上 下
562 / 718
北部編:イルネーヌ町

あいつらのことは、信じてやってくれ

しおりを挟む
「まあとにかく、俺たちはヴィクス王子からお前ら暗殺の指定依頼を受けていた。だが、王子はこんなんだからな。信頼なんてできねえ。そんな時に、カミーユがお前らを守ろうと必死になってやがっただろ? 慣れねえ弟子なんて取ってまで、将来お前らを守るための戦力を準備してたしな」

「え……」

「なんだ? 聞いてなかったのか。まあ、俺らも直接聞いたわけじゃねえが。お前らと歳が近い、お前らと面識のある子どもを、わざわざ自分らから声をかけて弟子に取るなんて、それしか考えらんねえだろ。……俺としては、俺の可愛い可愛いダフを、そんな危険なことに巻き込もうとしてるあいつらに腹が立つ気持ちもあるが……」

「……」

「さっきも言ったが、俺らは王族よりもカミーユたちのことを信用してる。だから、お前らの正体に気付いても暗殺は遂行しなかった」

 モニカは震える声で、クルドに尋ねる。

「……クルドは、カミーユたちがわたしたちの味方だと思う……?」

「ああ? 当り前だろ。あいつらの顔見たか? お前ら二人のことを見てる時だけ顔つきが全然違ったぜ。あのジルでさえ、目に入れても痛くねえって顔してやがった。お前らのためなら死んでもいいって、カミーユパーティ全員が腹を括ってるな、あれは」

「……ぅう~……」

 モニカが泣き出してしまった。アーサーは彼女の抱きしめて、背中を優しくさする。

 突然泣き出したモニカに面食らったクルドは、ギョッとして固まっている。

「おわっ!? なんで泣くんだ!? 泣くなオイ!」

「でもねっ、あのね……ジルとそっくりの人が、わたしたちを殺そうとしたのぉ~……」

「ジルとそっくりの人……?」

「ジルと、顔も、声もそっくりで……武器は槍でぇ……」

 心当たりがあるのか、クルドパーティが目配せをしている。

「……」

「裏S級冒険者だって言ってたぁ~……」

「裏……S級……?」

「なんだそれは」

 聞き慣れない言葉に、クルドとブルギーは首を傾げた。「何か知ってるか?」とミントやマデリアに視線を向けるが、二人ともかぶりを振っている。

「聞いたことがないよ~……」

「この国に、そんな存在が……」

「僕も聞いたことがないな。でも、〝裏〟とつくものに良いものはないだろうね」

 サンプソンはそう言ってため息をついた。

「……思っていたより、結構まずい事態になってるんじゃない?」

「だな。……まあ、これだけは言える。モニカ、そいつはジルじゃない」

「ほんと……?」

 グスグスと泣くモニカの肩に、クルドが優しく手を載せて頷く。

「ああ、本当だ。俺がそう断言できる理由は、俺の口じゃなくて本人から聞くべきだから今は言わねえが。だが絶対にジルじゃねえ。だから泣くな。な?」

 クルドのゴツゴツした指が、モニカの目じりをそっとなぞる。モニカは小さく頷き、彼の手を握った。

「ありがとう、クルド。ここで、あなたたちに会えて良かった……」

「俺らも、お前らを拾えてよかった。たまたま俺らがこのタイミングで帰って来られたのは、神からの思し召しだったのかもな」

 その日から、双子はクルドパーティのアジトで生活させてもらえることになった。

 ミントは、薄着で体が冷え切っているアーサーとモニカを風呂に入れ、山盛りの料理を作ってお腹いっぱい食べさせた。金欠でここのところずっと空腹を感じていた双子は、久しぶりに思う存分食事が出来たことが嬉しくて少しだけ泣いた。

しばらくして、サンプソンとマデリアが双子のために温かい服を買ってきたのだが、どうも彼らの好みが滲み出ていたので、クルドとブルギーが彼らを叱りつけていた。しかし双子にとっては、今より温かければデザインなんてどうでも良かったので、喜々として身に付けた。
しおりを挟む
感想 494

あなたにおすすめの小説

誰も要らないなら僕が貰いますが、よろしいでしょうか?

伊東 丘多
ファンタジー
ジャストキルでしか、手に入らないレアな石を取るために冒険します 小さな少年が、独自の方法でスキルアップをして強くなっていく。 そして、田舎の町から王都へ向かいます 登場人物の名前と色 グラン デディーリエ(義母の名字) 8才 若草色の髪 ブルーグリーンの目 アルフ 実父 アダマス 母 エンジュ ミライト 13才 グランの義理姉 桃色の髪 ブルーの瞳 ユーディア ミライト 17才 グランの義理姉 濃い赤紫の髪 ブルーの瞳 コンティ ミライト 7才 グランの義理の弟 フォンシル コンドーラル ベージュ 11才皇太子 ピーター サイマルト 近衛兵 皇太子付き アダマゼイン 魔王 目が透明 ガーゼル 魔王の側近 女の子 ジャスパー フロー  食堂宿の人 宝石の名前関係をもじってます。 色とかもあわせて。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

ぬいぐるみばかり作っていたら実家を追い出された件〜だけど作ったぬいぐるみが意志を持ったので何も不自由してません〜

望月かれん
ファンタジー
 中流貴族シーラ・カロンは、ある日勘当された。理由はぬいぐるみ作りしかしないから。 戸惑いながらも少量の荷物と作りかけのぬいぐるみ1つを持って家を出たシーラは1番近い町を目指すが、その日のうちに辿り着けず野宿をすることに。 暇だったので、ぬいぐるみを完成させようと意気込み、ついに夜更けに完成させる。  疲れから眠りこけていると聞き慣れない低い声。 なんと、ぬいぐるみが喋っていた。 しかもぬいぐるみには帰りたい場所があるようで……。     天真爛漫娘✕ワケアリぬいぐるみのドタバタ冒険ファンタジー。  ※この作品は小説家になろう・ノベルアップ+にも掲載しています。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。