上 下
383 / 718
合宿編:二週目・基礎特訓

【402話】合宿2週目

しおりを挟む
2週目はS級冒険者にしてはまともな特訓だった。基礎を教え、悪いクセを矯正し、実践で体に覚えさせていく。S級冒険者が生徒たちに攻撃を与えることはないので床に血が落ちることもなかった。生徒たちは真剣に、教わったことを吸収しようと何度も武器を構えた。

◇◇◇

「アーサー。あなた、5本同時に矢を射てみたくなぁい?」

「え!!射たいー!!!」

基礎訓練5日目、カトリナ曰く"訛っていた"アーサーの弓術はしっかり鍛えなおされ、今では威力も命中力も見違えるほど洗練されていた。おめがねに敵ったのか、ニコニコしながらカトリナがアーサーに声をかける。アーサーはパッと顔を輝かせて頷いた。

「僕ね!実はひとりで5本同時の練習やってみたことあるんだけど、上手にできなかったんだー!ヒョロヒョロ~って途中で矢が落ちちゃったり、飛んでも威力が乗ってないから意味がなくって」

「5本同時は3本同時と難しさがケタ違いだからァ。独学じゃなかなかできないわ。私がじっくり教えてあげる。ただし、とっても大変よォ?両手の皮がズルムケになるだろうから、エリクサーをたっぷり持参してねェ」

「わーーーい!!!やったぁやったぁ!!」

「カトリナさん。わ、わたしは…?」

隣で羨ましそうに聞き耳を立てていたライラがおそるおそる声をかけた。カトリナは彼女を見てまたニッコリ笑い首を横に振った。

「ライラ。あなたと5本同時は相性が悪いわァ。ただでさえ動揺したら命中率がガクンと下がるんですもの。当たらない矢が何本増えても同じよ」

「うぅ…」

ライラがしょぼんとうなだれると、カトリナがライラの方に手を置いた。

「でも、アーサーにはできなくてあなたにできることがあるの。やってみる?」

「え?アーサーにできなくて私にできること?そ、そんなものあるのかなあ…」

「もちろんあるわ。あなたはアーサーより弓を引く速さがずっと速い。今は3連射ができるけど、鍛えたら5連射くらいできる素質がありそうなのよねェ。それは私にもできないことだから、教えられるのは4連射までだけど…やってみる?」

「ややややりたいです!!!!」

弓を引く速さにはライラ自身も自信があった。そこを認めてもらえたことが嬉しく、さらに新しい技を教えてもらえるとあって大喜びだ。

「ライラも、腕がちぎれるほど苦しいと思うけれどがんばってね。まぁ、あなたたちの痛み耐性じゃそのくらい平気でしょうけど」

その日から2日間、アーサーとライラは新技を習得するために血反吐を吐く思いで弓を引いた。もちろんS級冒険者レベルの技を2日(しかも半日授業)で習得できるはずもなく、二人は夕食後もカトリナに師事を乞うたがそれでも当然間に合わない。

「まあ、とっても難しい技だから仕方ないわァ。合宿中はいつでも教えてあげるけど、たぶん完璧に習得するには時間が足りなさすぎるから、帰ってからは自主練習あるのみね」

◇◇◇

リアーナに魔法を教わっているモニカ、クラリッサ、ライラは、それぞれ実力にかなりの差があった。リアーナは一人一人に基礎練習メニューを与えて黙々と地味できつい時間を過ごさせた。孤独で地味な基礎練習は体力も精神も削られる。うまくいかないときはとことんうまくいかず、苦しみながらも生徒たちは基礎練習に取り組んだ。

モニカはとにかく繊細な魔法コントロールが苦手なので、極めて弱い魔法を持続的に発動する練習をさせられていた。はじめは苦戦していたが、半日とたたずに魔女の森での特訓で見せた"魔力の深淵"に辿り着く。杖と一体化して、真っ白な空間にぽつんと座っているような感覚になった。あまりに深く入りすぎたモニカは特訓が終わってもボォっとしていた。

リアーナは、一種類の魔法を極小で持続できるようになったモニカに次の課題を出した。全属性の極小魔法を5分おきに切り替えて発動しろというものだ。極小のまま魔法を切り替えるのはかなりの集中力が必要で、一日が終わるとモニカは疲れ果ててお風呂に入るのもいやがった。

5分ができるようになったら3分おき、3分ができるようになったら1分おき、1分ができるようになったら30秒おき…と、リアーナはモニカがクリアするほど厳しい課題を言い渡した。

「おおー!モニカ!30秒おきでもずいぶんきれいに切り替えられるようになってんじゃねーか!!苦手な土魔法のときはあやしいけど…まあ合格だ!!」

「やったぁー…」

リアーナに合格をもらい、モニカはぐったりと地面に寝転んだ。心地よい潮風がモニカの頬を撫でる。もうこのまま眠ってしまいたい…と考えていると、リアーナが彼女の顔を覗き込んでニカッと笑った。

「よし!じゃあ次は10秒おきな!」

「…え?」

「聞こえなかったかー?次は10秒おきに極小魔法切り替え練習だ!ほら起きろ起きろ~」

「え…しかも今から…?」

「当たり前だろー?あと夕飯まであと2時間あるんだからな!」

「ふぁー…」

モニカは白目をむいて微動だにしなくなった。それでもお構いなしにリアーナは彼女の手を引いて無理やり起き上らせる。魂の抜けたモニカを木にもたれさせ、「じゃ、がんばれよー!」と手を振ってクラリッサの元へ走っていった。

リアーナと10分ほど話し込んでいたクラリッサは、突然顔を真っ青にして「また難易度上がってません?!」と叫んでいた。リアーナが何を言ったのかは分からないが、そのあとクラリッサは「もういやぁぁぁ!!」と大声をあげながらその場から逃走した。(5分後、ボロボロになったクラリッサを肩に抱いてリアーナが戻ってきた)
しおりを挟む
感想 494

あなたにおすすめの小説

誰も要らないなら僕が貰いますが、よろしいでしょうか?

伊東 丘多
ファンタジー
ジャストキルでしか、手に入らないレアな石を取るために冒険します 小さな少年が、独自の方法でスキルアップをして強くなっていく。 そして、田舎の町から王都へ向かいます 登場人物の名前と色 グラン デディーリエ(義母の名字) 8才 若草色の髪 ブルーグリーンの目 アルフ 実父 アダマス 母 エンジュ ミライト 13才 グランの義理姉 桃色の髪 ブルーの瞳 ユーディア ミライト 17才 グランの義理姉 濃い赤紫の髪 ブルーの瞳 コンティ ミライト 7才 グランの義理の弟 フォンシル コンドーラル ベージュ 11才皇太子 ピーター サイマルト 近衛兵 皇太子付き アダマゼイン 魔王 目が透明 ガーゼル 魔王の側近 女の子 ジャスパー フロー  食堂宿の人 宝石の名前関係をもじってます。 色とかもあわせて。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

ぬいぐるみばかり作っていたら実家を追い出された件〜だけど作ったぬいぐるみが意志を持ったので何も不自由してません〜

望月かれん
ファンタジー
 中流貴族シーラ・カロンは、ある日勘当された。理由はぬいぐるみ作りしかしないから。 戸惑いながらも少量の荷物と作りかけのぬいぐるみ1つを持って家を出たシーラは1番近い町を目指すが、その日のうちに辿り着けず野宿をすることに。 暇だったので、ぬいぐるみを完成させようと意気込み、ついに夜更けに完成させる。  疲れから眠りこけていると聞き慣れない低い声。 なんと、ぬいぐるみが喋っていた。 しかもぬいぐるみには帰りたい場所があるようで……。     天真爛漫娘✕ワケアリぬいぐるみのドタバタ冒険ファンタジー。  ※この作品は小説家になろう・ノベルアップ+にも掲載しています。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。