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初夏編:田舎のポントワーブ

【352話】コソコソ話

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マイセンさんとピクルが帰ったとたん家の中の空気が変わり双子は凍り付いた。ビクビクしながら顔を上げると、ニコニコ笑いながらこめかみに青筋を浮かべているカトリナ、ニマァと笑いながらコキコキ指を鳴らしているカミーユ、真顔で両手に縄を持ってピンと伸ばすジル、笑いをこらえて足をバタバタさせているリアーナが彼らを見ていた。アーサーとモニカはジルの持っている縄を凝視しながら冷や汗を流している。

「アーサー、モニカ?どうしてあなたたちが変装しているのか、さっき説明したわよねェ?」

「目立っちゃいけねえんだよ。な?そこらへんの子どもがプラム狩りついでに魔物倒しに行くか?お?」

「外に出したらどうしたって目立っちゃうんだね君たちは。もう首輪でもつけておこうか?その方がいいかな?」

「ぷぷぷぷ…っ!お、おまえら、まじいい加減にしろよなぁっ?ぶはっ…くくくっ、まじおもしれぇっ…」

「「「リアーナ」」」

「わるいっ、ぷぷ…」

「「ご、ごめんなさい…」」

まさか魔物退治をして怒られるとは思いもしなかったアーサーとモニカは、しょんぼりして俯いた。だが、6歳まで幽閉され、10歳まで森で生活をして、10歳から冒険者として過ごしてきた双子に"そこらへんの子ども"がどういったものか分からない。アーサーとモニカはは遠慮がちに口を開いた。

「あの…」

「なんだ?」

「ごめんなさい。僕たち…よく分からなくて…。普通の子たちってどういう生活してるの…?」

「やっぱりわたしたち、今でも普通の子どもじゃないの…?」

二人の言葉でカミーユたちはハッとした。頭に血が上って双子の生い立ちを忘れてしまっていた彼らは自分の頭を軽く叩きながら双子に謝った。

「すまねえ、今のは俺たちが悪かった」

「ごめんなさい。叱るんじゃなくて、教えるべきだったわァ」

「本当にごめん」

「ほんとだぞお前ら!もっと反省しろ!!」

「くそぉ…リアーナに言われたらはらたつ…」

「アーサー、モニカ。このあたりにいる子どもやこの町の中心区にいる子ども…いえ、ほとんどの子どもはね、剣の握り方も、弓の構え方も知らないの」

「教会のせいで一般民は魔法にも馴染みねえしな。拉致られてた子どもはほとんどポーション作るための魔法しか知らねえだろうし」

「ええ?!そうなの?!」

「じゃあ魔物に遭遇した時どうするの?!」

「守ってもらうんだよ」

「だれに?」

「大人たちに」

「大人たちに…」

「そうだ。親だったり、近所の大人だったり、大人の冒険者に」

「だから、今回みたいなことがあったらできるだけ戦わずに逃げること。僕たちにインコを飛ばしてね。ピクルはそうしようって言ったんじゃない?」

ジルの質問に双子は頷いた。ジルは「やっぱりね」と呟き話を続ける。

「君たちにとってはたいしたことがない魔物や怪我でも、ピクルにとってはとても怖いことだったんだよ。百歩譲って君たち二人のときは魔物と戦ってもいいけど、"そこらへんの子ども"を連れてるときは我慢して。じゃないとその子に大きなショックを与えてしまうから」

「はい…」

「ごめんなさい…」

反省している双子を見て、カミーユは彼らの頭をわしゃわしゃと撫でた。そしてしょんぼりしているアーサーとモニカの顔を覗き込む。

「これはお前らの親代わりである俺たちからの説教だ。んで今からは冒険者として話を聞く。森の中で何があった?」

「アーサーがこんなにボロボロになるなんて。そんなに魔物が多かったのかしらァ?」

「うん。ピクルはこのあたりは弱い魔物がちょくちょく出るくらいだって言ってたんだけどね。森の入り口にたくさん魔物がいたよ。確かに弱い魔物ばっかりだったけど、数がすごく多かったんだ」

アーサーが答えるとカミーユたちは目配せをした。アーサーたちには聞こえない声量で会話をしていたのだが、途中でアーサーが「ねえ!」と話を遮る。

「ん?」

「カミーユたち、ときどきそうやって僕たちに聞こえない声でお話してるよね!」

「えっそうなのぉ?!」

「げ」

「なんで分かったんだよ…」

「声は聞こえないけど、ちょっと口がパクパクしてるし、目線とかで4人だけでお話してるんだろうなあって思ってたよ!それに、急に4人がだんまりになるの不自然だし」

「わたし全然気づいてなかったぁ…」

「気付かれてたか。おまえ、目ぇいいもんな…」

「唇だってそこまで動かしてないはずなんだけどォ…」

「なに話してたの?僕たち聞いちゃいけない?」

カミーユたちは「どうする?」困ったように目を合わせた。ジルは頑なに首を横に振っていたが、リアーナが「いいんじゃね?」と声に出した。カトリナは「カミーユに任せるわァ」と言って背もたれにもたれかかりプラム酒をこくりと飲む。カミーユは双子をちらりと見てしばらく考え込んだ。

「……」

「カミーユぅ…」

「なに話してたのぉ…?」

「くそ、そんなウルウルすんなよ…」

「「カミーユぅ…」」

「だー…」

「べっつに隠すような話でもねえだろカミーユ。教えてやれよ!」

「…分かった。分かったからその顔やめろ!!」

「「やったー!!」」

「別に大した話じゃねえよ。俺らは年に1、2度ここで数日滞在するが、このあたりで魔物が大量発生したことはねえ。あそこの森に魔物がうじゃうじゃいるなんて話、一度も聞いたことがなかった」

「そうなんだ…」

「でも、アーサーの話じゃ森の入り口に魔物がたくさんいたんだよね?」

「うん」

「考えられることはひとつ。森の奥に潜んでいた大型もしくは特殊な力を持っている魔物が、奥から出てきたんじゃないかしらァ?」

「その魔物を森の主と仮称する。森の主が縄張りを広げてるから、森の中で棲んでいた魔物がどんどん外へ追いやられてる可能性がある」

「森の主が縄張りを森の中で収めてくれたらいいけれど、森の外まで広げられたら人に被害が及ぶ可能性があるわァ」

「ってことで森の主を狩ろうぜって話をしてたんだ!」

4人の話を聞いたアーサーとモニカは感心して「おぉぉぉ…!」と感嘆の声をあげた。なぜこの話で双子がこのような反応をするのかが分からず、カミーユたちは首を傾げる。

「あ?どした?」

「すごい…すごいよカミーユたち!!」

「え、なにが」

「こんなちょっとした情報だけでそこまで考えられるなんて!!!」

「たいした話してなくね?」

「やっぱりカミーユたちってすごいんだねぇ!!すごすぎるねぇ!!」

「ん~。なんだか分からないけどありがとうねェ」

「僕たちも手伝いたい!」

「は?」

「カミーユたちと冒険者っぽいことしたぁい!」

「お、協力討伐か。久しくそんなことしてねぇな」

「いやカミーユなにちょっと乗り気なの」

「いいじゃんいいじゃん!やろうぜー!お前ら最近冒険者っぽいことしてねーから腕訛ってんじゃないかと心配してたんだよ!!」

「待ってリアーナまで何言ってるの。さっきこの子たちに注意したばっかじゃ」

「そうねェ。私たちも今目立ちたくないし、夜中にこっそりやっちゃいましょうか」

「カトリナ?あれ?僕の味方いない感じ?」

《ジル。アーサーとモニカはお前が守ればいいだろ。来月のこともあるし、前もってこいつらの今の実力を見ときたくねえか?》

ジルが反対している中、カミーユがプラム酒を飲むふりをして口元を隠し小声で話しかけた。それが聞こえたのか、ジルはムスっと黙り込んだあとにため息をついた。

「…分かった。でも絶対無理しないでよね。アーサーとモニカは絶対に僕のそばを離れないで」

「やったー!!」

「約束するー!!」

「決まりだな。じゃ、明日の夜中決行だ。今夜はゆっくり体休ませてしっかり寝ろよ。武器の準備しっかりな。薬は足りてるか?」

「足りてるぞー!」

「僕は足りない」

「私もちょっと不安かもォ」

「だったら僕が作るよ!なんの薬作ればいい?」

「お、助かる」

「やっぱり薬師がパーティにいるとありがたいわねェ」

こうしてカミーユたちと双子は急遽森の魔物討伐をすることとなった。早く寝ろと言われているのに、カミーユたちと一緒に戦えることが楽しみで双子はなかなか眠ってくれない。真夜中を過ぎても騒いでいるアーサーとモニカをどうしかして眠らせようとしたカミーユは、彼らの口にプラム酒が入ったボトルを突っ込んだ。それでぐっすり眠ってくれるかと思ったが、双子の電池が切れるまでの2時間、さらに二人の足音と笑い声が家中に響き渡っていた。
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