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初夏編:田舎のポントワーブ

【361話】残りのメンバー

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ジルの話によると、彼らはライラの他にも3人の子どもに声をかけていた。

2人目はダフ。学院ではローズ寮の生徒だったが、アーサーと特に仲が良かった。彼は現在騎士としての訓練を受けており、期待の新人として巷で有名になっているらしい。

3人目はシリル。ビオラ寮の生徒で、現在も学院に在籍している。アーサーともモニカとも仲が良く、彼らはよく図書館でお喋りを楽しんでいた。去年の冬にモニカに告白して失恋してしまったが、それでも変わらず仲は良いままだ。

4人目はクラリッサ。ビオラ寮の生徒で、彼女も学院に在籍中だ。彼女と双子は特に仲が良いほどではなかったが、寮対抗戦で見せた見事な魔法と武術は、アーサーもモニカもしっかりと覚えていた。

「…と、まあこんなかんじ。君たち以外にこの4人の子たちも合宿に招いてるんだ」

ジルが話しすぎて疲れたとでも言うかのように、背もたれに深く腰掛けてだらんと力を抜いた。プラム酒を飲みながら紙束をテーブルにそっと置き、カトリナに「あとは任せたよ」と目で合図をしている。

懐かしい名前が4人もあがり、その上1か月後に再会できると知った双子は(カトリナに縛られることを恐れて)暴れまわりたい気持ちを必死に抑えて椅子の上で手足をバタバタした。

「ダフに会える!!シリルに会えるーーー!!!」

「クラリッサと一緒に特訓できるー!!!あーー!!うれしいよおお!!!」

「ふふ。喜んでくれて良かったわァ」

「でも、どうして急にそんなことを?カミーユたちって基本的にそういうことしないでしょ?」

「ええ。しないわ」

「なのにどうして?」

「万が一に備えてよォ」

「万が一?」

「万が一って?」

純粋無垢な目をキラキラ輝かせながら質問するアーサーとモニカ。カトリナはくすりと笑い、こう答えた。

「私たちがいつ死んでもいいように」

「え…」

予想外の答えに双子は静かになった。キラキラしていた目も、驚きと戸惑いで曇っている。だが、カトリナは淡々と話を続けた。

「もちろん私たちはそう簡単に死なないわァ。死ぬつもりなんて毛頭ないもの。でも、ついこの間私たち死にかけたばっかりじゃない?だから考えちゃったの。私たちが万が一いなくなってしまったときのことを」

「…死んじまう前に俺らが次の時代に渡せるモンを渡しとこうって話になったんだ。で、誰にするかって話になってだな。まずお前らは外せねえよな。他に見どころのあるやつにも声をかけようぜってことになって、いろいろ調べたり考えた結果この4人を選んだ」

カミーユも口を開いた。真剣な話をしているのに、縛られているので真面目さ半減だ。だが話が話だけにアーサーとモニカはそこにツッコむ余裕がなかった。

「ライラはカトリナの推薦だね。この話が出る前からカトリナは彼女のことが気になってたみたいだし」

「ええ。彼女、とても腕が良いのに先生に恵まれないのよねェ。私がきっちり教えてあげたいわァ」

「ライラに声をかけたら喜んで参加すると返事が来た。お前たちに会えるのも楽しみだと書いてあったぞ」

「でも学院は…?授業があるんじゃ」

「そこはおまえ、カトリナのオッサンになんとかしてもらえば一発だ。ライラ、シリル、クラリッサは学院に在学中だが、特別課題として一か月預けてもらえることになった。もちろん俺らが噛んでることはオッサンしか知らねえよ」

「カトリナのお父さんすごいー!」

「ふふ、理事長だからァ」

「ダフはカミーユの推薦だね」

「ああ。噂でしか聞いたことねえがかなりできるみたいだな。大剣が得意らしいし、アーサーでは教えられないことも教えられる」

「でも彼、クルドが先に手つけてるでしょ?いいの?クルド怒らない?」

「あー…。まあ、いいんじゃねえか…?ダフは大喜びで快諾してたし…」

「クルド?クルドってだあれ?」

聞き覚えのない名前が出てきてモニカが首を傾げた。だが、アーサーはその名前に聞き覚えがあった。

「たしか…ダフの師匠のS級冒険者?」

「そうだ。北のS級冒険者、クルド」

「カミーユみたいにムキムキなのに、性格はちょっぴり女々しいの」

「あとはカミーユのことをライバル視してる」

「へぇー!!」

「変わったやつだが腕は確かだぞ」

「じゃないとS級になんてなれないしね」

「クルドの話はそろそろいいだろ。とにかくダフは大喜びで合宿に参加する」

「わーい!!」

「シリルは僕の推薦。剣技はもちろんカミーユが教えるけど、彼は頭が良いみたいだから。ブレインとして育てたいんだ」

「シリル!すっごく頭がいいよ!!」

「だろうな。ジルが気に入るなんてよっぽどだぜ。…おいジル。シリルの剣技は俺が教えるが、その代わりダフに防御術教えてくれよ」

「もちろん。ダフは良い盾になるよ。はやくしごきたい」

「で、クラリッサはリアーナの推薦だ。代々武術と魔法が一流のクラリッサの家は貴族だけじゃなく冒険者の間でも有名でな。リアーナが目を付けるのも分かるぜ」

「ンーーーンーーーンーーーー!!」

クラリッサの話をしたいのか、猿ぐつわされているリアーナが必死に声を出していた。カトリナはニコニコしながら猿ぐつわを外した(縛っている縄は解いてくれなかった)。発言ができるようになった瞬間、リアーナは堰を切ったように早口で話し始める。

「ほんとはあんなの育てたくないくらいだ!!だって敵に回ったらおそろしいぞ!武術が使える魔法使いなんて怖すぎない?!」

「だったらなんでクラリッサを選んだんだよ…」

「だって楽しそうだったから!!」

「つまり直感だね」

「そういうことだ!!がはは!」

「リアーナらしいわァ」

一通りの話が終わったころ、ジルが改めて双子に向き直った。

「だらだら話しちゃったけど、要約すると君たちとライラ、ダフ、シリル、クラリッサの計6人を僕たちが1か月かけて育てようと思う。4人は快諾、もう合宿のための準備を進めてくれてる。場所はここからずっと南にある、カールソン名義の家。田舎も田舎、その上家の裏には特訓にうってつけの、B級魔物がうじゃうじゃいる森付き。さらに家の前には、C級魔物がやりたい放題してる穏やかな海までついてるよ。ちなみにベニートたちも手伝いとして来てくれる。…と、まあこんな感じなんだけど。どう?来てくれる?」

アーサーとモニカの出した答えは、言うまでもなくもちろんイエス。今すぐにでも南に行きたいと思っているようで、ソワソワした体が南の方向に傾いている。テーブルに頭を打ち付けそうなほど頷いている双子を見て、カミーユたちはホッとしたように口元を緩めた。
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