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画廊編:4人での日々
天然人たらし再来
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それから1時間後、様子を見に来たジュリアが、モニカが手足を縛られて床に転がされているのを見て絶叫した。すやすやと気持ちよさそうに寝ている少年3人を叩き起こし、正座をさせてこっぴどく説教をした。特に叱られたのはアーサーで、なぜケンカを止めずにスヤスヤ寝たのかのかと問いただされた。説教が終わると、ジュリアはウィルクの耳を掴み、自分たちの部屋へ連れて行った。数時間後部屋から出てきたウィルクの頬には、くっきりと複数の手形が残っていた。
ジュリアの説教から解放されたアーサーは、アビーの姿に戻ってからモニカと一緒に大人たちに画廊求人の話をしにいった。まだ職についていなかった女性たちは、画廊の待遇の良さにお喜びして手を挙げた。
「私が行きたい!!」
「私も!!」
「みんなを雇いたいのはやまやまなんだけど、今回は4人しか募集してないんだ」
「だから、特に絵に興味をある人に来てもらうわ。絵やジッピンの文化について、たくさん勉強してもらわないといけないから」
たくさん勉強しなければいけない、という言葉に数人が手を下ろした。トロワには字を読めない人たちも多い。勉強をするには文字を読み書きできるところから始めなければいけない。彼女たちにとってそれは、かなりハードルが高かった。
そんな彼女たちを見てアーサーはぼんやり考え事をした。
(うーん。やっぱり文字を読み書きできるようになるのは大切だよね。大人のひとたちも、子どもたちも。…学校とか建てられたらいいんだけど…簡単なことだけでも教育できるような…)
最終的に選ばれたのは、トロワ美術館で絵を観ることが日課になっていた一人と、文字が読み書きできる二人、読み書きはできないが勉強したいと熱意が高かった一人だった。彼女たちは早速、双子がルアンへ帰るときについていくことになった。
「ルアンなんて、き、緊張するわ…」
「こんな服で行っても冷やかされないかしら…」
「うう、役立たずって追い返されたらどうしよう…」
「ああ、私もやっとお給金がもらえるのね!がんばらないと」
三人は不安で押しつぶされそうに、一人はやる気満々で早く働きたくてしょうがない、という様子だった。双子は画廊のオーナーが優しい人だから安心するようにと落ち着かせてから、子どもたちが薬素材を作っている様子を見に行った。
◇◇◇
「アーサー様。少しお話が」
「ん?」
薬素材を作っている子どもたちにアドバイスをしているアーサーに、ジュリアが声をかけた。手招きをされて部屋の隅まで行くと、ジュリアが声を落として話す。
「トロンのことはご存じですわよね」
「もちろん!」
「彼が美容液を自作していたことは?」
「えー!?それは知らなかった!妙に髪と肌ツヤがいいなあとは思ってたけど…」
「ええ。そこでなのですが。単刀直入に申し上げますわ。彼には才能があります。彼に支援をお願いします」
「分かった!!」
「……」
まだ具体的な話をひとつもしていないのに…とジュリアは苦笑いをした。
「…アーサー様にお願いしたいのは、素材費用の支援と、研究協力です。彼は今、自分で稼いだお金で美容液の素材を購入しています。なので、使える素材に限度があります。ただ、私が彼に開発してほしいのは、安価で質の良い美容液ですわ。なのであまり大きな額は渡さないでください」
「ってことは、どのくらいがいいんだろう…」
「トロンはどのくらいお給金を?」
「えっと、トロンは薬素材を作ってくれてるから、だいたい月に金貨20枚くらいかな」
(子どもで金貨20枚…大金じゃないの!ポントワーブで暮らす大人の平均月額収入と同じだわ)
「…分かりました。でしたら毎月金貨30枚の支援をお願いします」
「分かった!」
「あとは、定期的に彼が開発した美容液をアーサー様が確認して、よりよくなるようアドバイスや薬調合をお願いしたいですわ」
「もちろん!うわー、ジュリアありがとう!そんなことまで考えてくれて!!」
たった2日トロワに滞在しただけにもかかわらず、ジュリアは住民の才能を発掘して伸ばそうとしてくれている。アーサーはそれに感動した。思わずジュリアに抱きつき、頬ずりをしながら頭を撫でる。ジュリアはカチコチにかたまっていた。
「さ、才能がある人が埋もれてしまうのは見ていられませんからねっ」
「さすがジュリア!ジュリアのそういうところが大好きなんだ、僕」
「~~~…っ。そ、そんなことを言うから、学院で”天然たらし”なんて呼ばれているんですっ!」
「ぷぁっ!」
恥ずかしすぎて、ジュリアがアーサーの頬を引っぱたいた。ジュリアの心臓がバクバクと脈打っている。早く治まれと胸を叩きながら、よろよろと壁に手をついた。
「まったく…。モニカ様も大変ですわねっ。こんなお兄さまをお持ちになって!」
「ええ~…。僕そこまでひどいことした…?」
「ええ、しましたわ。あなたはもう少し女性というものを勉強した方がいいです。こんなのでは、結婚してもすぐに誤解が生まれて逃げられてしまますわよっ」
「え?ううん。そんなことなるわけないよ」
「あら。強気ですわね。確かにアーサー様のような素晴らしい容姿と性格を持つ男性を手放すことはなかなかできないですが、たかをくくっていたら痛い目を見ますわよ?」
「ううん。そういうのじゃなくて。僕、結婚する気ないから」
「あら」
「僕にはモニカとジュリアがいるからね。それで充分」
アーサーはそう言ってニパっと笑った。ジュリアはかぁぁ…っと顔を真っ赤にして、もう一度アーサーを引っぱたいてどこかへ走り去ってしまった。
「ぷぁっ!」
(も…もう!!どうしてあんなことを平然と言えるんでしょう!!私は妹だと分かっているから誤解なんてしないけれど…!しないけれど!!分かっていなかったら明日には挙式でしたわ!!アーサー様のばか!叶わない恋なんてさせないでくださいまし!!)
ジュリアの説教から解放されたアーサーは、アビーの姿に戻ってからモニカと一緒に大人たちに画廊求人の話をしにいった。まだ職についていなかった女性たちは、画廊の待遇の良さにお喜びして手を挙げた。
「私が行きたい!!」
「私も!!」
「みんなを雇いたいのはやまやまなんだけど、今回は4人しか募集してないんだ」
「だから、特に絵に興味をある人に来てもらうわ。絵やジッピンの文化について、たくさん勉強してもらわないといけないから」
たくさん勉強しなければいけない、という言葉に数人が手を下ろした。トロワには字を読めない人たちも多い。勉強をするには文字を読み書きできるところから始めなければいけない。彼女たちにとってそれは、かなりハードルが高かった。
そんな彼女たちを見てアーサーはぼんやり考え事をした。
(うーん。やっぱり文字を読み書きできるようになるのは大切だよね。大人のひとたちも、子どもたちも。…学校とか建てられたらいいんだけど…簡単なことだけでも教育できるような…)
最終的に選ばれたのは、トロワ美術館で絵を観ることが日課になっていた一人と、文字が読み書きできる二人、読み書きはできないが勉強したいと熱意が高かった一人だった。彼女たちは早速、双子がルアンへ帰るときについていくことになった。
「ルアンなんて、き、緊張するわ…」
「こんな服で行っても冷やかされないかしら…」
「うう、役立たずって追い返されたらどうしよう…」
「ああ、私もやっとお給金がもらえるのね!がんばらないと」
三人は不安で押しつぶされそうに、一人はやる気満々で早く働きたくてしょうがない、という様子だった。双子は画廊のオーナーが優しい人だから安心するようにと落ち着かせてから、子どもたちが薬素材を作っている様子を見に行った。
◇◇◇
「アーサー様。少しお話が」
「ん?」
薬素材を作っている子どもたちにアドバイスをしているアーサーに、ジュリアが声をかけた。手招きをされて部屋の隅まで行くと、ジュリアが声を落として話す。
「トロンのことはご存じですわよね」
「もちろん!」
「彼が美容液を自作していたことは?」
「えー!?それは知らなかった!妙に髪と肌ツヤがいいなあとは思ってたけど…」
「ええ。そこでなのですが。単刀直入に申し上げますわ。彼には才能があります。彼に支援をお願いします」
「分かった!!」
「……」
まだ具体的な話をひとつもしていないのに…とジュリアは苦笑いをした。
「…アーサー様にお願いしたいのは、素材費用の支援と、研究協力です。彼は今、自分で稼いだお金で美容液の素材を購入しています。なので、使える素材に限度があります。ただ、私が彼に開発してほしいのは、安価で質の良い美容液ですわ。なのであまり大きな額は渡さないでください」
「ってことは、どのくらいがいいんだろう…」
「トロンはどのくらいお給金を?」
「えっと、トロンは薬素材を作ってくれてるから、だいたい月に金貨20枚くらいかな」
(子どもで金貨20枚…大金じゃないの!ポントワーブで暮らす大人の平均月額収入と同じだわ)
「…分かりました。でしたら毎月金貨30枚の支援をお願いします」
「分かった!」
「あとは、定期的に彼が開発した美容液をアーサー様が確認して、よりよくなるようアドバイスや薬調合をお願いしたいですわ」
「もちろん!うわー、ジュリアありがとう!そんなことまで考えてくれて!!」
たった2日トロワに滞在しただけにもかかわらず、ジュリアは住民の才能を発掘して伸ばそうとしてくれている。アーサーはそれに感動した。思わずジュリアに抱きつき、頬ずりをしながら頭を撫でる。ジュリアはカチコチにかたまっていた。
「さ、才能がある人が埋もれてしまうのは見ていられませんからねっ」
「さすがジュリア!ジュリアのそういうところが大好きなんだ、僕」
「~~~…っ。そ、そんなことを言うから、学院で”天然たらし”なんて呼ばれているんですっ!」
「ぷぁっ!」
恥ずかしすぎて、ジュリアがアーサーの頬を引っぱたいた。ジュリアの心臓がバクバクと脈打っている。早く治まれと胸を叩きながら、よろよろと壁に手をついた。
「まったく…。モニカ様も大変ですわねっ。こんなお兄さまをお持ちになって!」
「ええ~…。僕そこまでひどいことした…?」
「ええ、しましたわ。あなたはもう少し女性というものを勉強した方がいいです。こんなのでは、結婚してもすぐに誤解が生まれて逃げられてしまますわよっ」
「え?ううん。そんなことなるわけないよ」
「あら。強気ですわね。確かにアーサー様のような素晴らしい容姿と性格を持つ男性を手放すことはなかなかできないですが、たかをくくっていたら痛い目を見ますわよ?」
「ううん。そういうのじゃなくて。僕、結婚する気ないから」
「あら」
「僕にはモニカとジュリアがいるからね。それで充分」
アーサーはそう言ってニパっと笑った。ジュリアはかぁぁ…っと顔を真っ赤にして、もう一度アーサーを引っぱたいてどこかへ走り去ってしまった。
「ぷぁっ!」
(も…もう!!どうしてあんなことを平然と言えるんでしょう!!私は妹だと分かっているから誤解なんてしないけれど…!しないけれど!!分かっていなかったら明日には挙式でしたわ!!アーサー様のばか!叶わない恋なんてさせないでくださいまし!!)
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