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画廊編:再会
ニコロ来店
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領主の家族が画廊を訪れ、山ほど美術品を購入したという噂はたちどころに広がり、ルアンに住む裕福な人たちがこぞって来店した。また、貧しい人たちは異国の美術品を一目見ようとショーウィンドウから店内を覗きこんでいる。画家も双子も接客に大忙しで昼食をとる暇もない。裕福な町民はだいたいウキヨエを1~3枚購入し、大切に抱きかかえて店を出た。さすがに高価すぎるためキモノを購入した人はオリバ夫人以外いなかったが、お手頃価格の簪や雑貨はそこまで裕福でない人たちでも買えたので売れ行きはそこそこ順調だった。
開店4日目、ニコロが家族と画廊を訪れた。ニコロも双子の学友で、リーノと一緒に寮対抗戦の実況をしていた。賑やかなリーノとクールなニコロの実況は、生徒からも先生からも人気があった。彼は認めようとしないが、リーノとは無二の親友であり、卒業後も定期的に会って今でも絆を深めている。
そんなニコロも彼の両親も絵画に目がないらしく、ウキヨエを見てうっとりしていた。ニコロは特に葛餅白菜のウキヨエが気に入ったようで、自分のために2枚購入していた。彼の両親もウキヨエを5枚、簪2本、雑貨4点、キモノも一着購入してくれた。夫人は嬉しそうに包装されたキモノを受け取りヴァジーにコソコソ話をする。
「ふふ。嬉しいわ。ヒューム(リーノの母)に伝書インコで自慢されちゃって私も欲しかったの。次のお茶会には二人でキモノを着て行きましょうってお誘いしようかと思ってるのよ」
「それは素敵ですね。きっと注目の的になります」
「きっとそうよ。こんなドレス、バンスティン中を探したってここにしかないもの。ああ、今から楽しみ!」
「そのときはぜひ、簪をつけてください」
「もちろん!」
これは面白いことになってきたぞ、とヴァジーとカユボティは内心にやにやしていた。貴族女性の影響力は凄まじい。彼女たちがキモノでお茶会に出れば、今以上に画廊が繁盛するに違いない。
「あの」
「ん?」
ニヤニヤしていた画家にニコロが声をかけた。二人は慌てて背筋を伸ばし営業スマイルに戻る。
「どうされましたか?」
「あなたたちの絵はどこで買えますか?」
「…え?」
「画廊とかありますか?」
「……」
カユボティとヴァジーは口をあんぐり開けて目を見合わせた。こんなことを尋ねられたのははじめてだ。
「あー…。画廊は、ありません。アトリエはありますしそこで絵を見ていただくことはできますが…」
「そうですか。…父さん、母さん。寄り道したいところがあるんだけど」
「ええ、いいわよ。行きましょう行きましょう」
「…ご案内いたします!」
今アトリエにはちゃらんぽらんのクロネ(3日は風呂に入っていない)、わりとまともだが乳房に対する執念が異常なリュノ、女性をみたらナンパをせずにはいられないシスル、初対面の人はひとまず威嚇するエドガしかいないはずだと気付いたヴァジーは思わず大声を出した。
「カユボティ、店を頼んだよ」
「ああ、任せてくれ。…クロネたちをよろしく」
「ああ…」
自信なさげに頷き、ヴァジーは馬車を止めてニコロたちをアトリエまで連れて行った。双子はそんな彼らに手を振って見送った。ニコロの家族がクロネたちの絵を気に入ってもらえるといいねと話したあと、彼らはまた接客に戻った。
閉店間際、疲れ果てたヴァジーが画廊へ戻って来た。カユボティは閉店準備をほったらかして彼に駆け寄る。
「ど、どうだった…?!」
「…やはりダメだね。ニコロは僕たちの絵を気に入ってくれているみたいだけど、両親は不愉快そうな表情を浮かべていたよ」
「あー…」
「……」
「…異国の絵は受け入れられるのに、私たちの絵が受け入れられないのはなぜなんだ…」
「異国のものだから受け入れられるのさ、きっと」
「そういうものかね」
「そういうものさ。…だが、良い両親だったよ彼らは。ニコロはシスルの絵が気に入ったんだ」
「ほう」
「1枚欲しいというと、苦い顔をしながらも…」
「しながらも?」
「購入してくれた!」
「…なんだって?!」
「シスルの絵が!!1枚!!売れたんだよ!!!」
さきほどまで落ち込んだ表情をしていたは半分演技だったようだ。ヴァジーは柄にもなく満面の笑顔で飛び跳ねた。カユボティはしばらく呆然としていたが、徐々に実感が湧き顔がほころぶ。まだ店内に客がいるにもかかわらず、歓声をあげてヴァジーに抱きついた。
「本当か?!本当に売れたのか?!」
「ああ!売れたんだ!!我々の絵が!!」
「しかも!!貴族にだって?!」
「そうだ!!!」
「なんてことだ!!!」
それからの彼らはひどいものだった。接客をほっぽりだし、店の隅で二人で抱き合い嬉し泣きしていた。彼らの会話は接客をしていたアーサーとモニカにも聞こえていて、二人はこっそり目を合わせて「やったね!」「すごーい!」と喜んだ。双子はカユボティとヴァジーが泣いている間、いやな顔ひとつせず接客から購入まで自分たちでこなした。
「カユボティ、ヴァジー」
客足が落ち着いた頃、アーサーがカユボティたちの背中をつついた。
「す、すまないアーサー。今戻るよ」
「ううん!お客さんも落ち着いたし、ここは僕とモニカでなんとかできるよ。二人はアトリエに戻ってシスルたちにおめでとうって言ってあげて!」
「い…いいのかい?」
「うん!大丈夫!ほんとうにおめでとうー!僕もうれしい!モニカも大喜びしてるよ!」
「ありがとう、アーサー」
「じゃあ、お言葉に甘えて抜けさせてもらうよ。また戻ってくる」
「僕とモニカでお店も閉められるから、そのままシスルたちとごはんに食べに行きなよ!おめでたいときにはおいしいものを食べなきゃ!」
アーサーは満面の笑みを浮かべている。接客しているモニカも口元が緩んでおり、合間にちらりとカユボティたちに視線を送って親指を立てた。自分たちのことのように喜んでくれている双子に、カユボティとヴァジーの喉元が熱くなった。二人の好意に甘え、彼らは画廊を双子に任せてアトリエへ向かった。
開店4日目、ニコロが家族と画廊を訪れた。ニコロも双子の学友で、リーノと一緒に寮対抗戦の実況をしていた。賑やかなリーノとクールなニコロの実況は、生徒からも先生からも人気があった。彼は認めようとしないが、リーノとは無二の親友であり、卒業後も定期的に会って今でも絆を深めている。
そんなニコロも彼の両親も絵画に目がないらしく、ウキヨエを見てうっとりしていた。ニコロは特に葛餅白菜のウキヨエが気に入ったようで、自分のために2枚購入していた。彼の両親もウキヨエを5枚、簪2本、雑貨4点、キモノも一着購入してくれた。夫人は嬉しそうに包装されたキモノを受け取りヴァジーにコソコソ話をする。
「ふふ。嬉しいわ。ヒューム(リーノの母)に伝書インコで自慢されちゃって私も欲しかったの。次のお茶会には二人でキモノを着て行きましょうってお誘いしようかと思ってるのよ」
「それは素敵ですね。きっと注目の的になります」
「きっとそうよ。こんなドレス、バンスティン中を探したってここにしかないもの。ああ、今から楽しみ!」
「そのときはぜひ、簪をつけてください」
「もちろん!」
これは面白いことになってきたぞ、とヴァジーとカユボティは内心にやにやしていた。貴族女性の影響力は凄まじい。彼女たちがキモノでお茶会に出れば、今以上に画廊が繁盛するに違いない。
「あの」
「ん?」
ニヤニヤしていた画家にニコロが声をかけた。二人は慌てて背筋を伸ばし営業スマイルに戻る。
「どうされましたか?」
「あなたたちの絵はどこで買えますか?」
「…え?」
「画廊とかありますか?」
「……」
カユボティとヴァジーは口をあんぐり開けて目を見合わせた。こんなことを尋ねられたのははじめてだ。
「あー…。画廊は、ありません。アトリエはありますしそこで絵を見ていただくことはできますが…」
「そうですか。…父さん、母さん。寄り道したいところがあるんだけど」
「ええ、いいわよ。行きましょう行きましょう」
「…ご案内いたします!」
今アトリエにはちゃらんぽらんのクロネ(3日は風呂に入っていない)、わりとまともだが乳房に対する執念が異常なリュノ、女性をみたらナンパをせずにはいられないシスル、初対面の人はひとまず威嚇するエドガしかいないはずだと気付いたヴァジーは思わず大声を出した。
「カユボティ、店を頼んだよ」
「ああ、任せてくれ。…クロネたちをよろしく」
「ああ…」
自信なさげに頷き、ヴァジーは馬車を止めてニコロたちをアトリエまで連れて行った。双子はそんな彼らに手を振って見送った。ニコロの家族がクロネたちの絵を気に入ってもらえるといいねと話したあと、彼らはまた接客に戻った。
閉店間際、疲れ果てたヴァジーが画廊へ戻って来た。カユボティは閉店準備をほったらかして彼に駆け寄る。
「ど、どうだった…?!」
「…やはりダメだね。ニコロは僕たちの絵を気に入ってくれているみたいだけど、両親は不愉快そうな表情を浮かべていたよ」
「あー…」
「……」
「…異国の絵は受け入れられるのに、私たちの絵が受け入れられないのはなぜなんだ…」
「異国のものだから受け入れられるのさ、きっと」
「そういうものかね」
「そういうものさ。…だが、良い両親だったよ彼らは。ニコロはシスルの絵が気に入ったんだ」
「ほう」
「1枚欲しいというと、苦い顔をしながらも…」
「しながらも?」
「購入してくれた!」
「…なんだって?!」
「シスルの絵が!!1枚!!売れたんだよ!!!」
さきほどまで落ち込んだ表情をしていたは半分演技だったようだ。ヴァジーは柄にもなく満面の笑顔で飛び跳ねた。カユボティはしばらく呆然としていたが、徐々に実感が湧き顔がほころぶ。まだ店内に客がいるにもかかわらず、歓声をあげてヴァジーに抱きついた。
「本当か?!本当に売れたのか?!」
「ああ!売れたんだ!!我々の絵が!!」
「しかも!!貴族にだって?!」
「そうだ!!!」
「なんてことだ!!!」
それからの彼らはひどいものだった。接客をほっぽりだし、店の隅で二人で抱き合い嬉し泣きしていた。彼らの会話は接客をしていたアーサーとモニカにも聞こえていて、二人はこっそり目を合わせて「やったね!」「すごーい!」と喜んだ。双子はカユボティとヴァジーが泣いている間、いやな顔ひとつせず接客から購入まで自分たちでこなした。
「カユボティ、ヴァジー」
客足が落ち着いた頃、アーサーがカユボティたちの背中をつついた。
「す、すまないアーサー。今戻るよ」
「ううん!お客さんも落ち着いたし、ここは僕とモニカでなんとかできるよ。二人はアトリエに戻ってシスルたちにおめでとうって言ってあげて!」
「い…いいのかい?」
「うん!大丈夫!ほんとうにおめでとうー!僕もうれしい!モニカも大喜びしてるよ!」
「ありがとう、アーサー」
「じゃあ、お言葉に甘えて抜けさせてもらうよ。また戻ってくる」
「僕とモニカでお店も閉められるから、そのままシスルたちとごはんに食べに行きなよ!おめでたいときにはおいしいものを食べなきゃ!」
アーサーは満面の笑みを浮かべている。接客しているモニカも口元が緩んでおり、合間にちらりとカユボティたちに視線を送って親指を立てた。自分たちのことのように喜んでくれている双子に、カユボティとヴァジーの喉元が熱くなった。二人の好意に甘え、彼らは画廊を双子に任せてアトリエへ向かった。
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