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初夏編:田舎のポントワーブ

【345話】カトリナの趣味

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カトリナはアーサーとモニカにホットミルクを入れてあげた。二人ともおいしそうにそれをちびちび飲み、大人たちはそれを穏やかな表情で眺めている。パーティーにしか聞こえない声で、カミーユがぼそりと独り言を呟いた。

《おっきくなったなあ…》

《これからもっと大きくなるわァ》

《…そうだな》

「ん?」

視線を感じ、アーサーが顔を上げた。目が合ったカミーユは口元だけで笑う。その表情はいつもと違い、目にかすかな不安を帯びていた。アーサーは首をかしげて尋ねる。

「カミーユ、どうしたの?」

「あ?なにがだ」

「なんだかちょっと、元気がないよ」

「そうだな。うまい酒が切れたんだ。買いに行かないとな」

「あはは!カミーユはお酒が大好きだなあ」

「お買い物行くの?!わたしたちもついていっていい?!」

「いいぞ。このあたりにうまい果実酒作ってるとこがあるんだ。今から行くか?」

「行くーーーー!!!」

「ちょっと待ってェ。だったらこの子たちにも変装してもらわないといけないわ」

カトリナはそう言ってうっとりした目で双子を見た。嫌な予感がしたアーサーは、コソコソとカミーユの陰に隠れておそるおそるカトリナを覗き見る。

(あの目…あのときと同じだ…。僕がはじめてアビーになった日と…)

「アーサー、俺たちの格好どう思う?」

怖がっているアーサーに、カミーユが声をかけた。アーサーは彼らの変装した姿をもう一度じっくり見てから返事をする。

「すごくいい感じ!カミーユたちなのにカミーユたちじゃないみたい!だけどとっても似合ってるよ!」

「これ、カトリナがやったんだよ。なかなか良いセンスだろ?」

「そうなんだあ!カトリナってこういうの好きなんだね!」

「そうだな。俺たちを変装させてるときのカトリナは人生で一番楽しそうにしてる」

「ああー…。ちょっとわかるかも…」

「ま、そういうことだからそんな怖がらなくていいぞ。ちゃんとお前に似合う変装をさせてくれるさ。俺もカトリナが用意したモンを見たが、なかなか良かったぞ」

カミーユに頭を撫でられ、アーサーは「うん!!」とにっこり笑った。少し安心したアーサーが、カミーユの後ろから出てきてモニカの隣に立つ。モニカはどんな姿に変えてもらえるのだろうとワクワクしている様子だ。

「あらアーサー。もうカミーユのうしろに隠れなくてもいいのかしらァ?」

「うん!お願いします!」

「はァい。モニカもいいかしら?」

「はやくはやくぅ!」

「ふふ。かわいらしいわァ。じゃあ、二人ともあっちの部屋に来てちょうだい」

「はーい!!」

アーサーとモニカは楽し気にカトリナのあとをついていった。二人が「どんな風になるんだろうねー!」「名前どうしよっかぁ!」とおしゃべりしている中、カトリナがボソっと呟いた。

《ふふ。いいこと思いついちゃったわァ》

その呟きはアーサーとモニカの耳に入らなかったが、カミーユたちにはしっかりと届いていた。双子が部屋の扉を閉じたあと、カミーユたちの間にしばしの沈黙が流れる。はじめに口を開いたのはカミーユだった。

「…おい。なんか一気に心配になってきたぞ」

「そう?僕は一気に楽しみになったよ」

「ニシシ!あたしは一気に元気になった!!」

そのすぐ後に部屋のドアからガタガタと激しい音が鳴った。部屋から出ようとドアノブをまわしているのにドアが開かず焦っているのだろう。そして聞こえてくる、アーサーの悲鳴。

「わぁぁぁぁ!!!カトリナやめてぇぇっ!!やだぁぁぁっ!!」

「こらこらアーサー。暴れちゃダメじゃない」

「ここから出してぇぇぇっ!!!カミーユ!カミーユぅぅぅっ!!!」

「いくらドアノブをまわしたって無駄よォ。鍵をかけておいたから」

「カミーユのうそつき!!カミーユのうそつきぃぃぃっ!!!」

「アーサーはやく着てよぉ!絶対似合うよ!!」

「どうして今更そんなにいやがるのかしらァ」

「不思議だねー」

「……」

「……」

「……」

3人の会話が聞こえてきてカミーユは虚ろな目で窓の外を見た。ジルは「やっぱり…!」とソワソワし始め、リアーナはすでに爆笑しておりアサギリを抱きながら床を転げまわっている。

一時間後、部屋から出てきた双子を見たジルは鼻血を吹いて机に頭を叩きつけた。
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