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合宿編:一週目・ご挨拶

【400話】自主練

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合宿7日目が終わり、アーサーとモニカは友人たちに挨拶をしてから寝室へ戻った。一休みするかと思いきや、モニカはすぐさま筋トレをし始める。ジルに指示されモニカはただいま絶賛肉体強化中だ。

「よんじゅうごっ…よんじゅぅ…ろくっ…よん…うぅ…っ…ってアーサーなにしてるのよぉ!重いじゃないのぉぉ~…」

ゼェゼェ息を切らせながら腕立て伏せをしていると、アーサーが妹の背中にちょんとお尻を置いた。すでに腕がプルプルしていたところに、少しでも負荷をかけられると岩を乗せられたように重く感じる。必死に膝をつかずに耐えているモニカにアーサーは「おお~」と感心した声を出す。

「モニカすごい!5日前よりずいぶん筋肉ついてるんじゃない?」

「いいからどいてぇ~っ!今日は200回膝をつかずにできるまでやれって言われてるんだからっ。この四十回を無駄にしたくないのぉ~…」

「ごめんごめん」

アーサーは謝りながら妹から体を離した。モニカがまた腕立てを再開したので、隣で寝転び頑張っているモニカの顔を覗き込む。ぽたぽた汗を垂らし、顔をしかめながら腕立て伏せの回数を重ねていくモニカを見てアーサーはニッコリ笑った。

「…なによぉっ…ひぃっ…ひぃっ…」

「モニカがんばれっ、モニカがんばれっ」

「がんばるぅ~…ごじゅぅ…何回目だっけ今…」

「53回目」

「…ごじゅうさんっ…ごじゅうよんんん…っ…ぜぇ…っ」

「がんばれモニカっ、がんばれモニカっ」

「……アーサー、隣でいてくれるの嬉しいんだけど…、気が散るからあっちいってて…っ」

「えぇー。がんばってるモニカ見てるの好きなのに」

「あっちいっててぇ…おねがいぃ…」

「分かったよぉ」

アーサーはいやいや起き上がり、モニカの頭をポンポンと撫でてから窓際のベッドに腰かけた。窓を開け、桟に魔法瓶を1種類ずつ乗せる。

特訓中では、ジルはアーサーが魔法液を使うこと、モニカがアサギリを使うことを禁止していた。まずは自分の力を伸ばすことを目的としているらしい。一方でジルは、自由時間のときにモニカに肉体強化、アーサーに魔法液を使いこなせるよう自主練をしておくよう言い渡した。

なのでこの5日間、モニカは寝室へ戻るとすぐ筋トレを始め、アーサーはモニカの筋トレをしばらく眺めてから魔法液に触れていた。

「魔法液によって発動のタイミングが違うんだよね。風魔法は空気に触れたら発動、火、水、雷魔法液は衝撃を与えたら発動。回復、氷、聖魔法は対象に触れたら発動。…不思議だなあ」

ダンジョンで魔法液を使ったときは敵に瓶を投げつけて攻撃をしていただけだったので、こうしてじっくりと魔法液を研究するとなかなか興味深かった。例えば…。

風魔法液は瓶の蓋を開けてすぐに風を吹かせたい方向へ振ると風向きが決まる。風の強さは瓶を振る強さで調節可能だ。蓋をすると風魔法は止み、回数を分けて使用することができる。

火、水、雷魔法液は瓶に与える衝撃の強さによって威力が変わる。
弱魔法を放ちたいのであれば、蓋を開けてから指で瓶を叩くと良い。そうすると瓶からポッと卵サイズの火の玉、水球が零れ落ち、雷魔法であればパチパチとちょっとした電気が走る。この方法で使用すれば一瓶で複数回使用可能。思いっきり地面や敵に投げつけると、火魔法液は爆発を起こし、水魔法は大波ほどの水を発生させ、雷魔法は雷が生まれる。

氷魔法は、液体を垂らすと、対象に触れたら液体が凍るだけだが、叩きつけたら対象(の大きさにもよるが)を氷漬けにできるほどの威力を持っていた。

回復魔法は一滴垂らしても叩きつけても回復量は変わらないようだった。

だが、それにとらわれず魔法液が爆発的な力を発揮することもある。2日目にした全力対戦で、アーサーが氷漬けにされたときと水中に閉じ込められたときだ。そのときアーサーは、瓶を握りつぶしたり蓋を開けただけだった。そのことをジルに話すと、彼は魔法液が使い手の感情や気持ちの強さでも強度が変わるのかもしれないと仮説を立てたが、本当のところはどうか分からない。

ここまでが、アーサーが5日間かけて魔法液を何度も試して分かったことだ。どのような理論でそうなるかまでは分かっていないので、アーサーは何度使っても「不思議だなあ」と毎回感動していた。

「うーん。1種類ずつ使うコツはだいたい分かったから、今度は2種類同時に使ってみよう。モニカみたいに上手にできるか分からないけど…」

「アーサー…っ、はぁー…はぁー…っ。腕立て終わったよォ…」

「わーおつかれー!!」

考えこんでいるうちにモニカが腕立て200回を終えたようだ。アーサーは魔法瓶をポケットに入れて、地面に汗だくで倒れているモニカの手を引き起き上がらせた。モニカはよたよたと上体を起こし、次は仰向けに寝転んだ。

「次は…腹筋を200回…」

「つ、続けてするの?少し休んだら?」

「早く終わらせたい…」

「だめだよ、とりあえず水を飲もう?汗だくだよモニカ」

「早くお風呂入りたい…」

「お風呂の時間まであともう少しだから。それまで頑張ろう」

「うん…」

アーサーはモニカに水を飲ませ、栄養補給と言ってバナナを口に突っ込んだ。噛むのも億劫なのか、モニカはバナナを口に突っ込んだままだらんと脱力して目を瞑る。一本丸々突っ込んだだけでは食べてくれないと考えたアーサーは、ナイフでバナナを細かく刻んでモニカの口の中に押し込んだ。それでやっとモニカは咀嚼してくれた。

「おいしい?」

「うん…」

「もうひとつ食べられる?」

「あとひとつだけなら」

「ん」

「はむ」

10分ほど休憩したあと、モニカは腹筋を開始した。アーサーは妹の足首の上に乗っかって重しになってあげる。その間、彼は魔法液を使って小さな魔法を出して遊んでいた。火の玉を出し、それを水球を出して相殺する。

「あっ、間違えたっ!」

「はちじゅー…ふっ?!」

腹筋83回目、アーサーが突然大きな声を出した。中途半端に起き上がった状態のモニカは、腹筋に一番効く体勢でアーサーの視線の先へ目をやった。相殺できなかった火の玉が今まさにカーペットの上へ落ちるところだった。

「だ、だめぇぇっ!」

モニカが叫びながら火の玉へ手を伸ばすと、バケツ一杯の水が火の玉の上に降り注いだ。間一髪、火事にはならずにすんだ。が、カーペットも床もびしょ濡れになってしまった。

「あー…」

「モニカありがとうぅぅ!!助かったよぉ~。火事になったらどうしようかと思ったぁ」

「うぅー。コントロールが全然だめね…。まだまだ練習しなきゃ…。ってアーサー!気を付けてよね?!」

「ご、ごめぇぇん」

「もう家の中で魔法液使うの禁止!これからは外でやりなさい!!」

「はぁい…」

それからお風呂の時間になるまで、モニカは残りの腹筋をすませ、アーサーは床の掃除にいそしんだ。

合宿が開始し7日が終わった。この7日間はいわば準備体操。明日から、また新しい特訓が始まる。
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