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初夏編:まったりポントワーブ

【370話】カツカツ

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ツヤツヤサラサラになった双子はその足でユーリの薬屋へ向かった。店に入ると接客をしていたユーリがこちらを見てニコっとだけ笑った。いつものようにお客さんがはけるまで双子も店の手伝いをする。双子もユーリも、3人でお店をまわすこの時間がだいすきだ。

客足が落ち着いた頃、ユーリは伸びをしながら双子にお礼を言った。

「アーサー、モニカ。いつもありがとう」

「ううん!一人でお店をするのは大変ね。おつかれさま!」

「ほんとにすごいね。先生もお店に出てないのに、どうやってお店まわしてるの?」

「常連さんがいつも買う薬は作り置きするようにしてるんだ。お客さんの状態が変わってたら作り直すけどね。それでずいぶん効率が良くなったよ」

「おー!かしこいー!」

「それに、最近は調合室じゃなくて店内で調合するようにしてる。調合しながらお客さんとお話してると、結構待ってくれるよ」

「お話しながら調合するの、大変そう…」

「慣れたら大丈夫だよ。それよりアーサー、モニカ。この前は父さんを助けてくれて本当にありがとう」

ユーリは二人の手を握りながら改めてお礼を言った。双子はぶんぶん首を振り、ユーリの手を握り返す。

「ううん!!こちらこそ、いつもわたしたちを助けてくれてありがとう!」

「ユーリとシャナとカミーユには助けられっぱなしだよ。本当にありがとう」

「それはこっちのセリフ。僕たちの家族は、君たちに頭が上がらないよ」

「それこそわたしたちのセリフだわ」

3人はぎゅーっとハグをして「ありがとう」を繰り返した。なぜか3人ともぽろぽろと涙がこぼれた。しばらく泣き合ったあと、目を擦りながら照れくさそうに笑う。

「そうだユーリ。カミーユ、今は家でゆっくりしてるんだよね?」

「うん。僕と母さんにべったりだよ。この年になって親子で川の字になって寝ると思わなかった」

「あはは!カミーユ、シャナとユーリのことだいすきだもんね!」

「うん。僕たちが仕事に行ってる間はずっとお酒飲みながら難しい資料に目を通してるみたいだけど、僕たちが帰って来たら資料ほったらかして僕か母さんにずっとくっついてる」

「あはは!!」

「一回で良いからそんなカミーユ見てみたい!」

「じゃあ今夜こっそりうちに来る?たぶん母さんにべったりしてるとこ見られるよ」

「え!いいのー!?」

「もちろん。一緒にご飯食べようよ」

「やったー!!」

ユーリたちの家に遊びに行けること、シャナのごはんが食べられること、カミーユの甘えん坊なところを見れることがすべて嬉しくて、アーサーとモニカはハイタッチをして喜んだ。ユーリはニコニコしながら時計をちらりと見る。

「あと2時間で仕事が終わるから、それから迎えに行くよ。二人はこのあと予定あるの?」

「うん!商人ギルドに行くつもり!たぶんユーリがお仕事終わる頃には帰ってると思う!」

「分かった。じゃあ迎えに行くね。…商人ギルドの前にうちに来てくれたってことは、エリクサーを卸してくれるの?」

「あ!そうだった!」

「そのために来たのー!」

「助かるよ。そろそろエリクサーが品薄になってたんだ。いくつ卸してくれる?」

「えーっとね」

双子はジッピン生活でちまちま作っていたエリクサーと、田舎で滞在していたときに作ったものを数えた。前回卸した時から期間があいていたにもかかわらず、36,500本といつもよりずっと少な目だ。アーサーとモニカは申し訳なさげにユーリを見た。

「ごめんね…。最近ずっとバタバタしてて…」

「これだけしかないの…」

「二人とも忙しいんだもん。そんな顔しないで。いつも通り1か月分の1万本もらっても大丈夫?」

「大丈夫!」

「ユーリのお店が最優先だから!」

「ありがとう。助かるよ」

「あとね!これ、リアーナとジルが作ったポーションがあるんだけど、いる?!」

モニカはアイテムボックスからポーションをひと瓶取り出した。エリクサーとは違う、黄色い液体にユーリは身を乗り出した。

「え!!なにこれ!!リアーナとジルが?!」

「うん!モニカがリアーナに回復液の作り方を教えて、僕がそれに合った薬のレシピを考えて、そのレシピを元にジルが調合したんだー!」

「すごい!!どのくらいの効果だろう」

「ユーリのポーションよりちょっと効果が弱いけど、一般的なポーションよりはずっと質がいいよ!」

「いいね!僕のポーションが大銀貨1枚だから、リアーナのポーションは小銀貨7枚で売ろうかな。買い取りは小銀貨5枚でどう?」

「「それでお願いします!!」」

ユーリはリアーナのポーションを6,000本全て買い取ってくれて、買い取り金額は合計で金貨300枚になった。そこにエリクサー代も上乗せされ、合計白金貨180枚の利益になった。アーサーは代金を麻袋に入れ、代わりにエリクサーとポーションをユーリに渡した。

ユーリは早速エリクサーとリアーナポーションを棚に並べ、在庫を調合室へと運んだ。

「エリクサーも嬉しいし、リアーナポーションもありがたいよ。リアーナにお礼言わないと」

「リアーナもジルも、ポーション作りにハマってたからまた作ってくれると思うよ!」

「ほんと?助かるなあ」

しばらく立ち話をしてから、アーサーとモニカは薬屋を出た。ユーリが迎えに来てくれる前に用事をすませないとと急いで商人ギルドへ向かう。ギルドの中へ入ると、アーサーとモニカの顔を見たとたんギルドマスターは「うわぁぁぁアーサーさん!モニカさぁぁぁん!!」と叫びながら駆け寄ってきた。

「わ!びっくりしたぁー…」

「お待ちしておりましたよぉぉぉ…!!エリクサーを…エリクサーを早くぅ…」

「は、はいぃ…」

アーサーがエリクサーを渡している間にも、商人ギルドにはたくさんの伝書インコが入ってきて《エリクサーマダデスカ》《エリクサークダサイ》《タカネデカウノデエリクサーヲ》という伝言を残して去っていった。ここのところずっとそうなのか、伝言を聞いた受付嬢たちは「ただいま品切れ中です。入荷次第お送りさせていただきます。以上!」と半ばやけくそになって返答している。その光景を見て双子は顔を青くした。

「ギルマスさん…。もしかしてエリクサーが品切れになって大変なことに…?」

「はい!それはもう大変なことになっております!!あなたたちが異国へ行っていることは聞いていましたのでいつもより出荷数を減らして調整はしていたのですが…。予定よりも遅いお帰りだったので品切れになり…」

「うっ…」

「ご、ごめんなさい…」

「すみません、そういう意味で言ったのではありませんよ!とにかく来てくださってよかった…!本当にありがとうございます!」

ギルドマスターは口ではそう言っていたが、目や仕草で「はやくエリクサーを全部出してください」という気持ちでいっぱいなことが丸わかりだ。双子が26,500本のエリクサーを渡し終え、申し訳なさそうに「これで全部です…」とボソボソ呟くと、ギルドマスターは「ふぐぅっ…」とうめき声を出した。

「こ…これで全部ですか…?」

「はい…」

「26,500本…」

「ごめんなさい…」

「はっ…!あ、いえ!!申し訳ありません!ありがとうございます!!十分です!!」

「少ししか作れなくてごめんなさい…」

カタカタ震えながら謝る双子に、ギルドマスターは慌てふためいた。おろおろしながらアーサーとモニカの肩に手を乗せ、できるだけ優しくポンポン叩く。

「いいえ!むしろお忙しい中作ってくださってありがとうございます!あなたたちは冒険者でもありますし、その月によって納品数が変動しても仕方ありません。エリクサーを卸していただけるだけで、とてもありがたいです。もしよろしければ、今後もどうぞよろしくお願いしますね。たとえ1本でも、卸していただけると嬉しいです」

「ありがとう、そう言ってもらえるとちょっとホッとしました…」

「よかったです。こわがらせてしまってすみませんでした。さて、では代金を用意しますね」

怒られると思っていたアーサーとモニカは、こっそり目を合わせて安堵のため息をついた。フカフカのソファで座り待っていると、ギルドマスターが白金貨318枚を持って戻って来た。これでポントワーブでしなければならない用事は済んだので、双子の気持ちが少し軽くなった。

「これで所持金がだいたい白金貨1600枚くらいになったね。ここ数か月は支出ばっかりだったからちょっと一安心」

商人ギルドを出て家に帰っている途中にアーサーが呟いた。モニカは頷きながら指を折って計算している。

「えーっと、来週はトロワに行くからキャネモにお金渡さないといけないよね。前に行ったのがだいたい3か月くらい前だから…白金貨450枚払わなきゃ。ってことは残りが…」

「1150枚。うーん…カツカツだなあ…」

「それに、トロワの子たちに作ってもらってるエリクサーとポーションの代金も先払いしないといけないわ。ひぃぃっ…お金がぁ…」

「来月は合宿だし、今月にできるだけお金作っとかないとなあ…」

アーサーとモニカは収入も大きければ支出も大きい。エリクサー作りをサボればドカンと所持金が減ってしまう。学院から戻ってから一向に増えない所持金に、双子は深いため息をついた。
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