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画廊編:4人での日々

寝ぼけてたんです!許して!!

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風が吹けば歩いている人たちが身を縮める冬の朝。その日のルアンは珍しく青い空が広がっていた。
良い夢を見たのかアーサーは布団の中でにやけている。寝返りをうつと、長い髪と柔らかい体が手に触れる。いつものように抱き寄せて、頬ずりしながら抱き枕がわりに足を乗せた。

「…ん?」

何かがおかしい、とアーサーはうっすら目を開けた。体の感触がちがう。なにかは分からないがいつもと違う。乗せた足がしっくりこない。…それに、抱き枕がぷるぷる震えている。ゆっくりと視線を落とすと、くすんだ金髪のつむじが見えた。

「……」

「……」

寝ぼけたアーサーの頭がなかなか働いてくれない。いくら考えてもなぜモニカの髪が銀色ではないかが分からず、アーサーは諦めて二度寝を試みた。

「……」

「……」

そ…、と抱き枕がアーサーの胸に手をついた。距離を取ろうと力を入れるので、むっとしたアーサーは相手の背中に手をまわし、ぐーっと怪力で抱き寄せる。力負けした抱き枕はアーサーの胸に頬と体を押し付けられる形になってしまった。アーサーは目を瞑りながらポンポンと背中を叩く。

「どうしたのモニカ。トイレに行きたいの?」

「……ま」

「ん?おもらししちゃう?」

「アーサー…さまぁ…」

「……」

アーサーは目を瞑ったまま固まった。モニカの声がいつもと違う。体つきもちがう。それどころか髪の色がちがう。

(これは…ひょっとして…モニカじゃないのでは…?)

現実を直視するのが恐ろしくて、アーサーは目を開けられずにいた。少しずつ覚めていく頭で考えても、今抱き寄せている女性が誰か見当もつかない。

(え?モニカじゃなかったら誰なの?昨日の記憶…だめだ遡っても心当たりがない。少なくとも僕が女の子を連れ込んだわけじゃない…よね?…よね?大丈夫だよね?)

考えれば考えるほどだんだん自信がなくなってきた。アーサーは目を瞑ったまま、おそるおそる女の子に声をかけた。

「あの…」

「はい…」

「どちらさまでしょうか…」

「……」

その質問に女性はしばらく答えなかった。その代わり、ひんやりとした冷気が体から放たれている。怒っている、と察したアーサーは、冷や汗を垂らしながら返事を待った。女の子はしょんぼりした声で呟いた。

「昨日はあんなに喜んでくださったのに…」

「……」

「あんなに優しくしてくださったのに…」

「待って!?僕いったい君になにしたの!?!?」

アーサーはそう叫びながら女の子の肩を掴み自分から引き離した。そこではじめて彼女の顔を見て、アーサーの時が止まった。

「……」

「……」

「…ジュリア?」

「…おはようございます、アーサー様」

ジュリアは顔を真っ赤にしながら微かに笑った。アーサーは口をパクパクさせ、寝衣姿の妹をまじまじと見る。目に見えているものを受け入れるのにかなりの時間がかかった。

「……」

「……」

「えーーーーーー!?どうしてここにいるの!?」

「あら…。本当に覚えてませんのね。昨日画廊に会いに行ったんです」

「画廊…?画廊…。画廊…!え?!あれ夢じゃなかったの!?」

「夢じゃありませんわ。でも本当に夢のようですわね。アーサー様とこうして一夜を過ごせるなんて、思いもしませんでした。ふふ」

「シー!こんなところモニカに見られちゃったら死んじゃうよ僕たち!!起こさないように!静かにしよう!!」

「…ずっと聞こえてるわよ」

「ひぅっ」

後ろから低い声が聞こえ、アーサーはガクガク震えながらうしろを向いた。見慣れた長い銀髪にホッとしながら、アーサーは死を覚悟した。

モニカもゆっくり振り向いた。その目はジトっとしていたが、殺意はそこまで高めではなかった。アーサーが首を伸ばすと、モニカの胸の中で真っ赤になっているウィルクが見えた。

「あ、ウィルクもいる!」

「お、おはようございます。おにいさま…」

「実は私もアーサーとウィルクを間違えてたの。でもウィルクが教えてくれたわ。昨日のは夢じゃなかったのね」

「信じられない…」

「あ、あの…。そろそろ離していただけますか…?私の心臓が爆発しそうですわ」

「あっ!ごめんねジュリア」

「おねえさま…。僕も…」

「そ、そうね!ごめんね!」

双子は抱きしめていた妹弟をぱっと離した。ジュリアとウィルクは慌てて起き上がり、逃げるようにベッドから出た。顔を紅潮させている二人につられ、双子も顔を赤らめている。黙り込んでしまったアーサーとモニカに、ジュリアが事情を話した。

「アーサー様、モニカ様。昨日はあなた方も私たちも冷静ではなかったので、まともにお話できませんでしたわね。私たち、ビアンナ先生の許可をいただいて、あなたたちの画廊へ遊びに来たんです」

「許可…」

ボソっと呟いたウィルクの背中をジュリアが思いっきりつねった。ウィルクは「ぎゃっ!」と猫のような叫び声をあげ、そこからは一言も話さなくなった。

「せっかくの機会ですので、お二人がよろしければ、しばらく滞在させていただきたいのですが…。よろしいでしょうか?」

「えー!!ほんと!?うれしい!!」

「もちろんだよー!!わーーー!!!」

「ああ、よかったですわ!」

「でも、僕たち朝と昼は画廊で働いてるよ。二人を退屈させちゃうかも」

「かまいませんわ。私もウィルクも、ルアンへ来るのははじめてなのです。観光したり、市民の様子を見たいですわ」

「二人だけで大丈夫なの…?」

「危険だよ」

「心配には及びません。実は、心配してくださったビアンナ先生とカーティス先生が善意で同行してくださっているのです。あなたたちが働いていらっしゃる間は、先生方と共に行動いたしますわ」

(善意…)

つらつらと嘘をつく姉にウィルクは死んだ魚の目になっている。人間って怖いな、と幼いながらに感じた。
内情を知らない双子はそれを聞いてホッとしていた。

「わー!それなら安心だね!僕たちも会いたいなあ!」

「先生方も、あなたたちの画廊に興味を示していらっしゃいましたわ。4人でうかがってもよろしいでしょうか?」

「もちろん!!うれしいー!!」

「あ!それとジュリア、ウィルク。わたしたち、今日からリーノのお屋敷で滞在することになってるの。オリバ男爵たちには二人がルアンに来てることを言ってもいい?」

「あら。それは助かりますわ。オリバ男爵は優秀な領主と有名ですもの。ご挨拶もかねて伺いたいです。それに、彼のお屋敷で私たちも滞在させていただけたら、危険も少なくありがたいですわね」

「よかった!じゃあ早速インコを飛ばしておくよ!」

「よろしくお願いいたします」

双子はオリバ男爵にインコを飛ばし、妹弟と朝食を食べた。4人で食事をしたのは久しぶりで、全員がニコニコしてしあわせそうだった。もっと一緒に時間をすごしたかったが、出勤時間になったので、双子は半泣きになりながら宿を出た。
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