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合宿編:一週目・ご挨拶

【393話】アーサーvsモニカ2

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「んっ…おえぇっ…!」

水浸しのアーサーが地面に倒れこむ。荒い息遣いをしながら水と一緒に血や吐瀉物を吐きだし、回復液を飲み干す(エリクサーを使ってはルール違反になるので回復魔法液を飲んだ)。傷が塞がっていくアーサーにモニカは唇を噛む。

(ちっ…。回復魔法液は厄介ね。持久戦になったら間違いなくアーサーが勝つわ。私はもう一回でもアーサーの攻撃をくらっちゃいけない。対してアーサーは…失血していて毒も完全に治癒してないのに…はらが立つほど元気になった!)

(モニカ…、顔が真っ青だ。そりゃあんなに失血したんだもん。倒れてないのが不思議なくらいだ。でも、魔法液がある僕にとって、モニカの魔法はもうそこまで脅威ではないよ)

「モニカ、今回はきっちり勝たせてもらうよ」

ふらふらと立ち上がり、アーサーがモニカに向けて剣を突きつけた。モニカも杖を構えるが、どうしたら勝ち目が出るのか思いつかない。

(どうしたらっ…どうしたら勝てるのっ…。ああん私にアーサーの頭があったらぁぁっ)

向かいに立っていたアーサーが消える。消えたと思えばその瞬間、剣を振りかぶるアーサーが目の前に現れた。モニカは反応できず、咄嗟に目を瞑ってしまった。

《モニカ!!!》

(やだぁっ!負けたくないっ!!)

クン、とモニカの手が何かに引っ張られる。そしてモニカの意思とは関係なく腕がブンっと振り上げられた。

「うぐっ…」

「…え?」

目を瞑っていたモニカに、生暖かいものがかかった。アーサーからの攻撃は来ない。聞こえたのは兄の苦し気に呻いた声だけだ。おそるおそる目を開けると、腰から首にかけて深い傷を負ったアーサーがよろけていた。倒れそうになるのを必死に踏ん張り、アーサーはきっとモニカを睨みつける。いや、睨まれているのはモニカではない。モニカの振り上げられた腕だ。自分の血しぶきで赤く濡れた顔を歪ませながら呟く。

「アサギリィ…」

「!!」

《おいモニカぁ!!俺のこと忘れてんじゃねえよ!俺はお前のモンなんだろぉ?!アーサーに勝ちてえなら俺に任せろよ!!しかたねえから俺様が守ってやるぜモニカよぉぉ!!》

モニカの手に握られていたワキザシは、久しぶりに活躍できる場ができてイキイキしている。モニカの意思を介さず好き勝手にびゅんびゅんと腕を振り回し、モニカは「あわわわっ」と自分の腕に振り回されている。

「ちょっ!アサギリっ!わっ、わぁぁっ!!」

《ヒヒヒヒヒ!!久しぶりに食ったがモニカてめぇのマリョクとやら、うめえなあオイ!!力が漲るぜぇぇっ!!》

「くっ、わ、わ、」

アサギリの、目にも止まらないほど速く、それでいて重い剣筋に、アーサーはオタオタと防ぐことしかできない。回復魔法液を使う暇なんて与えてもらえるわけもなく、アーサーが歩いたあとには血の道ができている。興奮がおさまらないのか、アサギリはギャハギャハ笑いながらワキザシを振り回した。

(アサギリ…!予想以上に強いじゃないか!!キヨハルさんに瞬殺されてたから弱いと思ってたぁ…)

《がははは!!どうだ俺様の腕はよぉぉぉ!!この切れ味の良い脇差と、モニカのマリョクで絶好調だぜ!!!おらぁぁ!おらおら!!》

「ちょっとアサギリィィィッ!!しんどいっ!しんどいよぉぉっ!!息ができないぃぃっ」

アサギリの速く力強い動きはモニカには負担が大きすぎる。モニカの体中に激痛が走り、呼吸器官が正常に作動しない。苦し気にヨダレを垂らしているモニカに気付いたアサギリは舌打ちをした。

《チッ!もう時間切れかよ!!わぁった!じゃあ最後に…よっと!!》

「ぐぅっ…!」

アサギリの渾身の突きをアーサーは避けきれなかった。肺にずぶりと差し込まれた脇差の剣先から血が滴る。だが、アサギリの攻撃にはまだ続きがあった。

「あ…あぁぁっ…!」

「アーサー?!」

《こいつ、ちっとでも動けたら反撃してくるだろ?気を失うまで精気吸い取ってる》

「きゃーーー!!なにしてんの!!アサギリ!!やめて!!」

みるみるうちにアーサーの体がぐったりしていく。モニカは慌ててワキザシを体から引き抜いた。そこからまた血が噴き出し、半泣きになりながら兄に回復魔法をかける。

「もう終わり!!わたしの勝ちだから!!アサギリ!!アーサーに精気返してあげて!!」

《あん?もう終わりかぁ?わぁったよ》

アサギリの刀身から淡い光が放たれ、虚ろな目で痙攣していたアーサーの元に戻る。アーサーは気を失ったが、モニカの回復魔法のおかげで真っ青だった顔にかすかに赤みが差した。モニカは安堵のため息をつき、アーサーを抱きしめる。

「こわかったぁぁ…」

《よっしゃ勝った!!》

「アサギリのバカ!!」

《はぁ!?》

「力を貸してくれたのは嬉しかったし助かったけど、精気を吸い取っちゃうのはさすがにやりすぎよ!!」

《いや戻すつもりだったし…》

「そういう問題じゃない!!」

《んだよっ!!お前に勝たせてやろうと思ってわざわざ俺が力を貸してやったのに!!》

「アーサーが死んじゃうかと思ったじゃないの!わぁぁぁぁぁんん!!!」

《ちょっ…な、泣くなぁ!!死ぬまで吸うわけねえじゃねえかよぉ!!》

《まったく…。加減を知らんなアサギリは…》

「モニカ」

泣きじゃくっているモニカに、いつの間にか後ろに立っていたジルが声をかけた。モニカが顔をあげると、ジルは戸惑いを隠せない表情をしている。

「さ…さっきの動きはなに?剣捌きといい、俊敏さといい、いつものモニカと比にならないほどの…」

「グスッ…。アサギリがね、力を貸してくれてね…。ずびっ」

「アサギリが?確かに振ってたのはアサギリだったけど」

「うん…。アサギリはね、私の体を乗っ取って自由に動かすことができるの…。だから普段の私じゃできないような動きもできるの…。ふえっ、ふえぇぇんアーサぁぁ…」

《アーサーは死なねえっつってんだろぉ!!泣くなぁっ!!》

「この剣…そんなことまでできるの…?なんて剣だ」

《剣じゃねえ脇差な!!!》

アサギリの助けにより勝利を掴んだモニカ。その勝利はちっとも嬉しくなくて、モニカは兄が目を覚ますまでずっと泣き喚いていた。

二人の容態が安定するまでの間、ジルはじっとアサギリを見つめていた。深く考え事をしているのか、ブツブツとずっと何かを呟いている。

「アサギリ…。呪いを食うだけでも浄化するだけでもなく、憑依し体を動かすこともできるのか。並外れた身体能力を発揮させ、剣術も一流。その上精気を吸い取る能力。…なんてものを手懐けたんだいモニカ。とんでもないな」
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