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合宿編:北部のS級冒険者
手合わせ
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カミーユパーティが子どもたちを鍛え上げていると知ったクルドパーティは、生徒たちと手合わせしたいと特訓相手として名乗り出た。またとない機会に貴族生徒たちは感激しており、双子もワクワクしているようだった。カミーユたちも、生徒たちが手の内を知らない相手とどのように戦うのか気になったようでクルドの申し出を承諾した。
「おまえら間違っても殺すんじゃねーぞ!!」
「当り前だろ?お前たちと違って俺たちは弟子を何人もとってるんだ。教え慣れてるよ」
ブルギーがそう答え、生徒たちに庭へ出るよう合図した。緊張している生徒を並んで立たせ、得意な武器を順番に言わせる。
「剣、剣と盾、剣と弓、弓と魔法、魔法、魔法と体術か。…どうしますリーダー?」
「俺はダフの相手をする」
「はあ。ダフにしか興味ないねうちのリーダーは。どうしますサブリーダー?」
早々にクルドに見切りをつけたブルギーは次にマデリアに声をかけた。マデリアは唇に指を当てしばらく考え込んでから、長い指をシリルとアーサーへ向けた。
「えーと、シリルとアーサーだっけ?」
「はい!」
「今晩私のいる客間へ来なさいな」
「行かなくていいからね。というか行ったらダメだぞ君たち。分かった?」
ブルギーは慌ててマデリアの口を塞ぎ、シリルとアーサーに警告した。シリルは困ったように顔を赤らめて「は、はい…」と返事をしていたが、アーサーは首を傾げていた。
「どうしてぇ?僕たちに用事があるんじゃないの?行かなくていいんですか?」
「大した用事じゃないから大丈夫だ。むしろ行ったら大事になる。頼むから行かないでくれ」
「わ、分かりました…?」
大きなため息をつき、ブルギーは気が進まない様子でサンプソンに目を向けた。彼と目があったサンプソンはにっこり笑い、リラックスした様子で足をプラプラさせている。
「…サンプソンは誰の相手をする?」
「ライラちゃんとするよ」
「おお、お前にしてはあっさり進んだな。安心した。じゃあライラを頼む」
「はーい。じゃ、行こうか、ライラちゃん」
「は、はい!よろしくおねがいします!」
ライラはS級冒険者のアーチャーであるサンプソンを前にしてカチコチに緊張していた。サンプソンは優しい笑みを浮かべてライラの背中をそっと押す。
「じゃあこっちにおいで」
「おぉぉぉい!!どうして屋敷へ戻ろうとしてる?!庭でするんだよ!!」
「えぇ…外でするのかい…?」
「特訓をだよ!!何をしようとしてるんだ全く」
ライラを屋敷の中へ連れ込もうとしたサンプソンをブルギーが慌てて引き留めた。唇をとがらせて不服そうにしている彼をマデリアに預けると、彼女は慣れた手つきで杖を振った。何の魔法をかけられたかは分からないが、サンプソンが明らかに不機嫌になったのが分かった。
げっそりしているブルギーの前で、ミントが手を挙げてぴょんぴょん飛び跳ねた。
「はーい!私はクラリッサと手合わせしたいな~!」
「あー…ミント…お前だけだ俺の心の支えは…」
「はいはい。いつもおつかれさま~」
ムキムキのブルギーが半べそをかきながらミントに頭を撫でられている姿が微笑ましく、生徒たちはまるで甘えている大型犬を見るような目でその様子を眺めていた。子どもたちの視線に気付き、ブルギーは咳ばらいをして姿勢を正す。考える気がないリーダーとろくでなしの仲間二人に頼ろうとした俺がバカだったとぶつくさぼやきながら、結局ブルギーが手合わせの組み合わせを決めた。
「じゃあまずサンプソンとライラ、あとアーサーだな」
「はい!」
「次にモニカとマデリアだ」
「はーい!」
「クラリッサはミントだ」
「はい!」
「ダフはもちろんクルドだ」
「はい!!!」
「で、シリルは俺とだ。よろしくな」
「よろしくおねがいします!」
「今回は軽く手合わせするだけだからそんな緊張しなくていい。俺たちに君たちの実力を見せてくれ。じゃあまずアーサーとライラ、サンプソンと手合わせ頼む」
アーサーとライラは目を合わせて頷いた。アーサーが声を出さずに「がんばろうね」と口をパクパクさせると、ライラも「がんばろう」と返した。カミーユパーティとクルドパーティが見ている中、二人はサンプソンの向かいに立った。相変わらずサンプソンはニコニコとしており闘気や殺気を全く放っていない。今からお茶でもしそうな雰囲気だ。彼はゆっくりと弓を持ち、二人にも「構えて」と声をかけた。
「アーサー、剣を使っても良いよ。ライラも魔法を使っていい。君たちの好きなタイミングでおいで」
「はい…」
カミーユやリアーナのように好戦的でもなければ、ジルやカトリナのように冷たい闘気も纏わせていない。こんな人に武器を向けるのははじめてで、アーサーとライラは少し戸惑った。遠慮がちに弓を構え、アーサーは試しに一本矢を射てみた。
「…え?」
「遅いよアーサー。僕がおっとりしてるから油断した?」
「っ!アーサー!」
アーサーに目を向けたライラは顔を真っ青にして慌てて杖を取り出した。アーサーの体には、すでに3本の矢が刺さっていた。それも、心臓を囲うように。アーサーが放った矢を指に挟んで弄びながら、サンプソンはおっとりした口調で言った。
「敵がみんな殺伐としてると思ったら大違いだよ。僕みたいに、息をするかのように人を殺す人もいる。良い人のふりをして標的に近づく人もいる。これから気をつけようね、アーサー。あ、大丈夫。全部心臓は外してるよ」
アーサーは血が垂れた口を手で拭いながらサンプソンを見た。
(いつ弓を引いたんだ?全然分からなかった…!この人、カトリナよりも弓を引く速度が速い…)
サンプソン。のらりくらりとしているろくでなしだが、彼は確かにS級冒険者だった。アーサーの体がゾクゾクっと震える。
「ん?」
「ライラ!ライラ!」
「な、なにアーサー?!あんまり喋ったら傷口が開くよ?!」
「今の見たぁ!?すごいね!!すごいねー!!」
「す、すごかったね!?」
「回復してる時間もったいないよライラ!!サンプソンさんともっとやろ!!回復あとでしてー!!」
「え?!アーサー?!」
テンションが上がったアーサーは目をキラキラ輝かせ、ライラの回復魔法を受ける前にサンプソンに向かって走り出した。サンプソンは面食らった様子でアーサーを見る。近づいてくるアーサーに弓を射るが、速い矢が来ると分かっていたアーサーはかろうじて避けることができた。矢を避けたアーサーに、今度はサンプソンが驚かされた。
「へえ…!一回見ただけでもう僕の矢を避けるんだ。これはすごい」
「おまえら間違っても殺すんじゃねーぞ!!」
「当り前だろ?お前たちと違って俺たちは弟子を何人もとってるんだ。教え慣れてるよ」
ブルギーがそう答え、生徒たちに庭へ出るよう合図した。緊張している生徒を並んで立たせ、得意な武器を順番に言わせる。
「剣、剣と盾、剣と弓、弓と魔法、魔法、魔法と体術か。…どうしますリーダー?」
「俺はダフの相手をする」
「はあ。ダフにしか興味ないねうちのリーダーは。どうしますサブリーダー?」
早々にクルドに見切りをつけたブルギーは次にマデリアに声をかけた。マデリアは唇に指を当てしばらく考え込んでから、長い指をシリルとアーサーへ向けた。
「えーと、シリルとアーサーだっけ?」
「はい!」
「今晩私のいる客間へ来なさいな」
「行かなくていいからね。というか行ったらダメだぞ君たち。分かった?」
ブルギーは慌ててマデリアの口を塞ぎ、シリルとアーサーに警告した。シリルは困ったように顔を赤らめて「は、はい…」と返事をしていたが、アーサーは首を傾げていた。
「どうしてぇ?僕たちに用事があるんじゃないの?行かなくていいんですか?」
「大した用事じゃないから大丈夫だ。むしろ行ったら大事になる。頼むから行かないでくれ」
「わ、分かりました…?」
大きなため息をつき、ブルギーは気が進まない様子でサンプソンに目を向けた。彼と目があったサンプソンはにっこり笑い、リラックスした様子で足をプラプラさせている。
「…サンプソンは誰の相手をする?」
「ライラちゃんとするよ」
「おお、お前にしてはあっさり進んだな。安心した。じゃあライラを頼む」
「はーい。じゃ、行こうか、ライラちゃん」
「は、はい!よろしくおねがいします!」
ライラはS級冒険者のアーチャーであるサンプソンを前にしてカチコチに緊張していた。サンプソンは優しい笑みを浮かべてライラの背中をそっと押す。
「じゃあこっちにおいで」
「おぉぉぉい!!どうして屋敷へ戻ろうとしてる?!庭でするんだよ!!」
「えぇ…外でするのかい…?」
「特訓をだよ!!何をしようとしてるんだ全く」
ライラを屋敷の中へ連れ込もうとしたサンプソンをブルギーが慌てて引き留めた。唇をとがらせて不服そうにしている彼をマデリアに預けると、彼女は慣れた手つきで杖を振った。何の魔法をかけられたかは分からないが、サンプソンが明らかに不機嫌になったのが分かった。
げっそりしているブルギーの前で、ミントが手を挙げてぴょんぴょん飛び跳ねた。
「はーい!私はクラリッサと手合わせしたいな~!」
「あー…ミント…お前だけだ俺の心の支えは…」
「はいはい。いつもおつかれさま~」
ムキムキのブルギーが半べそをかきながらミントに頭を撫でられている姿が微笑ましく、生徒たちはまるで甘えている大型犬を見るような目でその様子を眺めていた。子どもたちの視線に気付き、ブルギーは咳ばらいをして姿勢を正す。考える気がないリーダーとろくでなしの仲間二人に頼ろうとした俺がバカだったとぶつくさぼやきながら、結局ブルギーが手合わせの組み合わせを決めた。
「じゃあまずサンプソンとライラ、あとアーサーだな」
「はい!」
「次にモニカとマデリアだ」
「はーい!」
「クラリッサはミントだ」
「はい!」
「ダフはもちろんクルドだ」
「はい!!!」
「で、シリルは俺とだ。よろしくな」
「よろしくおねがいします!」
「今回は軽く手合わせするだけだからそんな緊張しなくていい。俺たちに君たちの実力を見せてくれ。じゃあまずアーサーとライラ、サンプソンと手合わせ頼む」
アーサーとライラは目を合わせて頷いた。アーサーが声を出さずに「がんばろうね」と口をパクパクさせると、ライラも「がんばろう」と返した。カミーユパーティとクルドパーティが見ている中、二人はサンプソンの向かいに立った。相変わらずサンプソンはニコニコとしており闘気や殺気を全く放っていない。今からお茶でもしそうな雰囲気だ。彼はゆっくりと弓を持ち、二人にも「構えて」と声をかけた。
「アーサー、剣を使っても良いよ。ライラも魔法を使っていい。君たちの好きなタイミングでおいで」
「はい…」
カミーユやリアーナのように好戦的でもなければ、ジルやカトリナのように冷たい闘気も纏わせていない。こんな人に武器を向けるのははじめてで、アーサーとライラは少し戸惑った。遠慮がちに弓を構え、アーサーは試しに一本矢を射てみた。
「…え?」
「遅いよアーサー。僕がおっとりしてるから油断した?」
「っ!アーサー!」
アーサーに目を向けたライラは顔を真っ青にして慌てて杖を取り出した。アーサーの体には、すでに3本の矢が刺さっていた。それも、心臓を囲うように。アーサーが放った矢を指に挟んで弄びながら、サンプソンはおっとりした口調で言った。
「敵がみんな殺伐としてると思ったら大違いだよ。僕みたいに、息をするかのように人を殺す人もいる。良い人のふりをして標的に近づく人もいる。これから気をつけようね、アーサー。あ、大丈夫。全部心臓は外してるよ」
アーサーは血が垂れた口を手で拭いながらサンプソンを見た。
(いつ弓を引いたんだ?全然分からなかった…!この人、カトリナよりも弓を引く速度が速い…)
サンプソン。のらりくらりとしているろくでなしだが、彼は確かにS級冒険者だった。アーサーの体がゾクゾクっと震える。
「ん?」
「ライラ!ライラ!」
「な、なにアーサー?!あんまり喋ったら傷口が開くよ?!」
「今の見たぁ!?すごいね!!すごいねー!!」
「す、すごかったね!?」
「回復してる時間もったいないよライラ!!サンプソンさんともっとやろ!!回復あとでしてー!!」
「え?!アーサー?!」
テンションが上がったアーサーは目をキラキラ輝かせ、ライラの回復魔法を受ける前にサンプソンに向かって走り出した。サンプソンは面食らった様子でアーサーを見る。近づいてくるアーサーに弓を射るが、速い矢が来ると分かっていたアーサーはかろうじて避けることができた。矢を避けたアーサーに、今度はサンプソンが驚かされた。
「へえ…!一回見ただけでもう僕の矢を避けるんだ。これはすごい」
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