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画廊編:4人での日々

ポルの母親

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アーサー、モニカ、ジュリア、ウィルクが滞在しているとき、一人の女性がトロワを訪れた。門の前でオロオロしている彼女に気付いたモニカは、彼女に見覚えがあったので声をかけた。

「あの…ポルの、お母さん…ですよね?」

「!」

女性はビクッとして振り返り、怪訝な顔でモニカを見た。彼女の顔と印象的な銀髪、華やかな服に顔をしかめる。

「ああ。あんた…ポルを白金貨1枚で買った…」

「こ、こんにちは。どうされましたか?」

「ポルはどこ?会わせて」

命令口調にムッとしながらも、モニカは彼女を児童養護施設へ案内した。ポルは食堂で、ウィルクと小突き合いをしながら食事をとっていた。今では彼らは仲の悪い兄弟のようだった。

「……」

ポルの母親は、ポルの姿を見て立ちすくんだ。楽し気に友人とじゃれ合いながら、質素ではあるが栄養のある料理を食べている。彼女はふらふらと食堂の中へ入り、ポルの前で立ち止まった。心配だったモニカがこっそりついて行こうとしたが、母親に「ついてくるな」と言われてしまったので、少し離れた場所で見守っていた。

「おい、あんた」

「?…!!」

振り返ったポルはパッと顔を輝かせた。

(母さんだ…!どうして母さんがここに!?もしかして迎えに来てくれたの?嬉しい。母さんにも、弟たちにも、今なら話せることがたくさんあるんだ。で、でも、どうしよう。アヴルに帰ってもここ以上に稼げないだろうし、それに、もうここにいる人たちと会えなくなる…。どうしよう…)

溢れる気持ちに言葉が出てこない。ポルは口をパクパクさせながら立ち上がり、母親とハグをしようと両手を広げた。

「っ…」

だが、母親はハグを返してくれなかった。その代わりに息子の頬を叩き、しかめっ面で睨みつけている。ポルは頭が真っ白になり、痛みが走った頬に手を添えることしかできなかった。

「良いご身分だねえ!」

「…?」

「あんた、こんな良い服着て。こんな良い飯食って。何様のつもりだ」

「……」

「この様子じゃあ、仕送り。もっとできんだろう。金貨18枚ぽっちじゃ足りないんだよ」

「…ごめんなさい」

「さ、残ってる金出しな」

「…今、ない。部屋にある…」

「部屋?自分の部屋まであんのかい!ふざけるんじゃないよ!!」

「っ…」

再び母親が手を振り上げた。ポルは目を瞑ったが、なかなか平手打ちが飛んでこない。おそるおそる目を開けると、母親の手首をウィルクが掴んでいた。

「自分の子どもに向かって手を上げるとは。母親失格だな」

「ウィリー…」

ウィルクはこめかみに青筋をピキピキと立てながら、ポルを庇うように彼の前へ立った。
モニカが助けに行こうとしたが、彼女の肩をジュリアが掴み、首を横へ振った。
母親は逆上してウィルクを怒鳴りつける。

「子ども風情が大人に向かって偉そうな口を聞くんじゃないよ!!」

「悪いが僕にとって、年齢は人を敬う要素に入っていない。子に手を上げる親をなぜ敬う必要がある」

ウィルクは鼻で笑い、母親の手首を掴んている手に力を入れた。

「うっ…」

「呆れた大人がいるものだな。ここの大人たちは、血のつながりがない子どもにすら愛情を注ぐというのに、きさまは血の繋がりのある子にさえ愛情を注ぐことができないのか。その上、子どもに金をせびるなど。愚かしすぎて笑ってしまう」

「うるさい!!恵まれたあんたらにはあたしの気持ちなんて分からないだろう!!」

「ふん。自分が恵まれてないと言いたいのか。その髪質と肌質で?」

「っ…」

「きさま、金がないわけではないんだろう。美容に金をかける余裕があるのだから。…まあ、服は質素だが」

「うる…っさいわねぇ…!あんた、何様だ!?人さまの家の事情に口を挟むんじゃないよ!!それだけ偉そうな口利くってことは、さぞかしご身分が高いんだろうねえ!!」

彼女の厭味ったらしい口ぶりにウィルクは黙り込んだ。さすがのジュリアもこの質問を答えさせてはいけないと思い、ウィルクの元へ駆け寄った。しかし、間に合わなかった。

「…僕は」

「ウィリー、だめよ!正体を明かしては…」

「ただのウィリーだ。他の何者でもない」

「!」

「ウィルク…」

ウィルクの言葉に、モニカはじわっと瞳を滲ませた。

「だが、ポルのことは弟のように思っている。彼を傷つけるものは、例え実の親であっても許さない」

「うるっさいっ!!!」

逆上した母親がウィルクの頬を思いっきり引っぱたいた。ウィルクの唇が切れ、血が滲む。ウィルクは血をぺろりと舐めながら、高圧的な笑みを浮かべた。

「先に手を出したのはきさまだ。言っておくが僕は剣技も弓技も一流だが…続けるか?」

そう言って、ウィルクはアイテムボックスから剣を覗かせた。母親は「ヒッ」と恐怖の声をあげ、あとずさる。踵を返そうとした彼女の手首をウィルクが掴んだ。

「待て」

「なっ、なによ!!武器なんて卑怯だよ!!やってられないから帰るんだ!!」

「ポルが何か言いたそうにしている。話くらい聞いてやれ。そのくらいは愚かな母親にでもできるだろう」

「チッ」

ウィルクは母親の手首を掴みながら、ポルを自分の前に立たせた。ポルは静かに泣いていた。母親と向き合った彼は、おそるおそる母親を見上げた。

「母さん…」

「なんだ」

「弟たちは、元気?」

「…まあね。金があればもっと元気になるんだけどね」

「母さんは、元気?」

「…まあね」

「よかった…」

「……」

「俺、ここに来て思ったことがあるんだ。俺にもっと、弟たちみたいに可愛げがあったら…母さんにも愛されたのかなって」

「……」

「ほんとは、寂しかった。俺も母さんとおでかけしたかったし、弟たちともっと遊びたかった」

「……」

「かわいくなくてごめん…。俺、ここでいっぱい働くから。働いて、母さんも弟たちも好きなことをして過ごせるくらい、お金持ちにしてあげるから」

「……」

「今は少ないかもしれないけど、もっと稼げるようにがんばるから」

「……」

「俺は、ここで幸せに過ごしてるよ。心配…しないで…」

ポルの言葉がだんだんと小さくなっていく。ここに来てからずっと、母親に会ったら言おうと考えていた言葉なのだろう。心配なんてされていないことが分かっても、ポルは考えていた通りの言葉しか言えなかった。

言いたかったことを言い終えたポルは、腕で目をこすりながらウィルクの手を握った。ウィルクはその小さな手を握り返し、母親の手首を離す。母親は、逃げるようにトロワの町を去っていった。

「ウィリー…ありがとう」

「すまなかったな。勝手に口を出して」

「ううん。嬉しかった」

ウィルクは目を泳がせ、ぎこちない手つきでポルの頭を撫でた。ポルはウィルクの腰にギュッと抱きつき、呟いた。

「俺、ウィリーのこと、兄ちゃんみたいだって思ってた」

「そ、そうか」

「だからウィリーも俺のこと、弟みたいに思ってくれてたの、嬉しい」

「あ、ああ」

「ウィリー。だいすき」

「……」

きゅ、とウィルクの喉が締まった。彼のことを「だいすき」だと言ってくれたのは、今までアーサーとモニカしかいなかった。愛情を注がれることに慣れていない彼にとって、手放しに愛情表現されることは、広大な領地を与えられることよりも心に響くことだった。

「ぼ、僕もだポ…」

「もちろんアーサーの次にだけどな」

「……」

「へへっ」

目を真っ赤にしながら、そしてウィルクの服で鼻水を拭いながらポルは笑った。ウィルクはフンッとそっぽを向き、大声でこう返す。

「ああ!僕だってお兄さまのことが一番好きさ!!同じくらいモニカお姉さまとヴィクスお兄さまのことも好きだ!!彼らの次にお前だポル!!」

「…ちょっと、どうして私の名前が入っていないのよ…」

ジュリアがジトッとした目でひとりでに呟いたが、口元はほのかに微笑んでいた。
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