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画廊編:4人での日々
一片の黄緑色
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「お兄さま」
「おや? 戻って来たのかい」
ヴィクスの部屋に戻って来たジュリアの肩には、古びた大きめのアイテムボックスがかけられていた。彼女は再びソファに腰を下ろし、アイテムボックスから2枚の絵画を取り出した。
銀髪の少年が笑っている絵と、銀髪の少女が絵を描いている絵。
ヴィクスは目を見開き、絵をそっと指でなぞった。
「これは……」
「ある町で購入しました。こちらの絵のモデルはアウス様。描いたのはモリア様ですわ。そしてこちらの絵のモデルはモリア様。描いたのはクロネという画家です」
「どちらも素敵だね」
その時、はじめてヴィクスの目に光がともった気がした。愛おしそうに2枚の絵画を眺め、口元を緩めている。
ジュリアは目を泳がせ、モゴモゴと呟く。
「えーっと、仕方ないので……1枚差し上げますわ」
ヴィクスは驚いて顔を上げ、妹の顔を見た。
ジュリアは照れくささを隠すためか、怒っているようにも聞こえる口調で早口に言った。
「さすがにこのままでしたら、お兄さまは近いうちに死んでしまいますわ。そうなると私が時期国王にならないといけないんですもの。そんなの、まっぴらごめんです。こんなややこしい時に国王なんて。なので、お兄さまには生きていていただかないと困るんです。迷惑なんです」
「ふふ」
「だから、この絵でお兄さまに少しでも元気になるのでしたら、安いものですわ。ですが、壁に飾るのはおやめください? 私だってこの絵はどちらも気に入っているんです。失くしたくはないので」
「……」
「さあ、早く選んでくださいません? どちらでも好きな方をどうぞ」
ジュリアは2枚の絵画を兄にグイグイ押し付けた。
ヴィクスはクスっと笑い、しばらく絵画を眺めたあと、少年の絵を手に取った。
「……まあ、そちらでしょうね」
「ああ。モリアお姉さまが描いた、アウス様がモデルの絵画。こちらがいいな」
「分かりましたわ。では、そちらをどうぞ。いいですか。くれぐれも、大切にしてください」
「約束する」
それからジュリアはそそくさと部屋を出て行った。
ヴィクスは両手で絵画を持ち、隅々まで眺める。
「驚いた。お姉さまにこのような才能がおありだったとは。素晴らしい」
「あ、ヴィクスお兄さま」
部屋を出たはずのジュリアが、ドアから顔をのぞかせた。ヴィクスが彼女に視線を向けると、ジュリアはニッと笑って指を振った。
「その絵画を差し上げたのですから、私のお願いを聞いてくださいまし」
「なんだい?」
「今後何があっても、トロワ町にだけは手を出さないでください」
「トロワ……。彼らが時たま足を運んでいる町だね。どうしてだい」
「素晴らしい町だからですわ。たとえ世界戦争が起きたとしても、あの町だけは守ってください」
「それは難しいが……。分かったよ。できるだけ守るし、手は出さないと約束する」
「ありがとうございます。では、おやすみなさい」
「おやすみ。……ジュリア」
「はい?」
「ありがとう」
ヴィクスはそう言って微笑んだ。先ほどからずっと、箍が外れたように、彼の瞳からポトポトと涙が流れている。それに彼は気付いていないようだった。
ジュリアは微笑みを返さない。ムスッとした顔を背けるだけだった。
「……人は、死ぬために生きるのではありませんわ、お兄さま。死ぬときに、死にたくないと思うために、生きるのです」
「……」
「お互い、悔いの残らないよう生きていきましょう。死んでしまったら、何もできなくなるのだから」
そう言い残して、彼女はそっとドアを閉めた。
ヴィクスは小さく笑い、ソファにもたれかかった。
「それは……とても難しいな」
「おや? 戻って来たのかい」
ヴィクスの部屋に戻って来たジュリアの肩には、古びた大きめのアイテムボックスがかけられていた。彼女は再びソファに腰を下ろし、アイテムボックスから2枚の絵画を取り出した。
銀髪の少年が笑っている絵と、銀髪の少女が絵を描いている絵。
ヴィクスは目を見開き、絵をそっと指でなぞった。
「これは……」
「ある町で購入しました。こちらの絵のモデルはアウス様。描いたのはモリア様ですわ。そしてこちらの絵のモデルはモリア様。描いたのはクロネという画家です」
「どちらも素敵だね」
その時、はじめてヴィクスの目に光がともった気がした。愛おしそうに2枚の絵画を眺め、口元を緩めている。
ジュリアは目を泳がせ、モゴモゴと呟く。
「えーっと、仕方ないので……1枚差し上げますわ」
ヴィクスは驚いて顔を上げ、妹の顔を見た。
ジュリアは照れくささを隠すためか、怒っているようにも聞こえる口調で早口に言った。
「さすがにこのままでしたら、お兄さまは近いうちに死んでしまいますわ。そうなると私が時期国王にならないといけないんですもの。そんなの、まっぴらごめんです。こんなややこしい時に国王なんて。なので、お兄さまには生きていていただかないと困るんです。迷惑なんです」
「ふふ」
「だから、この絵でお兄さまに少しでも元気になるのでしたら、安いものですわ。ですが、壁に飾るのはおやめください? 私だってこの絵はどちらも気に入っているんです。失くしたくはないので」
「……」
「さあ、早く選んでくださいません? どちらでも好きな方をどうぞ」
ジュリアは2枚の絵画を兄にグイグイ押し付けた。
ヴィクスはクスっと笑い、しばらく絵画を眺めたあと、少年の絵を手に取った。
「……まあ、そちらでしょうね」
「ああ。モリアお姉さまが描いた、アウス様がモデルの絵画。こちらがいいな」
「分かりましたわ。では、そちらをどうぞ。いいですか。くれぐれも、大切にしてください」
「約束する」
それからジュリアはそそくさと部屋を出て行った。
ヴィクスは両手で絵画を持ち、隅々まで眺める。
「驚いた。お姉さまにこのような才能がおありだったとは。素晴らしい」
「あ、ヴィクスお兄さま」
部屋を出たはずのジュリアが、ドアから顔をのぞかせた。ヴィクスが彼女に視線を向けると、ジュリアはニッと笑って指を振った。
「その絵画を差し上げたのですから、私のお願いを聞いてくださいまし」
「なんだい?」
「今後何があっても、トロワ町にだけは手を出さないでください」
「トロワ……。彼らが時たま足を運んでいる町だね。どうしてだい」
「素晴らしい町だからですわ。たとえ世界戦争が起きたとしても、あの町だけは守ってください」
「それは難しいが……。分かったよ。できるだけ守るし、手は出さないと約束する」
「ありがとうございます。では、おやすみなさい」
「おやすみ。……ジュリア」
「はい?」
「ありがとう」
ヴィクスはそう言って微笑んだ。先ほどからずっと、箍が外れたように、彼の瞳からポトポトと涙が流れている。それに彼は気付いていないようだった。
ジュリアは微笑みを返さない。ムスッとした顔を背けるだけだった。
「……人は、死ぬために生きるのではありませんわ、お兄さま。死ぬときに、死にたくないと思うために、生きるのです」
「……」
「お互い、悔いの残らないよう生きていきましょう。死んでしまったら、何もできなくなるのだから」
そう言い残して、彼女はそっとドアを閉めた。
ヴィクスは小さく笑い、ソファにもたれかかった。
「それは……とても難しいな」
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