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魂魄編:闇オークション
思い出した憎しみ
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絶句しているモニカに構わず、ロイアーサーは言葉を続けた。
「次に、モニカさんの髪を出品させることだけど……。これは僕も不思議だな。だって殺すならまだしも、ヴァランスは生け捕りにしろって命令されていたでしょ? だったら瀕死の君たちを王城へ連れて行けばいいだけだと思うんだけどな……。それとも、君たちも魔物の魂魄を管理している城へ閉じ込めようとしていたとか?」
「考えられるわね……。国王と王妃はわたしたちのことが大嫌いだし、王城に入れたくなくて当然かも。……でも、だったら生け捕りになんてしないで殺せばいいのにね。殺されたくないけど」
「……君たちの能力を利用しようとしてたのかもね」
「……」
「実際、アーサーはS級魔物の魂魄を憑依させられた。強い魔物が憑依した、基礎能力値が異常なまでに高いアーサーなんて、立派な戦争兵器になりえるよ。……かつてのお父さまみたいに、ね」
ゾッとする話に背筋が凍る。
「モニカさんのことは、その魔法能力値を利用したかった……。特に回復魔法を、かな。だったら君に魔物の魂魄を憑依させずに生け捕りにした理由も頷ける」
「……今まで散々ひどいことしてきて、死なないからって森に捨てて、それで今度は戦争兵器にさせようと?ほんと、ふざけてるわね」
モニカはぎろりと国王と王妃を睨みつけた。過去のことを忘れて興味を失っていたが、今の彼女の瞳には、両親に対する憎しみが燃え盛っている。
「許せないわ。アーサーをこんな風にして。闇オークションなんて反吐が出そうなイベントを黙認して楽しんで。わたしたちを、民たちを馬鹿にするにもほどがある。それに加担してるヴィクスもヴィクスだわ。ヴィクスはわたしたちのこと大好きなんじゃないの? なのにどうしてこんなことをするの? 意味が分からない。会ったときはいっぱい説教しなくちゃ」
「説教で治るとは思えないけどね。ヴィクス王子はウィルク王子よりも血が通っていないという噂だよ」
「……あの子が歪んでしまったのなら、それは母さまのせいだわ。あの子はいつも泣いてた。いつかきっと、わたしとアーサーで、元の優しいヴィクスに戻してみせる」
「歪んだものは、元には戻らないよ。モニカさん」
僕やお父さまのように、と呟いた彼の声は、モニカの耳には届かなかった。
◇◇◇
「……おい」
「ん?」
ぷんぷんしながら舞台に目を戻したモニカにタールが声をかける。彼は頬杖をついたまま、目も合わせずにボソボソと話す。
「今の話、冗談だよな?」
「え? なにが?」
「ロイとしてた話だよっ。 国王と王妃がお前たちを戦争兵器にするとかなんとか……」
聞かれているとは思っていなかったモニカは、冷や汗をかきながら首と手を振った。
「ううん!? そ、そそそ、そんな話してないよ!?」
「いや普通に聞こえてたし。それにさっきお前、王妃のこと……」
「気のせいだよ!?」
「銀色の髪……灰色の瞳……」
「き、気のせいだってば!!」
それでタールが納得するはずもなく、モニカを問い詰めようと口を開いた。しかしモニカの隣でロイアーサーが眼光の鋭い目で威圧していたので、「……まあ、どうでもいいけど……」と言って、そこからは黙り込んだ。
安堵のため息を漏らすモニカに、ロイアーサーが小声で謝る。
「ごめんね。タールがいることをすっかり忘れちゃってたよ」
「わ、わたしもー……」
「あまり人前でする話じゃなかったね」
「うん……」
「あとでタールにはしっかり口止めしておくから、心配しないで」
「……ひどいことしちゃだめよ?」
「あはは。しないよ、たぶんね」
「たぶんじゃだめ」
「はい、しません。(たぶん)」
それからは、モニカもロイアーサーも会話をせずに競りを眺めていた。
モニカの髪は、最終的に白金貨300枚で競り落とされた。
その後もオークションは続いた。やはり人や魔物のように生きているもののときの方が競りが盛り上がるが、ハーフエルフの少女よりも高値がつくことはなかった。
平気で生きているものに鞭を振るうルリンも、生きているものを競り落とす観客も、それを楽しげに見物している国王と王妃も、モニカにとっては全てが気分の悪くなるものだった。
早く終われ、早く終われ、とモニカは頭の中で繰り返す。
競り落とされて泣き叫ぶ子どもたちの悲痛な声が、幼い頃の自分を思い出して、胸の中がぐちゃぐちゃになった。
「次に、モニカさんの髪を出品させることだけど……。これは僕も不思議だな。だって殺すならまだしも、ヴァランスは生け捕りにしろって命令されていたでしょ? だったら瀕死の君たちを王城へ連れて行けばいいだけだと思うんだけどな……。それとも、君たちも魔物の魂魄を管理している城へ閉じ込めようとしていたとか?」
「考えられるわね……。国王と王妃はわたしたちのことが大嫌いだし、王城に入れたくなくて当然かも。……でも、だったら生け捕りになんてしないで殺せばいいのにね。殺されたくないけど」
「……君たちの能力を利用しようとしてたのかもね」
「……」
「実際、アーサーはS級魔物の魂魄を憑依させられた。強い魔物が憑依した、基礎能力値が異常なまでに高いアーサーなんて、立派な戦争兵器になりえるよ。……かつてのお父さまみたいに、ね」
ゾッとする話に背筋が凍る。
「モニカさんのことは、その魔法能力値を利用したかった……。特に回復魔法を、かな。だったら君に魔物の魂魄を憑依させずに生け捕りにした理由も頷ける」
「……今まで散々ひどいことしてきて、死なないからって森に捨てて、それで今度は戦争兵器にさせようと?ほんと、ふざけてるわね」
モニカはぎろりと国王と王妃を睨みつけた。過去のことを忘れて興味を失っていたが、今の彼女の瞳には、両親に対する憎しみが燃え盛っている。
「許せないわ。アーサーをこんな風にして。闇オークションなんて反吐が出そうなイベントを黙認して楽しんで。わたしたちを、民たちを馬鹿にするにもほどがある。それに加担してるヴィクスもヴィクスだわ。ヴィクスはわたしたちのこと大好きなんじゃないの? なのにどうしてこんなことをするの? 意味が分からない。会ったときはいっぱい説教しなくちゃ」
「説教で治るとは思えないけどね。ヴィクス王子はウィルク王子よりも血が通っていないという噂だよ」
「……あの子が歪んでしまったのなら、それは母さまのせいだわ。あの子はいつも泣いてた。いつかきっと、わたしとアーサーで、元の優しいヴィクスに戻してみせる」
「歪んだものは、元には戻らないよ。モニカさん」
僕やお父さまのように、と呟いた彼の声は、モニカの耳には届かなかった。
◇◇◇
「……おい」
「ん?」
ぷんぷんしながら舞台に目を戻したモニカにタールが声をかける。彼は頬杖をついたまま、目も合わせずにボソボソと話す。
「今の話、冗談だよな?」
「え? なにが?」
「ロイとしてた話だよっ。 国王と王妃がお前たちを戦争兵器にするとかなんとか……」
聞かれているとは思っていなかったモニカは、冷や汗をかきながら首と手を振った。
「ううん!? そ、そそそ、そんな話してないよ!?」
「いや普通に聞こえてたし。それにさっきお前、王妃のこと……」
「気のせいだよ!?」
「銀色の髪……灰色の瞳……」
「き、気のせいだってば!!」
それでタールが納得するはずもなく、モニカを問い詰めようと口を開いた。しかしモニカの隣でロイアーサーが眼光の鋭い目で威圧していたので、「……まあ、どうでもいいけど……」と言って、そこからは黙り込んだ。
安堵のため息を漏らすモニカに、ロイアーサーが小声で謝る。
「ごめんね。タールがいることをすっかり忘れちゃってたよ」
「わ、わたしもー……」
「あまり人前でする話じゃなかったね」
「うん……」
「あとでタールにはしっかり口止めしておくから、心配しないで」
「……ひどいことしちゃだめよ?」
「あはは。しないよ、たぶんね」
「たぶんじゃだめ」
「はい、しません。(たぶん)」
それからは、モニカもロイアーサーも会話をせずに競りを眺めていた。
モニカの髪は、最終的に白金貨300枚で競り落とされた。
その後もオークションは続いた。やはり人や魔物のように生きているもののときの方が競りが盛り上がるが、ハーフエルフの少女よりも高値がつくことはなかった。
平気で生きているものに鞭を振るうルリンも、生きているものを競り落とす観客も、それを楽しげに見物している国王と王妃も、モニカにとっては全てが気分の悪くなるものだった。
早く終われ、早く終われ、とモニカは頭の中で繰り返す。
競り落とされて泣き叫ぶ子どもたちの悲痛な声が、幼い頃の自分を思い出して、胸の中がぐちゃぐちゃになった。
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