上 下
586 / 718
北部編:王城にて

真夜中の来客

しおりを挟む
ヴィクスが近衛兵を雇った数日後、裏S級冒険者がこっそり彼を訪れた。

夜中二時。ヴィクスが眠る暗い寝室の窓がカタリと微かな音を立てて開く。彼の瞼がそっと開き、驚く様子もなく起き上がる。

「遅かったね」

「すみません。色々と後始末してまして」

「そう。……こっちに来てくれるかい」

「はい」

ヴァラリアとマルムがベッドの前で跪くと、ヴィクスが口を開いた。

「ひとまず、お疲れ様」

「どうも」

「失敗したって?」

「はあ。五年も待っててくれてたのにすみません。回収できたのはこれくらいです」

ヴァラリアは、アーサーとモニカのアイテムボックスを地面に置いた。血の痕がべっとりと付いたそれを手に取り、ヴィクスはちらりと彼を見る。

「中身はそのままだろうね?」

「はい。結構いいもん入ってましたけどね。銅貨一枚盗ってませんよ」

「信用するよ。それにしても、マルムがいたにもかかわらず失敗なんて。どうして?」

頭を掻くヴァラリアの隣で、マルムが淡々と報告する。

「モリアが異国の魔法具を所持していました。それは彼女の体に憑依して、計算外の行動を取りました。それで逃げられました」

「君たちが逃がすなんて、信じられない」

「僕も信じられませんよ。反魔法液も使ったし、アウスに魔物の魂魄もしっかり飲ませた。どうして逃げられたのか見当もつかないです」

「彼らは闇オークションに参加していたそうだよ」

ヴィクスの言葉に、ヴァラリアが顔を歪めて地面を殴りつける。

「やっぱりあいつらか……! 子ども二人がペンダントを買い取ったって報告があったんすよ」

「うん。つまり君たちは、彼らの生け捕りにも、ペンダントをこちらに買い取らせることにも失敗したということだよ」

「弁明の余地もないです」

無表情で応えるマルムに、ヴィクスは静かな笑みを浮かべ足を組んだ。

「今回は許してあげる。国王には、彼らの暗殺に成功したと言ってあるから」

「え……」

「あ、ありがたいですけど、虚偽の報告をしたってことですか……」

「ああ。今回の失敗が国王に知られたら、さすがの君たちでも処刑は免れないからね」

ヴィクスがそう言うと、ヴァラリアがチッと舌打ちをする。

「……処刑なんか素直に受け入れるわけないだろうが。こっちには――」

小さな声でぼやくヴァラリアの腰に、マルムが素早くナイフを突き刺した。

「ってぇ! 何すんだマルム!」

「静かに。次期国王の前だよ」

「チッ……」

二人のやりとりに、ヴィクスがクスクスと笑う。

(だろうね。だから……)

「国王に知られる前に、君たちは自分の尻拭いをしてもらうよ」

「……と、言いますと?」

マルムの問いにヴィクスはすぐに応えず、アイテムボックスから丸めた紙を一枚取り出し、彼に渡す。
受け取ったマルムはそれに目を通し、「へえ」と口角を上げた。

「君たちに与えていた魂魄たちは育っているかい?」

「そうですね……。五年かけてずいぶん育てましたが、あともうしばらく待っていただいた方がいいです」

「分かった。じゃあそれらが育ちきったタイミングを見計らって出すよ」

何を?と紙を覗き込むヴァラリアに、ヴィクスが答える。

「君たちの巣……Sランクダンジョンの中でも最も凶悪であると言われている、バンスティンダンジョン掃討の指定依頼。依頼先はS級冒険者カミーユパーティとクルドパーティ」

「おおー! やっとこの時が来たんすね! 待ち侘びましたよ」

「元々いる魔物を繁殖させ続け、さらに魂魄蘇生による奇形種の魔物も今や溢れかえっています。ここに入った人は例えカミーユだって死ぬでしょうね」

「うん。王族にとって望ましくない動きをしているS級冒険者を処分してほしいんだ。王子と王女の盾となるだけでなく、教会の解体やその他王族が損をすることばかりするカミーユパーティ。それと、指定依頼での暗殺をせず、こっそり異国へ流しているクルドパーティもね。国王や臣下は気づいていないけど、僕の目はごまかせないよ。彼らが王族に反感を持っていることは明らかだ。そんなS級は危険な存在なだけだから、消して」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio
ファンタジー
 特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。  神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。 そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。 日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。    神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?  他サイトでも投稿しております。

伯爵家の次男に転生しましたが、10歳で当主になってしまいました

竹桜
ファンタジー
 自動運転の試験車両に轢かれて、死んでしまった主人公は異世界のランガン伯爵家の次男に転生した。  転生後の生活は順調そのものだった。  だが、プライドだけ高い兄が愚かな行為をしてしまった。  その結果、主人公の両親は当主の座を追われ、主人公が10歳で当主になってしまった。  これは10歳で当主になってしまった者の物語だ。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!

町島航太
ファンタジー
 ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。  ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。