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魂魄編:闇オークション

どちらが本当の僕

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ロイアーサーはその時のことを思い出し、自嘲的に笑った。

「モニカさん。人ってね、幸せになればなるほど我儘になってしまうんだ」

「……ちょっと、分かるかも」

「ね。僕はお父さまのお城で過ごしてる毎日がしあわせだった。これ以上ないほどしあわせだったんだ。でもね、100年間もずっと同じ生活を過ごしていると、その凹凸のない平和な毎日が、段々とつまらなく感じたんだ。

そのことをお父さまに打ち明けると、一緒に学院へ行こうと誘ってくれた」

「どうして学院へ?」

モニカの質問に、ロイアーサーは首を傾げた。何を当たり前のことを聞いているんだとでも言いたげな顔をしている。

「どうして、って……。もちろん、ミモレスの生まれ変わりに会うためにだよ」

「あ……」

「お父さまは何百年もの間、ミモレスの生まれ変わりに会うために生きてたんだ。お父さまは彼女の願いを叶えたかった。”生まれ変わったミモレスとお父さまで、医院をしたい。片田舎でなんでもない幸せな日々を過ごしたい”っていう、彼女の願いを」

「セルジュ先生……」

「だから、お父さまと僕は学院へ行った。学院にはジュリア王女とウィルク王子がいたから、お父さまは彼らの血を確かめたかった。……はじめのうちはね。そのあとの出来事は、君が知っている通りだよ」

「……」

「それで、学院へ行って僕は、はじめて見た目が同い年の人間と友だちになった。それが、マーサとグレンダ」

「3人は同学年だったもんね」

「うん。それまで僕は、人間のことを餌としか思ってなかった。……でも僕は、吸血鬼になる前の記憶を失ってたんだ。つまり人間が僕にしたことを忘れてた。
だから、マーサとグレンダと仲良くなっていくうちに、自分も人間になりたいって思うようになった。
そして、本当は人間は良い人で、吸血鬼が悪者なんじゃないかって考えるようになった。
それから僕は、自分が吸血鬼であることがいやになって……人間になりたくて、血を飲むのをやめた」

ロイアーサーの声がだんだんと小さくなっていく。

「その時の僕は、お父さまを憎んでた。僕を吸血鬼にしたお父さまを……。今思うと、本当に、恩知らずな行為だった……。僕は……無理やり血を飲ませるお父さまに、何度も何度も”死ね”と言った……」

モニカは唇を噛んだ。かける言葉が、見当たらない。

「でもね、やっぱりお父さまが正しかったんだ。
モニカさんは知らなかったと思うけど、僕の体には、幼少期に付けられた虐待の痕が残ってた。
それをタールたちに見つかって、そこからいじめが始まったんだ。痛いこと、いっぱいされた」

「学院で……そんなことが……」

「学院にも腐った家系の貴族の子どもがたくさんいるからね。普段はみんな、猫を被ってるけど」

「……」

「僕がいじめられてるって知ったお父さまは激怒した。あんなに罵詈雑言を吐いた僕のためのことも、許してくれた。やっぱり僕にはお父さましかいないんだって、実感した。そこから始まったんだ。吸血鬼事件が」

「生徒たちを誘拐したのね」

「うん。誘拐した子たちはみんな、僕をいじめてた子たち。ジュリア王女とウィルク王子、そして君たちは特別だったんだ。お父さまはアーサーとモニカさんが、アウス王子とモリア王女だということに気付いていた。だから、誘拐した」

過去を話し終えたロイアーサーは、深いため息をつき、申し訳なさそうにモニカに微笑みかけた。

「長くなってごめんね。さっき、君が尋ねたこと……生徒としての僕と、吸血鬼事件のとき僕、どっちが本当の僕だって質問の答えはつまりね。どっちも僕なんだ。僕の生きてきた道、環境が、どちらの僕も生み出したんだ」

もしロイが貴族にいじめられていなかったら……。生徒たちにいじめられていなかったら……。
ロイはきっと、優しい人のままだっただろう。それを変えたのは、悪意に満ちた人間。

モニカに同情に満ちた目で見つめられ、ロイアーサーは肩をすくめる。

「でも、僕も結局タールたちにひどいことをしたから。お互い様だよ」

「あの……ロイ?」

「ん?」

「その、タール……に助けを求めてよかったの……? 会うの、いやなんじゃない……?」

「え? ううん。全然いやじゃないよ」

ロイアーサーはケロっとして笑った。

「タールは特別。チムシーに寄生させたタールと僕は仲良しだったから。地下にいるときは、いつもじゃれあってたんだ。吸血欲が満たされず、正気を失い、言葉と理性を忘れた彼は、従順な犬のように僕に懐いてた。だから僕も彼のことがかわいく思えてきてさ。僕は、むしろ早くタールに会いたいと思ってるよ」

「そ、そう……」

ロイアーサーの最後の言葉に、モニカは内心ゾッとしていた。
正気を失わせた人間を、ペットのようにかわいがっていたというロイ。彼はやはり、どこか壊れている。

だが、彼は今では唯一の味方だ。信じるしかない、とモニカは小さく頷いた。
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