままだとメンバーにも攻撃が当たってしまう危険性があるから練習が必要よ。でも、あなたが使える魔法の種類、火力、そしてなにより魔力量には驚いてばかりだったわ。その上エリクサーを作れるってことは回復魔法も使えるんでしょ。魅力しかないわ」

 アデーレが獲物を狙うかのような目でモニカをじっと見つめた。

「Fクラスの中ではトップクラスだと思う。その上薬師。なにかあったときに処置してもらえるのは、かなりありがたい」

 双子は目を見合わせた。必要としてくれるのはとても嬉しい。だが…

「お誘いは嬉しいんだけど。今は二人で色んなことをしてまわりたいんだ」
「本当にうれしいの!でも、ごめんなさい」

 大人三人はしゅんとしたが、すぐに立ち直ったイェルドが手を叩いて暗くなりそうな雰囲気を食い止めた。

「そうだよな!お前たちはまだ小さいし、やりたいこともいっぱいあるもんな!お前たちが大人になったときにまた声かけるから、その時もう一回考えてみてくれ!」
「うん!ありがとう、イェルド!」

 イェルドはアデーレとベニートに視線を移した。

「ま、アーサーとモニカ抜きにしてもさ。俺ら三人もなかなか良くなかったか?めっちゃ戦いやすかったし、楽しかったんだけど!」
「確かに。私たち三人も相性かなりよかったわよね」
「まあな。……じゃあ、俺たち三人でパーティ組むか?」

 ベニートの提案に、アデーレとイェルドがニッと笑った。

「その提案、待ってた」
「よっしゃぁ~!!」

 アーサーとモニカはパーティ結成の瞬間を目にして「わー!!」と興奮した。小さい手で必死に拍手をして、おめでとう!おめでとう!と自分たちのことのように喜んだ。

「三人で難しいクエストの時はお前たちに声をかけるから、来れそうな時だけでいいから手伝ってほしい」
「もちろん!」

 新たにできた冒険者仲間に感謝と敬意を込めて、5人は改めて乾杯をした。

 ◇◇◇

 翌日、宿に伝書インコが飛んできた。

 《クエストカンリョウショウメイショウ トリニキテクダサイ》

「ギルドからだ!」
「良かった!ちゃんと9割以上センメツできてたんだ!」

 アーサーとモニカは走ってギルドに向かった。
 クエスト受付に行くと、ちょうどイェルドが報酬を受け取っていた。二人に気付いたイェルドが「よっ!」と挨拶をした。

「アデーレとベニートは?」
「もう受付済ませたらしいぞ。今回のクエスト完了で、ベニートがEクラスになったらしい」
「すごい!」
「アーサーさん、モニカさん、こちらへどうぞ」

 受付嬢に呼ばれたので、イェルドが手を振ってギルドを出た。双子は受付嬢に元気に挨拶をした。

「こんにちは!」
「こんにちは。早速ですが、ダンジョン掃討おつかれさまでした。初めての合同クエストはいかがでしたか?」
「みんなすっごく優しくて、強くて、血がおいしかった!」

 アーサーが元気に答えると、受付嬢が「え?」と引いた声を出した。モニカが慌ててチムシーのことを説明すると、受付嬢はホッと胸をなでおろした。

「そうでしたか。ダンジョンの中で一体何をしていたのかと思いましたよ。二人とも他のメンバーに助けられましたね」
「うん!本当に、いっぱい助けてもらった」
「さて、今回の報酬ですが、金貨10枚を2人分。合わせて20枚をお渡しします。そして今回は特別なクエストでしたので、クエスト完了証明書を5枚ずつ、合計10枚のお渡しとなります」
「え!そんなに?」
「はい。ダンジョン掃討はかなり危険なクエストなので」

 アーサーとモニカはおおはしゃぎで金貨と証明書を受け取った。
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