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北部編:イルネーヌ町
サンプソンとアーサー
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手招きをされて、アーサーはサンプソンのあとをついて行った。マデリアとモニカが立っている場所から一番離れた壁まで移動すると、サンプソンは弓を構える。
「アーサー、僕たちはこっちにいるオーガを十五体倒すよ。剣と弓、どちらで戦いたい?」
「せっかくサンプソンさんがいてくれてるから、弓で戦いたいな!」
「分かった。カトリナほど上手じゃないけど、教えられることは全て教えるよ」
よく言うよ、とアーサーはクスッと笑った。確かにサンプソンは、カトリナよりもパワーは劣るが、射撃速度は彼女よりも速い。彼がカトリナに負けず劣らず優秀なアーチャーであることは、S級冒険者であることからも明らかだった。
アーサーの視線に気付き、サンプソンはごまかすように口角を上げ、弓を構えた。
「アーサー、君、合宿の時に五本同時に矢を射ることを練習していたよね。できるようになった?」
「うーん。精度も威力もまだまだだけど、Fランクダンジョンまでなら通用するかなー」
「へえ、すごいね。僕にはできないことだ」
「サンプソンさんは力より速さ特化って感じだもんね!」
「そう。だから……」
「!」
トト、と音がしたかと思えば、離れた場所で魔物の悲鳴が聞こえた。目をこらすと、倒れた魔物の胸に十八本の矢が刺さっている。隣でお喋りをしていたアーサーでさえ、サンプソンがいつ十八本もの矢を射たのか分からなかった。
口をあんぐり開けているアーサーに、サンプソンはウィンクをする。
「僕は連射が得意なんだ」
「今のは……何連射……?」
「三本六連射」
「……すごい」
カトリナでさえ、三本四連射までしかできない。アーサーは隣で立っているS級冒険者の凄まじさを目の当たりにして、背筋がゾクゾクした。
「カトリナはパワー型。僕はスピード型。カトリナと僕は共通点が多いけど、正反対のところはもっと多いんだ。……そうでなくとも、もうカトリナは僕に口説き落とされてなんてくれないんだけどね」
サンプソンといると、例えそこが戦場でも、まるで木漏れ日の下で紅茶を啜っているような雰囲気になる。アーサーはオーガに矢を射ながら、サンプソンの雑談に付き合った。
「サンプソンさんは、カトリナのことが好きなのー?」
「ああ、好きだよ。愛している。だってあれほど美しくて強い女性なんて、他にいないだろう?」
「マデリアさんも、きれいで強いよぉ?」
「残念ながら、彼女は好みじゃないんだよ。だって僕と似ているから」
「?」
二人のどこが似ているのだろうと考えている間に、サンプソンはカトリナの魅力をとつとつと語っていた。
「カトリナは性格も素晴らしい。貴族でありながら、庶民の為にアーチャーという職業を捨てて冒険者になったことも、彼女らしい決断だった」
「うんうん! カトリナってかっこいいよねー」
「はあ、どうしてカトリナは振り向いてくれないんだろう。僕だってこんなに美しいのに」
アーサーは月下のことを思い出し、クスクスと笑った。自分のことを堂々と美しいと言うことも、好きな人に振り向いてくれなくてしょんぼりしているところも、彼にそっくりだったからだ。
「きっと、カトリナが好きな〝美しい〟と、サンプソンさんの〝美しい〟が違うんだと思うよ」
思いの外まともなことを言うアーサーに、サンプソンがぽかんと口を開けた。
「驚いた。恋愛のれの字もしらないような素振りをしているのに、こんなにマトモな返しをしてくるなんて。君、もしかして実は手練れなのかい?」
「ううん。僕は全然分からないけど、そういう人を見たことがあったから」
「そうなのか。それで、その人は好きな人と結ばれたのかい?」
「ううん! 好きな人の血肉を食べて、そのせいで死んじゃったー」
「……」
興味津々で聞いていたサンプソンの目が虚ろになった。
それに気付かないアーサーは、月下に思いを馳せて懐かしむように言葉を続ける。
「でもね、僕はその人のことをきれいだと思ったよ。悪いことはいっぱいしてたけど、とってもきれいだなーって思った!」
「ふむ。善悪の区別がつかない純粋な子どもの感性は興味深いね」
「アーサー、僕たちはこっちにいるオーガを十五体倒すよ。剣と弓、どちらで戦いたい?」
「せっかくサンプソンさんがいてくれてるから、弓で戦いたいな!」
「分かった。カトリナほど上手じゃないけど、教えられることは全て教えるよ」
よく言うよ、とアーサーはクスッと笑った。確かにサンプソンは、カトリナよりもパワーは劣るが、射撃速度は彼女よりも速い。彼がカトリナに負けず劣らず優秀なアーチャーであることは、S級冒険者であることからも明らかだった。
アーサーの視線に気付き、サンプソンはごまかすように口角を上げ、弓を構えた。
「アーサー、君、合宿の時に五本同時に矢を射ることを練習していたよね。できるようになった?」
「うーん。精度も威力もまだまだだけど、Fランクダンジョンまでなら通用するかなー」
「へえ、すごいね。僕にはできないことだ」
「サンプソンさんは力より速さ特化って感じだもんね!」
「そう。だから……」
「!」
トト、と音がしたかと思えば、離れた場所で魔物の悲鳴が聞こえた。目をこらすと、倒れた魔物の胸に十八本の矢が刺さっている。隣でお喋りをしていたアーサーでさえ、サンプソンがいつ十八本もの矢を射たのか分からなかった。
口をあんぐり開けているアーサーに、サンプソンはウィンクをする。
「僕は連射が得意なんだ」
「今のは……何連射……?」
「三本六連射」
「……すごい」
カトリナでさえ、三本四連射までしかできない。アーサーは隣で立っているS級冒険者の凄まじさを目の当たりにして、背筋がゾクゾクした。
「カトリナはパワー型。僕はスピード型。カトリナと僕は共通点が多いけど、正反対のところはもっと多いんだ。……そうでなくとも、もうカトリナは僕に口説き落とされてなんてくれないんだけどね」
サンプソンといると、例えそこが戦場でも、まるで木漏れ日の下で紅茶を啜っているような雰囲気になる。アーサーはオーガに矢を射ながら、サンプソンの雑談に付き合った。
「サンプソンさんは、カトリナのことが好きなのー?」
「ああ、好きだよ。愛している。だってあれほど美しくて強い女性なんて、他にいないだろう?」
「マデリアさんも、きれいで強いよぉ?」
「残念ながら、彼女は好みじゃないんだよ。だって僕と似ているから」
「?」
二人のどこが似ているのだろうと考えている間に、サンプソンはカトリナの魅力をとつとつと語っていた。
「カトリナは性格も素晴らしい。貴族でありながら、庶民の為にアーチャーという職業を捨てて冒険者になったことも、彼女らしい決断だった」
「うんうん! カトリナってかっこいいよねー」
「はあ、どうしてカトリナは振り向いてくれないんだろう。僕だってこんなに美しいのに」
アーサーは月下のことを思い出し、クスクスと笑った。自分のことを堂々と美しいと言うことも、好きな人に振り向いてくれなくてしょんぼりしているところも、彼にそっくりだったからだ。
「きっと、カトリナが好きな〝美しい〟と、サンプソンさんの〝美しい〟が違うんだと思うよ」
思いの外まともなことを言うアーサーに、サンプソンがぽかんと口を開けた。
「驚いた。恋愛のれの字もしらないような素振りをしているのに、こんなにマトモな返しをしてくるなんて。君、もしかして実は手練れなのかい?」
「ううん。僕は全然分からないけど、そういう人を見たことがあったから」
「そうなのか。それで、その人は好きな人と結ばれたのかい?」
「ううん! 好きな人の血肉を食べて、そのせいで死んじゃったー」
「……」
興味津々で聞いていたサンプソンの目が虚ろになった。
それに気付かないアーサーは、月下に思いを馳せて懐かしむように言葉を続ける。
「でもね、僕はその人のことをきれいだと思ったよ。悪いことはいっぱいしてたけど、とってもきれいだなーって思った!」
「ふむ。善悪の区別がつかない純粋な子どもの感性は興味深いね」
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