上 下
428 / 718
合宿編:北部のS級冒険者

マントを着た5人

しおりを挟む
合宿もあと残り二日となった日の朝、屋敷に5人の大人が訪れた。マントで姿を隠し足音を立てずに庭を横切り、ダフを指導していたカミーユの背後に忍び寄る。明らかに不審な侵入者であるにも関わらず、生徒はおろかS級冒険者ですら彼らに気付いていなかった。

一人の男性がカミーユの肩に手を乗せ耳元で囁く。

「久しぶりだな、カミーユ」

「っ!」

そこではじめて気配に気付いたカミーユは咄嗟に剣を抜き男性へ向けた。男性はひょいとうしろへ飛びのき両手を上げてクスクス笑っている。背後で立っている5人の冒険者にカミーユはぽかんと口を開けた。

「おまえら…」

「クスクス」

「クルド?…と、その愉快な仲間達じゃねえか」

「え?クルドさん?」

夢中になって大剣を振っていたダフも、その名前が耳に入ってきて手を止めた。振り返ると、男性はフードを指でくいと持ち上げダフに向けて優しい笑みを浮かべていた。

「ダフも、久しぶり」

「し…師匠~~~~!!!!」

ダフはパッと顔を輝かせてクルドと呼ばれた男性に豪快なハグをした。クルドも嬉しそうに抱き返し、「おおきくなったなあ~!!」とデレデレした声を出していた。カミーユは彼の背後に立っている人たちに目を向け「おまえらなあ」とため息をついた。

「そんな不審な恰好でこっそり後ろに立つんじゃねえ!やべえやつらかと思っただろうが!!」

「悪いねカミーユ。なんせお忍びなもんで」

「私たちに背後を取られるなんて訛ってるんじゃない?」

「仕方ないよ~。だってあの子に教えてたんだもん」

「ははっ。俺たちも驚かせようとコソコソしてたしなあ」

4人は口々にそう言いながらフードを脱いだ。彼らはクルドパーティ。北部のS級冒険者だ。

冒険者クルド(とその愉快な仲間たち)。カミーユパーティーと同じS級冒険者であり、バンスティンではカミーユパーティーに負けず劣らず優秀な冒険者たちだと言われている。北部で主に活動しており、貴族の間ではカミーユパーティーよりも人気があるらしい。また、クルドは幼少時代にダフに剣を教えたことがあり、彼には「師匠」と呼ばれ慕われている。

「で?なんでおまえらがこんなとこに?っつーかよく俺らの所在が分かったな」

カミーユは葉巻に火を付けながら言った。それにつられてクルドも葉巻を咥え、カミーユの葉巻に先を付けて火をもらう。「んー」と曖昧な返事をしたあと、煙を吐きながら答えた。

「ここのところお前たちの消息がぱたりと分からなくなったから調べさせてもらったんだ」

「あんたたち地獄みたいな指定依頼受け続けてたでしょ。ずっと気にはかけてたのよ」

「最後の指定依頼を受けてから、カミーユたちの情報が全くつかめなくなって。死んだんじゃないかってギルドが大騒ぎになってるけど未だ死体どころか骨一本見つからない」

「さしずめこれ以上指定依頼受けないために雲隠れして羽休めてんだろうなーと思ってさ」

「カールソン名義で動いてると思って調べたら一発だったよ。こんなでかい家急に買ってたからここだろうなーってさ~」

クルドたちの返答にカミーユは「あー…」と頭を掻き、クルドに耳元で尋ねた。

「このこと、ギルドには…」

「はっ、言うわけねえだろ。あんなジジイたちに媚び売っても意味ねえしな。あんな地獄から少しの間抜け出したいって気持ちは、同じS級の俺らなら痛いほど分かるっつーの。逆によく生きてんな?」

「あー、助かる。カールソン名義のことはお前らにしか言ってねえから頼むから他言しねえでくれよ」

「当然だ。で、実際のところどうなんだ。体調は?」

「実は前の依頼で死にかけた。今も万全じゃねえよ(主にアーサーとモニカの毒のせいで)」

「そうか。だろうと思った」

クルドは低い声で呟き、ちらりとカミーユに目をやった。昔からの友人であり好敵手のカミーユを心配しているのか、彼の瞳は不安げに揺れていた。

「で?俺らに会いに来るためだけにこんな南部まで来たのか?馬車で何日かかんだよ」

「遠かったぜー?長旅すぎてケツが痛ぇ。こっちに来たのは貴族様のしょーもねえ指定依頼でだよ。めんどくせぇことに俺らにお呼びがかかってな。昨日指定依頼が済んだから帰り道にここ寄ったんだ」

「そりゃおまえ、S級の中でも指定依頼して一番金かかんのお前らだからな。お前らを指定依頼できるっつーのは貴族にとってステータスだ。お前らは貴族向けのS級冒険者だしな」

「あらそれ嫌味?私たちより優秀なのに安い報酬設定してるものね、あなたたち」

「優秀さはかわんねーだろ。俺らは金に興味ない奴らのあつまりだからそうしてるだけだ。持ちすぎてても困る」

「そうやって自分たちの命を安売りするから指定依頼地獄で殺されかけるんじゃないかな?相変わらずお馬鹿さんだなあ、カミーユは」

「うるせぇっ!庶民でも依頼できるようにしねえと意味ねえだろうが!」

「もうマデリアもサンプソンもいじわる言わないの~!お互いの役割がちがうの、分かってるでしょ?」

S級冒険者の会話をそばで聞いていたダフは、(これは俺が聞いたらいけない内容だ!)と思い剣の練習に戻った。だがさきほどの会話が頭の中でグルグル回って集中できない。

(そうか…カミーユさん、今はギルドに隠れてこっそり生活しているのか。1か月も特訓をしてくれると聞いて不思議だったんだ。なんてことだ!普通は人のために戦ってくれている人をいたわりちゃんとした休息を与えるべきなのに、S級冒険者は隠れていないと休めないのか!冒険者ギルド…納得ができないシステムだ)

「おうダフ!悪いな仲間外れにして」

やっと剣に集中できるようになったころ、クルドがダフの背中を叩きながら話しかけた。ダフはまた嬉しそうに笑い、「いえ!!」とだけ答えて剣を振った。クルドはしばらくそれをなあと、嬉しそうとも悔しそうとも言える表情を浮かべた。

「…上達したな、ダフ」

「ありがとうございます!!」

「今じゃ剣の振り方が俺よりもカミーユに似てきてるじゃないか」

「そ、そうですかね?!」

「ああ…。カミーユの剣筋は文句の言いようがねえからな…うぅ…俺のダフが…」

「ク、クルドさん?!」

先ほどまで凛々しい剣士だったクルドが、急に子どものように顔をしわくちゃにした。ダフはオロオロとクルドに駆け寄り、泣きそうになっている彼の背中をさする。それを見ていた他のS級冒険者たちはジトッとした目を向けていた。

「クルドさん!急にどうしたんですか!!」

「あークルドの悪いとこ出ちゃってる…」

「相変わらず女々しいやつだなあいつは…」

「あんたがクルドのお気に入り取っちゃうからでしょうがー」

「あー…それは悪いと思ってるんだが…こっちにも事情があってな。まあこんなところで立ち話もなんだ。屋敷に入れ。お前らのこと紹介するから他の子どもと俺の仲間も呼んでくる」

「お、やったー」

「筋の良い子たちばかりでドキドキするわ。しかもかわいい子ばっかり」

「おまえ手ェ出すなよ?!ぜってぇ手ェ出すなよ?!」

「出さないわよ」

「ダフ、お前も来い。そのガチムチの赤ん坊連れてな」

「あ、はい!」

「俺のダフがぁ…」
しおりを挟む
感想 494

あなたにおすすめの小説

超時空スキルを貰って、幼馴染の女の子と一緒に冒険者します。

烏帽子 博
ファンタジー
クリスは、孤児院で同い年のララと、院長のシスター メリジェーンと祝福の儀に臨んだ。 その瞬間クリスは、真っ白な空間に召喚されていた。 「クリス、あなたに超時空スキルを授けます。 あなたの思うように過ごしていいのよ」 真っ白なベールを纏って後光に包まれたその人は、それだけ言って消えていった。 その日クリスに司祭から告げられたスキルは「マジックポーチ」だった。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

ぬいぐるみばかり作っていたら実家を追い出された件〜だけど作ったぬいぐるみが意志を持ったので何も不自由してません〜

望月かれん
ファンタジー
 中流貴族シーラ・カロンは、ある日勘当された。理由はぬいぐるみ作りしかしないから。 戸惑いながらも少量の荷物と作りかけのぬいぐるみ1つを持って家を出たシーラは1番近い町を目指すが、その日のうちに辿り着けず野宿をすることに。 暇だったので、ぬいぐるみを完成させようと意気込み、ついに夜更けに完成させる。  疲れから眠りこけていると聞き慣れない低い声。 なんと、ぬいぐるみが喋っていた。 しかもぬいぐるみには帰りたい場所があるようで……。     天真爛漫娘✕ワケアリぬいぐるみのドタバタ冒険ファンタジー。  ※この作品は小説家になろう・ノベルアップ+にも掲載しています。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。