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合宿編:三週目・ダンジョン掃討特訓

やっちまったな

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次の区域ではアーサーとモニカが武器を構えた。リアーナのアドバイスを参考にして、アーサーメインで魔虫を倒していく。序盤の魔物にしては手ごたえがあったが、このレベルの魔物はFランクダンジョンにも生息していたので楽々と奥へ進んでいく。

「むぅ…」

モニカは退屈していた。なぜならアーサーは剣を振るった相手を倒し損ねることがなかったからだ。一太刀で確実に息の根を止めていき魔虫の死体の山を積み上げていく。動きも速いのでモニカの目が回った。

「あらァ…。これも特訓にならないわねェ」

アーサーの剣さばきと、することがないので突っ立ってることしかできないモニカを見てカトリナは小さなため息をついた。イェルドとリアーナも「あー…」と言葉を濁している。

「モニカを前に出させたらアーサーがやることなくて、アーサーを前に出させたらモニカがやることなくなんのかよぉ…」

「まだ序盤で魔物も弱いっすからねえ…」

「ああ、魔物が弱すぎるのねェ。じゃあ序盤の敵はスルーしてもう少し奥へ進みましょうか」

「賛成賛成ーー!!!こんなちっちぇえ魔虫つまんねえ!!」

「俺も賛成っす!!」

「決まりねェ。アーサーがこの区域の魔物を殲滅したら奥へ進みましょう」

30分もたたないうちにアーサーは魔虫を一掃してカトリナたちの元へ戻ってきた。手を引かれているモニカはあくびをかみ殺している。

「もー。アーサーがぜーんぶ倒しちゃうからわたしやることなかったじゃないのぉ」

「ごめんー!だってサクサク切れちゃって~」

(いや結構硬かったけどなあ…)

双子の会話を聞いてイェルドが遠い目をしていた。それに気づいたリアーナが慰めるように彼の背中を叩く。

「考えるなイェルド!あいつはちとおかしいんだ」

「分かってるんですけどねぇ…」

「お前は充分優秀だ!」

「ありがとうございます!」

「私たちの特訓を受けたらもっと強くなれるわよォ?」

「丁重にお断りします!!」

「あらあらァ」

「アーサーとモニカはこいつらに何吹き込んだんだ!まったく!」

「えー?別になにも」

「やったことを教えただけだよー?」

双子がキョトンとして口をはさむと、リアーナとカトリナは「じゃあなんで断られんの?」と不思議そうに首を傾げた。それに対してイェルドがニッコリ笑ってこう言った。

「そういうとこです!」

◇◇◇

「ん?」

うじゃうじゃと地面を這っている魔虫を無視して奥へ進んでいるとき、モニカの足の裏に何かを踏んだ感触がした。そのあとすぐに「キェェ」と虫の断末魔が聞こえた。

「そうしたのモニカ?」

「魔虫踏んじゃったみたい」

アーサーはモニカに踏まれている魔物に視線を落とした。ツヴァイアントという30センチほどの蟻型魔物だ。幸いモニカが踏んだのは戦闘能力の低い働き蟻だった。

「刺されたりしなかった?」

「うん」

「よかったぁ」

双子は気にする様子なくまた歩き始めた。だが、うしろを歩いていた先輩冒険者は「あっちゃー…」と声を漏らして目を見合わせている。これから起こる事態が予測できているようだ。

しばらく歩いていると、チクっとモニカの足首に痛みが走った。足元をみるとさきほどと別個体のツヴァイアントがしがみついている。

「きゃっ」

モニカは慌てて火魔法でツヴァイアントを丸焦げにして自分に回復魔法をかけた。それを見てさらに先輩冒険者が「あー…」と呻き声をあげる。

「やっちまったな」

「やっちまいましたねえ」

「知識より経験よ。さあお楽しみ」
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