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合宿編:一週目・ご挨拶
【397話】恐ろしい光景
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ある昼休み、比較的特訓が楽で元気が余っていたアーサーが、エリクサーの空瓶を洗っているベニートに飛びついた。
「ベニートぉっ!!」
「うわぁっ!!…なんだアーサーか。今日は元気だな。どうした?」
ベニートは手を止めずにアーサーに話しかけた。アーサーはニヤニヤしながら彼の耳元に顔を寄せる。
「もうライラに挨拶した?」
「ブッッッ!!!」
予想外の問いかけにベニートが変な声を上げた。珍しく動揺して顔を赤くしているベニートに、小悪魔アーサーはさらに追い打ちをかける。
「ファンなんでしょぉ?僕にサインもらってきてほしいって言ってたもんね!」
「ア、アーサー…お、お、覚えてたのかぁぁ…っ」
「僕、忘れ事はしないから!!」
「くそがぁっ」
「あははは!!」
茶化すアーサーに蹴りを入れるも、元気いっぱいのアーサーが飛び跳ねてヒョイヒョイ躱す。ベニートはハァ~とため息をついてまたエリクサーの空瓶洗いに戻った…と思わせて、アーサーの襟首をガッと掴み寄せた。
「わっ」
「アーサー。頼む絶対に誰にも言うなよ?イェルドとアデーレにさえ言ってないんだからな?ライラになんて言ったらまじで許さないぞなあ聞いてるかなんで笑ってんだアーサー!」
「慌ててるベニートおもしろーい!」
「こいつぅぅっ!!」
「でもせっかく同じ屋根の下で暮らしてるんだからさあ」
「やめろそんな言い方するな眠れなくなるだろっ」
「ちょっとくらいお話したっていいと思うんだけどー!!」
「ばっか俺みたいなしょぼい冒険者がライラになんて話しかけられるわけないだろ!」
「あっ!ベニートってライラと直接会ったの初めてだよね!?」
「そうだよっ」
「どう?!ライラどうー?」
襟首を掴んで持ち上げられているアーサーは、足をプランプラン浮かせたままキラキラした目で尋ねた。ベニートは「ふぐぐぐ…」と赤面し、顔をそむけて歯を食いしばったまま答える。
「…良い感じだ」
「でしょーーーー?!?!とっても良い子なんだよ!!」
「あれほど優秀なアーチャーで、上流貴族なのに、控えめでいて、驕っていない。顔も…大人しくて好きなタイプだ」
「ライラいいよね!!でもライラにはチャドっていうボーイフレンドが…」
「ああ聞いたよ前に!!顔が良くて人気者、上流貴族で焼き菓子が名産の領地の長男だろぉ!?」
「わーすごいねベニート!僕が言ったこと覚えてたんだぁ!」
「忘れられるかっ。その日から1週間くらい熟睡できなかったんだからな…」
ベニートがボソボソと呟き、アーサーは首をかしげて大声で言った。
「ベニートってライラのこと好きなのぉ?」
「ち、ちがうって言ってんだろ!!ただのファンだから!!あと声がでかいっ」
「でも反応が…」
「過度なファンっていうのはこういう感じなんだよほっといてくれ。そっとしてくれアーサー」
「おーーーい!!ライラーーーー!!!」
「アァァサァァァ…」
ベニートの心情などおかまいなし、アーサーは食堂で肉を頬張っているライラに手を振った。それに気づいたライラもにっこり笑って手を振り返す。アーサーが手招きすると、ライラは「なあにー?」と肉を片手に駆け寄ってきた。
「ぅわ"っ!こっち来た!!」
咄嗟に隠れようとしたベニートを、今度はアーサーが首根っこを掴みつかまえる。ライラが近づいてきたので、ベニートをグイグイとライラに近づける。
「お、おいっ、アーサーっ、アーサー!」
「ライラー!紹介するね!彼はベニート!C級冒険者だよー!僕と同じ町で暮らしてて、とってもお世話になってるんだー!」
「よ、よろしくお願いしますっ。わ、わたしライラです。いつも怪我の手当や身の回りのお世話をしてくださり、あ、ありがとうございますっ」
「ど…どうも…」
さっきまで大騒ぎしていたのに、ライラを目の前にしていつも以上に無口になってしまったベニート。彼の背中に触れていたアーサーは、服越しでも体温が急激に上がり、心音が爆発しそうなほど激しくなったことに気付いた。
「あのね、ベニートもアーチャーなんだあ!」
「そ、そうですよね。ベニートさんの指、弓を引く人の指だと思ってました」
「あ、ああ…」
「ねえライラ!今度休みの日に3人で弓の練習しようよー!」
「わー!したいしたい!地上に立って弓を射るの久しぶり!楽しみ!」
「いいよねベニート!ベニートもしようねー!」
「俺、お前らより下手だけど…」
「そんなことないよ!ベニートもすごいアーチャーだもん!」
「へー!アーサーがそこまで言うなんてきっとすごく上手なのね!」
「ハードルを上げるなアーサァァ…」
「ライラごはんの途中?僕とベニートもまだなんだあ!一緒に食べない?!」
「嬉しい!一人で食べるの寂しいと思ってたの」
「やった!ベニート、空瓶おいて早くご飯食べよー!」
「う、うそだろアーサー。俺そんな、ライラさんとごはんなんて、うそだろ?!」
「うそじゃないよ?ほら食べよー食べよー!」
「行きましょベニートさん。あっち!」
「ちょ、うわ、わ」
アーサーとライラに手を握られ、食堂までグイグイ引きずられて行かれる。二人とも年下とは思えない握力で逃げられない。長年ファンだったアーチャーが今自分の手を握っているという事実を受け止めきることができず、ベニートの心臓と脳はぐちゃぐちゃになってしまった。
その後呆けてしまったベニートと、それに気づかず楽し気に彼に話しかけるアーサーとライラ。その光景をこっそり見ていたアデーレは、深いため息をついてそっとその場から離れた。
「…恐ろしいものを見てしまったわ…」
(ベニートが正気に戻ったのは翌朝のことだった)
「ベニートぉっ!!」
「うわぁっ!!…なんだアーサーか。今日は元気だな。どうした?」
ベニートは手を止めずにアーサーに話しかけた。アーサーはニヤニヤしながら彼の耳元に顔を寄せる。
「もうライラに挨拶した?」
「ブッッッ!!!」
予想外の問いかけにベニートが変な声を上げた。珍しく動揺して顔を赤くしているベニートに、小悪魔アーサーはさらに追い打ちをかける。
「ファンなんでしょぉ?僕にサインもらってきてほしいって言ってたもんね!」
「ア、アーサー…お、お、覚えてたのかぁぁ…っ」
「僕、忘れ事はしないから!!」
「くそがぁっ」
「あははは!!」
茶化すアーサーに蹴りを入れるも、元気いっぱいのアーサーが飛び跳ねてヒョイヒョイ躱す。ベニートはハァ~とため息をついてまたエリクサーの空瓶洗いに戻った…と思わせて、アーサーの襟首をガッと掴み寄せた。
「わっ」
「アーサー。頼む絶対に誰にも言うなよ?イェルドとアデーレにさえ言ってないんだからな?ライラになんて言ったらまじで許さないぞなあ聞いてるかなんで笑ってんだアーサー!」
「慌ててるベニートおもしろーい!」
「こいつぅぅっ!!」
「でもせっかく同じ屋根の下で暮らしてるんだからさあ」
「やめろそんな言い方するな眠れなくなるだろっ」
「ちょっとくらいお話したっていいと思うんだけどー!!」
「ばっか俺みたいなしょぼい冒険者がライラになんて話しかけられるわけないだろ!」
「あっ!ベニートってライラと直接会ったの初めてだよね!?」
「そうだよっ」
「どう?!ライラどうー?」
襟首を掴んで持ち上げられているアーサーは、足をプランプラン浮かせたままキラキラした目で尋ねた。ベニートは「ふぐぐぐ…」と赤面し、顔をそむけて歯を食いしばったまま答える。
「…良い感じだ」
「でしょーーーー?!?!とっても良い子なんだよ!!」
「あれほど優秀なアーチャーで、上流貴族なのに、控えめでいて、驕っていない。顔も…大人しくて好きなタイプだ」
「ライラいいよね!!でもライラにはチャドっていうボーイフレンドが…」
「ああ聞いたよ前に!!顔が良くて人気者、上流貴族で焼き菓子が名産の領地の長男だろぉ!?」
「わーすごいねベニート!僕が言ったこと覚えてたんだぁ!」
「忘れられるかっ。その日から1週間くらい熟睡できなかったんだからな…」
ベニートがボソボソと呟き、アーサーは首をかしげて大声で言った。
「ベニートってライラのこと好きなのぉ?」
「ち、ちがうって言ってんだろ!!ただのファンだから!!あと声がでかいっ」
「でも反応が…」
「過度なファンっていうのはこういう感じなんだよほっといてくれ。そっとしてくれアーサー」
「おーーーい!!ライラーーーー!!!」
「アァァサァァァ…」
ベニートの心情などおかまいなし、アーサーは食堂で肉を頬張っているライラに手を振った。それに気づいたライラもにっこり笑って手を振り返す。アーサーが手招きすると、ライラは「なあにー?」と肉を片手に駆け寄ってきた。
「ぅわ"っ!こっち来た!!」
咄嗟に隠れようとしたベニートを、今度はアーサーが首根っこを掴みつかまえる。ライラが近づいてきたので、ベニートをグイグイとライラに近づける。
「お、おいっ、アーサーっ、アーサー!」
「ライラー!紹介するね!彼はベニート!C級冒険者だよー!僕と同じ町で暮らしてて、とってもお世話になってるんだー!」
「よ、よろしくお願いしますっ。わ、わたしライラです。いつも怪我の手当や身の回りのお世話をしてくださり、あ、ありがとうございますっ」
「ど…どうも…」
さっきまで大騒ぎしていたのに、ライラを目の前にしていつも以上に無口になってしまったベニート。彼の背中に触れていたアーサーは、服越しでも体温が急激に上がり、心音が爆発しそうなほど激しくなったことに気付いた。
「あのね、ベニートもアーチャーなんだあ!」
「そ、そうですよね。ベニートさんの指、弓を引く人の指だと思ってました」
「あ、ああ…」
「ねえライラ!今度休みの日に3人で弓の練習しようよー!」
「わー!したいしたい!地上に立って弓を射るの久しぶり!楽しみ!」
「いいよねベニート!ベニートもしようねー!」
「俺、お前らより下手だけど…」
「そんなことないよ!ベニートもすごいアーチャーだもん!」
「へー!アーサーがそこまで言うなんてきっとすごく上手なのね!」
「ハードルを上げるなアーサァァ…」
「ライラごはんの途中?僕とベニートもまだなんだあ!一緒に食べない?!」
「嬉しい!一人で食べるの寂しいと思ってたの」
「やった!ベニート、空瓶おいて早くご飯食べよー!」
「う、うそだろアーサー。俺そんな、ライラさんとごはんなんて、うそだろ?!」
「うそじゃないよ?ほら食べよー食べよー!」
「行きましょベニートさん。あっち!」
「ちょ、うわ、わ」
アーサーとライラに手を握られ、食堂までグイグイ引きずられて行かれる。二人とも年下とは思えない握力で逃げられない。長年ファンだったアーチャーが今自分の手を握っているという事実を受け止めきることができず、ベニートの心臓と脳はぐちゃぐちゃになってしまった。
その後呆けてしまったベニートと、それに気づかず楽し気に彼に話しかけるアーサーとライラ。その光景をこっそり見ていたアデーレは、深いため息をついてそっとその場から離れた。
「…恐ろしいものを見てしまったわ…」
(ベニートが正気に戻ったのは翌朝のことだった)
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