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合宿編:一週目・ご挨拶

【390話】落下訓練

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合宿2日目。子どもたちはシリル、クラリッサ、ライラ組、アーサー、モニカ、ダフ組に分けられた。アーサー組は庭での特訓だったが、シリル組は森の中へ連れて行かれる。魔物まみれの森だということは足音や唸り声ですぐに分かった。

(魔物相手に特訓するのかな?)

(んひいいいっ…ここの魔物強そうっ…た、倒せるかなあ)

(魔物相手に戦ったことがないわ…。役に立てるかしら…)

「よし、着いたぞ!」

「ん~、良い風だわァ」

リアーナとカトリナが立ち止まったのは、海風が心地よいひらけた場所だった。景色が良く、地平線がよく見える。ピクニックとして遊びに来ていたのなら、ここでシートを敷いてサンドイッチを食べていただろう。

「わぁぁぁ!!!」

「きれい!わたしの領土には海がないから新鮮だわ!」

「僕もこの景色好きだな」

「特訓するにはうってつけだな!!!」

「「「……」」」

リアーナの一言に3人の目が死んだ。あまりに綺麗な景色に現実を一瞬忘れていた。そうだ僕たちはここに特訓しにきたんだ…と思い出し、おそるおそるリアーナに目をやった。リアーナはニカァっと笑い、杖をビシッと生徒たちに向けた。

「これからおまえらの瞬発力と判断力を鍛えるぞ!打ち所が悪ければ痛み耐性もな!」

「…?」

「一度に10体の魔物を倒せば次の段階に進むわねェ」

「一度…?」

「得意な武器で戦ってくれ!あ、シリルは短剣をいくつか持っといた方が良いぞー」

「あ、はい。分かりました…?」

「何十回もやってたら飽きて来たり慣れて来たりするだろうから、いろいろバリエーションは考えてんだ~!それはのちのちのお楽しみー!」

「あ、あの、私たちなにをしたら…」

「着地するまでに10体の魔物を倒すこと。単純でしょう?」

「着地???」

「じゃ、いくぞー」

「はい、おねがいしまァす」

「ちょ、ちょ、え、ちょっ?!」

頭上にクエスチョンマークが山ほど浮かんでいる生徒たちを、リアーナはひょいと柔らかい風魔法で宙に浮かせた。風魔法はどんどん高度を上げていき、止まった頃には森の木々のてっぺんが5メートル下にあった。いやな予感がした3人はお互いにしがみついて震えている。

「な、なにする気…」

「う、うそ、うそでしょ」

「わ、わぁぁぁぁ!!!!」

予想的中。風魔法が解け3人は森に向かってまっさかさまに落下する。彼らの叫び声は庭で訓練をしていたアーサーたちにも聞こえるほどだった。

落下中、シリルが真っ先に我に返った。

(そ、そういうことか!着地するまで…つまり落下中に3人で魔物を10体倒す訓練だ!だから僕に短剣を持たのか!遠距離攻撃ができるように…!)

ほぼ同時にライラもおたおたと弓を構えた。

(い、射なきゃっ!10体射なきゃ!!)

シリルが短剣を投げ、ライラが弓を射ていることに気付きクラリッサが慌てて杖を構えた。着地するまでに、シリルは短剣を2本投げて2体の魔物に当て、ライラは3本の矢を射て1体に当てた。クラリッサは炎魔法で3体を丸焦げにしたが、6体ともまだ息があった。

「ふぎっ!」

「きゃんっ!」

「ぶぅっ!」

魔物を倒すことに集中しすぎて着地することまで頭が回っていなかった。3人は思いっきり地面に体を打ち付けた(ライラにいたっては頭を打った)。幸いにも地面が柔らかい土だったので、骨にひびが入るだけで済んだ。痛みに弱いクラリッサはゼェゼェと息を荒げ、シリルは苦しそうに呻き、ライラはケロっとしている。そんな彼らの元へリアーナとカトリナが歩いてやってきた。

「おー!見事にみんな着地失敗か!!」

「まあ、6体当てたのねェ。…でも残念。すべてまだ息があるわァ。でも、一度目にしては上出来ね」

リアーナとカトリナは傷ついた魔物を確認したあと、3人にエリクサーを飲ませた。エリクサーを一気飲みしながら、生徒たちは心の中で絶叫していた。

(な、なんだこの特訓は?!下手したら死んじゃうじゃないか!!!それを説明もなしにする普通?!鬼畜の所業!!鬼畜の所業だよこれ!!)

(びびびびびっくりしたよぉぉぉっ!こんな特訓今までしたことない!!で…でも、こわいけど、ちょっとワクワクするかも…。でも前もって説明はしてほしかった…こわかった…)

(生きてるのが不思議なくらいだわ!!!なんてことをするのこの方たち!!そもそも落下している短時間で魔物を10体も倒せるわけないでしょう?!)

(…3人で10体。一人約3体か。さっきは短剣を2本投げるので精一杯だった。次は3本投げられるようにしよう。最終的に4本投げられるように…)

(…また矢を外しちゃった。次は全部の矢が当たるようにがんばるぞぉ…。あと、着地のことも考えないと…)

(…炎魔法の威力が弱すぎたわ。もっと強く放たなきゃだめね。遠距離型のわたしとライラが多めに倒さなきゃ、シリルには不利すぎる特訓だわ。フォローしないと)

恨めし気にS級冒険者を睨んでいた生徒たちは、いつの間にか考え込んで次のことを考えていた。もっと騒がれたり文句を言われると予想していたカトリナとリアーナはキョトンとして目を合わす。

「へえ。やるじゃん」

「驚いたわァ。現状を受け入れるのが早いわねェ」

「さすがはあたしらが選んだやつらだな!」

「ええ。教え甲斐がありそう」

「面白くなってきた!」

それからも生徒たちは何度も何度も空高くから落とされた。ときに骨を折り、ときに気を失いながらも彼らは食らいついていく。マンネリ化を防ぐためといって、5回に一度は海へ落とされた。着地に関しては森よりも心配がいらないが、海の中は魔物まみれ。海水を含んだ重い服で浜辺まで泳ぎ体力をゴッソリ奪われる。ビショ濡れになったあとの落下特訓は、うまく体が動かなくて苦戦した。

落下特訓30回目。海から上がってきたクラリッサが「森へ戻りたくない」と駄々をこね木にしがみついて離れなくなった。そんな彼女をシリルとライラが引きずり戻す。

落下特訓50回目。シリルがトイレからなかなか戻ってこなかった。様子を見にきたライラに気付き、シリルは一目散に逃げだした。ライラが慌てて追いかけ捕まえると、「しばらくここにいさせてよぉぉぉ」と半べそをかいた。(容赦なくライラは森へ引きずっていった)

落下特訓100回目。日が暮れかけた頃、ボロボロになった3人は無言で顔を見合わせ頷いた。リアーナとカトリナが気付いた頃には、彼らは森の奥へ逃走していた。

リアーナはケタケタ笑いながら3人に向かい風の風魔法を放った。が、本気で逃げたいクラリッサの渾身の反属性魔法で綺麗に打ち消される。さらに土魔法で壁を作り行く手を阻んだ。

カトリナは軽やかに壁を登り、そこから彼らに弓を引いた。次々と振ってくる矢の海を、なんとしてでも逃げたいシリルが弾き落とす。その間にライラがカトリナに3本同時攻撃を3回連射した。そのうちの一本を手で掴み、カトリナは「あらまぁ」と嬉しそうに呟いた。リアーナも壁にのぼり、必死に逃走するシリルたちを眺めてゲラゲラ笑った。

「なんだあいつら!まだまだ元気じゃん!!」

「良い連携だったわァ。クラリッサの反属性魔法素晴らしかったわね」

「おう!!シリルとライラも良い動きしてたな!!」

「ええ。とっても」

合宿記録:カトリナ--------------

シリル、ライラ、クラリッサ組。合宿2日目。落下訓練。最高成績8体(シリル2、ライラ3、クラリッサ3)。訓練回数100回目にて逃走。逃走時の連携は胸が躍るほど素晴らしかった。クラリッサは反属性魔法でリアーナの風魔法を完全相殺。シリルは私の矢10本から味方を守った。ライラは私に9本の矢を射る。そのうちの一本は確実に急所に向けて放たれていた。
アーサーとモニカほどの我慢強さや根気はないけれど、きっとそのうち慣れてくれるはず。

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