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初夏編:まったりポントワーブ

【373話】フルーツゴロゴロフレンチトースト

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翌朝、アーサーは早起きをした。モニカを起こさないようにそっとベッドを抜け出し、音を立てないようクローゼットを開けて服を着替える。アイテムボックスを手に持ち忍び足で調合室へ入った。バナナを咥えながら薬素材が入った瓶をテーブルに広げ、腕まくりをする。

「よぉし、がんばるぞー」

自分の調合室で薬をすり潰すのは久しぶりだった。自分に合った高さのテーブル、目を瞑っていても素材瓶の置き場所が分かる棚の並び。安心する家と薬素材の匂い。いつも聞こえてくるモニカの歌声がないのは少し寂しかったが、やっぱりこの場所で調合するのが一番好きだなあと一人でニコニコした。

「あれ?アーサーもうここにいたの?」

調合を始めて2時間後、寝起きのモニカが目をこすりながら調合室に入ってきた。

「おはようモニカ。よく眠れた?」

「うん!夢もみないくらいぐっすり!」

「よかったよかった」

「って、アーサーもうこんなに調合したの?!何時からやってたの?」

モニカはボールに入っている完成した薬を見て大きな声を出した。アーサーは手を動かしながら「6時くらいからかな?」と答える。

「ずいぶん早起きじゃない!いつもなら私が起きるまで待っててくれるのに」

「今日はちょっとがんばろうと思って!無心で薬をすり潰すのたのしいー」

「あんまり無理しちゃだめよ!夢中になりすぎると手がズルムケになっちゃうんだから」

「はぁい」

「朝ごはんは食べたの?」

「バナナを3本食べたよ」

「アーサーはほんとにバナナが好きねぇ。一緒にパンとチーズ食べない?」

「食べる!!ねえ、パンはフレンチトーストがいいなあ」

「いいわね!!あ、でも卵がないわ。お買い物行く?」

「いく!!」

「分かった!じゃあパパっと服着替えてくるね!それまで待ってて!」

「はーい!」

朝の買い物にワクワクしたモニカは、スキップしながら寝室へ向かった。早く買い物に行きたかったのか、ささっと服を着替え化粧もせずに戻って来た。

「はいお待たせ!」

「はやー!」

「はやく行きましょ!きっと仕入れたての新鮮な食べ物がたっくさん並んでるわ!」

モニカはアーサーの手を引っ張り階段を駆け下りた。アーサーは慌ててアイテムボックスを引っ掴みエプロンを脱ぐ。整えていない髪を気にして恥ずかしそうに寝ぐせを手で押さえつけながら、食料品店に入店した。店主は双子を見てニカっと笑い手を振る。

「いらっしゃい!朝イチのお客さんがアーサーとモニカとは珍しい!」

「おはよう!ねえねえ、とれたての卵入ってる?!」

「おうよ!入ってるぜ!」

「やったー!!ミルクは?!」

「運がいいなあ、さっき来たばかりのやつがあるぞ!」

「きゃー!!」

朝の食料品店は品数がいつもより多く、ツヤツヤの果物や野菜、乳製品や肉などがびっしり棚に並べられていた。アーサーとモニカは大きなカゴを引っ掴み、卵、ミルク、オレンジジュース、パン、腸の肉詰め、鶏肉などをどんどんと放り込んだ。

「モニカ!モニカ!バナナほしい!!」

「またバナナぁ?!前いっぱい買ったじゃない!もう食べちゃったの?!」

「まだあるけど…30本は手元にないと不安で…」

「アーサーにとってバナナは一体なんなの?」

「バナナ!」

「…分かったわよ、どうぞ好きなだけ入れてください?」

(なにがわかったんだ…?)

店主は棚に商品を並べながら双子の会話を聞いていた。双子の天然が効いたよく分からないやりとりに口元を緩め、どんどんと減っていく商品を補充していく。モニカはフランボワーズやオレンジ、チェリーや野菜を掴んではカゴに放り込んだ。

「今日のフレンチトーストはね!果物をたっぷり乗せちゃいましょう!」

「わー!!ぜいたくー!!」

「お昼は野菜のスープとパンとお肉ね!」

「モニカ最高!はやく食べたい!」

数十分後、双子はどさっとカウンターにかご2つを乗せた。店主は丁寧にそれらを4つの紙袋に分けて渡し、代金の大銀貨15枚を受け取った。アーサーは飲み物が入った紙袋と重い野菜が入った紙袋を持ち、モニカは軽めの紙袋をふたつ持って店を出た。

その時間帯になるとポントワーブは行き交う人で賑わっていた。今から依頼に出かける冒険者、職場へ向かう人、買い物に出かける人たち、子どもを公園に連れて行く大人たち…。彼らは大きな紙袋を持ったアーサーとモニカを見ると、手を振って挨拶をしてくれた。

「おはようアーサー、モニカ。今日は朝早いじゃないか」

「うん!早起きした!」

「買い物にいったのかい?たくさん買ったねえ」

「朝のお店は新鮮なものばっかりでついいっぱい買っちゃった!」

「あはは。分かる分かる」

「今日の朝ごはんはフレンチトースト!」

「フルーツいっぱい乗せるんだー!」

「まあ贅沢。おなかいっぱい食べなよ」

「うん!ありがとう!」

「じゃあね」

「はーい!」

家に帰り、モニカは早速フレンチトーストを作った。パンにたっぷりミルクと卵を浸したので、ちょっぴり焦げ目のついたトロトロのフレンチトーストが出来上がった。そこにフランボワーズ、バナナ、オレンジを乗せるとカフェのフレンチトーストに負けずとも劣らない素敵なものになった。アーサーはフォークとナイフを握りながらよだれを垂らしている。

「モニカ!おいしそう!!すっごくおいしそう!!」

「ねー!!はやくいただきましょ!!」

「わーい!!いただきます!!」

アーサーはフレンチトーストとバナナを、モニカはフランボワーズをフォークに刺してパクリとかぶりついた。そして「んんん~~~!!!」と足をパタパタさせる。

「おいひぃぃぃぃっ!!!」

「おいひぃよぉぉぉっ!!」

「モニカおかわりあるっ!?」

「作る作る!!」

「んんんん~~!!!わー僕これ毎日食べたいよ~おいしすぎるよ~」

「わたしも~!!おいしいよぉ~おいしいよぉ~」

あまりのおいしさに、二人で食パン一斤とその日購入した果物の3分の1をペロリと平らげてしまった。食べ過ぎて眠気が襲ってきたのか、モニカはお皿を洗ってからソファで二度寝をしてしまう。アーサーは膨れたおなかをポンポン叩きながら、調合室に戻り再び薬をすり潰した。…が、やはり満腹感に勝てず、いつのまにかテーブルに顔を突っ伏してうたた寝をしてしまっていた。目が覚めたときには庭からモニカの歌声が聞こえ、肩にはブランケットがかけられていた。
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