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北部編:イルネーヌ町
ちゃらんぽらん?
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オーガを倒し終え、アーサーとモニカは黙々と素材を回収した。マデリアとサンプソンは素材回収に参加せず、また酒瓶を広げて駄弁っている。
「素材回収は弟子の仕事。これもいい鍛錬になるから、頑張りなさい」
「ゆっくりしてたら時間がもったいないよ。二時間で終わらせてね」
「「ひぃぃ!」」
今まで素材回収に制限時間を設けられたことなんてなかったので、双子は大慌てでオーガを解体する。と言っても、モニカにオーガの肉を切り開く力はなかったので、力仕事はほとんどアーサーがしなければいけなかったが。
「こらアーサー。雑になってきてるわよ。素材は丁寧に扱いなさい」
「は、はいぃぃ……っ」
オーガの肉が硬かったからというのもあるが、いつもより力が入らない。
「はぁっ……はぁっ……」
結局、素材回収を終えたのは三時間後だった。体中血みどろになったアーサーとモニカは、ふらふらになりながらサンプソンとマデリアの元へ戻る。彼らの足元には、空瓶が六本転がっていた。
「終わりましたぁ……」
「あなららち、よっぽど素材回収に慣れれないのね」
「あははは! 二人ともオーガの血で真っ赤だね~! そんな君たちもかわいいよ~!」
酔っているのか、マデリアの呂律が少し怪しいし、サンプソンがいつも以上に陽気だ。
疲れ果てた双子には、彼らにツッコみを入れる元気もなかった。
だが、彼らがただ酒を飲んでいたわけではないとすぐに分かった。
双子が素材回収をしている間、この空間に足を踏み入れようとした魔物を(酒を飲みながら)倒してくれていたようで、奥へ通じる道には約五十体のオーガの死体が横たわっていた。
死体の山を見上げてぽかんと口を開けているアーサーとモニカに、マデリアが千鳥足で近づく。
「素材回収に夢中で気付いてなかっらでしょう? 気を付けなさい? 魔物は待っれくれないんだから」
「というわけで、君たちは引き続きこの五十体のオーガを解体してね~! 大丈夫! 今度は僕たちも手伝うよ~。だって君たち、素材回収がびっくりするほどノロマなんだもん! あはは~!」
「「……」」
なんだろう、この、頼りになるけど、とっても不安になる二人は……と、双子は心の中で思った。
今思えばカミーユたちは安定感があったな、とも思った。
それからもS級冒険者の泥酔っぷりは見事なもので、オーガの目玉をくり抜くときにスポーンと空高く飛び上がったのを見てサンプソンは腹をかかえて大笑いをしたり、マデリアがオーガの死体の上で眠り始めたりした。
その割には双子のことをしっかり監視していたので、モニカがうとうとしたらマデリアからお仕置きの極小雷魔法が飛んできて、アーサーがサボッていたらサンプソンの矢が彼の足元に刺さった。
サボッているのがバレたアーサーが、頬を膨らませて愚痴をこぼす。
「うぅ……。ちゃらんぽらんなのかしっかりしてるのかハッキリしてほしいよ……!」
近くで作業をしていたモニカも同意する。
「ほんとよ! つかめない人たちだわ……」
合計八十体のオーガを解体した双子が思いの外疲弊していたので、ひとまず休憩をすることになった。
マデリアが氷魔法で通路を塞ぎ、魔物が入ってこないようにする。その間にサンプソンがスープを作ってくれた。双子は空腹を満たし、硬い床の上で仮眠をする。サンプソンは念のためと言って見張りに立った。
三時間後、サンプソンが寝ているメンバーをそっと起こす。
「アーサー、モニカ。起きて。そろそろ移動するよ」
「うーん……」
「移動する前に、この子たちの体を洗うわ。不衛生だもの」
酔いが冷めたマデリアが、血まみれになった双子の体を温かい水魔法で洗ってくれた。アーサーの裸を見て「んふっ」と変な笑みを零していたが、アーサーは気にせずボーッと遠くを眺めているだけだった。
体と防具を洗い、新しい服を身に付けた双子と一緒に、マデリアとサンプソンは奥へ進む。
次の空間には、トロールがうじゃうじゃと棲息していた。身長は約四メートルとオーガよりもずっと大きい。歯を剥きだしにして、のろのろと歩く禿げ頭の巨人は気味が悪かった。
立ちすくむ双子の肩に、サンプソンが手を載せる。
「大丈夫。ちょっと大きくて皮がかたくて生命力が強いだけだよ。知能が低いしノロいから、そんなに怖がることなんてないさ」
「ええ。攻撃を受けたら全身の骨が砕けるでしょうけど、避けたらいいだけだもの」
「「……」」
彼らが言っていた通り、トロールは動きがかなり鈍かった。アーサーにとっては避けることは安易だったが、巨体が棍棒を振り上げるのを見てモニカは毎回恐怖で固まってしまう。そしてキャーッと大声で叫び、まわりにいるトロール数体を、近くにいるアーサーもろとも風魔法で吹き飛ばしてしまうのだ。
何度目かは分からない吹き飛ばしに、アーサーは慣れた様子でひょいと着地し、何事もなかったかのようにトロールに攻撃をしかける。
モニカの魔法の威力とアーサーの適応能力の高さに、マデリアとサンプソンは舌を巻いた。
「素材回収はノロマだけど、やっぱり二人とも一級品ね」
「うん。モニカ、大丈夫なのかな。あんなに魔法を無駄打ちして」
「大丈夫でしょう。彼女の魔力、まだまだあるわ」
「へえ、すごい。あれで回復魔法も一流なんでしょ? 反則技だよ」
「天は愛する者に二物を与えるのよ」
「だから人に憎まれ奪われたんだね」
「つまらないわね。そんな世の中なんて」
感情が高ぶったせいか、マデリアが杖を一振りすると、その空間にいたトロールが全員バタリと地面に倒れこんだ。彼女は「あっ」と口に手を当てて、バツが悪そうにサンプソンに目をやる。
「手元が狂ったじゃない。これじゃ、アーサーとモニカの訓練にならないわ。あなたのせいよ、サンプソン」
「大丈夫。トロールなんてこれからウジャウジャ出てくるしね」
「素材回収は弟子の仕事。これもいい鍛錬になるから、頑張りなさい」
「ゆっくりしてたら時間がもったいないよ。二時間で終わらせてね」
「「ひぃぃ!」」
今まで素材回収に制限時間を設けられたことなんてなかったので、双子は大慌てでオーガを解体する。と言っても、モニカにオーガの肉を切り開く力はなかったので、力仕事はほとんどアーサーがしなければいけなかったが。
「こらアーサー。雑になってきてるわよ。素材は丁寧に扱いなさい」
「は、はいぃぃ……っ」
オーガの肉が硬かったからというのもあるが、いつもより力が入らない。
「はぁっ……はぁっ……」
結局、素材回収を終えたのは三時間後だった。体中血みどろになったアーサーとモニカは、ふらふらになりながらサンプソンとマデリアの元へ戻る。彼らの足元には、空瓶が六本転がっていた。
「終わりましたぁ……」
「あなららち、よっぽど素材回収に慣れれないのね」
「あははは! 二人ともオーガの血で真っ赤だね~! そんな君たちもかわいいよ~!」
酔っているのか、マデリアの呂律が少し怪しいし、サンプソンがいつも以上に陽気だ。
疲れ果てた双子には、彼らにツッコみを入れる元気もなかった。
だが、彼らがただ酒を飲んでいたわけではないとすぐに分かった。
双子が素材回収をしている間、この空間に足を踏み入れようとした魔物を(酒を飲みながら)倒してくれていたようで、奥へ通じる道には約五十体のオーガの死体が横たわっていた。
死体の山を見上げてぽかんと口を開けているアーサーとモニカに、マデリアが千鳥足で近づく。
「素材回収に夢中で気付いてなかっらでしょう? 気を付けなさい? 魔物は待っれくれないんだから」
「というわけで、君たちは引き続きこの五十体のオーガを解体してね~! 大丈夫! 今度は僕たちも手伝うよ~。だって君たち、素材回収がびっくりするほどノロマなんだもん! あはは~!」
「「……」」
なんだろう、この、頼りになるけど、とっても不安になる二人は……と、双子は心の中で思った。
今思えばカミーユたちは安定感があったな、とも思った。
それからもS級冒険者の泥酔っぷりは見事なもので、オーガの目玉をくり抜くときにスポーンと空高く飛び上がったのを見てサンプソンは腹をかかえて大笑いをしたり、マデリアがオーガの死体の上で眠り始めたりした。
その割には双子のことをしっかり監視していたので、モニカがうとうとしたらマデリアからお仕置きの極小雷魔法が飛んできて、アーサーがサボッていたらサンプソンの矢が彼の足元に刺さった。
サボッているのがバレたアーサーが、頬を膨らませて愚痴をこぼす。
「うぅ……。ちゃらんぽらんなのかしっかりしてるのかハッキリしてほしいよ……!」
近くで作業をしていたモニカも同意する。
「ほんとよ! つかめない人たちだわ……」
合計八十体のオーガを解体した双子が思いの外疲弊していたので、ひとまず休憩をすることになった。
マデリアが氷魔法で通路を塞ぎ、魔物が入ってこないようにする。その間にサンプソンがスープを作ってくれた。双子は空腹を満たし、硬い床の上で仮眠をする。サンプソンは念のためと言って見張りに立った。
三時間後、サンプソンが寝ているメンバーをそっと起こす。
「アーサー、モニカ。起きて。そろそろ移動するよ」
「うーん……」
「移動する前に、この子たちの体を洗うわ。不衛生だもの」
酔いが冷めたマデリアが、血まみれになった双子の体を温かい水魔法で洗ってくれた。アーサーの裸を見て「んふっ」と変な笑みを零していたが、アーサーは気にせずボーッと遠くを眺めているだけだった。
体と防具を洗い、新しい服を身に付けた双子と一緒に、マデリアとサンプソンは奥へ進む。
次の空間には、トロールがうじゃうじゃと棲息していた。身長は約四メートルとオーガよりもずっと大きい。歯を剥きだしにして、のろのろと歩く禿げ頭の巨人は気味が悪かった。
立ちすくむ双子の肩に、サンプソンが手を載せる。
「大丈夫。ちょっと大きくて皮がかたくて生命力が強いだけだよ。知能が低いしノロいから、そんなに怖がることなんてないさ」
「ええ。攻撃を受けたら全身の骨が砕けるでしょうけど、避けたらいいだけだもの」
「「……」」
彼らが言っていた通り、トロールは動きがかなり鈍かった。アーサーにとっては避けることは安易だったが、巨体が棍棒を振り上げるのを見てモニカは毎回恐怖で固まってしまう。そしてキャーッと大声で叫び、まわりにいるトロール数体を、近くにいるアーサーもろとも風魔法で吹き飛ばしてしまうのだ。
何度目かは分からない吹き飛ばしに、アーサーは慣れた様子でひょいと着地し、何事もなかったかのようにトロールに攻撃をしかける。
モニカの魔法の威力とアーサーの適応能力の高さに、マデリアとサンプソンは舌を巻いた。
「素材回収はノロマだけど、やっぱり二人とも一級品ね」
「うん。モニカ、大丈夫なのかな。あんなに魔法を無駄打ちして」
「大丈夫でしょう。彼女の魔力、まだまだあるわ」
「へえ、すごい。あれで回復魔法も一流なんでしょ? 反則技だよ」
「天は愛する者に二物を与えるのよ」
「だから人に憎まれ奪われたんだね」
「つまらないわね。そんな世の中なんて」
感情が高ぶったせいか、マデリアが杖を一振りすると、その空間にいたトロールが全員バタリと地面に倒れこんだ。彼女は「あっ」と口に手を当てて、バツが悪そうにサンプソンに目をやる。
「手元が狂ったじゃない。これじゃ、アーサーとモニカの訓練にならないわ。あなたのせいよ、サンプソン」
「大丈夫。トロールなんてこれからウジャウジャ出てくるしね」
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