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合宿編:二週目・基礎特訓
【405話】ライラの杖選び
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馬車の荷台には数えきれないほどの細長い箱が積み上げられていた。木箱のものもあれば革で作られた箱、ボロボロの厚紙の箱…無地のものもあれば豪華な模様が施されたものもあり、箱を眺めているだけもワクワクしてしまう。
「こ…これ、全部シャナさんが作った杖ですか…?」
「ええ。ちまちま作っていたらこんなにたくさんできちゃったの。持ってきたのは人族に合うものだけだから、杖屋に置いてきた子たちもいっぱいいるのよ」
「すごい…」
「さてライラ。ここにある杖を全部振って見せてもらうのは大変でしょうから、私が何本かに絞り込むわね」
シャナはライラにいくつか質問をしながら、手の大きさを見たり胸に手を当てたりした。5分ほど彼女と話をしてシャナは荷台の中をゴソゴソとまさぐる。悩んでいるのかうーんと唸りながら独り言を呟いていた。
「そうねえ…。やっぱりあの子の魔力だったら回復魔法が得意な子のほうがいいわよね。…え?あなたはだめよ、ライラは魔力量がそれほど多くないんだから。あなたは…そうねえ。候補のひとつに入れてあげる。…」
「?」
まるでそばに誰かがいるような独り言にライラは首を傾げた。シャナの独り言はしばらく続き、荷台の中をかきまわしながらやっと杖を5本まで絞り込んだ。彼女は箱から杖を取り出しライラの前に並べた。
「お待たせ。あなたは魔力の性質と魔力量から考えて、回復魔法特化の魔法使いを目指すのがいいと思うわ。あなたの魔力と相性が良くて回復魔法が得意な杖はこの5本かしら。
1本目は樫の木。芯はユニコーンのたてがみ。樫の木は強さと生命力の象徴。虫や鳥に生き物を分け与え、小さな命を支えているわ。慈愛に満ちている樫の木と、忠誠心の強いユニコーンのおかげで回復魔法が強化される。
2本目はスギね。愛情深いスギはいつでも持ち主を守ってくれる。回復魔法に関しては一番力を発揮してくれるわ。芯はフェニックスの涙よ。言わずもがな、その涙は癒しをもたらすもの。典型的な回復魔法特化型の杖ね。
3本目は幸運や魔よけの象徴であるヒイラギ。芯はナパイアーの髪よ。ナパイアーは妖精の一種で、花を咲かせたり病を治したりするのが大好きなの。ヒトを治癒するためなら力を貸してくれる…つまり回復魔法に限り魔力量が増えるわ。
4本目はハンの木、芯はマーメイドの鱗。親切で思いやりのある持ち主を好むわ。だからヒーラーにぴったりね。不老不死の力を持っているマーメイドの一部により、あなたが誰かに回復魔法をかけると、同時にあなた自身も杖から微量の回復効果が与えられる。
5本目はヨーロッパナラ。芯はフェンリル。勇気や忠誠心を好むヨーロッパナラと、強い忠誠心を持っているフェンリルの相性は抜群。この杖は他と違って、持ち主によって性質ががらりと変わるわ。回復魔法が得意な人が持つと回復魔法力が上がり、攻撃魔法が得意な人が持つと攻撃魔法力が上がる。あなたが持つと、十中八九回復魔法力が上がるでしょう。回復魔法特化の他4本と違って、これだけは攻撃魔法もまあまあ使えるはず」
ひととおりの説明を終え、シャナはライラに一本ずつ杖を振らせた。今まで持っていた杖では自分の魔力が杖に伝わる感覚なんてしたことがなかったのに、シャナに選ばれた杖はライラが手に持っただけでフワッと優しい風を吹かせた。
「…わ」
「ふふ。驚いた?素敵な風が吹いたわね。これがあなたの本来の魔力よ」
「う、うそ…。杖を持っただけなのに…風魔法が…」
「あなたらしいわね。あなたは風属性なんだわ。だから弓も得意なのかも」
「風…」
「さ、どんどん手に持ってちょうだいライラ?一番しっくりくるものを選んで」
「は、はい…!」
ライラはのろのろと杖を振っていく。どの杖も柔らかい風でライラを包み込んだ。まるで杖に優しく抱きしめられているような感覚に、ライラの喉元が熱くなった。
「あ…」
最後の一本であるヨーロッパナラの杖を握ったとき、今までで一番大きな風が彼女を包んだ。ぽわぽわと杖が光り、脚の指先まで魔力が巡ったような気がした。驚いたライラは杖をぱっと離し、助けを求めてシャナを見た。
「シャ、シャナ!なんだかわたし変…!!」
「いいえライラ。それが本当のあなたなの」
「うそっ、わたしこんなに魔法使えない!こんなに魔力もない!」
「ずっと体を動かしていなかったら血の循環が悪くなるでしょう?でも体を動かしたら循環が良くなるわよね。それと同じ。あなた、今魔法の運動不足状態なの。それを杖がほぐしてくれた。そろそろ自分の魔力を受け入れなさい?」
「ほ、ほんとに…これが…?」
「ええ。杖はあくまでサポート係。たしかに強化はしてくれるけれど、もとはあなたの魔法なのよ。どうライラ?あなたが一番しっくりした杖はどれかしら?」
ライラはちらっと先ほど手放してしまった杖を見た。持つのが少し怖い。だが…
「こ、これ…」
「ヨーロッパナラの杖ね。ふふ、良かった。この子が一番あなたの杖になりたがっていたのよ。選ばれて良かったわね、ヨーロッパナラ」
「ううん、この杖が、わたしを選んでくれた。そんな気がしたの」
ライラの一言にシャナはゆっくり目じりを下げた。ライラはおそるおそる杖を両手で握り、遠慮がちに杖を頬に当てた。じんわりと温かみを持つその杖を肌で感じ、彼女は頬を赤らめてぽろりと一粒だけ涙を流した。
「わたしを選んでくれてありがとう」
「こ…これ、全部シャナさんが作った杖ですか…?」
「ええ。ちまちま作っていたらこんなにたくさんできちゃったの。持ってきたのは人族に合うものだけだから、杖屋に置いてきた子たちもいっぱいいるのよ」
「すごい…」
「さてライラ。ここにある杖を全部振って見せてもらうのは大変でしょうから、私が何本かに絞り込むわね」
シャナはライラにいくつか質問をしながら、手の大きさを見たり胸に手を当てたりした。5分ほど彼女と話をしてシャナは荷台の中をゴソゴソとまさぐる。悩んでいるのかうーんと唸りながら独り言を呟いていた。
「そうねえ…。やっぱりあの子の魔力だったら回復魔法が得意な子のほうがいいわよね。…え?あなたはだめよ、ライラは魔力量がそれほど多くないんだから。あなたは…そうねえ。候補のひとつに入れてあげる。…」
「?」
まるでそばに誰かがいるような独り言にライラは首を傾げた。シャナの独り言はしばらく続き、荷台の中をかきまわしながらやっと杖を5本まで絞り込んだ。彼女は箱から杖を取り出しライラの前に並べた。
「お待たせ。あなたは魔力の性質と魔力量から考えて、回復魔法特化の魔法使いを目指すのがいいと思うわ。あなたの魔力と相性が良くて回復魔法が得意な杖はこの5本かしら。
1本目は樫の木。芯はユニコーンのたてがみ。樫の木は強さと生命力の象徴。虫や鳥に生き物を分け与え、小さな命を支えているわ。慈愛に満ちている樫の木と、忠誠心の強いユニコーンのおかげで回復魔法が強化される。
2本目はスギね。愛情深いスギはいつでも持ち主を守ってくれる。回復魔法に関しては一番力を発揮してくれるわ。芯はフェニックスの涙よ。言わずもがな、その涙は癒しをもたらすもの。典型的な回復魔法特化型の杖ね。
3本目は幸運や魔よけの象徴であるヒイラギ。芯はナパイアーの髪よ。ナパイアーは妖精の一種で、花を咲かせたり病を治したりするのが大好きなの。ヒトを治癒するためなら力を貸してくれる…つまり回復魔法に限り魔力量が増えるわ。
4本目はハンの木、芯はマーメイドの鱗。親切で思いやりのある持ち主を好むわ。だからヒーラーにぴったりね。不老不死の力を持っているマーメイドの一部により、あなたが誰かに回復魔法をかけると、同時にあなた自身も杖から微量の回復効果が与えられる。
5本目はヨーロッパナラ。芯はフェンリル。勇気や忠誠心を好むヨーロッパナラと、強い忠誠心を持っているフェンリルの相性は抜群。この杖は他と違って、持ち主によって性質ががらりと変わるわ。回復魔法が得意な人が持つと回復魔法力が上がり、攻撃魔法が得意な人が持つと攻撃魔法力が上がる。あなたが持つと、十中八九回復魔法力が上がるでしょう。回復魔法特化の他4本と違って、これだけは攻撃魔法もまあまあ使えるはず」
ひととおりの説明を終え、シャナはライラに一本ずつ杖を振らせた。今まで持っていた杖では自分の魔力が杖に伝わる感覚なんてしたことがなかったのに、シャナに選ばれた杖はライラが手に持っただけでフワッと優しい風を吹かせた。
「…わ」
「ふふ。驚いた?素敵な風が吹いたわね。これがあなたの本来の魔力よ」
「う、うそ…。杖を持っただけなのに…風魔法が…」
「あなたらしいわね。あなたは風属性なんだわ。だから弓も得意なのかも」
「風…」
「さ、どんどん手に持ってちょうだいライラ?一番しっくりくるものを選んで」
「は、はい…!」
ライラはのろのろと杖を振っていく。どの杖も柔らかい風でライラを包み込んだ。まるで杖に優しく抱きしめられているような感覚に、ライラの喉元が熱くなった。
「あ…」
最後の一本であるヨーロッパナラの杖を握ったとき、今までで一番大きな風が彼女を包んだ。ぽわぽわと杖が光り、脚の指先まで魔力が巡ったような気がした。驚いたライラは杖をぱっと離し、助けを求めてシャナを見た。
「シャ、シャナ!なんだかわたし変…!!」
「いいえライラ。それが本当のあなたなの」
「うそっ、わたしこんなに魔法使えない!こんなに魔力もない!」
「ずっと体を動かしていなかったら血の循環が悪くなるでしょう?でも体を動かしたら循環が良くなるわよね。それと同じ。あなた、今魔法の運動不足状態なの。それを杖がほぐしてくれた。そろそろ自分の魔力を受け入れなさい?」
「ほ、ほんとに…これが…?」
「ええ。杖はあくまでサポート係。たしかに強化はしてくれるけれど、もとはあなたの魔法なのよ。どうライラ?あなたが一番しっくりした杖はどれかしら?」
ライラはちらっと先ほど手放してしまった杖を見た。持つのが少し怖い。だが…
「こ、これ…」
「ヨーロッパナラの杖ね。ふふ、良かった。この子が一番あなたの杖になりたがっていたのよ。選ばれて良かったわね、ヨーロッパナラ」
「ううん、この杖が、わたしを選んでくれた。そんな気がしたの」
ライラの一言にシャナはゆっくり目じりを下げた。ライラはおそるおそる杖を両手で握り、遠慮がちに杖を頬に当てた。じんわりと温かみを持つその杖を肌で感じ、彼女は頬を赤らめてぽろりと一粒だけ涙を流した。
「わたしを選んでくれてありがとう」
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