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初夏編:田舎のポントワーブ

【348話】プラム酒

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「おや、カールソンさんじゃないか。久方ぶりだねえ」

「お久しぶりですマイセンさん。長期の休みが取れたので家族と避暑に来ましてね」

カミーユ一行はアンジェラとモルを連れて、30分ほど歩いた場所にあるプラム農家にやってきた。顔見知りなのか農家の男性はカミーユを見るとニッコリ笑い作業をやめる。額の汗を拭いながら彼らの元へ駆け寄り軽いハグをした。男性は大人たちと挨拶をすませたあと、アンジェラとモルを見て首を傾げた。

「おや?今回はお子さま連れかい?」

「はい。今までは祖母に預けていたんですが、この子たちがどうしても来たいと駄々をこねましてね」

「ははは!こんな田舎に来たってなんにもないぞぉ?しっかし二人ともかわいらしい子だなあ!カールソンさんのお子さんかい?」

「はい。こっちのモルがうちので、アンジェラは弟の子です。…モル、アンジェラ、挨拶を」

いつもと違って賢そうな話し方をするカミーユに笑いをこらえていたモニカとアーサーは、びくりとしてから笑顔を作った。

「はじめましてマイセンさん!モルといいます!」

「はじめまして!アンジェラです!」

「おやおや!元気いっぱいで人見知りしない子たちだねえ。なんとまあかわいらしい」

「人懐っこすぎて困っています。少しは警戒してもらいたいもんですよ…」

「いいじゃないか。今まで愛されて育った証拠さ」

「……」

「で?酒飲みのカールソンさんがここに来た理由はもう分かってるよ。プラム酒が欲しいんだね?」

「はい。1週間ほど滞在する予定なので…5樽ほどいただけますか?」

「がははは!!1週間で5樽!!あんた、ほんとに酒好きだねえ!まさかいつも一人で飲んでるんじゃないだろうね?」

「まさか。私が飲むのなんてたかが知れてますよ」

「じゃあ誰が飲むんだい。奥様がたは飲まないだろうし…」

男性はそう言いながらカトリナとリアーナをちらりと見た。変装しているカトリナとリアーナ、特にリアーナは普段の面影が全くない。プラチナブロンドの髪と女性らしい化粧、そしていつもでは想像できないほど穏やかな微笑みを浮かべているリアーナは、男性と視線が合うとクスクス笑って見せた。

「あらマイセンさん。私だってお酒を嗜みます」

「リナ、グラス一杯じゃ嗜むなんて言わないよ」

リアーナの言葉にジルがそう返した。そして二人は目を合わせてまたクスクス笑う。肩を抱いて微笑み合う姿は、まるで本当の夫婦のようだった。アーサーとモニカはそんな二人を見て胸がドキドキした。

「マイセンさん。飲むのはうちの弟の方です。こいつ、見た目のわりに飲むんですよ」

「ほうほう!そうなんだねえ。人は見かけによらないな!よし、じゃあ夕方頃に5樽持って行くよ」

「ありがとうございます。あ、1樽だけ持って帰ってもいいですか?」

「なんだい待てないのかい?」

「はい。マイセンさんのプラム酒を飲むために来てるようなものなんでね。待てませんよ」

「ガハハハ!!それは嬉しいこと言ってくれるじゃないか!」

「代金は?」

「1樽金貨50枚。5樽で250枚だよ」

「分かりました。キャシー、アイテムボックスを」

「はい」

カトリナは小さなアイテムボックスを腰元から外しカミーユに渡した。カミーユはそこから白金貨25枚を取り出し男性に渡す。男性はホクホク顔で金貨を受け取り、裸のままポケットへ突っ込んだ。

「いやぁー!!カールソンさんはサッと金を前払いしてくれるから助かるよ!」

「当然です。マイセンさんのことを信用していますし、私のことを信用していただきたいですから」

「俺ぁあんたほど安心して取引できる人はいないと思ってるよ!しっかしまあ、作家ってのはそんなに儲かるもんなんだなあ」

「ありがとうございます。いえ、しがない物書きですよ。全く売れませんな」

「よく言うよ!プラム酒に白金貨25枚ポーンと出しちまうくせに!」

「そのおかげで私の財布はスッカラカンになりました。困った困った」

「ははは!!あ、そうだカールソンさん。たくさん買ってくれたお礼に作り立てのプラムジュースをあげるよ。モルくんとアンジェラちゃんに飲ませてやってくれ」

「本当ですか。それは嬉しい。モル、アンジェラ。マイセンさんがジュースをくれるそうだぞ」

「わー!!ありがとうマイセンさん!!」

「おいしくいただきます!!」

マイセンは樽と一緒に大きな瓶2つを持ってきた。それぞれアーサーとモニカに渡し、二人の頭をポンポンと撫でる。そしてモニカの顔をじっと見たあと、にこぉと笑って声をかけた。

「モルくん、歳はいくつだい」

「15歳です!」

「ほうほう。ガールフレンドはいるのかな?」

「え?いません」

「そっかあ。へえ。ほぉーん」

「?」

マイセンは嬉しそうに笑ってからカミーユに向き直る。

「カールソンさん。ではまた夕方に」

「は、はい」

マイセンは、カミーユ一行の姿が見えなくなるまで手を振っていた。彼に声が聞こえない距離まで離れてから、モニカはカミーユにしがみつき不思議そうに尋ねた。

「ねえカミーユ。さっきのなぁに?」

「な。俺にも分かんねえ。なんか気持ち悪かったな」

「ふふ。私は分かったわよォ」

「なんだったんだ?」

「それは夕方のお楽しみィ」

「なんだよ、焦らすなよ」

「あー…早くプラム酒のみてぇよぉ。っつかジルいつまで肩抱いてんだよ離せよっ」

「まだマイセンさん見てるから。もう少し我慢してよ」

カミーユとカトリナが会話している間、今にも暴れ出しそうなリアーナをジルが必死に抑えていた。アーサーは二人を見ながら笑いを必死にこらえている。

「ぷぷ…さっきのリアーナとジル…おもしろかったぁ…。ぷぷぷ。まるで本当に夫婦みたいだったね!」

「仕方ねえだろ!そういう設定なんだから!」

「リアーナうるさい。もう少し静かにして」

「それに、リアーナがまるで別人だった!きゃはは」

「なぁにがグラス1杯だよ。こいつほっときゃ1樽ペロリだぞ」

「だってこんな見た目で1樽ペロリなんてマイセンさんドン引きするでしょ。マイセンさん、リアーナのことおしとやかで美人な夫人って思ってるんだから。かわいそうなことに」

「なんだよかわいそうなことにってオイ!」

「こいつがリナを演じられるのは10分が限界だが、リナの時は油断したら惚れそうになるほど良い女だな」

「あら。シャナに告げ口しちゃおうかしらァ」

「やめてくれっっ!!」

「でも僕いつものリアーナの方がすき!」

「わたしもー!!いつものリアーナの方がすき!!」

「お、おまえらぁぁぁ!!大好きだぞぉぉぉ!!」

「リアーナうるさいってば!」
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