上 下
398 / 718
合宿編:休息

【417話】一日の終わり

しおりを挟む
その日の夜、カトリナが大サービスをして大浴場に泡風呂液を混ぜてくれた。泡の上には良い香りのする薔薇の花びらが乗っている。女子たちはもちろん男子たちも大喜びだ。モコモコの泡を手のひらに乗せ、香りを楽しんだり友人の顔に付けて楽しんだ。

「はぁ…。さすがカトリナさんだ。最上級の泡風呂に薔薇の花びら。オーヴェルニュ家らしいな」

「どうしてえ?」

「オーヴェルニュ家の家紋は薔薇だからな。元ローズ寮生の俺にはとても嬉しい入浴だ」

「そういえばローズ寮では大衆浴場にいつも薔薇の花びらが浮いてるって聞いたけど本当?」

シリルが尋ねると、ダフはこくりと頷いた。

「ああ、浮いてたな。え?寮花の花びらはどこも浮いてるんじゃないのか?」

「ううん。ビオラ寮では浮いてなかったよ」

「リリー寮はどうだったんだアーサー?」

「浮いてなかった!でもお湯が白くてユリの香りがしてたよ」

「へー!リリー寮はユリの香りがする入浴液が入っていたのだな」

「寮のランクが上がるほど高価なものが使われてるのかもね」

「へー!そういえば学院のお風呂入ってるときお肌がツルツルだったなあ~」

ぼんやりと取り留めのない話をしながら、3人はゆっくり湯に浸かった。途中でダフとシリルが居眠りをしはじめたので、アーサーは二人を抱えて脱衣所へ上がった。うつらうつらしながら体を拭き、シリルとダフはアーサーに手を引かれて寝室へ戻る。ベッドへ寝かせてあげると、すぐに彼らは寝息をたてた。

◇◇◇

アーサーが寝室へ戻ると、女子たちの笑い声が彼を出迎えた。モニカのベッドに腰かけているライラとクラリッサ、アーサーのベッドに寝転んでいるモニカが楽し気にお喋りをしている。アーサーに気付いたモニカは、笑顔で兄に手を振った。

「アーサー!おかえりー!」

「ただいまー。今日はここで寝衣パーティーしてるの?」

「うん!」

「お邪魔しているわアーサー」

「ご、ごめんね突然」

「いいよいいよー!一人は寂しいからむしろこっちでお喋りしてくれたほうがうれしいし」

アーサーはそう言ってベッドへ寝転びモニカに足を乗せた。妹にうしろから抱きついて乾かしたての髪に顔を押し付けたので、ライラとクラリッサはこっそり目を見合わせた。

(本当だった…)

(モニカの言ってたこと本当だったんだぁ…)

「あっ、僕のことは気にしないでお喋り楽しんでね!僕はもう寝るからー」

「お、おやすみアーサー」

「おやすみなさい…」

このスタイルがいつものことのようで、モニカはなんの違和感も抱かずお喋りを続けている。彼女のうしろで甘えている男子が気になりモニカのお話なんて耳に入ってこない。しばらくしてアーサーが寝息をたてはじめたので、クラリッサが小声でモニカに尋ねた。

「ねえ、アーサーって寝る前いつもこうなの?」

「うん!」

「そ、そうなんだ。学院でのアーサーとか、特訓中のアーサーはしっかりしててお兄ちゃんって感じがするのに。こうして見てたら弟みたいだね」

「そうなのー!外ではお兄ちゃんぶりたいのよアーサーって!でもスイッチが切れるとずーっとこんな感じ」

「へえ。なんだかかわいいわね」

「アーサーは世界一かわいいです!」

「あはは。仲が良いんだねえ」

女子たちは笑い声をあげながら真夜中を過ぎるまでお喋りを楽しんだ。ジルに注意されたので灯りを消し小声でおしゃべりをしていたが、気付けばみんな夢の中にいた。アーサーとモニカはコアラのようにくっつき合っていたが、やはり寝相の悪さはアーサーのほうが勝っており、朝起きたときにはモニカは兄の下敷きになっていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最強カップルの英雄神話~そのチート転生者は破滅の異世界を救う~

初心なグミ@最強カップル連載中
ファンタジー
四年後までにダンジョンを攻略しなければ、世界が滅亡してしまう異世界『グレース』。 そんな絶体絶命の異世界に、ヒキニートだった主人公のハルトが、三つのチート指輪を渡され、異世界を救う使命と共に、女神に転生させられた。 しかしそんな異世界には、犠牲を出しながらも滅亡の運命に抗う為の組織、『フィアナ騎士団』が存在したのだ。 異世界転生したハルトは、フィアナ騎士団と共にダンジョンを攻略し、世界を救う戦いに身を投じることになるのであった。 十二の試練を超えた先の未来に、何が待ち受けているのだろうか……。 (旧:最強カップルの英雄神話)

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

悪役令嬢がヒロインからのハラスメントにビンタをぶちかますまで。

倉桐ぱきぽ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した私は、ざまぁ回避のため、まじめに生きていた。 でも、ヒロイン(転生者)がひどい!   彼女の嘘を信じた推しから嫌われるし。無実の罪を着せられるし。そのうえ「ちゃんと悪役やりなさい」⁉ シナリオ通りに進めたいヒロインからのハラスメントは、もう、うんざり! 私は私の望むままに生きます!! 本編+番外編3作で、40000文字くらいです。 ⚠途中、視点が変わります。サブタイトルをご覧下さい。 ⚠『終』の次のページからは、番外&後日談となります。興味がなければブラバしてください。

外れスキルと馬鹿にされた【経験値固定】は実はチートスキルだった件

霜月雹花
ファンタジー
 15歳を迎えた者は神よりスキルを授かる。  どんなスキルを得られたのか神殿で確認した少年、アルフレッドは【経験値固定】という訳の分からないスキルだけを授かり、無能として扱われた。  そして一年後、一つ下の妹が才能がある者だと分かるとアルフレッドは家から追放処分となった。  しかし、一年という歳月があったおかげで覚悟が決まっていたアルフレッドは動揺する事なく、今後の生活基盤として冒険者になろうと考えていた。 「スキルが一つですか? それも攻撃系でも魔法系のスキルでもないスキル……すみませんが、それでは冒険者として務まらないと思うので登録は出来ません」  だがそこで待っていたのは、無能なアルフレッドは冒険者にすらなれないという現実だった。  受付との会話を聞いていた冒険者達から逃げるようにギルドを出ていき、これからどうしようと悩んでいると目の前で苦しんでいる老人が目に入った。  アルフレッドとその老人、この出会いにより無能な少年として終わるはずだったアルフレッドの人生は大きく変わる事となった。 2024/10/05 HOT男性向けランキング一位。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

婚約者が隣国の王子殿下に夢中なので潔く身を引いたら病弱王女の婚約者に選ばれました。

ユウ
ファンタジー
辺境伯爵家の次男シオンは八歳の頃から伯爵令嬢のサンドラと婚約していた。 我儘で少し夢見がちのサンドラは隣国の皇太子殿下に憧れていた。 その為事あるごとに… 「ライルハルト様だったらもっと美しいのに」 「どうして貴方はライルハルト様じゃないの」 隣国の皇太子殿下と比べて罵倒した。 そんな中隣国からライルハルトが留学に来たことで関係は悪化した。 そして社交界では二人が恋仲で悲恋だと噂をされ爪はじきに合うシオンは二人を思って身を引き、騎士団を辞めて国を出ようとするが王命により病弱な第二王女殿下の婚約を望まれる。 生まれつき体が弱く他国に嫁ぐこともできないハズレ姫と呼ばれるリディア王女を献身的に支え続ける中王はシオンを婿養子に望む。 一方サンドラは皇太子殿下に近づくも既に婚約者がいる事に気づき、シオンと復縁を望むのだが… HOT一位となりました! 皆様ありがとうございます!

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

悪役令嬢?何それ美味しいの? 溺愛公爵令嬢は我が道を行く

ひよこ1号
ファンタジー
過労で倒れて公爵令嬢に転生したものの… 乙女ゲーの悪役令嬢が活躍する原作小説に転生していた。 乙女ゲーの知識?小説の中にある位しか無い! 原作小説?1巻しか読んでない! 暮らしてみたら全然違うし、前世の知識はあてにならない。 だったら我が道を行くしかないじゃない? 両親と5人のイケメン兄達に溺愛される幼女のほのぼの~殺伐ストーリーです。 本人無自覚人誑しですが、至って平凡に真面目に生きていく…予定。 ※アルファポリス様で書籍化進行中(第16回ファンタジー小説大賞で、癒し系ほっこり賞受賞しました) ※残虐シーンは控えめの描写です ※カクヨム、小説家になろうでも公開中です

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。