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魂魄編:闇オークション

闇オークション会場

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冷たい闇が空を覆う。白い息を吐きながら、モニカは空を見上げた。澄んだ夜空には眩い星がちりばめられている。なぜか、その日は特に美しく、切なく感じた。流れる星でさえ、アーサーの命の灯が消えることを示唆しているかのように思える。

「モニカさん」

ロイアーサーが、ぼんやりと空を見上げるモニカの手を握った。モニカは我に返り無理に明るい声を出す。

「んっ、なあに?」

「星、見てたの?」

「うん。きれいだなーって」

「綺麗だね。空だけは、100年前と変わらない」

寒空の下で突っ立っている子どもが二人に増えてしまい、タールはため息を吐きながら、彼らの背中を押して馬車に乗りこませた。

4時間馬車を走らせると、枯れ木が立ち並ぶ廃墟へたどり着いた。そこが今日の、闇オークション会場らしい。
屋敷の門には、他にも馬車が並んでいた。こだわりがあるのか、ほとんどが黒い毛並みをした馬だった。

タールは慣れた足取りで馬車を降り、モニカとロイアーサーに合図をした。
降りる前に、モニカは仮面の位置を整えて帽子を深く被った。そしてロイアーサーと手を繋ぎながら、おそるおそる門をくぐる。

「参加費を」

屋敷の入り口で立っていた男性が、ステッキで三人を制止させてそう言った。
モニカがポケットに手を差し込んだ時にはもう、タールが三人分の参加費を支払っていた。参加費を受け取った男性は、ハッとしてタールに会釈をした。

「これは……ヴァンク家の」

「おい。名指しするとは何事だ?」

「し、失礼いたしました」

「気を付けろ」

「はいっ」

男性を叱りつけたあと、タールはモニカの髪束と黒い小箱を手渡し、耳元で囁いた。男性は目を見開いて髪束に目をやったが、すぐにタールへ向き直り訝し気な表情を浮かべている。しばらく彼とタールはやり取りをしていたが、最終的には「ヴァンク家のご子息様がおっしゃるのであれば……」と男性が頷き、敷地内へ通してくれた。

タールはモニカとロイアーサーを手招きして屋敷の中へ入った。
会場入り口は地下だそうで、長い螺旋階段を降りていく。ゆらゆらと揺れるロウソクの光が薄気味悪かった。

地下には大きな両開きの扉があった。中はヴィンヤード型(※)のホールに繋がっていた。
タールはスタスタと歩き、中央よりも少し後ろの席に腰かけて足を組んだ。モニカたちにも隣へ座るよう合図する。
モニカはカチコチになりながら、タールとロイアーサーの間へ座った。
(ヴィンヤード型:段差を設けて配置された、客席がぐるりと舞台を取り囲む型のコンサートホール)

モニカはちらりとタールを盗み見た。
学院では特段目立つことはなかったし、太陽が昇らない日に出会ったときも覇気がなく、セルジュの城で数日過ごしたときも無口であまり存在感がなかった。
しかし闇オークションの時の彼は、どこか活き活きとしていて、威厳を感じた。

モニカの視線を感じたタールが、仮面越しに彼女を覗き込む。

「ん? どうしたモニカ」

「あっ、う、ううん。なんでもないの」

「そうか」

そんな彼らを眺めていたロイアーサーは、頬杖をつきながらボソリと呟いた。

「やっぱり、君はここが一番の居場所なんだね」
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